偽物聖女と渡鴉〜聖痕を奪われ追放された元聖女は渡鴉の冒険者と出会う〜

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第一章:元聖女と渡鴉旅団

その頃、シドは……

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 三人が和気あいあいとしていた頃、シドに関してはギルドマスターである〝ガント・オルレアン〟の執務室にて彼と共に深刻な話をしていた。


「やっぱ……キツイかな……?」

「あぁ、いい加減そろそろ決断しないといけない状況にまで来ている」

「そうか……そうだよな……」


 シドとガントが話しているのはシャルロットがいた部屋にてエルナに話していた通り、彼が率いているチーム〝渡鴉旅団〟の事に関するものであった。

 実はチームの運営に関して冒険者協会である決まり事が存在する。

 それは〝チームを結成する際は四人以上でなければならない。その人数に満たない状態が一年続いたチームは強制的に解散させるものとする〟というものである。

 シドがチームを結成した当時はシドを含めその人数は六人であった。

 しかし一ヶ月も経たずしてその内の一人が当時シドをライバル視していた冒険者が結成したチームに引き抜かれ、もう一人は病により虚弱体質となってしまいやむなく引退……そして最後の一人は理由も分からずチームから抜けてしまった。

 それでもシドはチームを存続させようと募集をかけチームメンバーを募ったが、入る者入る者全てが理由をつけて直ぐに抜けていってしまう。

 長く在籍していた者でもたったの一年間だけであった。

 最後に募集をかけて入ってくれた者が抜けてからもうすぐ一年……状況は正に酷く厳しいものであった。

 その事を理解し険しい表情となるシドに、ガントもまた辛い表情を浮かべながら話しかける。


「俺としてもお前らのチームには残っていて欲しい……お前を始め、ロンやエルナは集うべくして集った者同士だ。そんなお前らがバラバラになってしまうのは見ていたくは無い事だ」


 その言葉にシドは〝それなら〟とは言えなかった。

 いくらガントがそう思ってくれていたとしても、彼はこのギルドを背負う立場の人間だ。

 いっときの私情で動ける立場ではなく、もしそうしてしまったら最後、彼に待ち受けるのは破滅だけである。

 ギルドに来た当時はまだ12歳であった自分とロンを拒むことなく受け入れてくれたガントに恩を感じているシド……故に自分が原因で彼が破滅してしまうというのは絶対に避けねばならない事であった。


「腹を括るしかねぇな……」

「すまないな……」

「別に良いって。それもこれもメンバーを引き止められなかった俺の実力不足が原因だしな」

「いやいや、それについてはお前は悪くないだろう?!グランツに関してはお前へのお門違いな嫉妬を抱いたミゲルに非があるし、クローディアに関しては仕方のない事だった。ラッドについては俺でさえも未だに抜けた理由が分からないしな」

「だからと言って〝そうだな〟と割り切っちゃならねぇんだよ。まぁ、今チームが解散したからと言って、永遠にチームが結成出来ないわけではねぇし、一旦は他所のチームの世話になってまた再結成するさ」

「ロンとエルナのやつがそれで納得すると思うか?」


 そう言われてしまうとシドは何も言い返せなくなってしまう。

 ロンもエルナもチームを解散する事に反対するだろうし、解散する理由が自分達にあると思い込んで自責の念に囚われてしまう可能性もある。

 シドは現時点でその事を考えると、頭が痛むような感覚に襲われるのだった。


「残り一ヶ月……この一ヶ月でどうにか新たなメンバーを募るしか無いな」

「そうは言ってもよガントさん……俺達のチームは〝あの悪評〟のせいで現在ギルド内で一番評判の悪いチームになっちまってんだぜ?そんなチームに入ってくれる奴がいると思うかよ?」

「それについては俺の方でも弁明しようと思ってはいる!思ってはいるのだが……」


 はっきりと〝弁明する〟とは言えないガントの気持ちもシドはよく理解していた。

 確かにギルドマスターであるガントが弁明してくれれば多少なりともチームの評価は良くなるだろう……しかし反対に評判の悪いチームの弁明をした事でガントにまで悪い噂が生じかねないという危険性もあった。

 どこまでも平行線である話─────その場に重苦しい空気が流れ続けていた。

 しかしその空気を振り払うかのようにシドが口を開く。


「まぁ……募集はかけつつ、もしもの事を考えて三人で相談してみる事にするよ」

「その〝もしも〟が来た時……その時はお前ら三人同じチームに所属出来るよう便宜を図ってみるよ。あの悪評があるとはいえ、それでもお前らに悪い印象を抱いてない連中もいる事だしな」


 それが誰の事を指しているのか……ガントは明確に口にする事は無かったが、シドは心当たりがあるのか苦笑を浮かべて彼の言葉に〝そん時はよろしく頼むわ〟と答えた。





 ◇





(〝もしも〟が来た時……か)


 ガントの執務室を出たシドは廊下を歩きながら彼の言葉を思い返していた。


(我ながら不甲斐ねぇよなぁ)


