後宮に咲く美しき寵后

不来方しい

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第一章

05 雪国の后は外の世界を開く─⑤

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 テーブルに置かれている箱は、華燭の儀のときにヴァシリスは開けたものだ。中には指輪とネックレス。そして大きめのリングがあった。
 ヴァシリスは箱を取ると、中を開けた。
「それは一体なんだ?」
「浮気をさせないようにするための貞操帯だ」
「まさか……冗談だろ? 二年間も僕につけるのか?」
「違う。つけない。つけるつもりはない。少し、この国の歴史の話をしよう。俺たちが生まれるずっとずっと先代の話だ。とある国の王妃と、ファルーハの王が華燭の儀を挙げた。その王妃はとんでもない色欲魔で、王の居ぬ間に侍従の男たちを誘惑して、やがて妊娠した。ところが、誰の子か判らなくなってしまった。生まれた子は王の特徴もあるが、別の男の目にも似ていた。激怒した王は、王妃と赤子を絞首刑に処した」
「王妃だけではなく、赤子も? それはあまりに……」
「そうだ。民衆は王を慕っていたが、一気に暴動が起こった。その一件があり、結婚相手には貞操帯も贈る風習ができた。時代もともに薄れていったが、形だけは残ってしまったんだ。それともう一つ。夜伽についてだが……お前の国ではどうか知らないが、ファルーハ王国ではより多くの夜伽の作法を学ぶのはむしろ俺だ。娶った后の色欲を満たせなければ、夫として失格なんだ。色欲がない后であれば、花を開かせることが夫の役割」
 子供に性について教えられる身にもなってほしい、と心の中でぼやいた。禁断の果実をえぐっているような気分だ。
「なんでまたそんな規則ができた?」
「先代の后が色欲魔だったが、実は先帝が后との閨を大切にしなかったという話がある。そのせいで后は取り憑かれたように次々と男をたぶらかしたのではないかと。ほとんど床へ足を運ばなかったのだそうだ」
「それで后の色欲を満たさなければ、男としての誇りが保たれないのだな」
「そういうことだ。浮気も極刑扱いだ。二年間、つらいだろうが……」
「二年くらい大したことじゃない。僕は地下に住んでいて、そういうものとは無縁だった。実は色欲もほぼ消えている。元々邪魔なものでしかないしな。お前はしたいのか?」
「普通、したいだろう。お前は……とても綺麗だし。ずっと愉しみにしていた。写真で見たときからお前を娶りたいと思っていたんだ」
「その写真の話だが、手紙も含めて送ってくれたんだよな」
「何度もやりとりをしていた。いくつかの国を候補に入れ、そのうちの一つが我が王国だ」
「ヴァシリスの手紙も写真も受け取っていない。僕の知らないところで話が進んでいた。……資源や財産で勝ち取ったとしても、僕にはそんな価値はない」
「卑下するな。俺はフィリが良かったんだ」
 ヴァシリスは后の手を握り、愛おしそうに指を這わせた。
「一目惚れをして、来る途中での宿でのできごと。瞬時の状況判断や、たとえ掟を破っても人を救おうとする勇敢さ。ますます会ってみたい気持ちが膨らんだ。早く会いたくて、宿へ行ってしまったんだ」
「そういう行動の早さは、王子に向いていると思うよ」
 ヴァシリスの手が温かい。体温よりも、心から縁を伝えてくるような暖かさだった。
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