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第一章
020 愛してほしい、誰よりも
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儀式の部屋に入って温泉から上がると、テーブルにはデザートが置かれていた。
「いつかの約束だ」
「本当に作ってきてくれたのか」
家では自ら料理をするほどの腕があるのは他人を家に入れたくないからで、スイーツもお手のものだ。
出すなら今がチャンスだ。テーブルの下に隠していたクッキーを彼に差し出した。
「ババロアのお礼」
「用意周到だな。昨日作ったのか?」
「ああ。ノアと一緒に」
「一昨日、サイラスにケーキがとても美味かったと不快なほど自慢された」
「っ……渡そうと思ったけど、ナマモノだし守衛所にいるか判らなかったんだよ。だからケーキはサイラスとノアと三人で食べた」
「……こういうのも作れる年齢になったんだな」
まるで親のようなことを言うと、リチャードはラッピングのリボンを解いた。
咀嚼音の回数だけ鼓動が鳴り、自信はあるものの胃の辺りをさすりたくなる。
「美味い」
「そ、そうか。良かった」
「今まで食べた中で一番美味しいクッキーだ」
「それ、サイラスも同じこと言ってた。あの人が言うと胡散臭いけど」
「そこはかとなく怪しいのはいつものことだ。久しぶりの菓子作りはどうだった?」
「久しぶりで緊張したよ。ノアはこういうの上手いから、コツを聞きながら作ったんだ。でも火を使うから予備生は料理禁止って意味判んないよな。儀式で蝋燭を使うのに」
「火が危ないというより、あまり普通生と関わりを持たせたくないのだろう。調理をしたければ向こうの校舎へ行くしかないからな」
「ババロアも美味しいよ。学園で出されるものより、ずっと」
真っ白なババロアはミルクと練乳の味がした。今まで食べたものより、ずっと甘い。
「クリス……そろそろ行こう」
「うん…………」
今日はなんだかふわふわしている。肩を抱かれたまま、奥の部屋へ入った。
服を脱がされながら、唇が重なる。何度も角度を変えて、舌が入ってくる。
「今日……ねちっこい」
「いつもと変わらんだろう」
「俺……変だ」
「肩が震えている。体調が良くないか?」
「違う……よく判らないんだ。今から抱かれると思うと……身体の奥がおかしくなる。疼いて疼いて仕方なくなる」
リチャードの口角が上がった。顔が近づいてくるので目を閉じた。
引き締まった奥は緩み、粘膜は収縮を繰り返している。
「慣らしただろう?」
「さっき、少しだけ」
「一人でやるのは辛いはずだ。無理しなくていい」
珍しく今日は前からだ。臀部にクッションを敷かれ、足を持ち上げられる。
男らしい太く長い指が挿入されると、繊細な襞は奥へ奥へと誘導する。クリスは短く熱い吐息を吐き、いまだ慣れない圧に必死に快楽を探した。
「前よりだいぶ慣れてきたな」
肉襞は絞り取ろうと大胆に蠢き、難なく二本目を受け入れた。
手持ち無沙汰な右手で、彼の股間に触れてみる。恐ろしさを感じるほど膨張し、クリスは喉を慣らした。
「目にタオルを巻くか?」
「へい、き……早く、きて……」
「……誘い方がうまくなったな」
挿入るとき、リチャードは躊躇いがなく一気に奥へ押し込む。
壁に映る影はリチャードのものではない。今宵もここへ現れてしまった。
『もっと……愛して……ほし……かった………』
「え?」
『どこに…………』
虚ろなリチャードの目から涙が零れた。頬を伝い、クリスの胸元へ落ちていく。
今まで見た涙の中で、一番きれいだった。春になるとピンクの花びらが散るように、やりきれない心の空白が広がっていく。
壁に映る大きな影が消えた。同時に、クリスはリチャードの頬を叩いた。
「しっかりしろ! 悪魔、リチャードを奪うな! お前のものじゃない!」
「…………クリス」
「リチャード……大丈夫か?」
「意識が一瞬だけ飛んだ」
挿入るときは素早いが、抜くときはゆっくりと優しさを込める。
「何か話していたように聞こえた。俺は何を言っていた?」
「『もっと愛してほしかった。どこに』。間違いない、僕はそう聞こえた」
「愛してほしかった……?」
「どういう意味なんだ?」
リチャードは腕を組み、何か考えている。その間にクリスはタオルで身体を拭き、服を着込んだ。
誰かがドアを叩いている。それもかなり強い音だ。
クリスはリチャードと顔を合わせ、緊張の糸を張った。
「お前はここにいろ」
リチャードは出ていってしまったが、クリスはこっそり扉を開けて耳を立てる。
しばらく経ったあと、入ってきたのはリチャードではなくサイラスだった。
「儀式は終わったようだけど着替えてる?」
「大丈夫。風呂に入りたいんだけど」
「入っておいで。眠いなら寝ちゃっていいよ」
「あとで寝る。それよりリチャードは?」
「緊急の仕事が入った。夜中に生徒が起きてたってだけなんだけどね。しかも夜這いしに他の生徒の部屋へ潜り込んだらしいんだ」
「それってまずいんじゃないのか」
「そう、だから緊急。これで交合なんてされちゃたまったもんじゃないよ。悪魔が降りてきたりでもしたらいろいろばれる」
「それで恋愛禁止なんて規律ができたのか」
「君とノアのようにプラトニックな関係性なら全然構わないんだけどね」
結局、悪魔は誰にでも降りてくる色魔というだけだ。
今日はクリスの元へ降りてきたためにもう降りてくる可能性は少ないだろうが、ゼロではない。
「今日も降りて来なかった?」
サイラスの笑顔は恐ろしい。絶対に嘘をつかせまいと、逃げ道を塞いでくる。
「来ない。でも、もし降りてきたって言ったらどうするつもりだ?」
「どうもしないよ。そっかー、って終わる」
「俺が不正していたとして、ばれたらサイラスも罰を受けることになる」
「たとえ君が降りて来ないと言っても、俺には判る。君は生まれたときから悪魔に目をつけられているからね。でも言わない方がいい。絶対に。真実を知る者が増えれば増えるほど、心の負担は増える。リチャードと二人で守り抜くんだ。いいね?」
肩に手を置かれた。今度は笑顔がなかった。この人になら話しても大丈夫だと思わせるほどの真剣さで。
「いつかの約束だ」
「本当に作ってきてくれたのか」
家では自ら料理をするほどの腕があるのは他人を家に入れたくないからで、スイーツもお手のものだ。
出すなら今がチャンスだ。テーブルの下に隠していたクッキーを彼に差し出した。
「ババロアのお礼」
「用意周到だな。昨日作ったのか?」
「ああ。ノアと一緒に」
「一昨日、サイラスにケーキがとても美味かったと不快なほど自慢された」
「っ……渡そうと思ったけど、ナマモノだし守衛所にいるか判らなかったんだよ。だからケーキはサイラスとノアと三人で食べた」
「……こういうのも作れる年齢になったんだな」
まるで親のようなことを言うと、リチャードはラッピングのリボンを解いた。
咀嚼音の回数だけ鼓動が鳴り、自信はあるものの胃の辺りをさすりたくなる。
「美味い」
「そ、そうか。良かった」
「今まで食べた中で一番美味しいクッキーだ」
「それ、サイラスも同じこと言ってた。あの人が言うと胡散臭いけど」
「そこはかとなく怪しいのはいつものことだ。久しぶりの菓子作りはどうだった?」
「久しぶりで緊張したよ。ノアはこういうの上手いから、コツを聞きながら作ったんだ。でも火を使うから予備生は料理禁止って意味判んないよな。儀式で蝋燭を使うのに」
「火が危ないというより、あまり普通生と関わりを持たせたくないのだろう。調理をしたければ向こうの校舎へ行くしかないからな」
「ババロアも美味しいよ。学園で出されるものより、ずっと」
真っ白なババロアはミルクと練乳の味がした。今まで食べたものより、ずっと甘い。
「クリス……そろそろ行こう」
「うん…………」
今日はなんだかふわふわしている。肩を抱かれたまま、奥の部屋へ入った。
服を脱がされながら、唇が重なる。何度も角度を変えて、舌が入ってくる。
「今日……ねちっこい」
「いつもと変わらんだろう」
「俺……変だ」
「肩が震えている。体調が良くないか?」
「違う……よく判らないんだ。今から抱かれると思うと……身体の奥がおかしくなる。疼いて疼いて仕方なくなる」
リチャードの口角が上がった。顔が近づいてくるので目を閉じた。
引き締まった奥は緩み、粘膜は収縮を繰り返している。
「慣らしただろう?」
「さっき、少しだけ」
「一人でやるのは辛いはずだ。無理しなくていい」
珍しく今日は前からだ。臀部にクッションを敷かれ、足を持ち上げられる。
男らしい太く長い指が挿入されると、繊細な襞は奥へ奥へと誘導する。クリスは短く熱い吐息を吐き、いまだ慣れない圧に必死に快楽を探した。
「前よりだいぶ慣れてきたな」
肉襞は絞り取ろうと大胆に蠢き、難なく二本目を受け入れた。
手持ち無沙汰な右手で、彼の股間に触れてみる。恐ろしさを感じるほど膨張し、クリスは喉を慣らした。
「目にタオルを巻くか?」
「へい、き……早く、きて……」
「……誘い方がうまくなったな」
挿入るとき、リチャードは躊躇いがなく一気に奥へ押し込む。
壁に映る影はリチャードのものではない。今宵もここへ現れてしまった。
『もっと……愛して……ほし……かった………』
「え?」
『どこに…………』
虚ろなリチャードの目から涙が零れた。頬を伝い、クリスの胸元へ落ちていく。
今まで見た涙の中で、一番きれいだった。春になるとピンクの花びらが散るように、やりきれない心の空白が広がっていく。
壁に映る大きな影が消えた。同時に、クリスはリチャードの頬を叩いた。
「しっかりしろ! 悪魔、リチャードを奪うな! お前のものじゃない!」
「…………クリス」
「リチャード……大丈夫か?」
「意識が一瞬だけ飛んだ」
挿入るときは素早いが、抜くときはゆっくりと優しさを込める。
「何か話していたように聞こえた。俺は何を言っていた?」
「『もっと愛してほしかった。どこに』。間違いない、僕はそう聞こえた」
「愛してほしかった……?」
「どういう意味なんだ?」
リチャードは腕を組み、何か考えている。その間にクリスはタオルで身体を拭き、服を着込んだ。
誰かがドアを叩いている。それもかなり強い音だ。
クリスはリチャードと顔を合わせ、緊張の糸を張った。
「お前はここにいろ」
リチャードは出ていってしまったが、クリスはこっそり扉を開けて耳を立てる。
しばらく経ったあと、入ってきたのはリチャードではなくサイラスだった。
「儀式は終わったようだけど着替えてる?」
「大丈夫。風呂に入りたいんだけど」
「入っておいで。眠いなら寝ちゃっていいよ」
「あとで寝る。それよりリチャードは?」
「緊急の仕事が入った。夜中に生徒が起きてたってだけなんだけどね。しかも夜這いしに他の生徒の部屋へ潜り込んだらしいんだ」
「それってまずいんじゃないのか」
「そう、だから緊急。これで交合なんてされちゃたまったもんじゃないよ。悪魔が降りてきたりでもしたらいろいろばれる」
「それで恋愛禁止なんて規律ができたのか」
「君とノアのようにプラトニックな関係性なら全然構わないんだけどね」
結局、悪魔は誰にでも降りてくる色魔というだけだ。
今日はクリスの元へ降りてきたためにもう降りてくる可能性は少ないだろうが、ゼロではない。
「今日も降りて来なかった?」
サイラスの笑顔は恐ろしい。絶対に嘘をつかせまいと、逃げ道を塞いでくる。
「来ない。でも、もし降りてきたって言ったらどうするつもりだ?」
「どうもしないよ。そっかー、って終わる」
「俺が不正していたとして、ばれたらサイラスも罰を受けることになる」
「たとえ君が降りて来ないと言っても、俺には判る。君は生まれたときから悪魔に目をつけられているからね。でも言わない方がいい。絶対に。真実を知る者が増えれば増えるほど、心の負担は増える。リチャードと二人で守り抜くんだ。いいね?」
肩に手を置かれた。今度は笑顔がなかった。この人になら話しても大丈夫だと思わせるほどの真剣さで。
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