遊び過ぎて地獄に落ちた俺、鬼神に溺愛される

ゆきりんご

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1話

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 地獄に落ちた。不満はない。俺のしょうもない人生では天国になど行けやしないだろう。そして今。5回目の審理にのぞんでいた。地獄に落ちるまで知らなかったのだが、閻魔大王意外にも十王と呼ばれる王がいるのだとか。この5回目の裁判が閻魔大王の審理となる。獄卒と呼ばれる鬼に連れられて、閻魔大王の御前に突き出された。
 
花遊綾芽かゆうあやめで間違い無いな」
「はい」
「今から全ての真実を写すこの浄玻璃の鏡を見て今後を決める。嘘は効かぬからそのつもりで」
 
 映し出されたのは、今でいう毒親の母にネグレクトされている幼い頃の俺。俺を身ごもった頃には相手に捨てられていたらしい母は、父親である人に顔の似た男が産まれるのを良しとしなかった。女性みたいな名前がそれをよくあらわしている。女の子の服を着せられ、髪を切るのも許されなかった。母の顔色を伺うように、女子の仕草を真似していたが、中学生になるころには男であることを完全に消すことはできなくなっていた。母は俺をいないものとして、放置するようになった。それでもなんとか食いつないで、中学卒業と同時に家を出て、アルバイトを始めた。バイト先の店長は、平均身長に満たず、やせ細った俺の面倒をよく見てくれたし、居候することまで許してくれた。

 よく女の子の真似事をしていた名残か、もとの性質かは分からないが、俺は男が好きであることに気付いた。あれこれと世話を焼いてくれる店長を好きになるのに時間はかからなかった。ほどなくして店長と体の関係になった。俺の体は求められるものなのかと知った俺は店長と別れてバイトをやめて、ウリ専を始めた。天職だと思った。相手の顔色を伺うのは得意だった。何を求められているのか、すぐに分かる。線が細く、身長の低い俺は売れっ子になった。しかし、それだけでは飽き足らず、出勤していない日もセフレに抱かれる毎日を過ごしていた。そして。
 
「遊んでいた相手に刺されて死んだ、と……」
 
 掴まれていた腕にぎゅっと力がこめられた。お目汚ししてしまって申し訳ない。見目の良くてガタイのがっしりとしたその鬼に抱かれたらさぞ気持ち良いだろうな、などと見当違いのことを思っていた。
 
「ふむ。邪淫を貪った者として、大量受苦悩処行きが妥当だろう」
「お待ちください、閻魔大王」
「何だ、蘇鉄そてつ
 
 蘇鉄と呼ばれた鬼の声は、バリトンボイスとも言えるほどに低かった。耳元で囁かれたりなんかしたら、腰にくること間違いなしだ。
 
「この者に情状酌量の余地は無いのですか。相手を何人も作って遊び歩いていたのは、幼い頃の寂しさを埋めるためのものではありませんか」
「そうは言ってもだな……」
 
 遊び歩いていたことに変わりはない、と言いたいのだろう。厳めしい顔つきの見かけによらず、情状酌量を願い出る蘇鉄は、なおも食い下がる。

「若くして殺されるなんて無惨な最後を迎えたのですよ?」
「身から出た錆であろう」
「生まれた後の環境は幼かった花游にはどうしようもできないものでした。それも考慮できないとは……閻魔大王の人でなし」
「鬼神である蘇鉄に言われてもな。まあ、儂はもとを辿れば人であった気もするが……今となっては人でないのは確かであるな」
「そういったことを言ってるのではありません」
「蘇鉄よ」

 閻魔大王は扇子をぴしゃりと机に叩きつけた。

「お主は何故それほどこの者に拘る? 何千何万といる亡者の一人にすぎないだろう」
「閻魔大王は誰かを好きになったことは無いのですか」
「無いな。なんだお主、この者を好いているのか」
「ええ、そうです。一目ぼれです。浄玻璃の鏡で彼の生前のことを知って、幸せにしたいと思ったのは、悪いことでしょうか。彼に本当の愛を知ってほしいのです」


 抱かれたらさぞ気持ち良いだろうなと思っていた相手にどうやら好かれているらしい。

「本当の愛? お主のそれはただの同情であろうに」
「同情などではありません。生前のことを知る前から私は彼に惚れているのです。花游を獄卒として私のもとに迎え入れることをどうかお許しください」
「六道の輪から外すと? その者に断りもなく? 儂に人を好きになったことが無いかと問いながら、順番も知らぬのか」
「あー、閻魔大王。俺、蘇鉄さんに抱かれるの全然アリです。見てください、この逞しい筋肉。こんなに立派なのはやっぱり鬼だからなんですかね」

 閻魔大王は、切れ長で細く吊り上がった眼を丸くした。

「……花游よ。六道りくどうの輪から外れるというのは生まれ変わることもできなくなるということを理解しておるのか」
「知ってますよ。地獄に落ちてから六道について散々説明されましたから」

