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しおりを挟む「……はぁ……」
思い出しては何度ため息を吐いたか分からない。藍に忘れろと言ったけど、結局自分は一度も忘れたことなんてなかった。伴といて楽しくなかったと言ったら嘘になる。3人でいることは楽しかった。ふざけるのも張り合うのも。恥ずかしくも、兄弟になれると思ったのだ。
家族に、なれると思った。
だけど結局、信じられるのは藍しかいない。藍は絶対に嘘を吐かない。それが分かっているから、信じられる。俺は藍以外を何の疑いもなく信じられるほど強くない。いくら体が大きくて喧嘩にも体力にも自信があっても、本当に強いのは藍の方なのだ。
ごろんと横を向いた。視界が九十度回って空と海が半分になった。そばにあったおんぼろな木製のベンチが視界の脇に入る。いらだったときによくこのベンチを蹴飛ばした。時には伴と座り、何をするでもなくひたすら海を眺めたりもした。
雨風にさらされ、ベンチの足は腐りかけている。そういえばいつか直すかと言っていたことも思い出した。ひび割れ、穴の開いた足。
ふと何気なく見たその足だがいつもと違うことに気付いた。……文字?気付かなかったが何かが彫ってある。
気になって体を起こし、兵士みたいに地面を這って近寄った。
砂埃を指先で払うと、途切れ途切れに文字が刻まれている。切り傷はずいぶん新しい。学のない俺は字が読めないが数字は読める。俺は駆け出した。
藍をつれて市場へ向かい、文字の読める大人に聞いた。それから港へ走る。手にはポケットに入れていた通行証を持って。
港に着くと憲兵はなんの荷物も持っていない俺達を怪訝な顔で見たが本物の通行証を前に異議を唱えられずに俺達を通した。
出航寸前の大きな船の前には見慣れた少年が立っていた。俺と同い年で体格も似ている。
……やっぱり。伴だ。伴は俺達に気づき、振り向いた。
「……よく、来たね。藍、……奏」
ひさしぶりに見た伴はなんだかひどく情けない顔をしている。
「伴ちゃん……」
「来てくれるなんて夢みたいだよ」
「伴ちゃん、どっかに行っちゃうの?」
伴は眉をさげ、寂しそうな顔で笑うと頷いた。
「お勉強しにな、他の国へ少し。意外と王子様にもやることがいっぱいあって大変なんだ」
「……勝手に行けよ、どこへでも」
「兄ちゃん」
「いいんだ、藍。俺が悪いんだ」
何が悪いだ。
「お前の、そういうところが嫌いなんだよ」
小さく呟き、握った拳に力が入る。
「何も言わないで……。お前は俺達の何なんだよ。俺はお前を友達にしてもいいって……思ってたのに」
「……友達だよ。どこにいたって俺は友達だって思っている」
「僕も伴ちゃんを友達だって思ってるよ。友達だし、兄ちゃんだよ」
「ありがとう、藍。……すぐじゃないけど戻ってくる」
「帰ってくるな」
「約束するよ、絶対にもどってくるから。奏も、藍と待っていてほしい。そしたらまた一緒にいたい。約束……してくれ」
伴の初めて聞く、自信のないもの言いだった。俺の知っている伴はいつも自分に自信を持っていてはっきりとものを言うやつだ。そいつが俺に約束をしてほしいだなんて。
「……」
俺が約束を守るやつじゃないことくらい、伴は知ってるだろう?
そしてきっと、約束をしない理由も気付いているはずだ。
約束なんてしたくない。そんなものに捕らわれてただじっと待つなんて嫌だ。目に見えない結び目をひたすら守り続けるなんて嫌だ。結んだ先がもし繋がっていなかったらどうするんだ。繋がっていると信じて、その先に相手がいなかったら?そんなのただの馬鹿じゃないか。そんな間抜けになんてなりたくない。だから約束なんて結ばない。……俺がただの臆病者だってお前は気付いているだろ?
何も言わない俺に、伴は諦めたのか、またあの寂しそうな顔で笑った。
「もう行かなくちゃ」
「伴ちゃん……。兄ちゃん、伴ちゃんが行っちゃうよ」
藍が泣きながら俺の服を掴んで揺さぶった。
「ねえ、兄ちゃん。伴ちゃんとお別れしたくないよ」
「……」
「兄ちゃん!」
服を掴んでいた藍の手を、掴んでぎゅっと握った。
「伴!」
俺は叫んだ。振り向いた伴に最後の勝負をふっかける。
「藍を泣き止ませたほうが勝ちだ。負けた方は勝った方の言うことを聞く」
「……わかった」
俺は先手必勝と藍の手を掴み直し、屈んで目線を合わせた。
「藍、お前が泣きやんでくれるなら、俺は一緒に伴を待つ」
藍は大きな瞳をさらに大きくさせて俺を見た。
「……兄ちゃん」
ポロリとこぼれた涙。それ以上は出なかった。
「……ははっ!なんだよ、それ!ずりいぞ」
見事なまでの早業にあっけにとられた伴が笑い出す。
「うるさいな。勝ちは勝ちだ。伴、しょうがないからお前と約束してやってもいい。俺が勝ったんだから言うことを聞いてもらう」
「あぁ。なんだって聞く」
「……俺と約束しろ。絶対に帰ってくるって」
「もちろんだ」
王家の紋章が入った船が大きな船体をゆらりと揺らして港から離れていく。
俺達の兄弟を乗せて。
隣に並ぶ小さな手が俺の手をぎゅっと握った。
俺達は三人の兄弟だ。どこにいても必ず、また三人で一緒にいるんだ。
end
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