 最初の頃は〝何とかなるさ〟と気楽に構えていたシドだったが、徐々に〝チーム解体〟という事実が目に見えて来たことに焦燥を感じていた。

 シド達は何も勧誘に手を抜いていた訳では無い。

 それこそチーム未所属の冒険者を見かければ積極的に声をかけてはいたのだが、必ずチーム名を聞くなり難色を示された。

 かつて抜けた者が流した悪評は根深い所にまで広まっているらしく、ギルドホームに来る度に周囲から冷ややかな視線を向けられているのもいつも感じていた事だった。

 それでも新人冒険者を勧誘したりしていた事もあったが、声をかけられた新人冒険者達は最初こそ興味を持つも、直ぐに頭を下げて断ってくる。


(誰かが余計なことを吹き込んでいるんだろうが……)


 そう思いつつもその犯人を探さないのは、それをしてしまった日には更なる悪評へと繋がると予想しての事だった。


(あいつらに何て説明すりゃあ良いかなぁ……)


 窓越しに空を眺め、仲間であるエルナとロンへの説明に悩むシド。

 するとそんな彼に何処からか声をかけてくる者がいた。


「よォ……随分と景気悪そうじゃないか?」

「ミゲル……」


 シドに声をかけてきた者はこのギルドに所属している冒険者、〝ミゲル・アクダイン〟……ガントとの話に出ていた、シドに嫉妬している人物で、彼こそがシドのチームのありもしない悪評を流した張本人であった。

 当然、シドもガントもその事は知っていたものの、それを責め立てればミゲルが今度は何をするか分からないと、ミゲルという人物をよく知っている故に彼を責める事が出来なかった。

 まぁ、それでもシドが抗議すらしない事にミゲルはつけ上がり、今の今までシド達の勧誘をことごとく邪魔して来たのだが……。


「何だよ?俺はこう見えて忙しいんだ……テメェと話してる暇なんてねぇよ」

「まぁまぁそう言うなよ。同じギルドに所属している仲間だろぉ?」


 〝どの口が〟と思ったシドだったが、それを口にすれば面倒な事になるのは目に見えていたので、あえてその言葉は口にしなかった。

 そんな事など知ろうとすらしないミゲルはニヤニヤと笑みを浮かべながら、歩き始めたシドに付きまといながら話を続ける。


「聞いたんだけどさ……お前、女の子を拾ったんだって?どんな子だよ?可愛いのか?なぁ、僕にも会わせてくれないかな?」

「テメェにあの子の事を話す義理も会わせてやる義理もねぇな。だからさっさと俺の前から失せろ」

「そんな事を言って今からその子の所にでも行くんだろ?ならついて行っても構わねぇよな?」

「テメェには関係ねぇだろうがよ」

「関係なくはないさ。何せこのギルドの上位ランクチームの一つである我が〝鬣犬ハイエナ〟のリーダーとして、君達の本性を教えてやらねばならないからね」


 その言葉を聞いたシドは立ち止まり、ギロリとミゲルをめつけた。

 その鋭く射殺すような視線にミゲルは思わずたじろぐ。

 シドはそんなミゲルに対し、まるで地の底から響くような低い声音でこう言った。


「もう一度だけ言うぞ?即刻、俺の前から失せろ。それとも長い入院生活を送りたいか?」

「お、おまっ……この僕を脅すなんて……また悪評を流されたいのか?!」


 そう脅してみせるも今のミゲルはキャンキャン鳴く子犬のようになっていた。

 そんな彼の脅し文句に対し、シドは動じることなく逆にこのような質問をする。


「それが?」

「え……?」

「それがどうしたと聞いてるんだ?今更悪評を流されたとして、何かが変わるのか?テメェが流した悪評のお陰でうちのチームの評価は最底辺と言っても過言では無い……故に更なる悪評を流されたとして、それで何かが変わるというのなら是非とも教えて欲しいところだ」


 先程とは全く違う口調でミゲルに問いかけるシド。

 シド・ヴァイナーという人物は普段は気さくで誰に対しても変わらずに接する事が出来る性格であった。

 しかし一度激怒すればまるで人が変わったようになり、普段は使うことの無い冷酷な言葉さえもスラスラ言い放つことが出来てしまう。

 シド・ヴァイナーという人物は決して怒らせてはならない人物なのである。

 故に悪評を聞いた者達は彼に冷ややかな視線を向けても、決して突っかかる事は無かった。

 そんなシドの逆鱗に愚かにも触れてしまったミゲルはガタガタと震えながらシドを見つめる。


「テメェ自身の力を磨くことすらせず、ありもしない悪評を流し他者を蹴落とすしか能の無い愚物が……そんな愚物をあの子に会わせるはずが無いだろう。どうした?お得意の減らず口を叩いてみろよ?」

「うっ……くっ……クソっ!」


 ミゲルは震えながらも何とかシドを睨みつけるも、〝今は勝ち目無し〟と判断したのか悔しそうな表情で悪態をついた。

 そして踵を返すと、立ち去る寸前で〝今に見ていろ!〟という捨て台詞をシドへと吐いて、逃げるようにその場から去っていった。

 シドは暫くの間、走り去ってゆくミゲルの後ろ姿を睨んでいたが、ふと窓に映る自身の姿を見て深く、そして大きく息を吐いた。


(いかんなぁ……怒りを露わにすると、どうしても黒い方の俺・・・・・が出てきっちまう)


 シドは怒りの感情に呑まれた自身を〝精進が足らん〟と叱咤すると、ミゲルの姿が完全に見えなくなったのを確認してからシャルロットがいる部屋へと向かうのだった。
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