私は既にフラれましたので。

椎茸

文字の大きさ
26 / 90
第2章 過去のふたり

26

しおりを挟む
ユリウスとのランチと王都観光を終えて、ぐったりして帰ると、既にアルウィンとアンナ、トルメアは帰宅していた。

「お姉さま!とっても綺麗だったよ。」

アルウィンはルフェルニアが帰って来るとすぐに抱き着いてくれた。

(そうそう、これこれ。暴力的な美しさより、今はほっこり癒しの可愛さが欲しいわ…。)

ルフェルニアがアルウィンを強く抱きしめ返すと、アルウィンは嬉しそうに声を上げた。
アルウィンを抱きしめたまま、アンナとトルメアからも誉め言葉を貰うと、疲れた心に優しさが沁みこむようだった。

「…君たちって、いつもそんな感じなの?」

ユリウスが怪訝そうに聞いてくるので、ルフェルニアとアルウィンはきょとんとした顔でお互いの顔を見やる。
この姉弟には、距離感が近いという自覚はない。

「このくらい普通よ。私とアルは仲良しだもの、ねぇ?」
「はい、お姉さまと僕は仲良しだから、普通です。」

なお抱き合ったままルフェルニアがユリウスを見ると、ユリウスは笑顔のまま少し眉を動かした。

(あら、何だか少し不機嫌…?)

ルフェルニアは何となくユリウスが不機嫌なことは分かったが、なぜ不機嫌になるのかはわからなかったので、不思議そうな顔をする。

「そう。でも、学園の高等部に通うには子爵領から離れなきゃいけないから、そろそろ弟離れをしないとダメじゃないの?」
「私?学園には通わない予定よ?」

国内にいくつかある学園のうち、高等部を有する学園は王都の王立学園か、西方にある第2の都市と呼ばれるメテオにある学園のみだ。
メテオの学園は入学金と寄付金によりその経営を行っているため、一定額以上の入学金と寄付金を支払えば入学ができるが、寄付金が継続的に払えなくなると追い出されるという良くも悪くも”お金”で解決する学校だ。
当然シラー子爵家にはそのお金を支払い続けるだけの余裕はないし、ルフェルニアが王立学園へ入る頭もない。
ユリウスも当然ルフェルニアが学園の高等部に通わないことを理解しているものだと思っていた。

「最近はどちらの学校も女性が増えていると聞くけれど、私には絶対ムリよ。普通の令嬢らしく、家で家庭教師を付けて、嫁入り先を探すわ。」
「そんなの勿体ないよ。…君だって植物のことをもっと学びたいだろう?」
「確かに、もっと植物学が進歩してユリウスみたいに助かる人がもっと増えればとは思うけれど…。」

ルフェルニアが回答に困っていると、サイラスとオットマーが懇談会から帰宅したようだった。

「ちょうど集まっていて良かった。」

サイラスが部屋に入ってきてゆったりとソファに腰を掛けると、オットマーもそれに続いた。

「お父様、懇談会はいかがでした?」

ルフェルニアはユリウスから逃げるようにしてオットマーの横へ腰を掛けると、早速懇談会の様子を尋ねた。

「ああ、研究者の話しも聞けて、実に有意義だったよ。今後の国内の産業にも影響を与えるだろうね。ルフェ、本当によく頑張ったね。」

オットマーはルフェルニアを誇らしげに見つめる。

「ルフェに相談なんだが、王立学園の高等部に通ってみる気はないかい?」

先ほどまでユリウスとちょうど学園の話しをしていただけに、ルフェルニアはとても驚いてしまう。

「王立学園にって…、私、そこまで勉強できるわけじゃないし…。」

ルフェルニアは決して頭が悪いわけではない。
ただ、王立学園には国中から”天才”が集まるのだ。そもそも試験を突破できないだろう。
ルフェルニアが言いよどむ中、オットマーに代わりサイラスが話しを続ける。

「今日の懇談会には、学園長も同席していたんだ。学園には特待生制度があって、勉学が非常に優秀な者が授業料を免除される枠と、学園長の推薦枠が毎年何枠か用意されている。学園長の推薦枠は、テストでは測れない人材の才能を拾い上げることを目的にしているが、そこにルフェルニアを推薦したいとの申し出があったんだ。」

