後宮に咲く美しき寵后

不来方しい

文字の大きさ
14 / 36
第一章

014 蕾の開き─①

しおりを挟む
 花盛の儀の当日──フィリはふらふらになっていた。たった数回の食事を抜いただけなのに、普段ここではありとあらゆる贅沢が身近にあるため、身体が追いついていかなかった。
 浴場へ呼ばれ、生まれたままの姿になると、まずは身体を湯船に沈めた。次に首から足の指先まで、香油で念入りに磨かれる。
 用意されたものを身につけるが、当たり前に下着はない。
 肌が透けるほど薄い布は肌触りが良い。頭部にはティアラが乗る。
「このまま後宮内にある神殿へ向かいます」
 アイラは花盛の儀には参加しない。それだけでだいぶ心の負担が減った。彼女とは二年以上も共に過ごしてきた。見守られるなら、顔見知りは避けたい。
「フィリ様、中でヴァシリス王子がお待ちです。……フィリ様?」
 進もうとはせず立ち止まっていると、侍従の一人が怪訝そうに顔を傾げた。
 この王国は性に関してわりと公然としている。保守的なルロ国と比べると天と地ほどの差がある。たった二年で変われるわけがない。
 一歩、また一歩と踏み出した。奥へ進むたびに香の香りが濃くなっていく。頭がうまく働かなくなる匂いだ。身体中が熱い。空気が薄くなったように感じる。
 薄暗い明かりの中、奥に高さのある寝台が置かれている。周りには取り囲むように人が並んでいて、その中でも天蓋の下に椅子が置かれ、一つだけ台の高い位置にある。
 ヴェールの隙間から横目で見ると、ヴァシリスに似た男が座っていた。おそらく新王であるアーディムだ。
 フィリが動くたびに鈴が鳴り、周りからは感嘆声が漏れる。
 寝台にはヴァシリスは座っている。上半身は裸の上に薄手の羽織を着ていた。
 彼と目が合う。フィリは不安と場の雰囲気に呑まれそうになり、足が動かない。
 ヴァシリスは寝台から立ち上がった。階段を下りる姿は、ひれ伏したくなるほどの存在感がある。
 ヴァシリスは手を差し出した。フィリは重ねる。
 彼の手が冷たく感じるのは、フィリの体温が上昇しているからだ。
「これより、花盛の儀を執り行います。儀式を終えるまで静かに演奏を続けさせます故、どうか儀式に集中して下さいませ」
 侍従は一礼をして、後ろへ下がった。
 隣の部屋から優しい音色が聞こえてくる。不思議と緊張をほぐれるような音だった。
「フィリ、行こう」
 フィリは頷き、手を結んだまま階段を上った。
 寝台には天蓋があり、シルクのカーテンが垂れているが、すべて見えるように斜めにかけられていた。
「我が后は何を着ても似合うな。美しい」
「お前も似合うよ」
 大丈夫、大丈夫と、頭や頬、鼻、手の甲と唇が降ってくる。
 ヴァシリスはフィリの頭に手を添えて、ゆっくりと押し倒した。慣れた様子で上着を脱ぐと、寝台の下に落とす。
「うつ伏せになってくれ」
 言われた通りに腹這いになると、腰を高く持ち上げられた。
 ヴァシリスは脇に置かれていた缶の入れ物を開け、指先ですくう。
 遠くで音楽が聞こえる。とにかく早く終わらせてほしいと願った。
「う…………ううっ…………」
 ぬめった軟膏が指とともに入ってくる。押し戻そうと力を込めるが、塗れた指は臀部の力よりも強く、襞を揉むように中へ中へと進む。
 中指と人差し指が入る。親指は蕾の皺を撫でる。フィリの背中が大きく揺れた。苦しさだけではない声がフィリの口から漏れた。
「入れるぞ」
 言葉少なめにヴァシリスは呟き、指を引き抜いた。
 ヴァシリスは着ていた羽織を脱ぎ捨てると、猛った自身を小さな桃色の窄みに押し当てた。
 想像していた性行為そのものだ。本で読んだものと間違いはなく、こんなものか、とフィリは一瞬だけ我に返った。
 ほんの一瞬はすぐに通り過ぎ、慣れない異物が通る感覚は恐ろしくもあり、ヴァシリスの望みを叶えてやりたい。
「うっ……ああっ…………!」
 痛みの中、悦びのようなものが生まれている。彼に破瓜された。これで身も心も彼のもので、彼も自分のものだ。誰にも汚されないし、堂々とこの国で生きていける。
 緩急のついた律動が奥で止まり、背後からうなり声が聞こえた。
 少しでも動くと奥で放たれたものがぐじゅぐじゅと音を鳴らし、行為の生々しい跡を突きつける。
「儀式は滞りなく終えた。確認を」
 ヴァシリスは滑舌よく告げると、脇に控えていた男二人が立ち上がる。
「あっ…………」
 ヴァシリスはフィリの尻を高く持ち上げ、親指を割れ目に差し入れると左右に開いた。
「フィリ様、失礼いたします」
 男はペンライトの明かりをつけ、襞の奥を照らしながらじっくりと中を覗いた。
 先端から精液がぼたぼたと布団へ垂れる。見られている羞恥に、心と身体は真逆の反応を示した。
「フィリ様、そのように力を入れては、中を調べることができませぬ。我々は医師です。ご安心下され」
 医師だろうが、自身の夫以外にこんな醜態をさらされているのだ。
「ヴァシリス王子、器具を使用してもよろしいですかな。フィリ様の奥はどうにも細く、肉眼では確認が難しいのです」
「構わぬ」
 医師は鷲の紋様のある箱から器具を出した。
「少し冷たいですよ」
 医師は器具をフィリの窄まりに挿入した。
「あっ……うっ…………」
 前に逃げようとするフィリの身体を、ヴァシリスはがっしりと掴んで後ろへ引きずる。絶対に逃がさないと腰を強く掴んだ。
 氷のように冷たい器具だ。フィリは短く息を吐き、襞を刺激する感覚を必死にやり過ごそうとする。
 医師は拡張器のネジを回した。すると差し込まれた先端が徐々に広がっていく。
 医師は再びペンライトで奥を照らした。
 フィリの胸が上下するたびに背中が浮き上がる。
「…………ふむ。奥が炎症を起こし、傷がついていますな。内壁にはべったりとヴァシリス王子の吐精の跡が見えます。后の破瓜は無事に成功でございます」
「おめでとうございます。花盛の儀は無事にお開きといたします」
 辺りから拍手が沸き起こるが、フィリには聞こえていなかった。
 医師が拡張器を抜くと、フィリの口からかすれた声が漏れる。
 フィリは寝台に倒れ、そのまま意識を手放した。



