ある日世界がタイムループしてることに気づいて歓喜したのだが、なんか思ってたのと違う

ジェロニモ

文字の大きさ
35 / 53
タイムスリップ編

パシリと10円と書き置きと

しおりを挟む
 時間は過ぎ、夜の帳によって太陽の恵みも遮られた。
 寒さに体を動かせば公園の水で満たした胃の中の水がチャポチャポと音をたてて揺れる。

 もちろん本音をいえばこんな水ではなく、美味いもんを買いに行き、固形物で胃を満たしたかった。しかしいつ公園に現れるかわからない、本来星野先生が教師を目指すきっかけになるはずだった人物を特定する為に、不用意に公園から動くことが出来なかったのだ。

 その甲斐あってか、この公園に立ち寄った高校生の顔は全て確認できた。若い人を片っ端から確かめた結果、高校生は男子2人組、女子2人組、女子1人の計5人だった。必殺「自転車無くしちゃったんだけど知らない」作戦で気安く話しかけ、巧みな話術によって通っている高校も特定済みだ。
 
 これでその気になれば僕が星野先生と高校生との仲を取り持つキューピットになることも可能というわけだ。よしよし。過去も修正出来るかもしれないと希望が出てきて少し心持ちが楽になった。

「ははははぶぇっ」

 自分の機転の良さに思わず高笑いをあげたところ、飲んだ水が胃から逆流しそうになったがなんとか耐えた。

「なんでまだ居るわけ」

 そんな僕の前に、星野先生は再びやってきた。いや、例え未来が星野先生だとしても、今の彼女を星野先生とまるで尊敬しているような呼び方で呼ぶのはなんだか納得がいかない。なので僕は彼女のことを液体窒素さんと呼ぶことにした。

 液体窒素さんは片手に『ココア』とコミカルな字体で書かれた缶を手に持っていた。湯気が立ち上っているのできっとあったかいんだろうなぁ羨ましい!

「公園は公共の場だから別に居たっていいじゃないか」

 誰にでも使用する権利はあるはずだろう。たしかに寝床にする権利はないかもしれないけど。

「いや、こんな時間に学生が外ほっつき歩いてることがアウトでしょ。さっさと家に帰れば」

と言われるも、それはむしろ僕ではなく、女子中学生の彼女にこそ言うべき言葉だと思うのだが。

「あのさ、ブーメランって知ってる?」

「知ってるけど私は別に家直ぐそばだし、強いから。あんたと違って。なんなの? 家出? まぁ何にしても興味ないけど」

 彼女は聞き捨てならないことを言いやがった。家出だと?帰宅途中に訳の分からん事態に巻き込まれ家を失った僕に対して家出だと?

「家出とかバカを言うな。家に帰れるなら今直ぐにでも帰りたいわ。むしろ家どころか、あの時代に帰りたい気持ちでいっぱいなんだぞ」

帰りたい。未来に帰りたい。

「家はともかく過去には戻れないでしょ。バカらしい」

 彼女は鼻で笑ってココアを飲んだ。まぁ、普通「あの時代」と聴いたら思い浮かぶのは過去だろう。

「そうですねー」
「……なんか顔がムカつくんだけど」

 彼女は顔を顰めた。顔がムカつくとな。そりゃそうだろうよ。なんせ僕は今「バカはお前ですぅ。現在進行形で僕は過去に戻ってますぅ~」と彼女を煽りまくってやりたい気持ちを抑えるのに必死だからだ。しかしそれをやったところで頭を心配されるだけで信じてなどもらえないだろうからと我慢しているのだ。そりゃムカつく顔にもなるだろう。

「まぁ顔はムカつくけど、家出中の宿無しって考えたら、ちょっとかわいそうになったからこれあげるよ。妬ましそうな目で睨んできてたし」

 彼女は持っていた缶を僕の方に差し出してきた。

「え、マジで」

 いやほら間接キスとかあれだけどいいんでしょうか。
 どうやら彼女は今までツンしか見せていなかっただけで、ツンデレキャラらしい。僕は差し出された缶を受け取って……なんだか重量がおかしい。僕は缶を左右に振った。中身は入っていなかった。

「ゴミじゃねーか!」

 僕は缶を思いっきり地面に叩きつけた。

「中身が入ってるとは言ってないでしょ。でも空き缶って集めればお金貰えるらしいよ。よかったじゃん。」

 彼女は僕を馬鹿にするようにケラケラと笑い出した。人をからかって遊ぶとは全くもって趣味の悪い。例え本当にココアをくれたとしても、誰がお前なんぞの施しを受けるものか。
「なんならそれ捨ててきてくれたら10円あげようか。あまりに哀れだし」

 彼女のその言葉を聴いて、僕は即座に投げ捨てた缶を拾い少し離れた道端にある自販機へと向かった。
 10円で歳下にパシらされていることを思い出すと情けなくて泣きそうになるが、しょうがないじゃないか。だってプライドなんて1円にもならんのだ。

 缶を捨て終えて公園に戻ってきたのだが、液体窒素様の姿が見当たらない。トイレかなとベンチにでも座って待とうとしたところ、ベンチの上に紙切れが置かれていることに気づいた。
 よく見れば小さい字で何か書いてあるようだ。

 どうも彼女が書き置きをしていったらしい。公園で待つのは寒いからな。家に呼びに来てくれとでも書いてあるのだろう。僕は風で飛ばないように紙の上に置かれていた石を退けて、書かれた小さな文字を読んだ。

『パシリご苦労様。10円あげるとかとか嘘だから。こんな簡単に騙されるのはどうかと思うよ。普通信じないでしょ』

僕は紙を破り捨てた。

 10円を貰えなかったことよりも、10円をダシに良いように使われたことの方が悔しくて、僕は少し泣いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。 その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに! 戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

処理中です...