妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)

文字の大きさ
41 / 58

第41 さよなら、恋の期間 5

しおりを挟む
さっきから動きが止まっているリオネル様を、私はこっそりと伺い見た。

クラウス様が言っていた『いっぱいいっぱい』な状態なのかもしれない。

リオネル様はいつものような集中力がないまま、どこかソワソワとしているようにも見えていた。

手元の資料だってさっきから同じ所を行ったり来たりしていて一向に進むような様子はない。

「リオネル様、少しお休みを取られませんか?」

私はそんなリオネル様に恐る恐る声をかけた。

「ッ!! あ、あぁ」

リオネル様の様子はやっぱりおかしかった。
心ここにあらず、とでも言うのだろうか。

ずっとそばにいた私にさえ、リオネル様はひどく驚いたような表情を向けてくる。何か気にかかることでもあるのだろう。

少しでも気が晴れてくれれば良い。私はそう思ってリラックス効果の高いハーブティーを差し出してみる。

「良い匂いのお茶だな」

「お疲れの様子だったので、少しリラックス効果のある茶葉を選んでみました……」

「そんな物が我が家にあったんだな」

やっぱり少しお疲れだったのか、そのお茶を一口飲んだリオネル様がホッと身体の力を抜いて香りに顔をほころばせた。

「前にマエリス様とお話をした時に取り寄せておりまして、今回はそれを出して頂きました」

「そうか、レナは母とも仲が良いからな」

「はい、マエリス様にはとても良くして頂いております」

一緒に過ごすお茶の時間もとても穏やかで、楽しかった。お母様に抱きしめられるのは、こんな感じなのかもしれない。そう思ってしまうような温もりも何度か与えてもらっている。

思い出してニコッと笑った私へリオネル様が何かを言いかけて、何度か言葉を飲み込むような様子を見せていた。

「あの、大丈夫ですか?」

そこまでリオネル様を困らせるような事態が何か起きているのだろうか。躊躇った姿を見ている内に、私の中へも心配がどんどん積もっていく。

そんな時間が過ぎたあと、ついにリオネル様が覚悟を決めたような目を真っ直ぐに向けてきた。

「レナ、これからもずっとそばに居てくれないか?」

「えっ…」

そのとたん、私の周りからは音が消えていくようだった。

「1年間だけではなく、私の伴侶として人生を共に歩いて欲しいんだ」

だけどリオネル様の言葉は真っ直ぐ私の心に突き刺さる。

そして私はついに恐れていた日が来てしまったことが理解できたのだ。そうか、プロポーズをするタイミングを考えていたから、リオネル様はずっと上の空だったのか。

今も緊張した顔でこちらを見ているリオネル様に私の心はツキリと痛んだ。でももともと分かっていたことなのだ。

「はい、ずっとおそばに置いて下さい」

私がこの舞台から退場する日はいつだろう。

「嬉しいよ。必ずレナを大切にする」

分からないまま、嬉しそうに微笑んだリオネル様へ私もフワッと微笑み返す。そのまま抱きしめられそうになった腕をスルッとかわして、その掌に頬をそっと押し当てた。

「レナのペースでいけばいい」

恥ずかしくて避けてしまったと思っているのだろう。そんな私へもう1度優しく笑ってくれたリオネル様に私は泣いてしまいたかった。

「私にはもったいないぐらいのご配慮を、ありがとうございます」

「レナに優しくしないで、誰に優しくするって言うんだ」

そしてこの言葉を受け取る権利を持ったエレンが私は羨ましかった。

「それにずっとレナを何年も探し続けていたんだ。いまさらちょっとぐらい待つのなんて、何とも思わない」

「…えっ? 何年も探していた? 誰をですか?」

「……えっ? だからレナをずっと探していて…」

そこまで言葉を告げたリオネル様の顔が一気に青ざめる。

「ど、どうしたんですか?」

さすがにこの顔色を見ていれば、悲しいとか言っているような状況ではなかった。

「ちょっと、待っていてください!」

「えっ!? レナ?」

私は慌てて廊下へ飛び出した。近くにいる使用人を誰か捕まえたかった。

「すみません! どなたかいらっしゃいませんか?」

私の大声に反応して、駆け足で近寄る足音が聞こえてくる。

「すみません! リオネル様の体調が悪いようで、お医者様をお願いできませんでしょうか?」

「だ、大丈夫だ。エレナ! 体調が悪いわけじゃない!」

「……えっ……?」

だけどそれを制止するリオネル様の言葉に、私は思わず固まっていた。

たったいま、リオネル様は何と言っただろう。

はっきりと言葉は聞こえていたはずだった。でも私には、その言葉を信じることができなかった。そんな気持ちのまま、私は呆然とリオネル様の方へと振り返った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

いつも隣にいる

はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。

【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。 完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。 婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。 家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、 家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。 理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

処理中です...