いつかの光、彼方の光

ゆきりんご

文字の大きさ
9 / 16

9話:眠れない夜

しおりを挟む
  目が覚めると、ほんのりとした光の眩しさに、ルーカスは目を細めた。
 ずきずきと痛むこめかみを抑えながら、今いるのがバウアー家で与えられた部屋ではないことをぼんやりと思い出した。ベッドの隣にあるサイドテーブルの上で、オレンジ色のランプがほのかに灯り、その傍では液体の入ったグラスが反射しているだけで部屋全体は暗く、カーテンも閉じられている。もう夜も更けているらしい。
 どうやってベッドに入ったのだったか、どうにも思い出せない。歓迎会が開かれて途中までは覚えている。ヘンゼルと踊ってから先の記憶がぽっかりと抜け落ちていた。
 上体を起こすと、ヘンゼルがテーブルに向かっているのが見えた。

「アンテスさん……?」
「起きたか。眠りこけているお前を大広間から運んでやったんだぞ。飲み過ぎだ、馬鹿者。私が善人であることに感謝するがいい」
「善人?」
「私が悪人であれば、今頃お前は私に組み敷かれている」
「は、はぁ……!?」
「悪人とまでいかなくとも、隙あらば情事に持ち込もうとする輩は多い。閉鎖的な場所だからな、騎士団は。酔いつぶれているとすぐに尻を狙われるぞ」
「……アンテスさんはまだ寝ないんですか」
「私は……まだいい」

 ルーカスは、机の上に置かれている小瓶を目ざとく見つけた。

「眠れないんですね」
「なぜそういうところだけは敏いんだ……」
「眠れない時は、誰かと一緒に寝ると良いんですよ。俺もよく……」

 テオバルトが一緒に寝てくれました、と言いかけて口をつぐんだ。ヘンゼルが渋い顔をしていたからだ。

「お前は私にどうされたいんだ」
「どうってこともないですけど」
「今さっき伝えたばかりの注意を忘れたとは言わせんぞ」
「さすがに覚えてますよ。アンテスさんは善人なんでしょう? ちょっと高慢で口は悪いですけど」

 この数時間で、ブルーノが言っていた「悪い人ではない」という意味が理解できていた。ルーカスは自信満々に言ったが、ヘンゼルは額に手を当て、これ見よがしにため息をついた。

「お前は何も分かってない。なんだ、施設育ちは皆そうなのか?」
「俺のいた施設は二人で一つのベッドでしたからね。寂しいときは、互いの温もりで心の穴を埋めるんです」
「私は別に寂しいわけじゃない。お前はもう黙れ……ランプの横に水を置いてある。飲んでおくと、明日の朝は少しマシに迎えられるはずだ」

 ルーカスは黙って従い、水を飲んでまた布団の中にもぐりこんだ。眠ろうと努めたが、痛むこめかみとサイドテーブルに置かれた時計の針の音が耳に響くせいで、寝付けない。もぞもぞと寝返りを打つたびに眠気が遠のいていく。

「アンテスさん、まだ起きてますか」
「今度はなんだ」
「眠れません」
「知らん」
「早く寝ろって言ったのはアンテスさんじゃないですか。一緒に寝てくれれば、早く寝れます」
「お前は子供か。騎士団式の呼吸法を教えてやろう。鼻から息を吸って、2秒息を止める。口から息を吐いて全身の力を抜く。力の抜けていく感覚に意識を向ける……どうだ、眠くなってきただろう」

 ヘンゼルの問いに返事はなかった。

「まったく、本当に世話の焼ける奴だ。アインツカイト様の特別な人に手を出すわけにはいかないだろう……」

 小瓶から何粒か取り出し、口に放り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

冒険者の幼馴染と、ずっとその隣にいたい男の話

くろねこや
BL
お前の隣で、一緒に歳をとって生きていくんだと思ってた。 例えお前が誰かと結婚しても、子どもが生まれても。 ◇ 15歳になると神様から魔法が与えられる世界で、たった一人魔法が使えないイスト。 火魔法と氷魔法を授かった幼馴染は冒険者になった。 オレにあるのは畑や動物たちをちょこっと元気にする力だけ…。 ところが、そこへ謎の老婆が現れて…。 え? オレも冒険者になれるの? “古代種様”って何?! ※『横書き』方向に設定してお読みください。 ※『設定 こぼれ話』は情報を追加・修正することがあります。

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

ぼくが風になるまえに――

まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」 学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。 ――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。 精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。 「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」 異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。 切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。 ダレン×フロル どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...