 心臓を射抜くような大きな音が聞こえ、フィリは目を開いた。
 身体もまぶたも重い。もう一度、遠くで心臓を弾く音が聞こえ、今度はしっかりと目を覚ます。
「起きたか?」
 薄暗い明かりの中、ヴァシリスは穏やかな笑みを浮かべて立っていた。フィリの沈む寝台へ近づくと、隣へ横になる。
「身体は拭いて、中には薬を塗った。しばらくは安静にしていてくれ」
「薬?」
「軟膏の薬を。飲み薬ももらったから、そちらは痛みが我慢できないときに飲むように、だそうだ」
「お前が僕の身体を拭いたのか?」
「本当は侍従の仕事なんだがな。誰にも譲りたくなかった。痛かっただろう? 恥ずかしい思いをさせた」
「あ、あんな奥まで見られて……最悪だ」
「だがこれでお前は俺の上后だ。ファルーハ王国からも認められ、堂々とできる。……俺は嬉しくて仕方ない。お前を破瓜し、それを証明できた。一生かけて愛せる。俺だけを知っていてほしい」
「そんなことを言われたら、文句の一つも言えないじゃないか」
 ヴァシリスは腕を広げた。
 フィリは重い身体を引きずって腕に顔を乗せると、胸に顔をうずめる。
「……さっきからなんだ? 花火でも上がっているのか?」
「花盛の儀の成功のとき、こうして花火を上げるしきたりとなっている」
「交合したと全国民へ知らせているようなものじゃないか!」
「俺は幸せだぞ。身も心も一つになったと、公然と公表できるんだからな。むしろ何が不満だ?」
「不満というか……恥ずかしいだろ」
「交合も王子と后にとって大切な儀式のようなものだ。こんな美しい后を迎えられたんだ。俺は世界一の幸せ者だな」
 最後のひと押しとばかりに、轟音が響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もふもふ守護獣と運命の出会い—ある日、青年は異世界で大きな毛玉と恋に落ちた—

なの
BL
事故に巻き込まれ、雪深い森で倒れていた青年・ユナ。 命の危険に晒されていた彼を救ったのは、白銀の毛並みを持つ美しい人狼・ゼルだった。 ゼルは誰よりも優しくて、そして――独占欲がとにかく強い。 気がつけばユナは、もふもふの里へ連れていかれる。 そこでは人狼だけでなく、獣人や精霊、もふもふとした種族たちが仲良く暮らしており、ユナは珍しい「人間」として大歓迎される。 しかし、ゼルだけは露骨にユナを奪われまいとし、 「触るな」「見るな」「近づくな」と嫉妬を隠そうとしない。 もふもふに抱きしめられる日々。 嫉妬と優しさに包まれながら、ユナは少しずつ居場所を取り戻していく――。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【完結】偏屈司書は黒犬将軍の溺愛を受ける

アザトースト
BL
ブランは自他ともに認める偏屈である。 他人にとっての自分とは無関心と嫌悪の狭間に位置していることを良く良く知っていたし、こんな自分に恋人なんて出来るわけがないと思っていた。そもそも作りたくもない。 司書として本に溺れるような日々を送る中、ブランに転機が訪れる。 幼馴染のオニキスがとある契約を持ちかけてきたのだ。 ブランとオニキス、それぞれの利害が一致した契約関係。 二人の関係はどのように変化するのか。 短編です。すぐに終わる予定です。 毎日投稿します。 ♡や感想、大変励みになりますので宜しければ片手間に♡押してって下さい!

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

処理中です...