10 / 18
その10
しおりを挟む「マギー、ハイドラ。これから彼女は訳のわからないことを言うかもしれません」
「はあ」
「ですが、口は挟まず黙っていてくださいな」
「……まあ、ステンノー様がそう仰るなら……」
マギーは承諾し、ハイドラも無言でうなずく。
「――で、あなたはどうしてわたくしを知ってるのかしら? そも、憑依って何?」
「ええとお……」
くろやまは困った顔であったが、やがて、
「つまり、わたしは元々日本っていうすごい遠い国にいたんだけど、気づいたら何かこの体に憑依していたみたいなんですよ……」
「つまり、全然別人の身体に乗り移ってしまったと?」
「多分……」
そんなことがあるのか。まるでアニメだ。
だが、まあとりあえずそれは良いとして。
「なるほど。では、遠い国のあなたがどうしてこの国やわたくしのことを?」
「えと、わたしの知ってるゲーム……いや、物語かな? それに出てくる登場人物とか舞台が何ていうか、そっくりで……」
「ふーん。で、それはどういう内容なのかしら?」
「……」
尋ねるとくろやまは黙ってしまった。
きっとわたくしに不快な内容なのだろう。何となく察せられる。
「所詮お話でしょう? 怒らないから、言ってごらんなさいな。あなたたちもね?」
わたくしは改めてマギーとハイドラに注意。
そして、くろやまに話すよう促してみた。
「えーと、ですねえ……」
かくして。くろやまの語るところによれば。
・下級貴族の少女を主人公にした物語である。
・主人公は国の王子と恋仲になる。
・しかし、それを妬んだ王子の婚約者である公爵令嬢にいじめられる。
・だが後に公爵家は悪事が露見して失脚&没落。
・公爵令嬢は国外追放される。
・主人公は王子と結婚し、めでたし、めでたし。
「…………なるほど」
気持ち悪いくらいにわたくしの現状や経験と一致する。
違うのは、僻地に流されたことと、
(ゴーレムか……)
わたくしは手の平を見つめ、考える。
「…………で、その令嬢とやらに特技とかあったりしますの? 魔法とか」
「さあ、そんなのはなかったと思いますけど……」
「ふーん。まあ世の中には似たような話があるものですわね」
とはいうものの、下級貴族の娘。王子の名前。国の名前。その他諸々。
見てきたように正確でもあった。
普通に考えれば、わたくしをおちょくっているとしか思えない。
思わないけどね。
「これはいわゆる、多元宇宙というものですわね」
「え」
驚いた顔でくろやまはわたくしを見る。
「いわゆる、世界というものは一つではなく、並行して無数に存在する」
わたくしは断言して、マギーたちを見る。
どっちかというと、彼女たちに言ってるようなものだ。
「あなたはそのうちの一つからの来訪者、というところかしら?」
「え、ええ。そうなんじゃないかなと」
「で、どうやって帰るの?」
「……わかりません」
そりゃそうだろう。
魂とやらが乗り移ったのか、それとも記憶だけが転写されたのか知らないが。
普通そんなことになって、どうこうできる人間はいない。
「わたくしたちも、あなたのその体の主はどういう素性かわからないの」
「えええ……」
「とはいえ、こうなった以上放り出すというのも考えものですわ」
「はい……」
「なので。あなたは今日からうちの使用人になりなさい」
「え」
「ステンノ―様! いくら何でも酔狂すぎます!」
あわてたのはマギーだった。
まあ、ご意見はいかにもごもっともなのだが。
「マギー、あなたの意見もわかります。確かにこの娘はすごく胡散臭い」
「ひでー……」
と、くろやまは首をすくめる。
「でしたら……」
「まあ、待ってマギー。しかし怪しい話だけど、だからこそ信憑性もありますわ。もしも何処かの間者か何かなら、もっとまともな言い訳するでしょう」
「それは、まあ……」
「なので、手元に置いて観察してみることにします。面白そうだし」
「面白いって……」
「だってバカみたい話だもの。聞くだけなら面白いですわ」
わたくしは笑い、
「そう決まったら……名前が問題ですわ。日本の名前では発音しにくいし」
「ミクロカ、はどうでしょう」
後ろからハイドラが提言してきた。
「それは?」
「古いエルフの言葉で、黒髪の美しい女を称える言葉だとか」
「はー、エルフね」
こいつはちんちくりんで、どっちかというと小人とか妖精という感じだが。
「まあ、いいでしょ。今日から、あなたはミクロカです」
「……何だかすごいことになっちゃったぞ」
くろやま改めミクロカは、茫然としながら他人事のように言う。
「今日のところは休んでてもいいけど、明日からはマギーにおまかせです」
「仕方ありませんね。……おい、妙な真似をしたら即座に喉を掻ききるぞ」
マギーは嘆息した後、ジロリとミクロカを睨む。
「ひ」
「あんまり脅さないで。失禁でもされたら嫌だから」
「自分が幽霊みたいな面相なのに、臆病なこと」
マギーは鼻で笑い、
「とりあえず、仕着せの服を用意します、と言いたいのですが……」
「ああ、服ね。そういえば困ったかも」
そういえば、ミクロカに着せる服がなかった。
「あの屋敷跡に残ってはいませんか?」
ハイドラが言うけれど、少なくとも屋敷内には……いや、そうでもないか?
わたくしはその場で、屋敷の地下に残したゴーレムを動かす。
あの地下室をもう一度探索させてみたところ――
使えそうな衣服やら下着類が数点見つかったのだった。めだたし、めでたし。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた
nionea
恋愛
ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、
死んだ
と、思ったら目が覚めて、
悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。
ぽっちゃり(控えめな表現です)
うっかり (婉曲的な表現です)
マイペース(モノはいいようです)
略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、
「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」
と、落ち込んでばかりもいられない。
今後の人生がかかっている。
果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。
※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。
’20.3.17 追記
更新ミスがありました。
3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。
本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。
大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる