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本編最終話:何も無い僕が貴方の完璧を守る
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リカルドとともに住み始めて八年。上級学校での二年を終えて、無事宮廷で宰相見習いとして働き始めたリカルドは、僅か六年あまりで宣言通り宰相まで上り詰めてしまった。その間僕は、魔法塔でナサニエルさんのもと研究をしていたわけだが、今のところ、魔術回路をもとに戻すには至っていない。
ある日帰宅してきたリカルドは、神妙な面持ちをしていた。
「おかえり。リカルド、何かあった?」
リカルドは答える代わりに、一つの封筒を取り出した。封蠟には王家の紋章が入っている。
「王家の手紙……?」
紙を渡されて、目を通す。そこには――。
「……リカルド、これって」
「ああ。この国での同性の結婚を認めるというお触書だ。随分、待たせてしまったけど」
リカルドはへにゃりと笑った。
「シルヴァ、施行日になったら俺たちはようやく結婚できる」
「リカルドが頑張ってくれたおかげだね。ありがとう……」
「約束、したからね」
涙があふれてきた。
「ごめん、僕はまだ見つけられてないのに……」
「気にしてない。シルヴァがいつも頑張ってるのは知ってるよ」
リカルドは優しく僕を抱きしめてくれた。
「最近はナサニエルさんにも申し訳なくて……折角この国に来てくれたのに」
うんうんと頷きながら、ぽんぽんと撫でてくれるリカルド。その優しさが余計に僕の胸を苦しくさせていた。
「でもシルヴァは研究のおかげで新発見をいくつもしたでしょ? ナサニエルだってきっと誇らしい弟子だと思うよ。それに」
リカルドは僕の体を離して、まっすぐにこちらを見た。
「何度だって言うけど、俺はシルヴァが好き。魔力があろうとなかろうとそれは変わらない」
リカルドは座って、膝の上に僕を乗せた。
「俺が頑張れたのはシルヴァがいたからだよ。シルヴァと会わなければ、俺は宰相になることもなかったし、法律をどうこうしようとも思わなかった。シルヴァが俺を変えてくれた。これからもシルヴァには隣にいてほしい。だから、泣かないで。ね?」
細長い指が、僕の目尻をなぞった。
「俺たち、もっと幸せになろう」
同性の結婚を認める法律の施行日、リカルドは結婚指輪をくれた。指輪には、石が二つ寄り添うように並んでいた。若葉色の石と、紫色の石が。
兄さんとハレー先輩、ナサニエルさんとウィリアムさんからは結婚をするという報告を受けた。ナサニエルさんたちからは、「ディミニスでは結婚できなかったのでこの国に呼んで下さってありがとうございます」と感謝まで述べられてしまった。ナサニエルさんたちがこの国に来たのも、法律が新しくなったのもリカルドの手柄だ。
法律の周知を図るために、ミブ殿下はフェンデラントの第三王子を婿養子として迎えるという発表をした。
皆の人生が変わってゆく。
記念の日として、僕とリカルドはちょっといいところで食事をすることになった。お酒の入った僕はいつもよりも幾分か饒舌になっていた。
「リカルドはほんとに凄い、完璧な人だよ」
「完璧なんかじゃないよ。弱点はシルヴァだ」
「かっこいいし、勉強も運動もできて、学院までは宰相になるための勉強なんてしてなかったのに、上級学校は首席で入って首席で卒業しちゃうんだもん」
「シルヴァのおかげだよ。シルヴァがいるから、もっと頑張ろうと思えるし、強くなれる。だから俺が完璧でいるために、ずっと一緒にいてね」
リカルドが笑った。僕はリカルドの全部が好きだ。でもできればいつも笑っていてほしい。
「うん」
相変わらず僕には魔力が無い。まだ治る見込みもない。たまに心が折れそうにもなる。
それでもリカルドが、貴方が言うのなら。
何も無い僕が貴方の完璧を守っていよう。
ある日帰宅してきたリカルドは、神妙な面持ちをしていた。
「おかえり。リカルド、何かあった?」
リカルドは答える代わりに、一つの封筒を取り出した。封蠟には王家の紋章が入っている。
「王家の手紙……?」
紙を渡されて、目を通す。そこには――。
「……リカルド、これって」
「ああ。この国での同性の結婚を認めるというお触書だ。随分、待たせてしまったけど」
リカルドはへにゃりと笑った。
「シルヴァ、施行日になったら俺たちはようやく結婚できる」
「リカルドが頑張ってくれたおかげだね。ありがとう……」
「約束、したからね」
涙があふれてきた。
「ごめん、僕はまだ見つけられてないのに……」
「気にしてない。シルヴァがいつも頑張ってるのは知ってるよ」
リカルドは優しく僕を抱きしめてくれた。
「最近はナサニエルさんにも申し訳なくて……折角この国に来てくれたのに」
うんうんと頷きながら、ぽんぽんと撫でてくれるリカルド。その優しさが余計に僕の胸を苦しくさせていた。
「でもシルヴァは研究のおかげで新発見をいくつもしたでしょ? ナサニエルだってきっと誇らしい弟子だと思うよ。それに」
リカルドは僕の体を離して、まっすぐにこちらを見た。
「何度だって言うけど、俺はシルヴァが好き。魔力があろうとなかろうとそれは変わらない」
リカルドは座って、膝の上に僕を乗せた。
「俺が頑張れたのはシルヴァがいたからだよ。シルヴァと会わなければ、俺は宰相になることもなかったし、法律をどうこうしようとも思わなかった。シルヴァが俺を変えてくれた。これからもシルヴァには隣にいてほしい。だから、泣かないで。ね?」
細長い指が、僕の目尻をなぞった。
「俺たち、もっと幸せになろう」
同性の結婚を認める法律の施行日、リカルドは結婚指輪をくれた。指輪には、石が二つ寄り添うように並んでいた。若葉色の石と、紫色の石が。
兄さんとハレー先輩、ナサニエルさんとウィリアムさんからは結婚をするという報告を受けた。ナサニエルさんたちからは、「ディミニスでは結婚できなかったのでこの国に呼んで下さってありがとうございます」と感謝まで述べられてしまった。ナサニエルさんたちがこの国に来たのも、法律が新しくなったのもリカルドの手柄だ。
法律の周知を図るために、ミブ殿下はフェンデラントの第三王子を婿養子として迎えるという発表をした。
皆の人生が変わってゆく。
記念の日として、僕とリカルドはちょっといいところで食事をすることになった。お酒の入った僕はいつもよりも幾分か饒舌になっていた。
「リカルドはほんとに凄い、完璧な人だよ」
「完璧なんかじゃないよ。弱点はシルヴァだ」
「かっこいいし、勉強も運動もできて、学院までは宰相になるための勉強なんてしてなかったのに、上級学校は首席で入って首席で卒業しちゃうんだもん」
「シルヴァのおかげだよ。シルヴァがいるから、もっと頑張ろうと思えるし、強くなれる。だから俺が完璧でいるために、ずっと一緒にいてね」
リカルドが笑った。僕はリカルドの全部が好きだ。でもできればいつも笑っていてほしい。
「うん」
相変わらず僕には魔力が無い。まだ治る見込みもない。たまに心が折れそうにもなる。
それでもリカルドが、貴方が言うのなら。
何も無い僕が貴方の完璧を守っていよう。
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