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しおりを挟む『おい、伴。何してるんだ?』
驚いて振り返る伴。声は出ずに唇が俺の名を形づくる。
『藍は、嘘をつけない』
『……』
『藍に、嘘つかせようとしただろ。藍にだけは駄目だ!』
『……ごめん』
『その、手に持っているもの、出せよ』
『……』
『俺が何も見えなかったと思っているのか。その紋章は王族のものだろ。お前の仲間は、王や、憲兵達なんだろ!そうだろ!お前は……伴は俺達の敵だ!』
伴が落としたものは王家の紋章の入った懐中時計だった。金で出来た大層立派なものをこんな路地裏をねぐらにしている子どもが持っているはずなんてないんだ。それに、紋章の入ったものを持っているということだけでそれが王家の人だという十分な証だった。
『兄ちゃん!』
『なんで黙ってたんだよ。あぁ、そうか。俺たち、スラム育ちを馬鹿にしてたんだろ』
気にしないようにしていたけれど、違和感はつねにあった。伴の着ている服は地味な色だが、生地が明らかに違った。俺や藍が着ているぼろぼろの麻じゃない。何度か着ているらしく、多少擦れていたが俺が見てもわかるほど良いものばかりだった。
『違う』
『じゃぁ、なんだよ。いいおもちゃだっただろ。薄汚くて、弱くていつも飢えていて、それで』
『やめろ!』
伴が怒鳴って手をあげた。パァンという乾いた音が鳴り響いた。止まらなくなっていた俺の口が音と同時に止まる。
『……っ』
『伴ちゃん……っ!』
一瞬、何が起こったかわからなかった。伴の大きな声と、藍の叫ぶ声。それから、ピカッと目の前が光った。頬がじんわりと熱くなってひりひり痛みはじめた。伴に……叩かれたんだ。そう理解した瞬間、カッと体も熱くなった。
『お前……っ!なにするんだよ!』
伴の胸倉をつかんで詰め寄る。
『お前があんなこと言うからだろ!』
『やめて!やめてよ、兄ちゃん!伴ちゃんもやめて!』
悲鳴のような藍の声が耳に届いた。藍が止めようと腰にしがみついてきたことにも気付かなかった。
やっぱりな……と心が小さくつぶやく。カッと熱くなった体が急激に冷える。寒いくらいに。胸が、痛いくらいに。
ばかばかしくなって、伴を放した。
『もう、顔も見たくない』
そう吐き捨てた。それが伴と話した最後だった。
あれから……会っていない。
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