幽鬼のホームカミング! 〜ダンジョンを追い出された最強のラスボスとEランク冒険者が契って挑む悪夢の迷宮黙示録〜

赤だしお味噌

文字の大きさ
9 / 34
ダンジョンの入り口から帰宅する幽鬼

コスプレイヤー

しおりを挟む
 腫れた頬をさすりながら、半べそになって俺の後ろを歩くショコラ。

「うう、痛いですぅ……ディーゼルさんの黒くて固くてごっついので女の子の顔をぶつなんて……悪質なDVですよこれは。脳味噌ブルンッって揺れました」

「どうしてお前は宝箱を見ると飛び付くんだ? それをやめればいいんだよ」

「それは……宝箱を見ると身体が自然と動いちゃうって言うかぁ、職業病っていうかぁ……なんというかぁ……」

「最近の冒険者にはそんな職業病があるのか……?」

 首をひねった。

 するとショコラが、ぷくーっと頬を膨らませて詰め寄ってくる。

「――そんなことよりもっ! 私のプリティな顔が、おかめさんみたいになっちゃいましたよ? 非道だとは思いませんか? もうお嫁に行けません。慰謝料を要求します。払えないなら一生私を養って、死ぬまで甘やかしてくださいね?」

「ダンマスに加えて、お前みたいなヘビー級の負債まで抱え込んだら、俺はもうこのダンジョンから夜逃げ――まっしぐら、だッ!」

 飛び掛かってきた〈バーゲスト〉と呼ばれる魔犬を拳で殴り飛ばし、堂々と道のど真ん中を進んでいく。

 ここは市街地を模した階層。

 レンガ造りの街並みは一見して洗練されてはいるが、その中身は狂人インセインの巣窟だ。

 ほら、道の向こうから松明と武器を持った、魔女狩りの群衆めいた狂人インセインの集団が迫ってくる。口々に罵倒と呪いの文句を漏らして物騒な感じだ。

 本来であれば、ここは道を迂回して、こそこそと地下道を行くのがセオリーだが――。

 ガコォッ! と音がして、石畳がめくれ上がった。

 背中から抜き放たれた俺の大戦斧が、そこに突き刺さっていた。 

 〈闇黒くらやみわた大瀑布だいばくふ〉――〈アカシック・クリーバー〉。この大戦斧のめいだ。

 ひと目見るだけでづくほどの濃密な邪気を放射し、ひとたび振るえばその軌跡からは光がせ、大上段から振り下ろせばその爆心地は、まるで闇黒くらやみが降り注いできたかのような瘴気しょうきの滝壺と化す。

 統べる幽鬼レイン・アブザードだけが扱えるまがつ魔導具。

 何千人、何万人という冒険者に真なる死を与えてきた俺の半身だ。

「下がっていろ、ショコラ」

「ひゃい……」

 ショコラの答えを待たず、狂人インセインの群衆に肩からぶちかました。

 先頭の数人を肩で弾き飛ばし、その勢いで身体を回転させ、ぐるりと大戦斧を一閃。

 枯葉を吹き散らすように、無数の狂人インセインがミンチになって飛んだ。

 そのまま〈闇黒に絶る大瀑布アカシック・クリーバー〉を、雑草狩りでもするかのような気楽さで振るい続け、やがて数分で血肉の道が出来上がった。

「――もういいぞ」

「うげぇぇ……」

 小道から顔を出したショコラの顔が凍り付いた。

 これで相当な時間短縮になったはずだ。

 ズンズンと鮮血の道を進む。

 ショコラが、まるで川で飛び石を踏むような感じで、汚れていない部分を選んでぴょんぴょんと軽快に俺の後ろをついてきた。

「――そういえばディーゼルさんってぇ、ダンジョンマスターさんと喧嘩して出てきちゃったから、迎えに来てもらえないっていう“設定”なんですよね?」

「……そうだが」

 あまり触れて欲しくない話題だ。思い出すだけでも腹立たしい。

「ここまでやっても無視されるなんて、よほどの大喧嘩だったんですね? ダンジョンの運営方針とか、将来像とかでぶつかったんですか?」

 タバコの分煙問題で喧嘩した、とは言えない雰囲気だ。

「まぁ、そんなところだな」

「へぇ~~。面白い“設定”ですよね。出会った当初は、俺はこのダンジョンで一番強いモンスターだ、キリッ、なんて宣言するから。装備も中二病っぽいし。どこのこじらせちゃったイタい人だろう、なんて思ってましたけど、さっきの戦いぶりとか見ると、口だけじゃないんだなって……本気の夢追い人なんだなって、ちょっと尊敬します」

 ショコラが俺の顔を下から覗き込んで、ニコッと屈託くったくなく笑った。

 こいつ、たまに息をするついでに毒を吐くんだよな……。

 ところでショコラと俺の会話は、所々こうして噛み合わない箇所がある。

 なぜかというと、ショコラは、俺が幽鬼アブザードであると信じていないからだ。

 どうやら俺のことを、自分のことを超強いモンスターだと思い込んだ、ちょっと精神的やまいがある、でも実力と知識は確かな、いわゆるディープなダンジョン・オタクだと思っているようなのだ。

 この俺の格好も、モンスターのコスプレか何かだと認識している。

 憧れのモンスターになりきってダンジョン攻略を満喫している奇人変人の類い。

 それがショコラの中のディーゼルという人物像だ。

 だから死に戻りしても装備を落とさないのには、何か秘密があると疑っている。

 確かに、この絆の深淵ではモンスターもまた、死ねば装備品を落とす。挑戦者もモンスターも平等に、強制復活しなければならない状況に陥ると、装備をひとつ落とすようになっているのだ。

 だが実際のところ、幽鬼アブザードの本体は甲冑。中身は空っぽ。斧もマントも合わせて俺そのものなので、落としようがない。

 指環だけは装備品なのだが、これはスペシャル中のスペシャルなのでダンジョンの強制力がおよんでいない。それほどまでにスペシャルな指環だ。

 通常、もうそれ以上落とす装備がない状態で全滅すると、挑戦者には真なる死が訪れるが、さすがにそこはダンジョン側のモンスターだ。ダンジョンのモンスターは死んでも普通に一定時間で生き返る。

 俺は〈万謝ばんしゃともしび〉の効果ではなくて、ダンジョンのモンスターとして普通に復活しているだけ。

 だからこそ、ショコラの真なる死がウィークポイントになっている。俺は自分の死ではなくて、彼女の死が気が気でない――。

 と、何度も説明しているのだが、彼女はかたくなに信じようとしない。いわく、ほうほう、よく出来た設定です。だそうだ。

「それで、どんな人なんですか? ディーゼルさんが考える、ここのダンジョンマスターさんって? ここは世界でも指折りのダンジョンっていう話ですし、やっぱりドラゴンですか? それともリッチーとか? 変わり種でぇ……ファラオとか?」

「うーむ。そうだな……」

 逡巡し、甲冑の喉を鳴らす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...