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しおりを挟むねぐらとは正反対に市場の中心へと向かって歩き、そこから小さな路地へと入る。藍からパンを盗ったやつの目星はついていた。どうせ最近調子づいてきたチビ達だ。チビ達と言っても藍よりは大きい。しかも集団だ。ただでさえ気弱な藍はよく絡まれていじめられる。チビ達の溜まり場になっている、半壊して屋根もない廃墟へ向かうと、瓦礫の上にリーダーの男の子が座っていた。案の定、そのそばに紙袋に入ったバケットが置かれていた。
(よかった、まだ食べられてない)
『おい』
一言、声を上げると気付いたリーダーが俺を見据えた。
バケットを取り返し、本当に寝るために帰ろうかと思ったが、一度だけ藍の様子を見ておこうと来た道を戻った。屋台の物陰に隠れ、遠くから店を見る。
(アイツ……!)
あろうことかさっきのやつはまだ藍の隣にいた。しかも藍と一緒に店番をしている。不慣れな手つきで客の相手をしていた。
藍は俺と違って人を疑うということができない。それどころか嘘もつけない。
(……なんなんだ)
物取り目的であれば店を手伝う必要なんてない。おそらく盗み目的ではないだろう。藍と仲良く店番をしていることから人攫いでもない。……きっと彼は藍にとって無害だ。そう、自分の勘が結論づけた。目的は分からないが、多分、大丈夫だ。疑問が消えないままそっと、市場から離れた。
それから、見知らぬ少年は頻繁に俺達の前に現れた。藍とはすっかり仲良くなり、藍、伴ちゃん、と呼び合うまでになっていた。仕舞いには俺を奏と慣れ慣れしく呼ぶ始末。
伴と俺は年も同じだし、体の大きさも似ていた。正直、藍は小さくて弱くて一緒にいても何の張り合いもない。喧嘩になってもすぐに泣くから決着がつく。
けれど伴とはそうはいかなかった。殴り合いこそないものの、俺がすこしでも藍を邪険に扱うとすぐに口うるさくなって喧嘩になる。どちらかが泣きだすなど絶対にない。面倒くさくなって俺がその場を離れるか、藍がもう止めようよと泣き出すまで続いた。伴は優しくしてやれよ、が口癖のようだった。そんなことが続くから、いつしか俺と伴は決着を付けるために勝負をするようになっていった。
伴との勝負はもう何戦目かわからない。数えきれないほど勝負をして、数え切れないほど勝って、数え切れないほど負けた。勝負は何でもいい。この丘をどちらが早く駆け上がれるかとか、どっちが仕事での稼ぎが多いか(これは俺の圧勝だった)とか、どちらが藍を泣き止ませることができるか(これは勝った覚えがない……)とか。勝敗は多分、互角だ。いや、ここ2,3日は俺の連勝だ。
……伴に、あんなやつに俺が負けるはずなんてない。あんな、裏切り者に。
伴の正体が分かったのは初めて出会った日から半年も過ぎた頃だった。
伴のポケットから何かが転がり落ちた。そばにいた藍がそれに気付いて拾う。伴は慌ててひったくるようにそれを取り上げた。伴の珍しく乱暴な動きに藍はたじろぐ。それだけじゃない。藍は今自分が拾ったものがなんだか分からないほど、子どもじゃなかった。
『伴ちゃん、それ……』
『藍、見ちゃったのか。頼む、誰にも言わないで。奏には、絶対に言わないで』
『む、無理だよ』
『お願いだ、何も見なかったことにして。奏に聞かれても何も見なかったって言ってくれるだけでいい』
しかし、伴が気付いていないだけで、俺は真後ろにいた。すべて聞こえていたんだ。
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