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タイムスリップ編
パシリと10円と書き置きと
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時間は過ぎ、夜の帳によって太陽の恵みも遮られた。
寒さに体を動かせば公園の水で満たした胃の中の水がチャポチャポと音をたてて揺れる。
もちろん本音をいえばこんな水ではなく、美味いもんを買いに行き、固形物で胃を満たしたかった。しかしいつ公園に現れるかわからない、本来星野先生が教師を目指すきっかけになるはずだった人物を特定する為に、不用意に公園から動くことが出来なかったのだ。
その甲斐あってか、この公園に立ち寄った高校生の顔は全て確認できた。若い人を片っ端から確かめた結果、高校生は男子2人組、女子2人組、女子1人の計5人だった。必殺「自転車無くしちゃったんだけど知らない」作戦で気安く話しかけ、巧みな話術によって通っている高校も特定済みだ。
これでその気になれば僕が星野先生と高校生との仲を取り持つキューピットになることも可能というわけだ。よしよし。過去も修正出来るかもしれないと希望が出てきて少し心持ちが楽になった。
「ははははぶぇっ」
自分の機転の良さに思わず高笑いをあげたところ、飲んだ水が胃から逆流しそうになったがなんとか耐えた。
「なんでまだ居るわけ」
そんな僕の前に、星野先生は再びやってきた。いや、例え未来が星野先生だとしても、今の彼女を星野先生とまるで尊敬しているような呼び方で呼ぶのはなんだか納得がいかない。なので僕は彼女のことを液体窒素さんと呼ぶことにした。
液体窒素さんは片手に『ココア』とコミカルな字体で書かれた缶を手に持っていた。湯気が立ち上っているのできっとあったかいんだろうなぁ羨ましい!
「公園は公共の場だから別に居たっていいじゃないか」
誰にでも使用する権利はあるはずだろう。たしかに寝床にする権利はないかもしれないけど。
「いや、こんな時間に学生が外ほっつき歩いてることがアウトでしょ。さっさと家に帰れば」
と言われるも、それはむしろ僕ではなく、女子中学生の彼女にこそ言うべき言葉だと思うのだが。
「あのさ、ブーメランって知ってる?」
「知ってるけど私は別に家直ぐそばだし、強いから。あんたと違って。なんなの? 家出? まぁ何にしても興味ないけど」
彼女は聞き捨てならないことを言いやがった。家出だと?帰宅途中に訳の分からん事態に巻き込まれ家を失った僕に対して家出だと?
「家出とかバカを言うな。家に帰れるなら今直ぐにでも帰りたいわ。むしろ家どころか、あの時代に帰りたい気持ちでいっぱいなんだぞ」
帰りたい。未来に帰りたい。
「家はともかく過去には戻れないでしょ。バカらしい」
彼女は鼻で笑ってココアを飲んだ。まぁ、普通「あの時代」と聴いたら思い浮かぶのは過去だろう。
「そうですねー」
「……なんか顔がムカつくんだけど」
彼女は顔を顰めた。顔がムカつくとな。そりゃそうだろうよ。なんせ僕は今「バカはお前ですぅ。現在進行形で僕は過去に戻ってますぅ~」と彼女を煽りまくってやりたい気持ちを抑えるのに必死だからだ。しかしそれをやったところで頭を心配されるだけで信じてなどもらえないだろうからと我慢しているのだ。そりゃムカつく顔にもなるだろう。
「まぁ顔はムカつくけど、家出中の宿無しって考えたら、ちょっとかわいそうになったからこれあげるよ。妬ましそうな目で睨んできてたし」
彼女は持っていた缶を僕の方に差し出してきた。
「え、マジで」
いやほら間接キスとかあれだけどいいんでしょうか。
どうやら彼女は今までツンしか見せていなかっただけで、ツンデレキャラらしい。僕は差し出された缶を受け取って……なんだか重量がおかしい。僕は缶を左右に振った。中身は入っていなかった。
「ゴミじゃねーか!」
僕は缶を思いっきり地面に叩きつけた。
「中身が入ってるとは言ってないでしょ。でも空き缶って集めればお金貰えるらしいよ。よかったじゃん。」
彼女は僕を馬鹿にするようにケラケラと笑い出した。人をからかって遊ぶとは全くもって趣味の悪い。例え本当にココアをくれたとしても、誰がお前なんぞの施しを受けるものか。
「なんならそれ捨ててきてくれたら10円あげようか。あまりに哀れだし」
彼女のその言葉を聴いて、僕は即座に投げ捨てた缶を拾い少し離れた道端にある自販機へと向かった。
10円で歳下にパシらされていることを思い出すと情けなくて泣きそうになるが、しょうがないじゃないか。だってプライドなんて1円にもならんのだ。
缶を捨て終えて公園に戻ってきたのだが、液体窒素様の姿が見当たらない。トイレかなとベンチにでも座って待とうとしたところ、ベンチの上に紙切れが置かれていることに気づいた。
よく見れば小さい字で何か書いてあるようだ。
どうも彼女が書き置きをしていったらしい。公園で待つのは寒いからな。家に呼びに来てくれとでも書いてあるのだろう。僕は風で飛ばないように紙の上に置かれていた石を退けて、書かれた小さな文字を読んだ。
『パシリご苦労様。10円あげるとかとか嘘だから。こんな簡単に騙されるのはどうかと思うよ。普通信じないでしょ』
