雨音

れお

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     砂場に男の子がいる。

    さっきまでは確かに僕だけの公園だったのに。
僕は吸い込んだ沢山の空気を声には変えず、ふーっと吐き出した。
    初めて見る子だった。くるくるとした栗色の髪の毛で一瞬、女の子に見間違えてしまいそうになる。でも確かに男の子だ。
   その子は何も言わず僕をじっと見ている。僕も何も言わなかった。ほんの少しの間僕たちはお互いから目を離さなかった。僕たちの周りだけ時が止まったかのよう。雨の音が遠くに聞こえる。僕の胸の音だけが近く、大きく聞こえる。

――雨。

   そうだ。今雨が降っている。
彼のくるくるした髪から水が滴り落ち、頬を濡らす。彼は傘を差していない。
    僕は彼の傍へ駆け出した。
「傘、持ってないの?」
   僕の問いに彼は黙ったまま頷くわけでも首を振るわけでもない。
どうしよう、と思ったけれど僕は傘を差し出した。
「これ使って。一緒に遊ぼう」
   僕の控えめな誘いに彼はやはり表情一つ変えない。それでもこくりと頷いてくれた。僕の頬が自然と緩んだ。

  それからザーザー降りの雨の中、彼と遊んだ。二人で砂場に大きな穴を掘って湖を作った。
手でばしゃばしゃと水をかき混ぜて大波を作り、その波が船に見立てた葉っぱを揺らすのを楽しむ。
    お話はいらなかった。彼はしゃべらなかったし、僕もあれをしよう、これをしようと言ってあとは話さなかった。それでも二人で顔を合わせて笑った。

    思い出すと彼と遊んでいるときはいつも不思議な感覚だった。言葉にしないのにふたりの行動は息ぴったりで、それが当たり前だった。何の疑問も持たず、僕は彼の思うとおりに動き、彼も僕の思うとおりに動く。まるで、僕たちの心と頭は一つのように。

  次の雨の日も遊んだ。その次の晴れの日、僕は公園で待っていたけれど彼は来なかった。その次の次の雨の日、公園行くと彼は既に来ていた。
    そんなことを繰り返して僕は気づいた。彼は雨の日にしか現れないのだ。





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