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第二章 留学生
11 従妹という設定なのですね
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そこからは、わたしが参加したオリエンテーリングの話をし、ディディエくんとサンドリーヌから狩猟実習の話を聞いた。
乙女ゲーム内では表示されないんだけれど、実習に使う犬には、一頭一頭名前がある。
家が近い生徒は、自分の犬を連れてくるのだ。攻略対象の生徒三人は、当然自分の犬を連れてきた。
ちょっと待って。何で、学年の違うリュシアンが一緒に参加しているの?
「去年、何かで参加できなかったらしいわ」
サンドリーヌが教えてくれた。じゃあ、その日欠席した授業の分は、どうなるのかしら。補習でもする?
きっと、これはゲーム都合だわ。アメリちゃんが、逆ハーレムルートを辿っているか、リュシアンを狙っているかしているに違いない。
「学園で飼っていた犬に、僕のと同じ名前の仔がいたんだよね。見た目もちょっと似ていて、途中までついてきちゃったんだ」
わたしが考えを巡らせる間に、ディディエくんが話し始めた。ちなみに、ションスーという名だったそうな。それにサンドリーヌが気付いて、元へ戻してあげたとか。
悪役令嬢は、攻略対象三人と一緒にいたのだけれど、その犬を生徒へ帰すのに、リュシアンと離れてしまった。おお、イベントフラグだわ。
「それで、リュシアンが獲物を見つけた時に、デュモンド嬢も近くにいたらしくて」
サンドリーヌが後から聞いた話として説明してくれるのは、イベントが気になるわたしのためだ。
「きっと同時に撃ったのね。リュシアンのルゥが先に落ちた獲物を拾ったのだけれど、デュモンド嬢が自分の獲物だって主張して」
「そういう時は、どうするんですか?」
「判定員を呼ぶ」
ディディエくんが教えてくれた。何かうっすらと記憶が蘇った。
「その時は、クレマン先生が判定員として来てくれて、リュシアンが撃ったと判定されたの。デュモンド嬢は減点されてしまったわ」
あら~。攻略対象が被った上に、好感度が足りなかったのね。
わたしが逆ハールート攻略した時には、トラブった相手はモブ生徒で、クレマン先生はわたしに味方してくれたものよ。
でも、リュシアンはいなかった気がするなあ。弁当のことと言い、ゲーム世界でも、実際生きてみると、色々な要素があって、その分シナリオそのまんまとはいかないものね。
「リュシアンは気が咎めたらしくて、一緒にお昼を食べるよう彼女を連れてきたの」
じゃあ、アメリちゃん的には結果オーライなのかな。
食後、買い出しに行くというサンドリーヌに付き合って、というか、馬車が一緒だから断る選択肢はないのだけれど、とにかく街中へ戻った。
目当ての店は、本屋と食料品店だった。
ロタリンギアでもメロデウェルでも、街中歩きは初めてだわ。つい前世の感覚で独り歩きをしかけて、ヘルミーネやディディエくんに止められちゃった。
本屋さんは、本当に久しぶり。メロ語の本がほとんどだから、どうしても見るのに時間がかかってしまう。丸一日居座って、じっくり見たかったなあ。
「ロザモンドも本が好きなんだね。今度、二人で一緒に来よう」
ディディエくんが嬉しそうに約束してくれた。そういえば、彼は元々病弱で本がお友達、という設定だったわね。
サンドリーヌが買い込んだ本は、全部参考書みたいだった。『総天然色解説付きブーリ料理』とか、『最新版 剣 弓 槍』とか。割と絵が多い本を選ぶところが乙女ゲーでのおバカな悪役令嬢っぽい。
侍女のジュリーと侍従のトビが、ヴェルマンドワ姉弟の買った本を馬車へ置きに行く間に、わたし達は食料品店へ移動した。色々な店が立ち並んでいるので、行き交う人々も様々だ。石畳の上を自分の足で歩くことが楽しい。
と、視界にストロベリーゴールドが入ってきた。女の子と一緒に歩いているけれど、ジョゼフィーヌではない。あの金髪は‥‥え?
「イーゴ」
つい口走りそうになって手で口を塞ぐ。マリエル=シャティヨンと並んで歩くのは、イーゴリ=オレーグ王太子だ。
でも、女性の服を着ているわよ。女装ですかっ!
