20 / 90
第2章 過去のふたり
20
しおりを挟む
王都の中心部から少し外れたところに、薬草学研究所はあった。
「薬草学研究所は国内にいくつか拠点があるけれど、ここが本部だよ。ここで行われているのは成分解析と本部機能の事務管理がメインだから、圃場は少ないんだ。」
ユリウスは先に来客を知らせておいてくれたのか、スムーズに建物の中に入ると、「研究3課」と書かれた扉の前で立ち止まった。
「ここが、ルフェの見つけたことを研究しているチームだよ。」
ユリウスが先に入室すると、中に居たひとりがものすごい勢いで近づいてきた。
当人は癖毛がひどいのか、髪の毛が頭を2倍近くの大きさに見せている、それに目にもかかっていて、前が見えづらそうだ。
「貴女がルフェルニア・シラー様ですね!僕はロビンソン、ロビンと呼んでください!
貴女に会うのをずぅっと楽しみにしていたんだ!光栄です!!」
サッと両手を差し出し、ルフェルニアに握手を求めたので、彼の出で立ちに驚いていたルフェルニアも反射的に手を差し伸べた。
「ルフェルニア・シラーです。こちらこそ、お会いできてとても光栄です。あなたがヴィアサル病の薬を作ってくださった方ですか?」
「僕は変異個体の検出がメインでしたから、確かに有効な薬草を見つけたのは僕だけれど、この研究に関与した全員の成果です。もちろん貴女も含めてね!」
ロビンソンが嬉しそうに握ったルフェルニアの手を上下に振る。
ロビンソンはどうやら平民の家庭のようだが、王立学園を優秀な成績で卒業して、この研究所に入ったらしかった。
「ロビンさん、そろそろ中へ入らしてもらっても?」
雑談中もずっとルフェルニアの手を握っているロビンソンの手を、ユリウスがやんわりと離す。
「なんだ、ユリウス様、いらっしゃったんですね。入口で足止めしちゃってすみません。中へどうぞ。」
ロビンソンの後に続いて中へ進むと、10人くらいがそれぞれ作業をしているようだった。
「ここにいるのは3課の一部で、今日は地方の圃場に出張に行っている奴もいます。僕も明日の授賞式がなければ、地方の圃場へ行っていることが多いです。」
ロビンソンが中にある機材などを説明しながら奥へ進むと、突き当りに扉があった。
ロビンソンがノックもなしに無遠慮に扉を開けると、中にはひとり壮年の男性が座っていた。
「ロビン、入室の際はノックをするように何回も言っているだろう。」
その男性はロビンソンを窘めるように言った後、ルフェルニアの方を向いた。
「初めまして、ルフェルニア・シラー嬢。私はリヒラー・ソウェル、この3課の課長を務めている。この度は貴女の植物学への貢献に、心より敬意を示したい。それから、ようこそ、アルウィン君。」
ソウェル、という名前は田舎貴族であるルフェルニアも知っている伯爵家の名前だ。何でも代々子だくさんで大家族の家系だと噂で聞いたことがある。子供の扱いも慣れているのか、アルウィンの目線までかがんで、アルウィンの頭を撫でてやっていた。
「初めまして、ソウェル様。こちらこそ、子どもの思い付きに応えてくださった研究所の皆様に心から感謝しております。」
緊張気味にルフェルニアが礼を取ると、リヒラーは人の良さそうな笑顔を見せて言った。
「固くならないでください。私は貴族とは言えども五男で、貴族社会にも慣れずに、こうして好きなことを研究して生きているのさ。」
リヒラーに話しを聞くと、明日の授賞式で授与を受けるのは、リヒラーとロビンソン、それから土壌の魔力と植物の生育について論文をまとめたベンジャミンという男性らしい。
リヒラーに連れられて、研究所の中をひととおり案内してもらうと、今日のところは解散する流れとなった。
「今日はお忙しいところありがとうございました!研究が進んでいるところを実際に見ることができてとても面白かったです。」
リヒラーとロビンソンの明るい性格に、帰るころにはすっかりルフェルニアの緊張も解けていた。
アルウィンも出発前はどことなく不機嫌な様子だったが、今は顔を緩めて喜んでいるようだ。
「こちらこそ、ルフェルニア嬢。それでは明日、王宮でお会いしよう!」
ルフェルニアらは迎えの馬車に乗り込み、帰路へ着いた。
「薬草学研究所は国内にいくつか拠点があるけれど、ここが本部だよ。ここで行われているのは成分解析と本部機能の事務管理がメインだから、圃場は少ないんだ。」
ユリウスは先に来客を知らせておいてくれたのか、スムーズに建物の中に入ると、「研究3課」と書かれた扉の前で立ち止まった。
「ここが、ルフェの見つけたことを研究しているチームだよ。」
ユリウスが先に入室すると、中に居たひとりがものすごい勢いで近づいてきた。
当人は癖毛がひどいのか、髪の毛が頭を2倍近くの大きさに見せている、それに目にもかかっていて、前が見えづらそうだ。
「貴女がルフェルニア・シラー様ですね!僕はロビンソン、ロビンと呼んでください!
