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5話:入団試験
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ギルドでの実戦経験を積んでいるうちに、三年はあっという間に過ぎ、騎士団入団試験を受けられる年齢を迎えた。
今度は書類選考で落とされることはなかった。なぜなら、病歴の欄を空白で提出したからだ。実技を見てもらえれば、士官学校に通っていなかったことが不思議に思われるくらいの実力があるとの自負があった。緊張はなく、体は軽かった。ここ数年は発作もない。ルーカスは危なげなく最終試験まで進んだ。
最終試験の相手だというヘンゼルは、真っ白なローブを纏っていた。魔術師であることが一目で分かった。剣技に自信はあったが、魔術の自身はなかった。後天的に魔力が増え、同年代の貴族より遅くに魔力を操る練習を始めたからだ。才能は平々凡々までに仕上げるのが手一杯だった。
ルーカスはもう一度ルールを頭の中で浚った。互いの胸ポケットに入っているハンカチを取った方が勝ち。使えるのは模擬刀と攻撃意外の魔術。
「ふん、大した魔力量じゃないな。所詮は拾われ貴族だ。伸びた鼻をへし折ってやろう。その枯れ木のような体格でごこまで渡り合えるか見ものだな」
試験はもう始まっている。挑発的な言葉を投げるのが先方の一手だ。言葉に惑わされることなく、ルーカスの心はどこまでも凪いでいた。片耳に付けたピアスに触れた。今日は勝負どころ。テオバルトから貰ったピアスだ。心を落ちつかせると、抜刀し構える。まっすぐに相手を見据えた。ゆらりと体を動かして瞬時に間合いを詰めた。このスピードなら呪文を詠唱する暇は無いはずだ。しかし、突きつけた剣先は見えない壁に阻まれる。ヘンゼルは無詠唱で魔法を発動させていた。
弱体化呪文に貫通呪文を唱える。ルーカスの予定では魔術を使う予定などなかった。ルーカスが呪文を二つ唱え終わった時には、ヘンゼルは空中に浮いていた。不適な笑みを浮かべているのが腹立たしい。
ルーカスは浮遊魔術を使えない。ルールによって、魔術による遠距離攻撃も行えない。
「どうした。その程度の実力でここまで残ったのか? 今年の志願者は随分と不作だな」
こんなときテオバルトならどうする。ルーカスは一つの方法を閃いた。
唱えるのは風魔術。ルーカスは呪文を唱えながら助走を付けて――飛んだ。
ヘンゼルの頭上まで飛んだルーカスはただ一点に手を伸ばした。が、無情にも体はもう落下を始めている。もう一度風魔術を唱えたが、落下は止まらない。ルーカスは咄嗟にヘンゼルの足首を掴んだ。浮遊魔術に外敵力を加えると浮いているものは落下する。
どさどさと二人は地面に倒れ込んだ。瞬時にルーカスはヘンゼルを押さえつけ、胸ポケットからハンカチを引き抜いた。試験終了を告げる笛が鳴る。ルーカスは得意になって、ヘンゼルを見た。
「おい、いつまでそうしてるつもりだ」
ヘンゼルはルーカスを振り払った。
「得意になってるようだが、お前の胸ポケットをよく見てみろ」
見ると、そこにはあるべきのハンカチがない。
「地面に倒れ込んだ時に落ちたんだろうな。詰めが甘いと言わざるを得ないな」
ここまで来て落ちるのか。ルーカスは拳を握りしめた。己の不甲斐なさが恨めしい。頑張った。努力はしたつもりだった。でも足りなかった。テオバルトのもとで共に戦うなんていう夢が恥ずかしくなった。
「突っ立っていないで、さっさと下がれ。まだ次の志望者の相手がある」
それでもそこに立ち続けていたルーカスは、腕を引っ張られて退場することになった。
最終試験は浮かない結果だった。もしかしたら落ちてしまったかもしれない。その受けとめがたい事実を忘れるべく、ルーカスはギルドでの依頼にのめり込んだ。
毎日のようにギルドでの依頼を受けて過ごしていると、二週間はあっという間に過ぎ、騎士団からの試験結果が届いた。真紅の封筒に、双頭の鷲が描かれた金色の封蠟が押されている。ルーカスは丁寧にペーパーナイフで開けた。
「え、合格……?」
目をこすってもう一度見てみても、「合格」の文字は変わらない。
「受かった……愛かったんだ……!」
とはいえ、騎士団への入団はまだ通過点だ。受かることが目的ではない。喜びもつかの間、ルーカスはギルドに赴き、いつものように依頼を受けて魔物の討伐へと向かった。もう顔なじみとなった受付の人に騎士団の入団が決まったことを話すと、ルーカス本人以上の喜びを見せだ。受付のエントランスにいた多くの人が拍手をして祝ってくれた。以前に「自分のペースで頑張れよ」と励ましてくれた人物は、ルーカスの肩を組み、痛いくらいに背中をばしばしと叩いて「やるじゃねぇか」と言葉を送った。
「ルーカスが騎士様か……。腕の立つやつがいなくなっちまうのは寂しいけどな。ま、騎士団が嫌になったらいつでもここに戻って来いよ」
その日の依頼が完了し、報告と換金のためギルドに戻ると、花束まで準備されていた。ここまで祝福されたことは今までになく、ルーカスは困ってしまった。
「皆さん、本当にありがとうございます。この国を守る騎士の名に恥じないよう、頑張ります」
「お前さんは真面目だな。肩ひじ張りすぎると疲れるぜ」
面々に送り出されてルーカスはギルドを後にした。皆が暖かく、いい場所だった。もうここにくることは恐らくないだろう。戻ることのないようにしよう。ルーカスは心で誓った。