「さすが僕のルフェ。やっぱりルフェは学園に通うべきだよ。」

ルフェルニアが応えるよりも早く、ユリウスが嬉しそうに反応する。

(”僕の”って何よ…。)

ルフェルニアは顔を赤くしながら思考を巡らせる。
確かに、ユリウスにも伝えたとおり、勉強したい気持ちはある。

「でも…、学費はかかりますよね?アルウィンもいますし…。それに入学できたとしても勉強についていける自信がありません。」

「学費については、我が家から援助させてもらうよ。それに勉強はユリウスが見てくれるさ、心配いらない。」

サイラスがそういうと、ユリウスも畳みかけるように言葉を続ける。

「そうだよ。勉強は僕が見てあげる。僕は卒業後、公爵を継ぐまでは王宮に勤める予定なんだ。だから、いつだって会えるよ。それに、学園の寮じゃなくて、この邸宅から通えばいいじゃないか。」

(…いやいやいや。確かに昔は我が家で一緒に暮らしていたけど、それは私の両親がいたし!ミネルウァ御夫婦だって、いつもはここじゃなくて公爵領の本邸でしょ!?それはまずいわよ!)

ユリウスが楽しそうに来年のプランを述べる中、ルフェルニアは心の中でツッコミを入れる。

でも、これはルフェルニアにとってまたとないチャンスだ。
もしかしたら、リヒターやロビンソン、ベンジャミンみたいになれるかもしれない。
ルフェルニアは今まで想像もできなかった未来への道が拓けた気がした。

「ありがとうございます、とても嬉しいです。ぜひ、通ってみたいです!…でも、学園の寮に住みます。」

ルフェルニアがそういうと、サイラスとオットマーは頷いて、準備にとりかかることを約束してくれた。

一方のユリウスは心配そうな表情をしている。

「学園の寮に住むのは大変じゃない?貴族の子の多くは王都の邸宅から通うし、僕もそうしていたよ?」
「大丈夫よ、私の家は貧乏だから、貴族とは言えどもたいていのことは一人でできるし。」

「そのことだが、貴族は寮に1人、侍女を付けられることになっているからね、ここの邸宅から1名、ルフェルニア嬢に付ける予定だよ。」

さすがにサイラスも、両親不在で息子と一緒に若い女が同じ邸宅で暮らしているのは良くないと思っているのだろう。
オットマーが慌てて「そこまでしていただかなくても」とサイラスに声をかけるが、サイラスが「娘を預かる気持ちでいるのだから、ここは譲れない」というと渋々と引き下がった。

ユリウスは未だ心配そうな表情を浮かべているが、これ以上は何も言わなかった。

ルフェルニアは、不機嫌そうな顔をしているアルウィンに気づくと、近づいて頭を優しく撫でた。

「アルウィン、怒らないで?」
「怒ってない。」
「本当に?」
「…だって、お姉さまは行きたいんでしょう?」

アルウィンが不機嫌そうな顔を泣きそうに歪めたので、ルフェルニアは心臓がぎゅっとなるほど辛くなった。

「…、アルウィンごめんね、お姉さまは学園に通うわ。でもお休みの日は子爵領に帰るし、いつだって王都に遊びに来てね。」
「ちゃんとお手紙も書いてくれる?」
「うん、たっくさん書くわ!それに、入学するまでの間、たくさん遊びましょうね!!」
「…うん、絶対だよ。」

ルフェルニアがアルウィンを抱きしめると、アルウィンも強く抱きしめ返してくれた。

「ルフェ、これからは遊んでばかりではなく、しっかり勉強するように。」
「…ハイ。」

またとない機会にルフェルニアはすっかり浮足立っていたが、オットマーの指摘に、ルフェルニアは現実に引き戻され、肩を落としながら答えた。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

さようなら、私の愛したあなた。

希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。 ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。 「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」 ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。 ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。 「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」 凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。 なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。 「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」 こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

処理中です...