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9話:眠れない夜
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目が覚めると、ほんのりとした光の眩しさに、ルーカスは目を細めた。
ずきずきと痛むこめかみを抑えながら、今いるのがバウアー家で与えられた部屋ではないことをぼんやりと思い出した。ベッドの隣にあるサイドテーブルの上で、オレンジ色のランプがほのかに灯り、その傍では液体の入ったグラスが反射しているだけで部屋全体は暗く、カーテンも閉じられている。もう夜も更けているらしい。
どうやってベッドに入ったのだったか、どうにも思い出せない。歓迎会が開かれて途中までは覚えている。ヘンゼルと踊ってから先の記憶がぽっかりと抜け落ちていた。
上体を起こすと、ヘンゼルがテーブルに向かっているのが見えた。
「アンテスさん……?」
「起きたか。眠りこけているお前を大広間から運んでやったんだぞ。飲み過ぎだ、馬鹿者。私が善人であることに感謝するがいい」
「善人?」
「私が悪人であれば、今頃お前は私に組み敷かれている」
「は、はぁ……!?」
「悪人とまでいかなくとも、隙あらば情事に持ち込もうとする輩は多い。閉鎖的な場所だからな、騎士団は。酔いつぶれているとすぐに尻を狙われるぞ」
「……アンテスさんはまだ寝ないんですか」
「私は……まだいい」
ルーカスは、机の上に置かれている小瓶を目ざとく見つけた。
「眠れないんですね」
「なぜそういうところだけは敏いんだ……」
「眠れない時は、誰かと一緒に寝ると良いんですよ。俺もよく……」
テオバルトが一緒に寝てくれました、と言いかけて口をつぐんだ。ヘンゼルが渋い顔をしていたからだ。
「お前は私にどうされたいんだ」
「どうってこともないですけど」
「今さっき伝えたばかりの注意を忘れたとは言わせんぞ」
「さすがに覚えてますよ。アンテスさんは善人なんでしょう? ちょっと高慢で口は悪いですけど」
この数時間で、ブルーノが言っていた「悪い人ではない」という意味が理解できていた。ルーカスは自信満々に言ったが、ヘンゼルは額に手を当て、これ見よがしにため息をついた。
「お前は何も分かってない。なんだ、施設育ちは皆そうなのか?」
「俺のいた施設は二人で一つのベッドでしたからね。寂しいときは、互いの温もりで心の穴を埋めるんです」
「私は別に寂しいわけじゃない。お前はもう黙れ……ランプの横に水を置いてある。飲んでおくと、明日の朝は少しマシに迎えられるはずだ」
ルーカスは黙って従い、水を飲んでまた布団の中にもぐりこんだ。眠ろうと努めたが、痛むこめかみとサイドテーブルに置かれた時計の針の音が耳に響くせいで、寝付けない。もぞもぞと寝返りを打つたびに眠気が遠のいていく。
「アンテスさん、まだ起きてますか」
「今度はなんだ」
「眠れません」
「知らん」
「早く寝ろって言ったのはアンテスさんじゃないですか。一緒に寝てくれれば、早く寝れます」
「お前は子供か。騎士団式の呼吸法を教えてやろう。鼻から息を吸って、2秒息を止める。口から息を吐いて全身の力を抜く。力の抜けていく感覚に意識を向ける……どうだ、眠くなってきただろう」
ヘンゼルの問いに返事はなかった。
「まったく、本当に世話の焼ける奴だ。アインツカイト様の特別な人に手を出すわけにはいかないだろう……」
小瓶から何粒か取り出し、口に放り込んだ。
ずきずきと痛むこめかみを抑えながら、今いるのがバウアー家で与えられた部屋ではないことをぼんやりと思い出した。ベッドの隣にあるサイドテーブルの上で、オレンジ色のランプがほのかに灯り、その傍では液体の入ったグラスが反射しているだけで部屋全体は暗く、カーテンも閉じられている。もう夜も更けているらしい。
どうやってベッドに入ったのだったか、どうにも思い出せない。歓迎会が開かれて途中までは覚えている。ヘンゼルと踊ってから先の記憶がぽっかりと抜け落ちていた。
上体を起こすと、ヘンゼルがテーブルに向かっているのが見えた。
「アンテスさん……?」
「起きたか。眠りこけているお前を大広間から運んでやったんだぞ。飲み過ぎだ、馬鹿者。私が善人であることに感謝するがいい」
「善人?」
「私が悪人であれば、今頃お前は私に組み敷かれている」
「は、はぁ……!?」
「悪人とまでいかなくとも、隙あらば情事に持ち込もうとする輩は多い。閉鎖的な場所だからな、騎士団は。酔いつぶれているとすぐに尻を狙われるぞ」
「……アンテスさんはまだ寝ないんですか」
「私は……まだいい」
ルーカスは、机の上に置かれている小瓶を目ざとく見つけた。
「眠れないんですね」
「なぜそういうところだけは敏いんだ……」
「眠れない時は、誰かと一緒に寝ると良いんですよ。俺もよく……」
テオバルトが一緒に寝てくれました、と言いかけて口をつぐんだ。ヘンゼルが渋い顔をしていたからだ。
「お前は私にどうされたいんだ」
「どうってこともないですけど」
「今さっき伝えたばかりの注意を忘れたとは言わせんぞ」
「さすがに覚えてますよ。アンテスさんは善人なんでしょう? ちょっと高慢で口は悪いですけど」
この数時間で、ブルーノが言っていた「悪い人ではない」という意味が理解できていた。ルーカスは自信満々に言ったが、ヘンゼルは額に手を当て、これ見よがしにため息をついた。
「お前は何も分かってない。なんだ、施設育ちは皆そうなのか?」
「俺のいた施設は二人で一つのベッドでしたからね。寂しいときは、互いの温もりで心の穴を埋めるんです」
「私は別に寂しいわけじゃない。お前はもう黙れ……ランプの横に水を置いてある。飲んでおくと、明日の朝は少しマシに迎えられるはずだ」
ルーカスは黙って従い、水を飲んでまた布団の中にもぐりこんだ。眠ろうと努めたが、痛むこめかみとサイドテーブルに置かれた時計の針の音が耳に響くせいで、寝付けない。もぞもぞと寝返りを打つたびに眠気が遠のいていく。
「アンテスさん、まだ起きてますか」
「今度はなんだ」
「眠れません」
「知らん」
「早く寝ろって言ったのはアンテスさんじゃないですか。一緒に寝てくれれば、早く寝れます」
「お前は子供か。騎士団式の呼吸法を教えてやろう。鼻から息を吸って、2秒息を止める。口から息を吐いて全身の力を抜く。力の抜けていく感覚に意識を向ける……どうだ、眠くなってきただろう」
ヘンゼルの問いに返事はなかった。
「まったく、本当に世話の焼ける奴だ。アインツカイト様の特別な人に手を出すわけにはいかないだろう……」
小瓶から何粒か取り出し、口に放り込んだ。
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