打って変わってバルナバスは、合格の報告を無表情で聞いていた。喜ばれることを期待していたわけではないが、多少の寂しさがあるのは事実だった。
今度は書類選考で落とされることはなかった。なぜなら、病歴の欄を空白で提出したからだ。実技を見てもらえれば、士官学校に通っていなかったことが不思議に思われるくらいの実力があるとの自負があった。緊張はなく、体は軽かった。ここ数年は発作もない。ルーカスは危なげなく最終試験まで進んだ。
最終試験の相手だというヘンゼルは、真っ白なローブを纏っていた。魔術師であることが一目で分かった。剣技に自信はあったが、魔術の自身はなかった。後天的に魔力が増え、同年代の貴族より遅くに魔力を操る練習を始めたからだ。才能は平々凡々までに仕上げるのが手一杯だった。
ルーカスはもう一度ルールを頭の中で浚った。互いの胸ポケットに入っているハンカチを取った方が勝ち。使えるのは模擬刀と攻撃意外の魔術。
「ふん、大した魔力量じゃないな。所詮は拾われ貴族だ。伸びた鼻をへし折ってやろう。その枯れ木のような体格でごこまで渡り合えるか見ものだな」
試験はもう始まっている。挑発的な言葉を投げるのが先方の一手だ。言葉に惑わされることなく、ルーカスの心はどこまでも凪いでいた。片耳に付けたピアスに触れた。今日は勝負どころ。テオバルトから貰ったピアスだ。心を落ちつかせると、抜刀し構える。まっすぐに相手を見据えた。ゆらりと体を動かして瞬時に間合いを詰めた。このスピードなら呪文を詠唱する暇は無いはずだ。しかし、突きつけた剣先は見えない壁に阻まれる。ヘンゼルは無詠唱で魔法を発動させていた。
弱体化呪文に貫通呪文を唱える。ルーカスの予定では魔術を使う予定などなかった。ルーカスが呪文を二つ唱え終わった時には、ヘンゼルは空中に浮いていた。不適な笑みを浮かべているのが腹立たしい。
ルーカスは浮遊魔術を使えない。ルールによって、魔術による遠距離攻撃も行えない。
「どうした。その程度の実力でここまで残ったのか? 今年の志願者は随分と不作だな」
こんなときテオバルトならどうする。ルーカスは一つの方法を閃いた。
唱えるのは風魔術。ルーカスは呪文を唱えながら助走を付けて――飛んだ。
ヘンゼルの頭上まで飛んだルーカスはただ一点に手を伸ばした。が、無情にも体はもう落下を始めている。もう一度風魔術を唱えたが、落下は止まらない。ルーカスは咄嗟にヘンゼルの足首を掴んだ。浮遊魔術に外敵力を加えると浮いているものは落下する。
どさどさと二人は地面に倒れ込んだ。瞬時にルーカスはヘンゼルを押さえつけ、胸ポケットからハンカチを引き抜いた。試験終了を告げる笛が鳴る。ルーカスは得意になって、ヘンゼルを見た。
「おい、いつまでそうしてるつもりだ」
ヘンゼルはルーカスを振り払った。
「得意になってるようだが、お前の胸ポケットをよく見てみろ」
見ると、そこにはあるべきのハンカチがない。
「地面に倒れ込んだ時に落ちたんだろうな。詰めが甘いと言わざるを得ないな」
ここまで来て落ちるのか。ルーカスは拳を握りしめた。己の不甲斐なさが恨めしい。頑張った。努力はしたつもりだった。でも足りなかった。テオバルトのもとで共に戦うなんていう夢が恥ずかしくなった。
「突っ立っていないで、さっさと下がれ。まだ次の志望者の相手がある」
それでもそこに立ち続けていたルーカスは、腕を引っ張られて退場することになった。
最終試験は浮かない結果だった。もしかしたら落ちてしまったかもしれない。その受けとめがたい事実を忘れるべく、ルーカスはギルドでの依頼にのめり込んだ。
毎日のようにギルドでの依頼を受けて過ごしていると、二週間はあっという間に過ぎ、騎士団からの試験結果が届いた。真紅の封筒に、双頭の鷲が描かれた金色の封蠟が押されている。ルーカスは丁寧にペーパーナイフで開けた。
「え、合格……?」
目をこすってもう一度見てみても、「合格」の文字は変わらない。
「受かった……愛かったんだ……!」
とはいえ、騎士団への入団はまだ通過点だ。受かることが目的ではない。喜びもつかの間、ルーカスはギルドに赴き、いつものように依頼を受けて魔物の討伐へと向かった。もう顔なじみとなった受付の人に騎士団の入団が決まったことを話すと、ルーカス本人以上の喜びを見せだ。受付のエントランスにいた多くの人が拍手をして祝ってくれた。以前に「自分のペースで頑張れよ」と励ましてくれた人物は、ルーカスの肩を組み、痛いくらいに背中をばしばしと叩いて「やるじゃねぇか」と言葉を送った。
「ルーカスが騎士様か……。腕の立つやつがいなくなっちまうのは寂しいけどな。ま、騎士団が嫌になったらいつでもここに戻って来いよ」
その日の依頼が完了し、報告と換金のためギルドに戻ると、花束まで準備されていた。ここまで祝福されたことは今までになく、ルーカスは困ってしまった。
「皆さん、本当にありがとうございます。この国を守る騎士の名に恥じないよう、頑張ります」
「お前さんは真面目だな。肩ひじ張りすぎると疲れるぜ」
面々に送り出されてルーカスはギルドを後にした。皆が暖かく、いい場所だった。もうここにくることは恐らくないだろう。戻ることのないようにしよう。ルーカスは心で誓った。
打って変わってバルナバスは、合格の報告を無表情で聞いていた。喜ばれることを期待していたわけではないが、多少の寂しさがあるのは事実だった。
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