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第三部
17.反省と本音
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お待たせしてすみません……
********************************************
「何それ! 一ヶ月延長って、何でそんな事人の了承も得ずに勝手に決めちゃうのー!?」
鷹臣君に詰め寄り眦を釣り上げて訴えれば。意外な反応だったのか、鷹臣君の柳眉が寄った。
「何怒ってるんだ、お前? てっきり延長できてハッピーって喜ぶと思ったんだが? お前ら一応新婚なのに、式挙げるまでは今まで通りに暮らしてるんだ。週末は一緒でも別居中なんだから、せめて職場で会えるように計らってやろうとういう俺の心配りを無駄にする気か」
うっ!
そんな風に言われると、申し訳ない気持ちになってくるのは何故だ。
「鷹臣君の気持ちはありがたいけど、でもやっぱり本人に一言訊くべきだとは思うの! それに、今月で契約が終わりだと思ってたから、これで必要以上に周りに関係がバレないよう警戒する事もなくなってよかったー! って思ってたんだよ。それなのにもう一ヶ月プラスとか、私のストレスが……いや、それよりも。これから式場決めたりとか、いろいろと手間がかかる物をやらないといけないし、これで時間ができる~なんて思ってたのに全部パアだよ!」
そうだ。私のあずかり知らぬ所で結構話が進んじゃってはいるんだけど、引き出物を選んだり、いろいろと考える事はいっぱいだ。ドレスは夏姫さんが「期待してて!」と言ってくれたので、多分素敵な物を作ってくれるんだろう。それは楽しみでめちゃくちゃありがたい。
白夜と会社で過ごす時間がなくなる事は確かにちょっと寂しいし残念だよ? でもそれ以上に安堵感の方が大きかった。私は彼みたいにいつバレても気にしない、むしろ黙る必要が? なスタンスは無理だし! 『長月都』はあくまでも社長秘書。彼の妻になった一ノ瀬麗とは別人なんだから。
最後まで隠し通してやる。そう決めていたのに――。
何てハードルを上げてくれたんだ、白夜は!!
「式場はもう決まってるだっけか?」
鷹臣君がふいに尋ねて来た。
「えっと、候補がいくつか決まってるんだけど、まだどこかはわからない。日程は空いている所を一応確保してるんだけどね」
候補の中には海外もあって、いろいろと考え中なのだ。
海外だと友達も呼べるかな~とか、むしろ親戚や身内だけでひっそりと結婚式をやって、日本に帰ってから身近な友人達(鏡花さんや瑠璃ちゃんとか)を集めて2次会的なノリでパーティーをやるのもいいかな? なんて目論んでいるんですが。(まだ白夜達には言っていないけど!)
すべて未定だ。これも今月中には決めておきたい。
「そっか。まあ、一生に一度の式だ。好きに楽しめ」
ぐしゃぐしゃと鷹臣君は私の髪を混ぜた。その大きな手の感触が懐かしく感じられて、黙り込んでしまう。
うう、さっきまで怒ってたはずなのに、やっぱり鷹臣君は私の取り扱いを正しく理解しているようだ。なんだかムカつくけど!
「お前だって東条さんと少しでも会える方がいいだろ? たとえ長月としてでも。それなら、素直に離れてるのは寂しいって言った方がいいぜ。きっと東条さんも不安に思う事があるんだろうよ」
「……うん、わかった」
離れてるのは確かに寂しい。会えなくて何をしているのか不安になる事もある。それを白夜も感じていて、勝手に契約を更新させたのかもしれない。
もしかしたら、バレないようにって警戒ばかりして、彼にもそっけない態度ばかり取ってきてたかも。長月として仕方がなかったんだけど、司馬さんがいないからって堂々とキスをせがんだ事も、前みたいにからかい半分って感じじゃなかったし……。
自分の態度に問題が少しばかりあったかもしれない。そんな事を反省しつつも、勝手な事をした彼にもきちんと反省してもらう為に、今夜は奇襲をかけてみましょうか。
◆ ◆ ◆
今夜の白夜は少しばかり遅くなる予定だと、司馬さんから教えてもらった。予め響に帰りが遅くなるから心配しないでってメールを送っておいた。彼は今夜もバイトで忙しいようで、ちょっと県外にまで行く羽目になったって言ってたから、帰りは朝方になるかもしれない。って、本当に響になんて危ないバイトをさせてるんだ、鷹臣君は。いくら夏休みだからって、高校生に明け方まで確実に出るであろう廃墟とかに行かせるのは、どうなの。あの子が嫌がっていないから何も言わないけどさ。
そんなわけで、ただいま一人で白夜のマンションへ来てしまった次第であります。初めて合鍵を使ったよ! 自社製品のセキュリティを突破して、玄関が開いた瞬間。何だか感激してしまった。彼氏の家に合鍵で入るなんてシチュエーション、実は憧れてたんだよねー! (もう彼氏ではなくて旦那なわけですが。)
一人でニヤニヤしながらいつも通りきれいに片付いているリビングへ向かう。ごはんは外で軽く食べてきてお腹はいっぱい。彼も多分食べてくるんだろう。そうなると、新婚カップルごっこのあの台詞が言えないなぁ。
「仕方がない。あれはまたの機会にってことで」
とりあえず、買ってきた飲み物を冷蔵庫にしまうとするか。
そろそろ時刻は11時を過ぎようとしている。
未だに帰ってこない旦那様がちょっと心配になる。
明日も朝一で会議だし、身体は大丈夫なのかとか、寝不足で倒れていないかとか。栄養は取ってても、外食ばっかりじゃ身体に悪いんじゃないかとか。
ソファでゴロゴロ寝ながらテレビを見ていても、気になっちゃって落ち着かない。冷蔵庫に入れたビールをもう一本開けてしまおうかと悩んでいた所で、微かに靴音が聞こえた。
「! 帰って来た?」
抜き足差し足忍び足で玄関扉まで近づく。白夜が扉を開けたところで、お帰りなさいと告げて新妻風にお出迎えするのだ。
ガチャリと扉が開いた。俯き加減で入って来たその姿は疲労が少しにじみ出ていて、逆に色気が増しているようだ。普段以上に艶っぽいって、なんとも毒!
明るさに不審に思った白夜が顔を上げたと同時に、私はにっこりと微笑みかけた。
「お帰りなさい、白夜」
目を丸くして驚愕している旦那様は、やはりお疲れのよう。でも私の姿を見とめた彼は、嬉しそうに微笑み返してくれた。
「ただいま戻りました。来ていたのですか、麗」
ふわりと笑いかけた彼からは、若干疲労の色が消えた。ふむ、と瞬時に考える。微笑む元気があるようで何より。これならもう少し位起きててくれても大丈夫でしょう。
今夜の私は、鬼嫁になる覚悟をしているのだ。
「珍しいですね。まさかあなたがいるとは……。嬉しいサプライズです」
両腕を広げて私を抱きしめようとする白夜に再びにっこり笑いかけて、私は新妻らしい台詞を告げた。
「お風呂にする? ビールにする? それとも……」
ネクタイを緩めるように身体を密着させる。白夜はするりと私の腰と背中に腕を回して、緩く私を腕の中に拘束した。手触りのいいシルクのネクタイを抜き取り、私は満面の笑みを浮かべる。
「それとも――、反省する?」
声のトーンが下がった。
捕まったのは私じゃなくて、お前だという意味を込めて、私は白夜の首に腕をまわした。
◆ ◆ ◆
「――何故そこは、定番のセリフが来ないんでしょうかね……」と嘆く旦那様をソファに誘導させて、ビールを置いた。とりあえず、喉を潤してもらおうか。これからたくさん話してもらう為に。
「さあ、まずはビールでも飲んで。あ、お茶がよかったらお茶淹れるけど?」
もしかしたら散々飲まされた後かもしれない。白夜は私よりお酒強いから、飲んでても顔に表れないし、酔っているかどうかもわからない。
でもお酒臭くはなかったからなぁ。そこまで飲んでないのかも?
ビールでいいと告げた旦那様の為に、ミネラルウォーターも準備するできた嫁。ことんとソファ前のコーヒーテーブルに置いたら、何とも言えない顔をされてしまいましたが、笑顔でにっこり笑った。さあ、これで準備万端だよね!
「――大体さ、勝手だと思うの。普通私に一言くらい相談してくれてもいいんじゃないの? それなのに、まさか今朝事務所行ったらもう一ヶ月契約更新な、なんて鷹臣君に言われて! びっくりするなって方が無理でしょ!」
ビールを飲みながらじろりと睨んで不機嫌さを丸出しにしているのに、白夜はどこ吹く風だ。変わらない微笑で私を見つめ続ける。その表情には反省の色がまだ見えない。というよりも、どこか楽しげで、面白がっているようにも感じた。私の怒りのボルテージはますます上がった。
「~~もう、何で笑ってるの! 私怒ってるんだよ!?」
飲み干したビール缶をコーヒーテーブルの上に倒さないように置く。にこにこ顔で見つめてくる旦那様についに切れた。
が、白夜から告げられた言葉に、一瞬反応に遅れる。
「ええ、怒っているあなたも可愛らしいので」
「…………」
む、ムカつく……!
別におろおろした顔が見たいとか、そんな事を考えていたわけじゃないけど! こんな風に返されたら返答に困るじゃないか!
一人で怒っているだけだとわかっていても、何だか止まりそうになかった。もしかしたらもう酔い始めているのかもしれない。ビールも3本はあけている。
「ずるい、白夜はずるい……! 全部一人で決めちゃって、私が怒ってても喧嘩にならなくって。自分だけ大人ぶって余裕綽々なんて、ムカつく!」
視界が潤んでくる。
感情が昂ぶると涙腺が緩むなんて、まるで子供みたいだなんて思うけれど、自分じゃどうしようもなくて情けない。
別に仕事が嫌なんじゃない。一緒にいられる時間が増える事はもちろん嬉しい。けど、相談があってくれたっていいと思うのは当然でしょう? 私にだって一言位言って欲しかった。私の意見も聞いて欲しかった。確かに鷹臣君を通すのは筋だけど、そうじゃなくって。一緒に住んでなくてももう夫婦なんだから。
私が泣くとは思わなかったのか、白夜は焦りを見せた。私のソファに近づくと、抱きしめようとしてくる。が、私がそれを抵抗した事で、彼はおとなしく私の隣に腰掛けた。そしてあっさりと認めた。
「ええ、私はずるい男です」
「…………」
そんな風に簡単に言われてしまうと、こっちも虚をつかれて唖然とする。昂ぶっていた気がほんの少し治まった。
隣から嘆息する息が聞こえて来た。そして座ったまま肩を抱き寄せられて、私も抵抗せず白夜の肩に上半身を預けた。
「外堀を固めてほしい物を手に入れる癖が抜けません。あなたの事になると、尚更。麗がうちでの契約が切れる事に安堵している事は、気づいていました。それについて私が面白く思っていなかった事も事実。周囲にバレないように警戒し続けるあなたの邪魔をするつもりはありませんが、他の男性社員が私の知らない所であなたに接触する事も正直言って面白くありません。たとえ私の奥さんの麗じゃなくて長月としてでも」
穏やかな声で語られる白夜の本心に、私は黙って耳を傾ける。
「当然、古紫室長の所で働くあなたは、私が知らない男性とも親しげに話すでしょうし、私が把握していない人脈だって築いているでしょう。あなたの仕事に文句を言うつもりも、ましてや辞めろだなんて言うつもりもありません。今まで築き上げてきた物を否定するなんて事が出来るわけがない」
苦い物が混じったような声音で、白夜は最後の台詞を呟いた。その後深く息を吐く。苦々しい顔をしているのだろう事が予想できたけど、私は白夜の顔を見ることなく、頭の上から静かに紡がれる彼の声を聞いていた。
「週三日、あなたに会える事で我慢しています。本当は残りの二日も気が気じゃありませんが……。ですが、残りのあと1ヶ月をあなたなしで過ごすなど、無理です。あなたが何をしているのか、気になって仕方がない。本当ならどこにも行かずに私の傍で、目が届く範囲で常に置いておきたい位なのですよ?」
――あなたにその自覚があるかどうかは、わかりませんけど。
苦笑気味につぶやかれて、私は俯けていた顔を上げた。寂しげに微笑む旦那様の顔に、胸が締め付けられる。
鷹臣君が言ってたように、きっと不安だったんだ。白夜は強引だし私が焦る事ばかりしてくるけれど、でも最後の境界線はちゃんと引いている。彼は今までだって一度も、事務所を辞めろだなんて言っていない。常に危険が付きまとう仕事なのだとわかっているのに。
だから、だろうか。自分との契約が伸びればそれだけ私に回って来る仕事も減る。危険度が高い仕事をさせずに済む。もちろん、傍にいたいっていうものあると思うけど。今までだって私の仕事はそれほど危険度は高くないし、鷹臣君だって選んで仕事を振ってくれていた。でも、またいつあのテロ事件のような無茶で無謀をするかわからないって、多分思われているんだろう。目を離せば危険だって、心配させてるんだ。
怒っていたのは私のはずなのに、気づけば私が白夜に謝っていた。一言、「ごめんね」と。
何に対してとは言わなかったのに、白夜は黙って私を抱き寄せた。
「私も、白夜に会えないのは嫌だよ? 不安で、心配になる。だからこうして会える時間が嬉しいし、大事にしたいとも思う。早く一緒に過ごせるようになりたいとも。白夜が事務所を辞めろって言わない事に、感謝している。私の好きなように、自由にさせてくれる白夜は自慢の旦那様だと思う」
かっこよくって、私を大事にしてくれて。欠点がないほど完璧な人だけど、こんな風に本音を吐露してくれて。そてはとても珍しくて、何だか嬉しい。
「危険な事には突っ込まないし、白夜が嫌がる事はしないって約束する。だから、白夜も勝手な事はしないと約束して? 私に必ず相談して。だって私達は夫婦なんでしょ?」
じっと白夜の黒い双眸を見上げる。まっすぐに見つめて、白夜は目元を細めてとろけるような笑みを向けた。
「はい、約束します。あなたに必ず相談すると。すみませんでした、勝手に決めてしまって」
「……まあ、わかってくれたならいいよ、別に。あと一ヶ月あそこで働けるのは、嬉しさだってあるし。まどかさんや小鳥さんともまたランチに行けるな、とか」
ぎゅうっと抱きしめてきた白夜に甘えるように顔を首元に埋めていたけれど。ふと自分の匂いが気になった。
そういえば、今日もめちゃくちゃ暑かった。そして今日はまだシャワーを浴びていない。白夜が帰って来る前に浴びてもよかったけど、今夜は家に戻る予定だから自宅で浴びてしまおうと思っていたのだ。
室内はクーラーがきいてるから、快適な温度だけれど。でも服にしみ込んだ汗の臭いとかは多分そのまま……。そして私は人工的な匂いが好きじゃないから、香水とかは極力つけない。そう思いいたると、つい白夜に抱きしめられるのが恥ずかしくなった。というか、ごめん、離れて!
身じろぎをして白夜の腕から逃れると、彼は怪訝な顔をした。
「どうしたのですか? 突然」
一人分以上のスペースをあけて、私は彼から離れる。いつも微笑を浮かべている白夜に若干不満の色がにじんだ。
「ご、ごめん! すっごく今さらだけど、今日暑かったし、まだシャワー浴びていないから、あまり近づいてこないで!」
「はい?」
パタパタとキッチンの方に歩き始めた私を、白夜は立ち上がって見つめてくる。ああ、もう! いつも清潔感漂って、汗臭い匂いとは無縁のあなたにはわからないかもしれないけどねー! 女の子は気になるんだよ、いろいろと!!
「だから、多分汗臭いから抱きしめられると困るっていうか……!」
恥ずかしい事を言わすな、馬鹿!
不思議そうな顔で首を傾けた旦那様は、見る者を虜にさせる微笑を浮かべた。
「大丈夫です。あなたの香りはたとえ汗臭くてもいいにお……」
「ちょっ!? ストップ! やめて、それ以上は変態チックに聞こえるからー!!」
咄嗟に両手で白夜の口を押えてしまったのは、条件反射だろうか。
が、この後うっかり白夜の腕によって拘束されてしまった私は、強制的にお風呂を一緒に入る事になった。
その後、何とか説得して自宅まで帰してもらえたのは、夜中の1時を過ぎた頃だった。響がまだ帰っていなくて心配よりも安堵したのは、私がやましさ全開だからかもしれない。
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誤字脱字、見つけましたら報告お願いします。
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「何それ! 一ヶ月延長って、何でそんな事人の了承も得ずに勝手に決めちゃうのー!?」
鷹臣君に詰め寄り眦を釣り上げて訴えれば。意外な反応だったのか、鷹臣君の柳眉が寄った。
「何怒ってるんだ、お前? てっきり延長できてハッピーって喜ぶと思ったんだが? お前ら一応新婚なのに、式挙げるまでは今まで通りに暮らしてるんだ。週末は一緒でも別居中なんだから、せめて職場で会えるように計らってやろうとういう俺の心配りを無駄にする気か」
うっ!