貴女に会うのをずぅっと楽しみにしていたんだ!光栄です!!」
サッと両手を差し出し、ルフェルニアに握手を求めたので、彼の出で立ちに驚いていたルフェルニアも反射的に手を差し伸べた。
「ルフェルニア・シラーです。こちらこそ、お会いできてとても光栄です。あなたがヴィアサル病の薬を作ってくださった方ですか?」
「僕は変異個体の検出がメインでしたから、確かに有効な薬草を見つけたのは僕だけれど、この研究に関与した全員の成果です。もちろん貴女も含めてね!」
ロビンソンが嬉しそうに握ったルフェルニアの手を上下に振る。
ロビンソンはどうやら平民の家庭のようだが、王立学園を優秀な成績で卒業して、この研究所に入ったらしかった。
「ロビンさん、そろそろ中へ入らしてもらっても?」
雑談中もずっとルフェルニアの手を握っているロビンソンの手を、ユリウスがやんわりと離す。
「なんだ、ユリウス様、いらっしゃったんですね。入口で足止めしちゃってすみません。中へどうぞ。」
ロビンソンの後に続いて中へ進むと、10人くらいがそれぞれ作業をしているようだった。
「ここにいるのは3課の一部で、今日は地方の圃場に出張に行っている奴もいます。僕も明日の授賞式がなければ、地方の圃場へ行っていることが多いです。」
ロビンソンが中にある機材などを説明しながら奥へ進むと、突き当りに扉があった。
ロビンソンがノックもなしに無遠慮に扉を開けると、中にはひとり壮年の男性が座っていた。
「ロビン、入室の際はノックをするように何回も言っているだろう。」
その男性はロビンソンを窘めるように言った後、ルフェルニアの方を向いた。
「初めまして、ルフェルニア・シラー嬢。私はリヒラー・ソウェル、この3課の課長を務めている。この度は貴女の植物学への貢献に、心より敬意を示したい。それから、ようこそ、アルウィン君。」
ソウェル、という名前は田舎貴族であるルフェルニアも知っている伯爵家の名前だ。何でも代々子だくさんで大家族の家系だと噂で聞いたことがある。子供の扱いも慣れているのか、アルウィンの目線までかがんで、アルウィンの頭を撫でてやっていた。
「初めまして、ソウェル様。こちらこそ、子どもの思い付きに応えてくださった研究所の皆様に心から感謝しております。」
緊張気味にルフェルニアが礼を取ると、リヒラーは人の良さそうな笑顔を見せて言った。
「固くならないでください。私は貴族とは言えども五男で、貴族社会にも慣れずに、こうして好きなことを研究して生きているのさ。」
リヒラーに話しを聞くと、明日の授賞式で授与を受けるのは、リヒラーとロビンソン、それから土壌の魔力と植物の生育について論文をまとめたベンジャミンという男性らしい。
リヒラーに連れられて、研究所の中をひととおり案内してもらうと、今日のところは解散する流れとなった。
「今日はお忙しいところありがとうございました!研究が進んでいるところを実際に見ることができてとても面白かったです。」
リヒラーとロビンソンの明るい性格に、帰るころにはすっかりルフェルニアの緊張も解けていた。
アルウィンも出発前はどことなく不機嫌な様子だったが、今は顔を緩めて喜んでいるようだ。
「こちらこそ、ルフェルニア嬢。それでは明日、王宮でお会いしよう!」
ルフェルニアらは迎えの馬車に乗り込み、帰路へ着いた。
301
あなたにおすすめの小説
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
あなたの幸せを、心からお祈りしています
たくわん
恋愛
「平民の娘ごときが、騎士の妻になれると思ったのか」
宮廷音楽家の娘リディアは、愛を誓い合った騎士エドゥアルトから、一方的に婚約破棄を告げられる。理由は「身分違い」。彼が選んだのは、爵位と持参金を持つ貴族令嬢だった。
傷ついた心を抱えながらも、リディアは決意する。
「音楽の道で、誰にも見下されない存在になってみせる」
革新的な合奏曲の創作、宮廷初の「音楽会」の開催、そして若き隣国王子との出会い——。
才能と努力だけを武器に、リディアは宮廷音楽界の頂点へと駆け上がっていく。
一方、妻の浪費と実家の圧力に苦しむエドゥアルトは、次第に転落の道を辿り始める。そして彼は気づくのだ。自分が何を失ったのかを。
記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
私はあなたの前から消えますので、お似合いのお二人で幸せにどうぞ。
ゆのま𖠚˖°
恋愛
私には10歳の頃から婚約者がいる。お互いの両親が仲が良く、婚約させられた。
いつも一緒に遊んでいたからこそわかる。私はカルロには相応しくない相手だ。いつも勉強ばかりしている彼は色んなことを知っていて、知ろうとする努力が凄まじい。そんな彼とよく一緒に図書館で楽しそうに会話をしている女の人がいる。その人といる時の笑顔は私に向けられたことはない。
そんな時、カルロと仲良くしている女の人の婚約者とばったり会ってしまった…
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる