悪役令嬢ステンノ―とカボチャ軍団

甫人一車

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その8

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「それ、死体じゃないですか?」

「送られてくる情報では、腐乱した様子はないけれど……」

「酒精につけこむと、長持ちするそうですが」

「そんな果実酒じゃあるまいし」

 人間のアルコール漬けなんかゾッとしない。

「ともかく、他に何かないかしら……」

 部屋を調べると、埃をかぶった書棚と机があるようだ。
 何やら専門書らしき分厚い蔵書の数々。

 そして、多分研究ノートと思われるものがぎっしり。
 持ち主が几帳面だったようで、綺麗に整理されている。

 ゴーレム。
 ホムンクルス。
 人造生命。

 パラパラと開いたノートには、中2臭い単語がチラホラ。

「フランケンシュタインじゃあるまいし……」

「何のことです?」

 思わずつぶやくわたくしの言葉に、マギーが訝しそうに反応する。

「ゴーレムって、あくまで魔力で動かす人形で生き物じゃない、と思うのだけど」

「それが何か?」

「じゃあ生きているゴーレムって、どんなものかしらね」

「さて……。ただ生命を創造する魔法というのはあまり聞きません。ただ――」

「ただ?」

「荒野を徘徊する怪物の類は、元は魔法で生み出されたものという話もあります」

「ふーん……」

「巷間の噂、ですがね。このへんでは怪物はあまりいないのですが」

 このへん、とは。

 現在わたくしたちがいるトースタ国を初めとしたエルフィン地方のことだろう。

 エルフィンとは、エルフの土地……という意味らしい。
 わたくしは本などでしか知らないが、この世界にはエルフのような他種族。

 それに神話のような怪物が棲息している……と本などで読んだ。
 ただ、エルフィン地方にはほとんどおらず、余所から入り込むこともないようだ。

 何故かは知らないが、昔からそうであるらしい。
 エルフの土地といいながら、エルフもほとんど住んでいない。

 その理由も、わたくしは知らない。
 よその土地には多く住んでいるとかいないかとか。

 あるいは、昔によその土地へ行ってしまったという話もある。
 どれが嘘で真実か、それもわからない。

「……ん? すると、この女の子はモンスターの類?」

「それ以前に死体ではないかと。さっき言いましたよね?」

「死体、ですか。うん……」

 それならそれで、やるべきこともある。

 わたくしはゴーレムたちにさらに調べさせていく。

「何をなさるので?」

「死体だったら、ちゃんと埋葬してあげないといけないでしょう」

「どこの誰かもわからない者を?」

「ま、そうだけど。こうして見つけてしまった以上はね」

「そうですか」

 マギーは少し困ったように笑って、特に反対はしなかった。

 それにしても、この装置? 
 どうやって動かすのだろう。

 直接見ているわけではなく、ゴーレムを通しての情報なので頼りない。
 と、突然円筒から音が聞こえ始めたようだ。

 すると、円筒内の液体がどこかに抜けていっている模様。
 やがて液体が完全になくなると、円筒がぱかりと開いた。

 同時に裸の少女が倒れる。

 伝わってくる情報では、肌は真っ白で髪は黒。
 ずん胴気味で胸はお粗末。年齢は推定14、5歳とのことだ。

 ただ、意外に筋肉質であるとも。
 そして、鼓動が響いているそうだ。

「……どうも、生きているっぽいですわね」

「……すごく怪しいですね」

「呼吸もしているようですわ」

「まさか、ここに連れてくるんですか?」

「ここまで来て放置もないでしょ」

「……わかりました」

 呆れた顔でマギーはため息をつき、

「『お嬢様』のお気に召すままに……」

 と、芝居がかった声でうなずくのだった。

 そういうわけで、待機のゴーレムを何体か残して調査隊は帰路につく。
 奇妙な少女と共に、例の部屋にあった目ぼしいものをお土産に。

 そして、例の少女は我が家にやってきたわけだが。

「寝てますね……」

 少女を観察したマギーは一言。

「見ればわかりますわ」

「体のつくりも、特に妙なところはないようです。ずっと寝ていたか死んでいたにしては体のほうは悪くないないようです」

 裸の少女を触診して、マギーは肩をすくめる。

「それって」

「まあ、全体的に筋肉質です。意外に腕力はあるかと」

「ふーん」

 見た感じ、ゴスロリでも着せれば似合いそうな容貌であるが。

「エルフとかドワーフなどでもない。人間、なのかしら?」

「さあ。ただ、珍しい髪の色ではありますが」

「外国というか、遠い国の出身とか」

「どうでしょうね」

 そんなことを話していると、食欲をそそる香りが流れてきた。

 ハイドラが食事の用意をしてきてくれたのだ。

「今日は川魚が手に入りましたので……」

「おお、いいじゃないですか」

 魚介類はわたくしの好物。
 こんな身になっても、美味しい魚が食べられるのは感謝しかない。

 と。

「あ」

 マギーがつぶやく。

 見ると、さっきまで微動だにしなかった色白少女の瞳が、開いていた。

 黒曜石のような大きな瞳が、まっすぐにハイドラを見ている。
 正確には彼女の持ってきたか魚料理を。

 ぐうっ。

 驚く大きな腹の音。わたくしではない。

「おなか、すいてますの?」

 わたくしが尋ねると、少女は横になったまま、こくりとうなずいた。
 何だか小動物っぽい印象である。


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