僕は紙を破り捨てた。
10円を貰えなかったことよりも、10円をダシに良いように使われたことの方が悔しくて、僕は少し泣いた。
寒さに体を動かせば公園の水で満たした胃の中の水がチャポチャポと音をたてて揺れる。
もちろん本音をいえばこんな水ではなく、美味いもんを買いに行き、固形物で胃を満たしたかった。しかしいつ公園に現れるかわからない、本来星野先生が教師を目指すきっかけになるはずだった人物を特定する為に、不用意に公園から動くことが出来なかったのだ。
その甲斐あってか、この公園に立ち寄った高校生の顔は全て確認できた。若い人を片っ端から確かめた結果、高校生は男子2人組、女子2人組、女子1人の計5人だった。必殺「自転車無くしちゃったんだけど知らない」作戦で気安く話しかけ、巧みな話術によって通っている高校も特定済みだ。
これでその気になれば僕が星野先生と高校生との仲を取り持つキューピットになることも可能というわけだ。よしよし。過去も修正出来るかもしれないと希望が出てきて少し心持ちが楽になった。
「ははははぶぇっ」
自分の機転の良さに思わず高笑いをあげたところ、飲んだ水が胃から逆流しそうになったがなんとか耐えた。
「なんでまだ居るわけ」
そんな僕の前に、星野先生は再びやってきた。いや、例え未来が星野先生だとしても、今の彼女を星野先生とまるで尊敬しているような呼び方で呼ぶのはなんだか納得がいかない。なので僕は彼女のことを液体窒素さんと呼ぶことにした。
液体窒素さんは片手に『ココア』とコミカルな字体で書かれた缶を手に持っていた。湯気が立ち上っているのできっとあったかいんだろうなぁ羨ましい!
「公園は公共の場だから別に居たっていいじゃないか」
誰にでも使用する権利はあるはずだろう。たしかに寝床にする権利はないかもしれないけど。
「いや、こんな時間に学生が外ほっつき歩いてることがアウトでしょ。さっさと家に帰れば」
と言われるも、それはむしろ僕ではなく、女子中学生の彼女にこそ言うべき言葉だと思うのだが。
「あのさ、ブーメランって知ってる?」
「知ってるけど私は別に家直ぐそばだし、強いから。あんたと違って。なんなの? 家出? まぁ何にしても興味ないけど」
彼女は聞き捨てならないことを言いやがった。家出だと?帰宅途中に訳の分からん事態に巻き込まれ家を失った僕に対して家出だと?
「家出とかバカを言うな。家に帰れるなら今直ぐにでも帰りたいわ。むしろ家どころか、あの時代に帰りたい気持ちでいっぱいなんだぞ」
帰りたい。未来に帰りたい。
「家はともかく過去には戻れないでしょ。バカらしい」
彼女は鼻で笑ってココアを飲んだ。まぁ、普通「あの時代」と聴いたら思い浮かぶのは過去だろう。
「そうですねー」
「……なんか顔がムカつくんだけど」
彼女は顔を顰めた。顔がムカつくとな。そりゃそうだろうよ。なんせ僕は今「バカはお前ですぅ。現在進行形で僕は過去に戻ってますぅ~」と彼女を煽りまくってやりたい気持ちを抑えるのに必死だからだ。しかしそれをやったところで頭を心配されるだけで信じてなどもらえないだろうからと我慢しているのだ。そりゃムカつく顔にもなるだろう。
「まぁ顔はムカつくけど、家出中の宿無しって考えたら、ちょっとかわいそうになったからこれあげるよ。妬ましそうな目で睨んできてたし」
彼女は持っていた缶を僕の方に差し出してきた。
「え、マジで」
いやほら間接キスとかあれだけどいいんでしょうか。
どうやら彼女は今までツンしか見せていなかっただけで、ツンデレキャラらしい。僕は差し出された缶を受け取って……なんだか重量がおかしい。僕は缶を左右に振った。中身は入っていなかった。
「ゴミじゃねーか!」
僕は缶を思いっきり地面に叩きつけた。
「中身が入ってるとは言ってないでしょ。でも空き缶って集めればお金貰えるらしいよ。よかったじゃん。」
彼女は僕を馬鹿にするようにケラケラと笑い出した。人をからかって遊ぶとは全くもって趣味の悪い。例え本当にココアをくれたとしても、誰がお前なんぞの施しを受けるものか。
「なんならそれ捨ててきてくれたら10円あげようか。あまりに哀れだし」
彼女のその言葉を聴いて、僕は即座に投げ捨てた缶を拾い少し離れた道端にある自販機へと向かった。
10円で歳下にパシらされていることを思い出すと情けなくて泣きそうになるが、しょうがないじゃないか。だってプライドなんて1円にもならんのだ。
缶を捨て終えて公園に戻ってきたのだが、液体窒素様の姿が見当たらない。トイレかなとベンチにでも座って待とうとしたところ、ベンチの上に紙切れが置かれていることに気づいた。
よく見れば小さい字で何か書いてあるようだ。
どうも彼女が書き置きをしていったらしい。公園で待つのは寒いからな。家に呼びに来てくれとでも書いてあるのだろう。僕は風で飛ばないように紙の上に置かれていた石を退けて、書かれた小さな文字を読んだ。
『パシリご苦労様。10円あげるとかとか嘘だから。こんな簡単に騙されるのはどうかと思うよ。普通信じないでしょ』
僕は紙を破り捨てた。
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