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その2
しおりを挟む「やあ、どうも」
影は身軽に鉄人から飛び降りると、馬車のほうに向かってくる。
「止まれ!」
御者のハイドラが叫ぶが。小さな影は止まらない。
「子供……?」
わたくしはつぶやく。
それは黒いフードを目深にかぶった男の子のようだった。
「何者です」
「ん……。名前はどうでも良いと思うけど、名乗ったほうがいいなら名乗りましょう。自分はゴローというゴーレム使いです」
「ゴーレム。確かに……」
鉄人を見ながら、マギーはうなずいた。
「マギー、ゴーレムってあの魔法使いが使う岩とか鉄の人形かしら」
「そのようですねえ。この国にはあまり使い手はいないと聞きますが……」
この世界には、いわゆる魔法というものがある。
前世のゲームとか漫画、映画でお馴染みの、あの魔法だ。
わたくしの場合、魔法そのものより魔法のアイテムのほうが馴染みがあるけど。
魔法のアイテムは、ちょうど高級家電みたいな扱い。
値段はお高く、庶民には手の出ない代物である。
思えば映写機や冷蔵庫、エアコンみたいな昨日のアイテムがあった。
今全てに他人の者だけど……。
「ゴローさん、何のご用か知りませんが、まず顔をお見せなさい」
まるで日本人みたいな名前だな、と思いつつわたくしは言った。
内心はちょっとガクブルだったけど。
何せバカでかい鉄のゴーレムを従えているのだ。
「つまらん顔ですがね」
言うと、ゴローはフードを取る。
ホントにつまらない顔だった。
年は10歳くらい。そのへんにいる子供のような凡庸な顔立ち。
(ホントにこんな子があのゴーレムを?)
ちょっと疑わしい。
「それで、ご用は?」
「ちょっと、ステンノ―様……」
マギーがわたくしの袖を引く。
「いいじゃありませんか。どーせ急ぐ旅でもなし、先に良いことが待ってるでもなし」
「まあ、それは……」
「用と言っても大したことじゃないですが……見ての通り自分はゴーレム使いです」
見てもわからないが。
少なくともゴロー単体だと、単なるモブ児童である。
「で、あなたもゴーレム使いになってもらおうと思いご無礼をしました」
「……は?」
わたくしは意味が分からず、一瞬呆けてしまう。
「それつまり、わたくしに弟子にでもなれと?」
「いえ、もっと単純です。あなたを今すぐこの場でゴーレム使いにしてあげます」
もっとも、初期レベルの、ですがとゴローはつけ加えた。
「……ゴーレム使いってそう簡単になれるものかしら?」
「さあ」
マギーは無表情で首を振る。
「少なくとも、私の知る限り魔法使いになるには相応の才能と、修練、勉学が必要であったと思いますけどね……」
当然の答えである。
「あなたね?」
わたくしはゴローなる男児を睨む。
「その年でゴーレムが使えるのはすごいけど、人をおちょくると怒りますわよ」
「おちょくってはないです。真実を言ったまでで」
「で、それであなたに何の得が」
「それは特にないです。ただ、誰か一人をゴーレム使いにできるので、適当に人を待ってたらあなたの馬車が通りがかったわけで」
「……どっか頭でも打ったの?」
「別におかしくもなってません。保証するものはないですが」
「……あまりまともに取り合わないほうが。フツーじゃありません」
マギーが耳打ちをするけど、あえて無視する。
「ふーん……。で、それはどうやるのかしら? 悪魔と契約でもさせると?」
「ステンノ―様!」
「まあ、いいでしょ? どうせわたくしにろくな未来はないし。今のところ……」
怒鳴るマギーに、わたくしは手を振って見せる。
「これを手に取ればOK」
言いながら、ゴローは何かを放り投げてくる。
それは、光る種のようなものだった。ふわふわとこちらにやって来る。
少し迷ってから、わたくしはそれをつかんだ。
ほんのりと暖かく、妙に心地良い感触。
「はい、終わり。もうOK」
「はあ!?」
あっさりと言うゴローに、わたくしは声を荒げてしまう。
「終わりって……別に何も変わってないんですけど!?」
「いや、もう使えるようになってるよ」
「そんなわけ……!」
ないでしょう、と叫びかけて、わたくしは口元に手をやった。
何か、明瞭な何かが頭の中にある。
そっと、馬車から手を出し、意識を集中してみた。
結果、ゴーレムを生成する魔法が頭に浮かぶ。
それに従い、魔力を操る。
手の平から、小さく光る種のようなものが、落ちた。
種は地面に吸い込まれ、その一瞬後にょきにょきと蔓が伸び、葉が広がる。
何か植物かは、よくわらなかった。
「カボチャ……?」
マギーのつぶやき声が隣で、やけに大きく聞こえる。
なるほど、発生した植物はカボチャ。
見慣れた緑色のものではなく、オレンジ色をしたもの。
「カボチャに似ていますが、色は妙ですね」
植物を見ながら、マギーは訝しそうに言った。
と、蔓がカボチャの実を中心に収束を始め、大きく伸び始める。
数秒後、そこにはカボチャの頭と大小の蔓で構成された胴体を持つ――
人型のものが立っていた。
「プラントゴーレムならぬ、パンプキンゴーレムですなあ」
満足そうにゴローは言って、フードをかぶり直す。
「ちょっと、あなた……」
「じゃあ、成功したようなんで自分はこれで」
「いや、このカボチャ人形ででわたくしにどうしろと!?」
「そんなこたあ知りませんよ」
怒鳴るわたくしに、ゴローは迷惑そうな視線を向ける。
「何をどうしようが、あなた様の勝手だし、自由ですよ。じゃ」
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