幽鬼のホームカミング! 〜ダンジョンを追い出された最強のラスボスとEランク冒険者が契って挑む悪夢の迷宮黙示録〜

赤だしお味噌

文字の大きさ
17 / 34
ダンジョンの入り口から帰宅する幽鬼

紅芋貝

しおりを挟む
「あ、ありましたーっ!」

 ショコラが、ぺかーっと頭上に掲げたのは指環ゆびわ

 大きな木のうろに突っ込んでいた頭を抜いて、俺の目の前で嬉しそうにそれをはめてみせる。

「宝箱の蓋の裏にスイッチとは、酷いですねぇ」

 ここは森。清浄な空気漂う原生林。

 その木々のひとつに、ぽっかりと空いたうろ。その中に宝箱があった。

 中身は手袋だった。それなりに良いやつだ。しかしその第一の中身は引っかけで、本当のお宝はその宝箱の蓋の裏にあるスイッチを押すと、上から落ちてくる。

 そうやってショコラが手に入れた指環は〈対毒の指環+〉。優秀な毒耐性のあるやつだ。この森をくに当たって、役に立つだろう。

「この先には、目に見えない神経ガスが漂う領域があって、その奥に大物がいる」

「なるほど。それでこの指環なんですね? ディーゼルさんは大丈夫なんですか?」

「ああ、俺は幽鬼アブザードだからな。毒の類いは効かない」

「なるほどなるほど……既に毒耐性装備を持っていると」

 そんなことを話しながら指環をはめた手を空に掲げ、にんまり満足そうなショコラ。もう言い返す気も起きなくなってきた俺。

「――で、ここの大物って、どんなボスなんですか?」

「……貝だ」

「貝、ですか……?」

紅芋貝べにいもがいという」

「え、なんか美味しそう……」

 ショコラが目を輝かせて口から少し涎を垂らした。

「身が紅芋のような色をしているのだが、その実、猛毒だ。食えるところがない。そして凄い速度で毒針の生えた触手を何本も伸ばしてきて、かすっただけで死ぬ猛毒をくれるやつだ。しかも貝殻が異様に硬く、正規の手段でたおすには、とある方法で口を開かせて直接中身を叩かなければならない面倒なやつでもある」

「ですよねー、知ってました」

 目の光を消してがっくり首を垂れたショコラ。しかしすぐに「まさか……」と呻きつつ顔を上げた。

「私にも、この指環をはめて手伝えと……?」

「いや、俺が単独でやる。お前はもうしばらく行って、神経ガスの領域に入った直後で待機していろ。毒霧の領域の中だと、他のモンスターが活動できないから、逆に安全だ」

「な、なーんだ。あははは……」

「紅芋貝の近くは特に毒霧が濃くてな、その指環でも対処できずに徐々に体力が削られていく。もっと上位の指環をつけるか、ガチガチに魔法でエンチャントしていかなくては、普通の冒険者では手も足も出ない。そんなところに、普通の冒険者以下のお前を連れていくわけないだろう」

「ははは、よかった~……?」

 乾いた笑いを上げて複雑そうな表情を浮かべたショコラ。

 実際のところ、俺は世間話がてら、紅芋貝に道を開けてもらうつもりだ。奴が塞いでいるルートはかなりのショートカットになる。

 紅芋貝は話ができる奴だ。本来、こんな浅い層にいるには不自然なほど強く、それなりに上位のモンスターなのだが、ダンマスの気まぐれでここに配置されている。

 曰く、綺麗な森に致死毒が漂っていて、さらに硬くてでっかい貝が通せんぼしていたらびっくりするかな? だそうだ。びっくりというか、ただただ、むかつくと思う。

 結果、ベテラン冒険者には面倒くさがられて無視され、時々挑戦しに来る間抜けな冒険者を食べるだけ、という美味しいポジションを満喫している紅芋貝。羨ましい限りだ。

 大ボスではないので、階層守護者ステアガード権能けんのうはなく、マスタールームと連絡をつける事はできない。

 しかし俺の愚痴くらいは聞いてくれるだろう。

 少し話をして、周囲の毒を弱めてもらい、そして道を空けてもらうつもりだ。

 しばらく鬱蒼とした森を歩いてから、立ち止まる。

「さて、ここら辺でいいだろう。二十分程度で戻るから――」

 振り返ると、ガフっと血を吐いたショコラが。

 彼女は血まみれになった自分の両手を愕然と見つめていた。

 俺に向けて、恨めしそうに、震える手を伸ばしてくる。

「……なん、で……」

 かすれた恨み節を漏らし、苦しそうにキツく眉間のしわを深めたショコラ。

「……でぃ……ぜる……ざ……」

 俺に向けて伸ばした手で空気をつかむと、そのままパタリと地面に倒れた。

 物言わぬショコラの死体を凝然ぎょうぜんと見下ろす。

「――あれ?」

 ここはまだ指環で耐えられるはずなのに……毒霧が強化されている?

 何かがあったのか?

 まさか……。

 まさか俺の帰還を妨害するために、ダンジョンの防衛態勢レベルを上げたのか⁉

 ひでぇ! そこまでするか普通⁉

 ダンマスの、あんちきしょうめ……絶対に最奥に辿たどり着いて文句言ってやる‼

 俺は怒りにまかせてタバコを口に突っ込んだ。

 ショコラの死体を担ぎ、肩を怒らせてズンズンと毒霧の中を進む。

 すると目に飛び込んできたのは予想外の光景だった。

「なにぃ……」

 紅芋貝が死んでいる。

 奴の貝殻は分厚く硬い。基本的にまともに戦う相手ではないのだ。

 故に、ほとんどの冒険者は紅芋貝を回避する。

 にもかかわらず、その貝殻ごと綺麗に切られている。

 しかも、この森に潜む三匹全部だ。

「――おい、何があった」

 まだ息が残っていた紅芋貝に歩み寄ると、ピクピクと痙攣しながらも、俺の接近に気が付いて蓋をパカパカした。

「はっ……でぃ、ディーゼル、さま……ゆ……ゆ……ゆぅ」

 そう言い残し、紅芋貝は息絶えた。

 パカリと巨大な貝殻が開いた。見た目はアサリそっくりだ。しかし中身は紅芋のマッシュポテトみたいな色をしていた。

 ……まぁ、数日後には自然復活するが、ちょっと驚きだ。

 どういうことだ?

 紅芋貝を正面から撃破できる冒険者くらい、ざらにいる。覚悟を決めたA級冒険者以上なら正面から渡り合えるはずだが、そもそも、それくらいのベテランになると、こんな面倒臭い紅芋貝は無視するはずだ。

 あるいは、この先にショートカットが存在することを知る、超ベテラン……。

 よほどこの絆の深淵に入り浸っていなければ、そんなつうしか知らないような裏道情報を知るわけがない。

 そして、そんな冒険者はここ数十年見ていない。

 空っぽの喉を鳴らし、立ち上がる。

 俺の知らない間に、ダンジョンに何かが起こっているのか?

 ――とにかく、もうショコラは死んでいるから、このまま死体を運んで先のアンカーポイントに急ぐとしよう。

 黙々と思考を巡らせながら、モクモクとタバコを吹かし、森を歩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...