 存在するかもどうか訝しんでいた地獄や天国が実在していたことにはさぞ驚かされた。そのうえ六道なんてものまであり、転生の概念が本当にあることにはさらに驚かされた。

「俺は、花游と一緒になるためならこの角だって差し出す覚悟です」
「角を折るのは好かぬ……蘇鉄の好きにするがよい。花遊、これでお主の審理は切り上げじゃ。6回目からの審理は無しとなった。その代わり、六道の輪から外れる。良いな?」
「はい」

 蘇鉄は俺をぎゅっと抱きしめた。逞しい腕に包まれるのは苦しくもあったが、あの世でも俺を求める存在がいるのは嬉しかった。

 蘇鉄の住まいは、細長い建物のうちの一部屋だった。マンションというには高さが無い。聞けば、長屋という種類の建物だそうだ。江戸時代によくあった建築様式らしい。蘇鉄は、江戸時代あたりに生まれた鬼神だそうで、獄卒のなかでは若いほうなのだという。

「なかには神代しんだい生まれの位の高い者もいるからな。江戸時代なんて地獄では最近だ」
「江戸が最近……」

 中は思ったよりも現代だった。台所というよりはキッチンだし、トイレは水洗式だ。外装だけが昔のままで内装が現代的なのは、京都みたいなもんだな、などと思った。

「まあ、座れ。この前貰った天国特産品の桃がある。食べるか?」
「桃、食べたことないんだ。美味しいのか?」

 蘇鉄は眉尻を下げた。閻魔大王の言う通り、蘇鉄の気持ちは同情が強いだろうな、と俺は思った。

「美味いぞ。向こうで待っていてくれ」

 蘇鉄が指さした襖を開けると、八畳ほどのリビングルーム――居間の空間があった。壁際にはぐるりと本のぎっしり詰まった本棚が並んでいる。本なんてほとんど読んだことが無い。俺と蘇鉄では住む世界が違う、と思った。まあ実際、違っていたのだけれども。
 ことり、と皿の置かれる音がした。本を眺めていた視線をローテーブルへ移すと、つやつやとした真っ白な桃があった。胡坐をかいて座った蘇鉄の膝の上に俺は座った。俺はきっとこういうことを求められているだろうから。でかい蘇鉄の体に俺はすっぽりと収まった。顔をあげると困惑気味の蘇鉄の顔が目に入る。

「だめ?」
「駄目ではないが……」

 フォークはなく、爪楊枝よりも少し長い木でできた何かが刺さっている。多分、これで食べるみたいだ。

「この木のやつ、なに?」
「最近だと使わないのか。黒文字といって、菓子や水菓子を食べるときに使うんだ」

 蘇鉄は黒文字とやらで掬い取った桃を寄越してくれた。口を開けると満足そうに微笑んだ。水の塊みたいな食感で、一噛みしただけで口の中が水分で一杯になった。何だこれ、美味しすぎる。

「どうだ?」
「美味しい!」
「良かった。これで花遊は彼岸こちらの人間になったな」
「?」
「ヨモツヘグイって知らないか? 現世の人間があの世の食べ物を口にしたらあの世から戻れなくなるんだ」
「そんなことしなくても俺は逃げない」
「すまない。俺が無理やり頼んでしまったからどうしても不安で仕方なかったんだ。許してくれるか綾芽」
「許すも何も、怒ってないし。何気なく急に名前で呼ぶなよ」

 蘇鉄の頬に手をあてて、顔を近づけると蘇鉄は顔を真っ赤にした。

「なあ蘇鉄。本当の桃太郎を知ってるか」

 ごくりと唾をのむ音が聞こえる。これは知ってる反応とみた。

「あれは桃を食べて若返ったじいさんばあさんがハッスルして桃太郎が生まれたって話なんだろう? 桃を出すってのはそういう意味で良いんだよな?」


 桃の話を出したのは、ヨモツヘグイのちょっとした意趣返しのつもりだったのだ。それなのに。

「あっ、あ゛~~~っ……」

 尻で抱く位の気概でいたのに、なんだこいつ。めちゃくちゃに犯してくる。顔を近づけただけで真っ赤になってたくせに。

「あうっ、あッ……っ~~~~~」

 連続でイカされて、もう快感の拾い方がおかしくなっている。ただでさえ図体のでかい蘇鉄のチンコは今まで見たことないくらいでかいというのに。それを容赦なく打ち付けてくる。

「あんた、ほんとに俺のこと好きなの?」
「一目ぼれだと言っただろうっ……!」

 能面みたいで表情の変化に乏しいと思っていた蘇鉄は、目をギラギラとさせて苦し気な顔で言った。そうしてまた、どちゅんと突いてくる。

「まっ、今イッ……ッ~~~~~」
「あやめ、あやめっ……」

 今まで入ったことない奥の奥に、どぷどぷと注がれる。

「これまでの男、ぜんぶ忘れさせてやる」
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