遊び過ぎて地獄に落ちた俺、鬼神に溺愛される

ゆきりんご

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3話

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「綾芽の言うことならばなんでも叶えてやりたいが、その願いだけは聞けぬ」

 頭が真っ白になった。最終秘密兵器だったのに。

「なんで……?」

 蘇鉄はくっつけていた体を離すと、俺の頬を撫でた。

「そんな悲愴な顔をしながら乞われても心配になるだけだ。どうしてそういう考えになったのか、教えてはくれぬか」

 俺は必死に言葉を探した。蘇鉄を責めることなく、伝えるための言葉を。

「蘇鉄は俺に何でもしてくれるし、何でも持ってて、でも俺はしょうもない人間で、なのにずっと一緒にいたいと思ってる……我儘だよな……ええとつまり、蘇鉄に捨てられるのが怖いってことで……」

 ゆっくりと言葉を選びながら話した。蘇鉄は急かすことなく聞いてくれた。こういうところが俺とは全然違う。俺が逆の立場だったら絶対に急かしてしまう。
 言いながら、自分でめんどくせー奴、と思った。

「俺が蘇鉄に与えられるのは体だけだ。でも普段から抱かれてるし、これはなんの付加価値にもならない」
「付加価値」

 最近、覚えたばかりの言葉だった。
 黙って聞いていた蘇鉄が口をはさんできた。

「待ってくれ。綾芽は付加価値が無ければ捨てられると。そう思っているのか?」
「そうだよ。だってそうじゃなきゃ蘇鉄が俺を選ぶ理由がなくなる」
「そんなことはない」

 じゃあ蘇鉄は俺に何を望んでいるんだ?
 母さんは分かりやすかった。女の子らしくいるのが母さんの望むことだった。
 セフレたちも分かりやすかった。望むときに望むかたちで体を差し出せば良かった。
 蘇鉄は? 蘇鉄は俺に何を望んでいる? 抱く相手だって別に俺じゃなくたってよくて選び放題で、家事も何もかもを俺には望んでいない。

「俺は綾芽と共にいられればそれだけで満足なんだ。付加価値なんて伴侶に言う言葉じゃない。そんなものなくたって、俺は綾芽がいい。俺が抱けない体になっても、綾芽が抱けない体になってもそれは変わらない。本当の愛を教えると言ったのに……俺は何も伝えられていなかったんだな……書き置きで気持ちを伝えていたつもりだったんだが」

 書き置き。

「書き置きって、もしかしてあのぐにゃぐにゃの文字が書かれた紙のことか?」

 なぜだか毎回、紙の上に櫛が置かれていた。俺も蘇鉄も櫛なんて使わないのに。

「ぐにゃぐにゃの文字……ああ、まあそうだな」

 さっと血の気が引いてゆく。
 ごめん、俺あの紙買い物メモかなんかだと思っててさ……文字が読めなくって、それで……」
 それで、そう。
 ああ、次の言葉を言わなきゃいけないと思うと、胸が押しつぶされそうになる。
 
「……捨てちゃったんだ」

 聞こえたかどうかも分からないくらい小さな声になってしまった。
 俺、ダメダメすぎるだろ。こんなんじゃ、流石の蘇鉄も怒るに決まってる。むしろ怒ってくれた方が楽になる。

「本当にごめん」
「悪気はなかったんだろう。俺とて、今の色恋ごとが分からぬゆえ……だからそんな顔をするな」

 蘇鉄は俺の頭を撫でまわす。幼子をあやすように。

「俺、もっと色んなことを知りたい。今までろくに勉強してこなかったからさ……複雑な気持ちの受け取り方も、伝え方も何も分かんない。蘇鉄はいてくれるだけで良いって言ってくれたけど、それは俺が納得できないし、安心できないから」

 俺たちの間には200年もの壁があって、鬼神と人間という壁がある。このままじゃ駄目だ。

「そうか……そうだな。俺ももっと今の色恋について知っていこうと思う」

 これが、本当の愛、なんだろうか。輪郭がぼんやりと見え始めた気がする。
 

 それから俺たちは互いの文化の摺り合わせをした。地獄も近代化が進んではいる。テレビはある。でもスマホは無い。ケータイはあってメールは送れる。LINEはない。そんな環境で、俺は文通というものを覚えた。何度も何度も書き直して気持ちを直に綴るのは、スマホで文字を打つのとは全く別物だった。

