42 / 58
第42 さよなら、恋の期間 6
しおりを挟む
「体調は悪くない、医者は不要だ。下がっていてくれ」
集まってきていた使用人の方々をリオネル様が解散させる。
その姿を私は呆然と見ているしかない状況だった。
どうしてリオネル様がその名前を呼ぶのだろう。いつから気付かれてしまったのだろう。
リオネル様に促されて戻った執務室の扉がパタンと音を立てて閉まってしまう。この部屋にいるのは2人きりで、私はもう逃げることも、隠れることもできなかった。
「驚かせてしまって、すまなかった」
「いえ、いいえ! 違うんです! リオネル様が謝ることなど1つもございません!」
リオネル様の謝罪に私はとっさに大きな声で否定をした。
「騙してしまっていて申し訳ございませんでした」
言葉が震えてしまう。指先がどんどん冷たくなっていく。きっと顔色はさっきのリオネル様のように悪いだろう。
私はもう、どんな表情を向けられているのかが怖くて、リオネル様の顔を見ることができなかった。
「エレナが謝ることではない。そのことは後からしっかりと話をしよう……だから、どうか、さっきの言葉をなかったことにはしないでくれないか?」
「さっきの言葉…?」
「一緒に人生を歩いて欲しいと、願ったはずだ」
「あれはエレンへの言葉だと」
「違う! 私はずっとあのお茶会で会った時から、ずっとエレナを探していた。あの言葉はエレナ、貴女へ願ったことだ」
「……」
あまりの状況になにも言葉が出てこない私の前でリオネル様が跪く。
「色恋ごとには正直不慣れだ。仕事のようには上手く対処もできずに、プロポーズでさえこんなありさまだ。だけど、ずっとエレナだけを想ってきた。その気持ちだけは本当なんだ」
リオネル様が私の指を握り込む。少し痛いぐらいに握られた力がリオネル様の必死な想いを伝えてくる。
「だから、どうか “はい” と言ってくれないか。これからを私と一緒に生きて欲しい。私のそばにいて欲しい」
そう言って指先にキスを落とす姿は、まるで祈りを捧げているようにも見えていた。
これは夢なのかもしれない。優しい人達をさんざん騙してきた私がすんなりと幸せになるのは間違っている。
そんなことも頭を過るのに、涙をこらえ続けていた心はもう自重することも意地を張ることもできなかった。
目の奥が熱くなって、そんなリオネル様の姿がどんどんぼやけてしまう。
夢だとしてもエレンではなくエレナとして、素直に想いを告げられる機会は失いたくない。
「は、い…一緒に、いたいです……」
だから私はそう願いを口にした。
いまリオネル様はどんな顔を向けてくれているのだろう。ハッキリと見たいのに、浮かんだ涙で見えなかった。
だけど私の言葉に、リオネル様が息を飲む音が聞こえてきた。
「ありがとう、エレナ。一生大切にする……!」
そう言って抱きしめてきたリオネル様の声は、いつもよりも上擦っているようだった。痛いほどの抱擁は、指先を握っていた時のようにリオネル様の強い想いを感じさせた。
そして同時に夢ではなくて現実なのだと、私にも教えてくれる状態だった。
私の名前を呼びながら向けられた腕に嬉しくなる。私のものになることはない、とずっと思っていた腕だった。
その腕の中に素直に抱き寄せられながら、私は温もりを感じていた。
この腕も、温もりもエレンのものだと信じていたから。さっきまでの私がせめてと望めたのは、頬に触れる温もりだけだった。
そのリオネル様の温もりが、今は身体を包んでいた。
聞きたいことはいっぱいあった。でも今は胸が詰まりすぎて何も聞くことができなかった。
集まってきていた使用人の方々をリオネル様が解散させる。
その姿を私は呆然と見ているしかない状況だった。
どうしてリオネル様がその名前を呼ぶのだろう。いつから気付かれてしまったのだろう。
リオネル様に促されて戻った執務室の扉がパタンと音を立てて閉まってしまう。この部屋にいるのは2人きりで、私はもう逃げることも、隠れることもできなかった。
「驚かせてしまって、すまなかった」
「いえ、いいえ! 違うんです! リオネル様が謝ることなど1つもございません!」
リオネル様の謝罪に私はとっさに大きな声で否定をした。
「騙してしまっていて申し訳ございませんでした」
言葉が震えてしまう。指先がどんどん冷たくなっていく。きっと顔色はさっきのリオネル様のように悪いだろう。
私はもう、どんな表情を向けられているのかが怖くて、リオネル様の顔を見ることができなかった。
「エレナが謝ることではない。そのことは後からしっかりと話をしよう……だから、どうか、さっきの言葉をなかったことにはしないでくれないか?」
「さっきの言葉…?」
「一緒に人生を歩いて欲しいと、願ったはずだ」
「あれはエレンへの言葉だと」
「違う! 私はずっとあのお茶会で会った時から、ずっとエレナを探していた。あの言葉はエレナ、貴女へ願ったことだ」
「……」
あまりの状況になにも言葉が出てこない私の前でリオネル様が跪く。
「色恋ごとには正直不慣れだ。仕事のようには上手く対処もできずに、プロポーズでさえこんなありさまだ。だけど、ずっとエレナだけを想ってきた。その気持ちだけは本当なんだ」
リオネル様が私の指を握り込む。少し痛いぐらいに握られた力がリオネル様の必死な想いを伝えてくる。
「だから、どうか “はい” と言ってくれないか。これからを私と一緒に生きて欲しい。私のそばにいて欲しい」
そう言って指先にキスを落とす姿は、まるで祈りを捧げているようにも見えていた。
これは夢なのかもしれない。優しい人達をさんざん騙してきた私がすんなりと幸せになるのは間違っている。
そんなことも頭を過るのに、涙をこらえ続けていた心はもう自重することも意地を張ることもできなかった。
目の奥が熱くなって、そんなリオネル様の姿がどんどんぼやけてしまう。
夢だとしてもエレンではなくエレナとして、素直に想いを告げられる機会は失いたくない。
「は、い…一緒に、いたいです……」
だから私はそう願いを口にした。
いまリオネル様はどんな顔を向けてくれているのだろう。ハッキリと見たいのに、浮かんだ涙で見えなかった。
だけど私の言葉に、リオネル様が息を飲む音が聞こえてきた。
「ありがとう、エレナ。一生大切にする……!」
そう言って抱きしめてきたリオネル様の声は、いつもよりも上擦っているようだった。痛いほどの抱擁は、指先を握っていた時のようにリオネル様の強い想いを感じさせた。
そして同時に夢ではなくて現実なのだと、私にも教えてくれる状態だった。
私の名前を呼びながら向けられた腕に嬉しくなる。私のものになることはない、とずっと思っていた腕だった。
その腕の中に素直に抱き寄せられながら、私は温もりを感じていた。
この腕も、温もりもエレンのものだと信じていたから。さっきまでの私がせめてと望めたのは、頬に触れる温もりだけだった。
そのリオネル様の温もりが、今は身体を包んでいた。
聞きたいことはいっぱいあった。でも今は胸が詰まりすぎて何も聞くことができなかった。
295
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
いつも隣にいる
はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。
【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲
恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。
完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。
婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。
家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、
家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。
理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇!
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる