微笑む似非紳士と純情娘

月城うさぎ

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第三部

16.噂と思惑

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*誤字訂正しました*
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 連休明けに東条セキュリティに出社した私は、お昼をまどかさん&小鳥さんペアと食べることになった。なんだかいつかの再来みたいだ。
 うちの社食もレベルが高くてかなりおいしいけど、外で冷たい麺類が食べたい! と、まどかさんの強い要望により、近くにあるお蕎麦屋さんに行く事になった。お昼時は混雑するけど、運よく席を確保できてラッキーだ。早速メニューを広げてあれこれ悩んでいたら、既に食べたい物が決まっていたまどかさんがふいに尋ねた。

 「そういえばさ、最近社長の表情が柔らかくなったって密かに噂されてるんだけど、長月さん何か知ってる?」
 「はい?」

 え、白夜の表情が柔らかくなった?もともと彼は常に微笑を浮かべているし、人当りも良くてきつい性格でもない。誰にでも丁寧な口調で対応するから変化なんてないように思えるけど?
 メニューを閉じた小鳥さんもこの話題に口を挟む。

 「私も聞きましたよ。社内ですれ違った人が、社長の雰囲気が以前よりもっとこう……穏やかっていうか、慈しみに溢れている笑顔というか……。いえ、もともと温厚な人柄で柔和な微笑みがステキな人ですけどね?」

 最後はあわてたようにフォローしているけど、いや別に私が第二秘書だからってそんな事告げ口しないよ? あせらなくても大丈夫だよ? 長月は社内評価を気にする社長のスパイじゃないんだから。
 へ~っと相槌を打つ私を見て、まどかさんの目がきらりと光った(気がした)。

 「はは~ん、女か」
 
 ごくり、と良く冷えた麦茶を飲み干したまどかさん。その発言に思わず私がぎくって反応しそうになったじゃないか! 危ない、今は麗じゃないのにそんな表情を出すわけにはいかない! 何事も知らぬ存ぜぬ、動じない女を貫き通すのよ、麗!
 ……って今更だけどさ、ぶっちゃけ無表情で何事にも動じないつまらない女を、よくこの二人は構ってくれるよね……。自分で演じといてなんだけど、結構とっつきにくくないか? 長月は。でも二人はこうやってランチにも誘ってくれる。何だか嬉しいような、困るような、申し訳ないような……。
 とにかく、このまま話し続けるのは危険だ。何とかこの話題を逸らそうと思った時、「ご注文はお決まりですか?」と絶妙なタイミングで邪魔が入った。ナイス! お姉さん!!

 「とろろ蕎麦を一つ」
 「あ、私は天ざる蕎麦をお願いします」
 パタンとメニューを閉じてお姉さんに渡す二人。って、もう決まってたのか! 私は慌てて目に飛び込んできたメニューを告げた。

 「明太おろしぶっかけうどんに、トッピングで山菜をお願いします」
 
 注文後、麦茶で喉を潤そうとグラスを手に取る。一口飲んだところで、「それで?」とまどかさんが尋ねた。疑問符を浮かべて首を傾げる私を見て、まどかさんは再度面白そうな笑みを深めて、にんまり笑った。

 「真相はどうなんですか? 社長付き第二秘書の長月都さん?」
 「……え?」

 え、何、もう終わったんじゃないのその話題! まだ続いていたのか!? じーっと目の前に座るまどかさんが真っ直ぐ私を見つめてくる。視線が泳ぎそうになるのを堪えて、一言「さあ?」と告げた。

 「さあ? って。長月さんなら社長の変化くらいすぐに気付くでしょう! あれは絶対に女が出来たのよ。今まで交際相手の噂があっても信憑性がなさすぎて、すぐに消えちゃってたけど、今度のは違うわね。考えてみたらあの外見とスペックの高さで恋人がいないことの方がむしろ驚きなんだけど。女嫌いって噂が流れるくらいだし?」
 さすがに最後のは否定しても大丈夫だろう。本人から違うと否定されているし、妻の私がいるんだから逆にそうであったら困るし!
 グラスをテーブルに置いて好奇心旺盛な目で私を見つめてくる二人に淡々と告げた。

 「社長は女性嫌いではありませんよ? 恋愛対象もちゃんと女性だそうなので」
 「まあ、そうでしょうね~。否定しなかったのは単に面倒だったか、好都合だったからって所だと思ってたけど」
 まどかさんの隣で小鳥さんも頷く。ええ、その通りでございます。

 「長月さんは社長とは仕事以外の話、しないんですか?」
 小鳥さんがまん丸な目を私に向けた。きっとこの流れで彼女は司馬さんについても知りたいのではないだろうか。そういえば私、司馬さんの彼女の話とかまるで知らないんだけど。

 「あまりしませんね。プライベートのことまで聞いても面倒みきれないので、お互い世間話以上はしない方が気楽かと」

 すいません、嘘です。思いっきりプライベートに関わりまくってます。
 まどかさんは「そうよね~。長月さんも結婚されてるし、プライベートなことまで関わったら大変よね~」と納得してくれた。あれ?ちょっと意外かも。

 「まあ、いいわ。近くにいると逆に気付かない場合もあるかもね。でも、会社戻ったらちょっと見てみて? 何だか少し前から幸せオーラって奴が滲み出ているらしいわよ。目の保養っちゃ保養なんだけど、あまりキラキラされると余計ファンがうるさそうよね。厄介な仕事が増えそうじゃない?」

  割り箸を割ってとろろ蕎麦を食べ始めるまどかさんは、結構他人事のようだ。私も自分の明太おろしぶっかけうどんを受け取り、割り箸を割る。

 「ちょっと意外なんですが。てっきりお二人も社長のファンなのかと思ってました」
  「え? まあ、ファンかと言われればそうだけど、でも別に恋愛対象じゃないし。ねえ?」
 「そうですよ、長月さん。社長や司馬様はうちのアイドル扱いなんです。見ているだけで十分って思ってる女子が大半ですよ。彼氏とは別で、本気で付き合いたいと思っている女性は結構少ないかと。でも、中には本気の社員もいますが……」
 
 苦笑気味に視線をそらす所を見ると、その残りの一部とやらは結構自分に自信があるタイプなのだろう。かなり過激で怖いかもしれない。

 「そうそう。私だって彼氏はいるしね。でも美形は別腹って奴よ。長月さんだってそうでしょ?」
 「えっ、私ですか?」
 ここで話を振られると困るんだけど! 面倒なので、適当に相槌をうっておく。

 「私の場合は雇い主の上司としか見ていませんが」
 「ご主人いるものね~!」

 いいな~と言う二人に、内心で平謝り。雇い主で上司の社長が主人なんです! とは、心の中で叫ばせてもらいました。もうほんと、すみません、いろいろと……

 ◆ ◆ ◆

 お昼休みが終わり社長室へ向かった私は、扉を開けた瞬間すぐに回れ右をしたくなった。部屋の主の横顔を遠目から眺めて、頷いた。確かに、まとう空気が以前よりもっとこう……色気に溢れて、ピンクの幸せオーラが! 
 危険だ。これは目の毒だ! 
 とっさに扉を閉めてしまおうと思ったが……彼はやっぱりうちの一族の血縁者なのだろうか。結構距離が離れていたのに、目ざとく私の存在に気付いて、白夜は声をかけた。

 「本日はどちらで食事されていたのですか?」
 えっと、これは長月に? それとも麗に訊いているのだろうか。
 とりあえず長月モードで、外のお蕎麦屋さんでうどんをいただいたと告げた。同行していた人物も問われる前に伝えておく。じゃないと彼は訊くからね、絶対。

 扉から数歩離れてソファに近寄る。執務机に向かっていた白夜は、すっと席を立って私のもとまで歩いてきた。いきなり距離が近くなり、思わず後ずさる。え、ちょっと白夜? 今は長月ですよ、私。 何でそんなに近づくんだ!

 腰を抱き寄せられそうになって、腕を突っぱねた。待て待て待て! ここは会社で社長室だってば! いくら他に人がいなくても、困るのは自分でしょう!!

 「社長、公私混同はいけませんとあれほど……」
 「まだお昼時間終了まで4分あります」
 「……」

 何で早めに戻って来たんだ、私! てっきり司馬さんもいると思ったのに、司馬さんは外に出てしまったようだ。って、それじゃこの人止められるのって私だけじゃん!?

 そうこう考えているうちに、白夜は私の顎をするりと持ち上げて、間近で見つめてきては、キスをせがむ。密着した状態で、心臓がドキドキする。ここにはいつ秘書課のお姉さまや社員が訪れるかわからない。そんなドキドキは遠慮したいんだけどね!

 「麗、キスして?」
 わ、わああああー!
 そんな壮絶な色気をまき散らしながら掠れた声で囁くなー!! 耳元でそのエロイ美声は、毒だ。背筋にぞぞぞって震えが走る。顔に熱が溜まるから! そんな顔で見ないでっ!!

 「だ、ダメですよ! 誰が来るかわからないんだし……」
 ぷいっとそっぽを向いた瞬間。背後からピーと電子音が響いた。その後、ガチャンと扉が施錠される音まで。って、うん? 今、誰も扉には近づいていないよね? 

 「これで暫く外からは開きません」
 笑顔でにっこり告げた白夜の手には、小さなリモコンが。……え、何それ。私そんなの初めて見たんですけど!? この部屋の扉は遠隔操作できるのか! 施錠が離れていてもできるとか、知らなかったんだけど!! 
 流石セキュリティ会社の社長室……と感心するべきか、こんな風に使うなと嘆くべきか。
 頬が引きつりそうになった時、白夜が再び耳元で囁く。

 「残り2分きりましたよ? 麗、私への今日のキスは?」
 「~~~っ!!!」

 ――旦那様は、やっぱりたまにSだと思う。
 私は目撃されても構いません、なんて笑顔でさらりと言うな馬鹿ー! 真っ赤になった顔をそのままにして、私は自分から白夜を引き寄せた。そして素早く唇を合わせる。
 が、離れようにも離してくれないのはもう……どうしたらいいんだ。
 合わせるだけのキスじゃ物足りないって、結局私からしたはずが、いつの間にか白夜に主導権握られてるもん! 
 腰が砕けそうになる甘くて濃厚なキスを1分ほど堪能した後。私はくてりと上半身を白夜にもたれかけた。

 「あと2週間我慢すれば、もう大丈夫……」
 彼に聞こえないように小さくつぶやいた。
 ここでのお勤めも7月の終わりまで。あと2週間ばれなければ、何とかなる! 親しくしてもらった人に長月として会えなくなるのは寂しいけど、偽名を選んだ時点で覚悟している。ごめんね、まどかさんと小鳥さん。
 会えないのは残念だけど、私達は社長と秘書の恋人期間をすっ飛ばして夫婦になっちゃった。そんな生活は、心臓に悪すぎるのだ。いつ白夜と共にプライベートでいるところを見られないかとドキドキもするし。麗に戻ればそんな心配はしないで済むもの。

 私が自分の考え事に没頭している間、白夜が一体何を考えていたかなんて、さっぱり気づく由もなかった。

 ◆ ◆ ◆

 翌日、事務所に出社した私に、鷹臣君は思い出したように告げた。

 「おい、麗。東条セキュリティでの契約、1か月延長しておいたからな」
 「は?…………って、ええ!?」

 冗談でしょ!?
 詰め寄った私に、鷹臣君は契約書と、前払いの小切手を見せた。ああ、物凄いデジャヴ……!
 
 「……っ!!」
 目を見開いて凝視しても、それが消える事はなくて。思いっきりその場で脱力した。

 びゃ、白夜ああああ~~~!!!



 






************************************************
◆結婚式が9月だとしても、1か月以上も麗に会える時間が少なくなるのは、耐えられないのでしょう。式まで麗は自宅で過ごしているので。やっぱりやりやがった、白夜・・・。

◆ところで、現在進行中の書籍2巻ですが。該当分の引き下げを24日の13~14時にと伝えましたが、恐らく14時過ぎに引き下げさせて頂きます。読み返したい方は、削除前の24日、14時までにお願いいたします。詳しい事は、活動報告をご覧ください。

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