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第二部
11.相反する気持ち
しおりを挟む「東条さん・・・」
何で東条さんが一人でいるの?もしかして私を追ってきてくれたのだろうか。
そんな都合のいいことをつい考えてしまう。
私が東条さんに気付いたように、東条さんもどこかで私を見かけて気付いてくれたのなら。この大勢の人の中からひっそりと紛れ込んでいた私を見つけたのなら。それはキュンと胸が締め付けられるほど嬉しい。
でも、嬉しさと同じくらい、内心では頬が引きつり冷や汗が流れそうになる。
だってそれって、私が黒崎君の彼女役をしていたのを見かけてたって事だよね!?
別にいちゃついていたりはしていない、断固としてしていない。でも肩や腰を抱かせたり、腕を組んで歩いたりはした。それは周りに恋人と思わせる為に必要だったからしただけで、特別な感情はもちろん伴わない。そもそも事務所で働くメンバーはむしろ家族同然で、仲間意識が強い。だから同年代の黒崎君達にも恋愛感情を抱いたことはないんだけど・・・
お腹に回る腕に力が加わる。ぐいっと抱きしめられて東条さんの体温を感じられて、いちいち顔が赤くなるほど嬉しいのに、どうしたものか。この拘束がなんだか東条さんの心境を表しているようだ。ちゃんと説明するまで逃がさない。そう言われている気分になってくる。
ってかさ、説明してほしいのはこっちも同じだけどね!
さっきのあのきれいな女性は東条さんにとって何なのか、ちゃんと説明してもらうんだから。昔の許婚に腕を組ませるなんてどんな神経なんだと問い詰めてやりたい。そうだよ、逆に納得するまで追及するのは私だって同じだし、この腕の拘束は望むところだ。
突然の出来事に呆然としていた黒崎君と白石さんは顔を見合わせる。そして喧嘩早く短気な黒崎君が口を出す前に、白石さんが話しかけた。
「貴方が噂の"東条さん"ですか。はじめまして、一ノ瀬の同僚の白石と黒崎と申します」
隣に立つ黒崎君も紹介して、白石さんは丁寧にお辞儀をした。
「初めまして、東条 白夜です。私の婚約者がいつもお世話になっております」
さらりと告げた発言にぎょっとする。
「ちょっと、東条さん!?」
違うから!いや、お世話になっているのは確かだけど、ここで婚約者だと暴露するのはいかがな物かと!
なんせ2人には詳しい話をしていない。ただ東条さんと付き合い始めたとだけ思っている。間違ってはいないんだけど、なかなか事務所にいる時間がない2人にあまり他の噂は入ってこないのだ。白石さんは情報通だけど、同僚のプライベートまでは積極的に知ろうとしていないようだし。むしろしていたら恐ろしい。何も嘘つけなくなるよ。
「何でしょうか?」
ほんわり笑顔で微笑み返される。いや、すっごい見惚れちゃうけどさ、流されるな自分!
「いえ、えーと・・・・・・」
ダメだ、抗議の言葉が出てこない!
というか、抗議なんてしたらいろいろ後が面倒そうかも・・・なら、ここは一つ訂正を。
「か、(仮)を忘れてますよ・・・?」
「・・・ええ、そうでしたね。(仮)がついていましたね・・・まだ」
その微妙な間と最後に付けられた"まだ"と言う単語に反応してしまう。
ああああ、もう帰っていいかな!?何だか2人の視線と後ろの東条さんが発する空気に居たたまれなさが高まる。その微妙に反応に困る視線はやめて欲しい。それと白石さん、笑い上戸なのは知ってるから後で存分に笑って。笑いを堪えすぎて逆に怪しい顔になってるから。彼の沸点は低すぎると思う。そしてツボがよくわからない。
隣で妙な反応をする相棒には目を向けず、黒崎君はかけていた眼鏡を取った。後ろに撫で付けられていた髪をぼさぼさにかき混ぜる。先ほどまでの微妙な胡散臭さが消えた分、今は血の気が多そうな野性味を漂わせていた。意地悪気に口角を吊り上げた黒崎君は、いきなり核心をついた。
「で?あんたはここに居ていーのか。高遠のお嬢様が待っているんじゃねーの?」
まるで全てを知っているかのような口調に、思わず2人を凝視してしまう。
ううん、多分始めからは知らなかっただろう。この場にいるのは知らなくても、あんだけ騒がれていたんだから自然と耳に入ったんだ。そして噂好きのご婦人達の会話に耳を傾け、ばっちりと仲良さ気な2人を目撃した。美男美女のお似合いカップルは注目の的になる。そして高遠と言う名に2人が反応したんだろう。白石さんならすぐに関係性を探し出したかもしれない。まあ、任務中に余計な事をする暇があったかはわからないけど。
東条さんの気配が少し重苦しくなった。気になるのに、怖くて後ろを振り向けない。思わず俯き加減で黙っていると、東条さんは小さく息を零した。
「ご心配なく。その件に関しては既に私は用済みです」
訝しげに黒崎君が眉を上げる。
用済みって、どういう意味だろう?
