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8 薬の試作品

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俺の力を使って薬を作れば、この忙しい生活から脱出できるかもしれない。
密かにそんな思いを抱きながら俺は日々の忙しい業務をこなしていく。

(……まずは空いた時間で検証をしないとな)

俺はそんな事を寝る前に超狭い部屋で考えていると、寝間着を着たラミリアが扉を開けてくる。

「ん? ラミリアか、どうした?」

俺はラミリアに尋ねると、ラミリアがスッと部屋に入ってくる。

「……お、おい」

確かラミリアにも俺と同じような狭い部屋をオイドが割り当てたはずだが――

――ムギュッ!
俺の思考をよそにラミリアは俺の傍に来ると俺に抱き着いてくる。

「抱き着くの好きだな、お前。……なんだ眠れないのか?」

ラミリアは抱き着きながら顔を頷かせる。

「……はぁ、わかったよ。狭い部屋なんだからあまり暴れ回るなよ」

すると、ラミリアは顔をスッと上げて何度も頷く。

「よし。それじゃ寝るぞ」

俺は先ほどまで考えていた薬についての思考を中断し、部屋を暗くしてラミリアと横になる。

「……お前の今後の事も考えないとな」

俺はそう呟くと、ラミリアは小動物のように体を丸めて身を寄せてくる。
ラミリアが傷だらけだった理由について俺は深く考えていなかったが、いずれ向き合う時がくるのだろう。

そんな事を考えながら、俺はラミリアと一緒に寝るのだった。



◇◇◇



翌日2人に薬の事を話したら嬉しい事にオイドとラミリアも薬開発に協力してくれるとの事で、お昼の時間と業務が終わってから寝るまでの時間に薬の開発と検証に明け暮れる事となった。
今日も業務を終えた後、医療所の奥にある部屋で俺とオイドとラミリアは検証を行っていた。

「それにしてもアーノルドの作ったポーションは本当に便利じゃの」

オイドは俺の作った薬の液体を入れた小さなビンを見ながら呟く。

「ポーション? 薬とは違うのか?」
「なんじゃ、知らないのか? 薬と言っても液状で服用する薬をポーションと呼ぶんじゃ」

(ポーションか……なんかカッコいいな)
「それで……そのポーションなんだけど、俺の力を注入するバランスによって効力が変わってくるのが面白いな」
「うむ、作ったポーションをこのように小さなビンに入れて処方すれば、患者の体調不良は一時的に改善されるじゃろう」
「……もっと大きなビンに入れたほうがいいんじゃないか?」
「それだと効果が出過ぎてしまってポーションを処方した患者がもう買いに来なくなってしまうじゃろ? 出来る限り何度も買いに来るように仕向けるんじゃ」
「……なるほど、そうすれば何度も同じ人に販売出来て売り上げも上がってくるって事か。……オイドは商売上手だな」
「ふぉっふぉっふぉ、伊達に年を取ってはおらん、という事じゃ」
「そうみたいだな。……それに、大きな容器に水を入れて作れば一度に大量のポーションをつくりだす事が出来て俺も非常に楽だ」

俺は大量に作り出したポーションが入っている大きな容器を見ながら呟く。
ラミリアも俺が作った大量のポーションを覗き込む。

「ラミリアも飲みたいのか?」

俺を見上げながら何度も頷くラミリアに、俺は大きな容器からコップに一杯のポーションをすくいラミリアに手渡す。

「ほら、こぼすなよ」

ラミリアはコップを受け取ると、一気に飲み干す。
すると、その場で目を見開き何度も小刻みにジャンプを繰り返す。

「はは、元気になったみたいだな。……俺も飲んでみようかな」

ラミリアから受け取ったコップにもう一度ポーションをすくって今度は俺が飲み込む。

(……うん。体内からぽかぽかしてきて力がみなぎってくる不思議な感覚だ。俺は今までこういった感覚を他者に与えていたのか)

俺は今まで俺の力を俺自身に使った事がない。
厳密にいれば、使う事が出来なかったからだ。

(……不用意に右手で力を行使すると無駄に活性化させてしまって逆に体へ悪影響が出てしまうからな)

だからこそ、右手で力を行使する時は必ず目で患者の問題部位を透視して特定することが必須であった。
今回のポーションは俺の右手の力を水を通して体内に取り入れる事で、力は中和され液体となって満遍まんべんなく体の不調な部位を修復してくれるようになるという仕組みだ。

「コラ! 大切な商売道具が減ってしまうじゃろう。アーノルドたちもその容器に入ったポーションを小さいビンに詰める手伝いをするのじゃ」
「まぁ、無くなったらまた俺が作ればいいだけだけどな。……ほら、ラミリア。ビン詰めを手伝うぞ」

頷くラミリアと俺はオイドと大きな容器に入っているポーションのビン詰めを寝るまで手伝うのだった。



◇◇◇



次の日から早速用意したポーションを医療所に来る患者に試作品として使って貰うように提案するところから始まった。
医療所にくる患者の多くが――

「先生が作ったポーションであれば是非試したいわ!!!」

――といったように、二つ返事で俺が作った小さいビンに入ったポーションを持って帰っていく。

まずは試作品として代金を請求することなく、ばら撒く事から始めていった。
そして、その日の業務を終えた俺達はまた再度大量の容器に入れた水をポーションに変えて小さなビンに詰める作業を行っていた。

「アーノルドよ。まさか一日で昨日作ったポーションが全てなくなるとは思わなかったぞ」
「……本当だな。皆、俺の事を信頼しすぎだ。普通、何が入っているか分からないポーションを渡されて受け取らないだろ?」

俺がそう呟くと、ラミリアが俺の腰に抱き着いて顔を左右に振ってくる。

「……なんだよラミリア」
「ふぉっふぉっふぉ、自分じゃ分からぬようじゃが、お主は自分が思っている以上に面倒見も良いし、信頼されやすい性格をしておるぞ?」

(……そうなのか?)

俺としては全くそんな自覚はないが、そんな事を面と向かって言われるとさすがの俺も照れくさくなってしまう。

「……さ、ラミリア。俺に抱き着いていないでお前もビン詰めを手伝え!」

俺は照れ臭さを紛らわすように話題をずらし、その日も大量に作ったポーションの容器がなくなるまでビン詰めを行っていった。

(……はぁ、それにしてもビン詰めも疲れるな。それに……本当にこのポーションが売れるんだろうか)

俺はそんなことを考えていたが、ポーションの効果は数日経たずに村中へ広まる事となる。



朝、起きて顔を洗い終わった俺の元にオイドが驚いた表情をして駆け寄ってきた。

「アーノルド、すごい反響じゃ!」
「ふぁあ…………なんだよ、朝からうるさいな」
「寝ぼけている場合か! 昨日配ったポーションが欲しいと言う大勢の村人が医療所の前に詰め寄ってきておるのじゃ!!!」
「は……?」

俺はすぐに確認する為に医療所の外へ出る。

「お! 出てきた! 昨日頂いたポーションをまた頂けないでしょうか!!」
「おい、俺が先だ! アーノルドさん、是非一個……いや、出来るだけ多くのポーションを頂けないでしょうか!」
「先生……昨日頂いたポーション。すごく体の調子がよくなったの。また頂けるかしら?」
(待て待て待て、一度に大勢で話しかけてくるな!)

医療所の外に出た俺は、待機していた多くの村人から次々とポーションを催促する声に包まれる。
寝ぼけていた俺は心底その場から逃げ去りたい衝動しょうどうにかられるのだった。
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