「マリエルさん、でしたっけ?」
わたしが声を出したせいで、サンドリーヌも二人に気付いてしまった。お忍びとは言え、公爵令嬢に声をかけられた二人はとぼけられない。
「あっ。こんにちは、サン‥‥」
決して名前を忘れた訳ではなく、お忍び設定を知らず困っているのだ。
「サンディですわ。弟のディディと婚約者のローズです。そちらの方は?」
察して助け舟を出すサンドリーヌ。
「イリーナです。イーゴリの従妹です」
女装したイーゴリが、普段より高めの声で名乗った。
マジですか。カツラは金髪だけれど、眉毛もまつ毛も黒いままですよ。
似合ってはいる。知らなければ、普通に女の子に見えなくもない。
「街を案内しているところなんです」
マリエルが嘘をつかない範囲で説明する。正直な子ね。態度がわかりやすいわ。
「あら、そうなのね。私達は買い物に行くのよ。では、学園で。ごきげんよう」
サンドリーヌは自然な様子で話を切り上げると、踵を返した。彼女が王太子の女装に気づいたかどうか、側から見ていたわたしには、わからなかった。
わたしが転生者だから、あの変装に気づいたのかもしれない。そうなると、下手にイーゴリだかイリーナだかの話題を持ち出したら、変だよね。
サンドリーヌに引き続いて、わたし達も会釈した後、急いで立ち去った。
今目撃したことについて考えながら歩いたせいか、息を詰めてしまったみたい。目当ての店に着いた時には、わたしだけ息切れしていた。
「ごめんねローズ。君の調子を考えないで歩いてしまった。ここで少し休んでいて。すぐ戻るから」
ディディエくんが、済まなさそうに謝ると、サンドリーヌとは別の店へ小走りに行ってしまった。そこへ、身軽になったジュリーとトビが追いついた。
「お待たせして済みません」
「サンディ様とディディ様は、お店の中ですか?」
「ええ、まあ」
ヘルミーネが曖昧に頷くと、二人は早速店内へ姿を消した。
正確には、サンドリーヌとディディエくんは、別の店へ入ったのよね。
幸い、トビが出てきた時には、彼のご主人様が戻っていた。
「立ち飲みになってしまうけれど、飲んでみて」
ディディエくんは、木製のカップを差し出した。フレッシュな果実の香りが立ち上る。前世庶民のわたしには、立ち飲みなんて、全然抵抗ない。お礼を言って、口をつけるなり、旨さに一気飲みしてしまった。
「ぷはーっ。美味しかったです。ありがとうございました」
手の甲で口を拭いながらディディエくんを見、慌てて手を下ろす。その手をさりげなく布で拭くヘルミーネ。
貴族令嬢としては失態レベル。ディディエくんの目が点になっていた。
「あ、わたし、カップをお店に返してきますね。ご馳走様でした」
逃げるように遠ざかる。絶対、引いていたわ。恥ずかしくて身の置き所がない。あああ、どうしよう。
「ローズ、お店を通り過ぎているよ」
腕を掴まれて、足が止まった。ディディエくんだった。
「ごめんなさい。どこでしたっけ」
実は、どの店かわかっていなかった。
「僕が返すつもりだったのに。一緒に行こう」
ディディエくんは手を離さない。嫌われてはいないのかな。そうだといいんだけれど。
年末年始はロタリンギアに帰省した。
クリスマスパーティ、出たかったなあ。ブーリ教の世界だから、正確にはクリスマスじゃないんだけれど。
風邪か花粉アレルギーか、とにかくくしゃみと鼻水が止まらなくて、ダンスパーティは無理だ、となったのよ。
折角、衣装を用意してくれたディディエくんと、踊れなかったのも残念だったし、何よりも、アメリちゃんと攻略対象のみんながどんな衣装を着て、誰と誰が踊るのか、見てみたかったわ。
好感度の高い攻略対象者と多めに踊るのよね。今は二年目だ。わたしの予想では、リュシアン、クレマン先生、ディディエくん、シャルル王子の順番と見た。
王子は未だサンドリーヌを好きでいるみたいだし。王子ルートを攻略するなら、この時点で悪役令嬢に冷たくなるぐらいじゃないと、好感度目標値の達成は厳しい。
パーティ欠席の代わりに、アメリちゃんがいる寮に残りたかったんだけれど、今世では一応王家に連なる家柄の留学生だし、イーゴリ=オレーグも帰国するって言うし、空気を読むことにしたわ。
イーゴリは、マリエルが残らないから帰るのよね。
二人は慎ましく仲が良い感じで、モブながら、密かに応援してあげたく思っている。
生徒会長のドSや副会長のドM、会計の百合毒牙にかかるよりは、女装趣味の方がマリエルに合っている気がする。
単に、二人のエロいシーンを見ていないせいかもしれないけれど。
これまでに何度もラブシーンかエロシーンか何かを目撃する羽目になっちゃって、『ラブきゅん!』ファンとしては、結構キツかった。
何というか、アメリちゃんと違って、マリエルは巻き込まれ感が強い。普段話していても、常識的だし、どっちかと言うと大人しい。
十八禁てことは、乙女ゲームじゃなくて、単なるエロゲーなのかもしれない。ここは原作を知らないから何とも言えない。そもそも、ゲームとも断言できないわ。
もしかしたら、ノブリージュ学園を舞台にした小説ってことも、あるよね?
