ある日世界がタイムループしてることに気づいて歓喜したのだが、なんか思ってたのと違う

ジェロニモ

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委員長は合唱祭委員

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 その後何度かのループを繰り返し、僕はその度に橘恵美の行動を観察し続けた。その結果、ループを繰り返すたびに彼女の行動に少しずつ差異が生じていることに気がついた。

 藤崎瑠璃子と一緒にトイレに立つなんていう大きめの差異は起きなかったが、頬杖をつく手が右手から左手に変わったり、髪を触る位置が変わっていたり、トイレから手をビチョビチョで帰ってきた藤崎瑠璃子に渡すハンカチがティッシュになっていたり、貧乏ゆすりをしていたり。

 毎回毎回、間違い探しかよと怒鳴りたくなるような小さな小さな変化があったのだ。普通なら気づくこともない差異である。これまでのループでも僕が気づかないほどの小さな行動の差異が生じていたのかもしれない。
 今回奇跡的にトイレに行くという割と大きめの行動の変化が起こったから気づいたものの、普通気づけないだろ。僕は立ち上がって机で仲良く談笑している橘恵美と藤崎瑠璃子に近づいた。

「あのさ橘さん!タイムループしてるよね」

 変化する行動を見て、僕は確信を持ってそう聴いた。しかし、

「え……?ごめんなんだって?」

そんなとぼけた答えを返された。

「だからタイムループしてるよね。記憶あるよね」
「んー、タイムループってあれだよね? 同じ時間を繰り返す、SFチックなやつ。ちょっとよくわかんないかな」

 重ねた僕の問いに、橘恵美は困惑したように眉を潜めて笑った。

「ていうかあんた誰だっけ?」
「ちょっと瑠璃子!」

 そして彼女は僕に失礼な質問をしてきた藤崎瑠璃子の頭を手で叩いた。よくやった。その一連の仕草はとても自然で、演技には見えない。

……記憶がないのか? よく考えればタイムループが始まってから体感時間ではおよそ100日ほどが経過している。そんな中、僕が気づけないほどの微量な変化のみで、ループのたびに同じ行動を繰り返していた。100日間同じ相手と同じ話をするんだぞ。記憶があったら普通発狂するだろ。
 同じことをただただ繰り返すということの苦しみは僕が身をもって知っている。記憶があるとしたらとんだドM女であるが、とてもそんな特殊性癖を持っているようには見えない。

 つまり本当に記憶を持っていないというのか。だとすればなぜループの記憶がない彼女の行動に変化が起きているのだろうか。あれから確認したが、彼女以外の人の行動は欠片も変化していなかった。変化したのは彼女だけだ。

「ああっ、藤崎くんごめん! 私そろそろ電子ピアノ取って来なきゃいけないや!」

橘恵美は急に声をあげて立ち上がる。僕はその言葉に少し驚いた。なにせ彼女は僕が名乗る前に僕の苗字を呼んだのだから。……まさか僕の名前を認識している激レアな存在がまだこのクラスにいたとは。彼女には、一発殴られてから接触を避け気味だったので気づかなかったな。なんだか名前を覚えてもらえているということがたまらなく嬉しくて顔がにやけた

「げ。こいつ私と同じ名字なの?なんか途端に名前を知らなかったことに罪悪感が湧いてきたんだけど。てかなんで笑ってんの?」
「だから瑠璃子!ってやってる場合じゃなかった。それじゃ藤崎くん、質問ちゃんと答えられなくてごめんね。じゃっ」

 僕と同じ藤崎の名を持つ女がくしゃっと顔を歪めた。それに橘恵美はツッコミを入れて、慌てたように小走りで教室を出て行った。

「なんかすまん。」

 藤崎瑠璃子は軽い感じで両手を合わせてきた。
 教師は何かにつけて出席番号順で生徒を並ばせたりすることが多いので、そういえば彼女は入学時から度々近くにいたのを思い出した。それにも関わらず名字すら覚えられていないというのは、よほど僕は存在感が無かったんだなと、逆に僕スゲーってなった。
 むしろ名前を覚えている橘恵美の方が特別なのだ。僕って暗殺者の素質とかあるかもしれないと思うと少し心がワクワクした。男の子はいくつになってもそういうのが好きなのだ。