「彼女のエスコートは別の者に任せてありますので」
「だから麗を迎えに来たってわけか?婚約者がいると言っておきながら別の女をエスコートするのもわからねーが、その足でこいつに会いに来る神経もわからねーな」
いつになく苛立った様子の黒崎君に、白石さんは小さく名前を呼んでストップをかける。苛立ちはしているが声を荒げる様子のない黒崎君は、眼光鋭く東条さんを睨みつけた。
「そいつが大事なら、泣かせんじゃねーよ」
まるで全てお見通しだったかのような台詞に再びギョっとした。
「ちょ、ちょっと待って!別に、泣いてないよ!?」
嘘、女子トイレで泣いていたけど、そんなの絶対にばれたくない。
それに号泣なんてしてないし、お化粧だってそこまで崩れなかった。少し直しただけでごまかせたはず。しかも会場が外で、ライトアップされていても薄暗い中じゃじっくり私の顔を観察できないはずだ。虫眼鏡でもない限り無理だよ。どうしてバレたの。それともはったり?
否定したけど僅かに狼狽した事でこの2人には全部心を読まれてしまったらしい。白石さんが申し訳なさそうに若干眉を下げて、微かに顔を左右に振った。もういいから、って事だろうか。
いや、よくないよ。全然よくないと思う!この一触即発な雰囲気も困るし、仲間想いな黒崎君が怒る必要もないよ。私が自分で勝手に落ち込んで嫉妬して、ぐじゃぐじゃな感情に振り回されただけだもの。東条さんの説明を聞いていないんだから、まずは理由をちゃんと聞かないと。
重苦しく息が詰まりそうな沈黙が流れた。顔を見ていないから東条さんがどんな表情をしているかわからないけど、多分相当機嫌が悪い顔をしているじゃないか。表面上はにこやかでも、段々東条さんの変化が読めてきたから何となく空気でわかる。そして誰か、そろそろこの状況を何とかしてください。
舌打ちをしてはーと大きく息を吐いた黒崎君は、私に歩み寄った。
「麗。お前もう今日はいーから、耳の中のもんよこしてこいつに送ってもらえ」
「え、え?」
戸惑いながら見上げると、黒崎君は「話したいことがあるんだろ?」と言って、私から連絡用に使っていた無線やらイヤホンやらを奪い去って行った。
「解散だ。付き合わせて悪かったな」
後姿を見せて振り向かないまま、黒崎君は真っ直ぐに車へ向った。後を追いかける白石さんは、私達にペコリと会釈してから車に乗車する。
残された私は東条さんと2人きりなわけで。会話を望んでいたし、それは嬉しいはずなのに。何だか物凄く間に入っていてくれた黒崎君達に戻ってきて欲しいと思うのは、甘えだろうか。でもこの空気のまま放置して帰るとか!若干言い逃げ!?と思ってしまう。
どうしていいかわからなくて困っていると、ふいに拘束していた腕が緩んだ。そして私の手を取った東条さんが、一言「こちらです」と告げて、見慣れた黒い車へ向う。
その声はどこか硬いように感じた。
◆ ◆ ◆
車を発車させた白石は、助手席で不機嫌顔なままの黒崎をちらりと眺めてから暗い山道を走った。
「よかったの?麗ちゃん置いてきて」
椅子を倒して寝そべる相棒に、白石は何気なく訊ねた。その質問の意味を計りかねて、黒崎は眉を顰める。
「何言ってんだ。いいも悪いも、離れたくないと思っているのはあいつだろう」
「ふーん、じゃ、君の苛立ちの原因は何?」
「は?」
たまにこの相棒は分かりしったような顔で問いかけをすることがある。謎かけもあったか。年は1歳しか変わらないはずなのに、どこか掴み所がなく余裕な態度が頼もしくもあり、苛立たせることもあった。
「わけわかんねーこと言うなよ。妹分を泣かせた野郎に苛立つのは当然だろ」
「妹って言うけどさ、年は彼女のが確か誕生日早かったよね。黒崎2月生まれだろ」
「うっせー。俺のがこの道長いんだから先輩なんだよ。妹分であってんじゃねーか」
「まあ、いいけどね」と呟いた白石は苦笑いを浮かべて無自覚な相棒を観察した。
それは仲間愛か家族愛か。
短気だが情が篤く、鷹臣を尊敬している彼がその気持ちにはっきりとした名前がわかっても。きっと態度は変わらず接していくのだろう。不器用な性格の友人は損をすることが多い。だが面倒見がよく慕われる事も知っている。
(そこそこ気に入っていたはずなのに。それにお嫁にいっちゃったら寂しいくせにねー)
白石は不機嫌顔のまま寝息を立て始めた黒崎を見て、小さく苦笑いをした。
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長くなりそうだったので切りました。本当は帰り道までいきたかったのですが・・・
次回、麗の番です。本音ぶつけます。
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