実家では、一家総出で大歓迎。
わたしとしては、大好きな『ラブきゅん! ノブリージュ学園』の舞台に入り込めて、家のことなんかほぼ忘れていた。
戻ってみたら、気が緩むのがわかった。わたしにとって、ここが家なんだ、と実感した。離れてわかる家の有り難み。
両親の一番の心配は、わたしが前世の話をして、婚約破棄されないか、という点だった。
そりゃそうよね。
サンドリーヌとディディエくんに話した、と言った時の彼らの顔ったら!
お母様、危うく卒倒しかけたわ。でも、話した上で仲良くしていると聞いて、ものすごく安心していたの。
そこは良かった。
心配された原因は、わたしが年末に風邪を引いたせいもある。
その上、痩せて帰ってきたからね。
この世界でのわたしは、ちょっと太り気味だった。
だって、前世じゃ我慢ばっかりだったのが、今世じゃ貴族で高級食材が食べ放題なんですもの。三度の食事だけでなく、間食もし放題。
ロタリンギアでは運動もほとんどしなかったし、そりゃ太りますわ。それも不健康な方向で。
メロデウェル料理はロタリンギアよりも洗練されていて、目でも楽しむことができた。見て、食べて、お腹いっぱい、という感じ。
それに、ノブリージュ学園の全寮制の食堂は、お代わりがなくて、自然と食事量が減ったのよね。
しかも、学園は広いし授業が意外と体育系多くて、体を動かす機会も増えた結果、無理してダイエットなんてする必要もなく、自然と体が締まったのだった。
アメリちゃんとか、マリエルとか、揃って可愛いヒロインを見て、あんな感じになりたいって思っていたから、ちょうど良かったのよ。でも家族は心配するよね。
で、フォアグラ用のガチョウみたいに詰め込まれて、元通りの体型になって戻ったのだった。
乙女ゲーム内では表示されないんだけれど、実習に使う犬には、一頭一頭名前がある。
家が近い生徒は、自分の犬を連れてくるのだ。攻略対象の生徒三人は、当然自分の犬を連れてきた。
ちょっと待って。何で、学年の違うリュシアンが一緒に参加しているの?
「去年、何かで参加できなかったらしいわ」
サンドリーヌが教えてくれた。じゃあ、その日欠席した授業の分は、どうなるのかしら。補習でもする?
きっと、これはゲーム都合だわ。アメリちゃんが、逆ハーレムルートを辿っているか、リュシアンを狙っているかしているに違いない。
「学園で飼っていた犬に、僕のと同じ名前の仔がいたんだよね。見た目もちょっと似ていて、途中までついてきちゃったんだ」
わたしが考えを巡らせる間に、ディディエくんが話し始めた。ちなみに、ションスーという名だったそうな。それにサンドリーヌが気付いて、元へ戻してあげたとか。
悪役令嬢は、攻略対象三人と一緒にいたのだけれど、その犬を生徒へ帰すのに、リュシアンと離れてしまった。おお、イベントフラグだわ。
「それで、リュシアンが獲物を見つけた時に、デュモンド嬢も近くにいたらしくて」
サンドリーヌが後から聞いた話として説明してくれるのは、イベントが気になるわたしのためだ。
「きっと同時に撃ったのね。リュシアンのルゥが先に落ちた獲物を拾ったのだけれど、デュモンド嬢が自分の獲物だって主張して」
「そういう時は、どうするんですか?」
「判定員を呼ぶ」
ディディエくんが教えてくれた。何かうっすらと記憶が蘇った。
「その時は、クレマン先生が判定員として来てくれて、リュシアンが撃ったと判定されたの。デュモンド嬢は減点されてしまったわ」
あら~。攻略対象が被った上に、好感度が足りなかったのね。
わたしが逆ハールート攻略した時には、トラブった相手はモブ生徒で、クレマン先生はわたしに味方してくれたものよ。
でも、リュシアンはいなかった気がするなあ。弁当のことと言い、ゲーム世界でも、実際生きてみると、色々な要素があって、その分シナリオそのまんまとはいかないものね。
「リュシアンは気が咎めたらしくて、一緒にお昼を食べるよう彼女を連れてきたの」
じゃあ、アメリちゃん的には結果オーライなのかな。
食後、買い出しに行くというサンドリーヌに付き合って、というか、馬車が一緒だから断る選択肢はないのだけれど、とにかく街中へ戻った。