「名前覚えてなくてごめんっていう謝罪も結構心にくるけどね。」

 グサリグサリと。存在感無さすぎと言われてるようなものだし、それって謝罪に見せかけた精神攻撃だ。

「あー。確かにそれは言えてるわ。」
「まぁ僕も瑠璃子さんの名前覚えて無かったし。おあいこって感じだと思う。」

 僕はタイムループをする前、クラスメイトに全く興味を持ってなかったから彼女よりもっと悪質だ。そんなやつ認識から排除して正解だったと思う。

「いやあんた今超私の名前言ってんじゃん。知ってんじゃん」

 彼女は何言ってんだと目を細めて訝しげな表情で僕を見てきた。知らなかったのはループが始まる前の話なので、とバカ正直に言ったら訝しげに見られるどころか狂人扱いされそうだ。

「あー。ほら。橘さんが何回もツッコミ入れてたから。」
「あひゃひゃひゃっ。ツッコミと来たかっ。じゃあ私はボケってかっ。あひゃひゃっ。」

 とっさの言い訳は有効だったようで、彼女は机をバンバンと叩きながら大笑いしだした。目尻から溢れた涙を指先で拭う。誤魔化せたのは良いが、笑いすぎてて心配になって来た。笑い方も変なキノコを食べたのではと疑うレベルだ。ってそうだ。少しでも橘恵美の情報を集めないと。

「あのさ。聴きたいんだけど橘さんってなんで電子ピアノなんて取りに行ったの?それって合唱祭委員とかがやる仕事じゃなかったっけ。」
「は? いやそりゃ恵美が合唱祭委員だからでしょ。」

 彼女は僕の質問にコテンと首を傾げた。その反応に僕も同じように首を傾げる。

「男が首傾げるって何かキモいねー。」
「うっせいやい。」

 逆説的に女の君がやると可愛いとでも言いたいのか。ダメ出しを食らった僕は途端に恥ずかしくなってしまったので首の角度を元に戻した。

「普通は合唱委員くらい覚えてるもんでしょ。ほら、委員決めの時、立候補者全然出なくてさ。みんなが、吹奏楽部だし橘で良くね?みたいな感じになっちゃったじゃん。」
「なんて暴論。吹奏楽部と合唱って関係なくないかな。ピアノやってたとかなら掠りはするかもだけど。それとも何、彼女は吹奏楽部でコーラスでも担当してるの?」

 実は吹奏楽部っていうのは音楽全般のエキスパートだったりするんだろうか。カラオケで歌うの上手いとか、習い事で歌を習ってるのウフフって人が推薦されるのならまだ分かるが。
 楽譜が読めるだけ素人よりはマシ、ということだろうか。いやでも楽譜の読み方なんて小学生でみんな習ってるだろうし。

「そこらへんはどうでも良かったんでしょ、みんな。結局だれか犠牲にならないといけなかったから、それをもっともらしい理由つけて自分以外に擦りつけたかっただけだよ。」
「あー。わかる気がする」

 そんな藤崎瑠璃子の建前なんてクソ喰らえとでも言うようなストレートな発言に、疑念が解消すると共に少しドロッとした嫌な気持ちになる。
 自分に白羽の矢を立たせない為の手として1番有効なのは推薦だよな。つまりみんなの為の生贄である。

「あんたの言う通り普通学級委員は更に役職とかやったりしないのに、先生も止めないしさ。見てて大変そうだよ。ま、止めれなかったあたしがこんなこと言うのもアレだけどさ。あんたに至っては知ってすらいなかったんでしょ?」

 ジト目で僕を見つめる藤崎瑠璃子に、ごめん、と口から出かかって、言葉を発することのないまま、チャイムの音と共に僕は自分の席に座っていた。答えられなかった。罪悪感から湧いて出た謝罪は、被害者ではない彼女に言っても仕方のないことだったから。

 遥か昔のように感じる10分より前に存在していた僕。その合唱祭委員を決める時の僕は、きっと彼女が生贄にされることなど一ミリも興味を持たなかったのだろうな。そんないかにもめんどくさそうで大層な役割は、自分なんかにゃ関係ないだろうと居眠りでもしてたのかもしれない。

 クラスどころか他者に無関心だった以前の自分を想像して、生贄に選ばれた時の橘恵美を想像して、堪らなく想像の中の自分をぶん殴りたくなった。
 過去の自分は物理的に殴れないので、とりあえず過去の自分の成れの果てである今の自分をぶん殴っておいた。

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