 紙の上に置いてあった謎の櫛は求婚の意味であったと聞いた時にはひっくり返るかと思った。
 無知とはかくも恐ろしい。
 俺はうんうん唸りながらも、蘇鉄の部屋にある本を読み始めた。知らなかったことを新しく知れるのはわりあい面白かった。世界が広がってゆく面白さは、文字を覚え始めたときの感覚に近い。
 正式に秘書業務を受け持つことになった蘇鉄は、しばらく帰りの遅くなることが続いたが、以前のように不安に陥ることは無くなった。過ごす時間が減る時には、交換日記をすることに決めた。今の7連勤が終わったら3日の休みを貰えるという。
 俺はリベンジとして交換日記に「今度の休み、思い切り抱いてくれ」と書いた。



休みの日の朝。俺の動きを封じ込めるかのように蘇鉄の大きな体が覆いかぶさる。

「本当に良いんだな」
「ああ。桃でも食うか?」
「いらぬ。桃などなくても綾芽が充分に誘って煽ってくるからな」
 
 大きい手がするりと体を這う。期待で腹の奥がうずいてしまう。
 整った顔が近づいてきて、口が塞がれる。分厚く長い舌が、口の中を無尽に動き回る。ねっとりと濃厚なキス。蘇鉄の手は先を急ぐように、俺の体を撫でまわしている。俺も、早く蘇鉄を迎え入れたい。脚を絡ませれば、蘇鉄はチンコを俺の太ももに押しつけてこするような動きをする。

「一人で気持ち良くなるなよ」

 俺は蘇鉄のチンコに手を伸ばした。元から大きいソレは扱けば凶器的大きさになる。いつもこれ受け入れてる俺の尻、よく無事でいられるよな。
 体をひっくり返されてからは丁寧すぎるほどに後孔をほぐされた。ぐずぐずになった中へ蘇鉄のチンコが「ぶちゅん」と入ってくる。

「おまっ、最初から飛ばし過ぎだ」

 軽くイッたじゃんかと毒づけば、蘇鉄は、ふっと笑った。

「一週間もお預けをくらっていたからな」

 俺がイッたことなどお構いなしに、蘇鉄は突き上げるのをやめない。
 助けを求めるように枕に抱きつけば、背中に覆いかぶさった蘇鉄はより奥へと打ち付ける。汗ばんだ逞しい腕が、檻のように俺の体を塞いでいた。

「んんっ、あっあっ、ああっ……はっあぁっ……」
「綾芽、綾芽っ、気持ち良いか」
「よ、良すぎるくらいっ……ううっ、ンッ~~~」

 俺はずっと甘イキを繰り返している。イッてもイッても止まらないピストンに、ただただ身をよじらせることしかできない。

「うぐっ、うあ゛ぁ~~~、んぅ゛っ」
「綾芽、泣いているのか? 痛いか?」
「ちがっ、も、ずっとイキっぱで……も、もう抜けよぉ゛っ……!」

 抱かれてる最中にこんなガチ泣きする日がくるなんて思ってもいなかった。

「思い切り抱けって書いたのは綾芽だろう。はぁ、可愛いな」
「こんなにぐちゃぐちゃでも……?」
「ああ」

 ガチ泣きと涎で顔はぐちゃぐちゃになってるはずなのに、可愛いなんて言う。
 そんなの蘇鉄だけだ。

「俺もそろそろ限界だ」

 ゆっくりだった律動がはやまる。

「蘇鉄……あっ、あぁぁッ!」
「……あっ、あ゛ぁっ……!」

 あ、くる。
 目をぎゅっと閉じた。

「イッ――う、あっあ゛ぁぁ~~~~~!」

 震える中に、どくどくと精液が流れ込む。
 肩に、蘇鉄の顔が寄りかかる。荒い息が耳まで犯してくる。

「綾芽、ずっと一緒だ」
「ほんとに?」

 振り返って聞けば、蘇鉄は不敵な笑みを浮かべた。

「勿論だ」

 死の無い地獄で。
 俺は終わりのない溺愛を貰い続けている。
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