目当ての店は、本屋と食料品店だった。
ロタリンギアでもメロデウェルでも、街中歩きは初めてだわ。つい前世の感覚で独り歩きをしかけて、ヘルミーネやディディエくんに止められちゃった。
本屋さんは、本当に久しぶり。メロ語の本がほとんどだから、どうしても見るのに時間がかかってしまう。丸一日居座って、じっくり見たかったなあ。
「ロザモンドも本が好きなんだね。今度、二人で一緒に来よう」
ディディエくんが嬉しそうに約束してくれた。そういえば、彼は元々病弱で本がお友達、という設定だったわね。
サンドリーヌが買い込んだ本は、全部参考書みたいだった。『総天然色解説付きブーリ料理』とか、『最新版 剣 弓 槍』とか。割と絵が多い本を選ぶところが乙女ゲーでのおバカな悪役令嬢っぽい。
侍女のジュリーと侍従のトビが、ヴェルマンドワ姉弟の買った本を馬車へ置きに行く間に、わたし達は食料品店へ移動した。色々な店が立ち並んでいるので、行き交う人々も様々だ。石畳の上を自分の足で歩くことが楽しい。
と、視界にストロベリーゴールドが入ってきた。女の子と一緒に歩いているけれど、ジョゼフィーヌではない。あの金髪は‥‥え?
「イーゴ」
つい口走りそうになって手で口を塞ぐ。マリエル=シャティヨンと並んで歩くのは、イーゴリ=オレーグ王太子だ。
でも、女性の服を着ているわよ。女装ですかっ!
「マリエルさん、でしたっけ?」
わたしが声を出したせいで、サンドリーヌも二人に気付いてしまった。お忍びとは言え、公爵令嬢に声をかけられた二人はとぼけられない。
「あっ。こんにちは、サン‥‥」
決して名前を忘れた訳ではなく、お忍び設定を知らず困っているのだ。
「サンディですわ。弟のディディと婚約者のローズです。そちらの方は?」
察して助け舟を出すサンドリーヌ。
「イリーナです。イーゴリの従妹です」
女装したイーゴリが、普段より高めの声で名乗った。
マジですか。カツラは金髪だけれど、眉毛もまつ毛も黒いままですよ。
似合ってはいる。知らなければ、普通に女の子に見えなくもない。
「街を案内しているところなんです」
マリエルが嘘をつかない範囲で説明する。正直な子ね。態度がわかりやすいわ。
「あら、そうなのね。私達は買い物に行くのよ。では、学園で。ごきげんよう」
サンドリーヌは自然な様子で話を切り上げると、踵を返した。彼女が王太子の女装に気づいたかどうか、側から見ていたわたしには、わからなかった。
わたしが転生者だから、あの変装に気づいたのかもしれない。そうなると、下手にイーゴリだかイリーナだかの話題を持ち出したら、変だよね。
サンドリーヌに引き続いて、わたし達も会釈した後、急いで立ち去った。
今目撃したことについて考えながら歩いたせいか、息を詰めてしまったみたい。目当ての店に着いた時には、わたしだけ息切れしていた。
「ごめんねローズ。君の調子を考えないで歩いてしまった。ここで少し休んでいて。すぐ戻るから」
ディディエくんが、済まなさそうに謝ると、サンドリーヌとは別の店へ小走りに行ってしまった。そこへ、身軽になったジュリーとトビが追いついた。
「お待たせして済みません」
「サンディ様とディディ様は、お店の中ですか?」
「ええ、まあ」
ヘルミーネが曖昧に頷くと、二人は早速店内へ姿を消した。
正確には、サンドリーヌとディディエくんは、別の店へ入ったのよね。
幸い、トビが出てきた時には、彼のご主人様が戻っていた。
「立ち飲みになってしまうけれど、飲んでみて」
ディディエくんは、木製のカップを差し出した。フレッシュな果実の香りが立ち上る。前世庶民のわたしには、立ち飲みなんて、全然抵抗ない。お礼を言って、口をつけるなり、旨さに一気飲みしてしまった。
「ぷはーっ。美味しかったです。ありがとうございました」
手の甲で口を拭いながらディディエくんを見、慌てて手を下ろす。その手をさりげなく布で拭くヘルミーネ。
貴族令嬢としては失態レベル。ディディエくんの目が点になっていた。
「あ、わたし、カップをお店に返してきますね。ご馳走様でした」
逃げるように遠ざかる。絶対、引いていたわ。恥ずかしくて身の置き所がない。あああ、どうしよう。
「ローズ、お店を通り過ぎているよ」
腕を掴まれて、足が止まった。ディディエくんだった。
「ごめんなさい。どこでしたっけ」
実は、どの店かわかっていなかった。
「僕が返すつもりだったのに。一緒に行こう」
ディディエくんは手を離さない。嫌われてはいないのかな。そうだといいんだけれど。
年末年始はロタリンギアに帰省した。
クリスマスパーティ、出たかったなあ。ブーリ教の世界だから、正確にはクリスマスじゃないんだけれど。
風邪か花粉アレルギーか、とにかくくしゃみと鼻水が止まらなくて、ダンスパーティは無理だ、となったのよ。
折角、衣装を用意してくれたディディエくんと、踊れなかったのも残念だったし、何よりも、アメリちゃんと攻略対象のみんながどんな衣装を着て、誰と誰が踊るのか、見てみたかったわ。
好感度の高い攻略対象者と多めに踊るのよね。今は二年目だ。わたしの予想では、リュシアン、クレマン先生、ディディエくん、シャルル王子の順番と見た。
王子は未だサンドリーヌを好きでいるみたいだし。王子ルートを攻略するなら、この時点で悪役令嬢に冷たくなるぐらいじゃないと、好感度目標値の達成は厳しい。
パーティ欠席の代わりに、アメリちゃんがいる寮に残りたかったんだけれど、今世では一応王家に連なる家柄の留学生だし、イーゴリ=オレーグも帰国するって言うし、空気を読むことにしたわ。
イーゴリは、マリエルが残らないから帰るのよね。
二人は慎ましく仲が良い感じで、モブながら、密かに応援してあげたく思っている。
生徒会長のドSや副会長のドM、会計の百合毒牙にかかるよりは、女装趣味の方がマリエルに合っている気がする。
単に、二人のエロいシーンを見ていないせいかもしれないけれど。
これまでに何度もラブシーンかエロシーンか何かを目撃する羽目になっちゃって、『ラブきゅん!』ファンとしては、結構キツかった。
何というか、アメリちゃんと違って、マリエルは巻き込まれ感が強い。普段話していても、常識的だし、どっちかと言うと大人しい。
十八禁てことは、乙女ゲームじゃなくて、単なるエロゲーなのかもしれない。ここは原作を知らないから何とも言えない。そもそも、ゲームとも断言できないわ。
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戻ってみたら、気が緩むのがわかった。わたしにとって、ここが家なんだ、と実感した。離れてわかる家の有り難み。
両親の一番の心配は、わたしが前世の話をして、婚約破棄されないか、という点だった。
そりゃそうよね。
サンドリーヌとディディエくんに話した、と言った時の彼らの顔ったら!
お母様、危うく卒倒しかけたわ。でも、話した上で仲良くしていると聞いて、ものすごく安心していたの。
そこは良かった。
心配された原因は、わたしが年末に風邪を引いたせいもある。
その上、痩せて帰ってきたからね。
この世界でのわたしは、ちょっと太り気味だった。
だって、前世じゃ我慢ばっかりだったのが、今世じゃ貴族で高級食材が食べ放題なんですもの。三度の食事だけでなく、間食もし放題。
ロタリンギアでは運動もほとんどしなかったし、そりゃ太りますわ。それも不健康な方向で。
メロデウェル料理はロタリンギアよりも洗練されていて、目でも楽しむことができた。見て、食べて、お腹いっぱい、という感じ。
それに、ノブリージュ学園の全寮制の食堂は、お代わりがなくて、自然と食事量が減ったのよね。
しかも、学園は広いし授業が意外と体育系多くて、体を動かす機会も増えた結果、無理してダイエットなんてする必要もなく、自然と体が締まったのだった。
アメリちゃんとか、マリエルとか、揃って可愛いヒロインを見て、あんな感じになりたいって思っていたから、ちょうど良かったのよ。でも家族は心配するよね。
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URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
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