【本編完結】黒歴史の初恋から逃げられない

ゆきりんご

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番外編:バレンタイン小咄~大学生編~

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 チャイムを押す手が寒さでかじかんでいる。大した距離を歩いたわけではないのだが、-10度ともなれば、たった数分でも体は冷え切るのが道理というものだ。
 ピンポン、と子気味良い音が鳴ると、ほどなくして部屋の主が扉から姿をあらわした。

「おう志悠」
「は、ハッピーバレンタイン」

 ずいっと、袋を差し出す。

「お、あんがとさん。寒いだろ、早く入れよ」

 美也が、上着に付いた雪を払いのけてくれる。

「お邪魔します」
「いや~、連日凄い雪だな。むつ市も雪降る方だったけど、札幌は別次元だな」
「そうだね。僕はだいぶ雪かきも慣れてきたけど、美也はどう?」
「もう毎日腕がパンパン。部活で鍛えてたはずなんだけどな。使う筋肉がちげーわ」

 ローテーブルを挟んで向かい合うように座る。

「早速だけど、開けて良いか?」
「どうぞ」
「今年、チョコがすげえ高いんだろ? どうもな」
「そんな大したものじゃないよ。弁護士になった暁にはもっと良いの贈るから」
「楽しみにしてる。わ、うまそー。あとでゆっくり食べるわ。バレンタインって言えばさ、去年のは驚いたな」
「あれは忘れてってば」
「無理だ。忘れらんね」

 顔を覆った。あんな写真、送るんじゃなかった。はっきり言って、黒歴史である。僕はどうも、美也との恋愛のことになると判断力が鈍るらしい。

「もちろん、消してあるよね」
「んー、まあな」

 この返事、絶対に消してないものとみた。

「僕のあんな写真あったって、どうすんの」
「どうすんのって、そんなの一つだけだろ」

 ローテーブルに突っ伏した。

「ねえ、正直に答えて欲しいんだけど」
「おう」
「あの写真でさ……抜いた?」

 美也がせき込んだ。

「ちょっ、志悠からその言葉が出てくるとは思わなくて」
「ねえ、どうなの?」
「知ってどうすんだよ。世の中、知らない方が幸せなこともあるんだぜ」
「それは肯定ってこと?」
「せっかく俺がぼかしてやってんのに聞くな!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
「自爆だろ」

 穴があったら埋まりたい、とはこのことだ。

「消す。 今、消すから」
「やっぱ消してなかったんだ!」

 名残惜しそうな顔で写真に向かって「ありがとうな」と言う美也。正直言って不気味だ。元凶は自分なのかもしれないが。

「今は写真がなくても、本物がすぐ傍にいるからな」

 そう言って、急に色気を醸し出してくる美也はずるい。

「志悠、こっち来いよ」
「ん」

 厚い胸板に吸い込まれるようにして、僕たちはハグをした。

「うわ、体しゃっけぇ。俺が温めてやろうか」
「なんでもかんでもそっち方面に持っていこうとしないで」
「仕方ねぇだろ。そういうお年頃なんだよ。あ、でも、志悠が嫌だって言うならしねぇから。嫌だと思ったらすぐ言えよ」

 とん、と優しく背中を叩かれる。

「……吝かじゃない」
「なんて?」

 恥ずかしさをごまかすような言葉をわざと選んだのに、聞き返されてしまった。

「嫌じゃない、ってこと」
「ほんとに?」
「何度も言わせないでよ」

 視界がぐるんと反転し、美也の顔がすぐ傍に迫る。

「じゃあ、いただきます」

 雪が降り続けるバレンタインの日。僕は、温もりとともにあった。
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