そんな風に言われると、申し訳ない気持ちになってくるのは何故だ。
「鷹臣君の気持ちはありがたいけど、でもやっぱり本人に一言訊くべきだとは思うの! それに、今月で契約が終わりだと思ってたから、これで必要以上に周りに関係がバレないよう警戒する事もなくなってよかったー! って思ってたんだよ。それなのにもう一ヶ月プラスとか、私のストレスが……いや、それよりも。これから式場決めたりとか、いろいろと手間がかかる物をやらないといけないし、これで時間ができる~なんて思ってたのに全部パアだよ!」
そうだ。私のあずかり知らぬ所で結構話が進んじゃってはいるんだけど、引き出物を選んだり、いろいろと考える事はいっぱいだ。ドレスは夏姫さんが「期待してて!」と言ってくれたので、多分素敵な物を作ってくれるんだろう。それは楽しみでめちゃくちゃありがたい。
白夜と会社で過ごす時間がなくなる事は確かにちょっと寂しいし残念だよ? でもそれ以上に安堵感の方が大きかった。私は彼みたいにいつバレても気にしない、むしろ黙る必要が? なスタンスは無理だし! 『長月都』はあくまでも社長秘書。彼の妻になった一ノ瀬麗とは別人なんだから。
最後まで隠し通してやる。そう決めていたのに――。
何てハードルを上げてくれたんだ、白夜は!!
「式場はもう決まってるだっけか?」
鷹臣君がふいに尋ねて来た。
「えっと、候補がいくつか決まってるんだけど、まだどこかはわからない。日程は空いている所を一応確保してるんだけどね」
候補の中には海外もあって、いろいろと考え中なのだ。
海外だと友達も呼べるかな~とか、むしろ親戚や身内だけでひっそりと結婚式をやって、日本に帰ってから身近な友人達(鏡花さんや瑠璃ちゃんとか)を集めて2次会的なノリでパーティーをやるのもいいかな? なんて目論んでいるんですが。(まだ白夜達には言っていないけど!)
すべて未定だ。これも今月中には決めておきたい。
「そっか。まあ、一生に一度の式だ。好きに楽しめ」
ぐしゃぐしゃと鷹臣君は私の髪を混ぜた。その大きな手の感触が懐かしく感じられて、黙り込んでしまう。
うう、さっきまで怒ってたはずなのに、やっぱり鷹臣君は私の取り扱いを正しく理解しているようだ。なんだかムカつくけど!
「お前だって東条さんと少しでも会える方がいいだろ? たとえ長月としてでも。それなら、素直に離れてるのは寂しいって言った方がいいぜ。きっと東条さんも不安に思う事があるんだろうよ」
「……うん、わかった」
離れてるのは確かに寂しい。会えなくて何をしているのか不安になる事もある。それを白夜も感じていて、勝手に契約を更新させたのかもしれない。
もしかしたら、バレないようにって警戒ばかりして、彼にもそっけない態度ばかり取ってきてたかも。長月として仕方がなかったんだけど、司馬さんがいないからって堂々とキスをせがんだ事も、前みたいにからかい半分って感じじゃなかったし……。
自分の態度に問題が少しばかりあったかもしれない。そんな事を反省しつつも、勝手な事をした彼にもきちんと反省してもらう為に、今夜は奇襲をかけてみましょうか。
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今夜の白夜は少しばかり遅くなる予定だと、司馬さんから教えてもらった。予め響に帰りが遅くなるから心配しないでってメールを送っておいた。彼は今夜もバイトで忙しいようで、ちょっと県外にまで行く羽目になったって言ってたから、帰りは朝方になるかもしれない。って、本当に響になんて危ないバイトをさせてるんだ、鷹臣君は。いくら夏休みだからって、高校生に明け方まで確実に出るであろう廃墟とかに行かせるのは、どうなの。あの子が嫌がっていないから何も言わないけどさ。
そんなわけで、ただいま一人で白夜のマンションへ来てしまった次第であります。初めて合鍵を使ったよ! 自社製品のセキュリティを突破して、玄関が開いた瞬間。何だか感激してしまった。彼氏の家に合鍵で入るなんてシチュエーション、実は憧れてたんだよねー! (もう彼氏ではなくて旦那なわけですが。)
一人でニヤニヤしながらいつも通りきれいに片付いているリビングへ向かう。ごはんは外で軽く食べてきてお腹はいっぱい。彼も多分食べてくるんだろう。そうなると、新婚カップルごっこのあの台詞が言えないなぁ。
「仕方がない。あれはまたの機会にってことで」
とりあえず、買ってきた飲み物を冷蔵庫にしまうとするか。
そろそろ時刻は11時を過ぎようとしている。
未だに帰ってこない旦那様がちょっと心配になる。
明日も朝一で会議だし、身体は大丈夫なのかとか、寝不足で倒れていないかとか。栄養は取ってても、外食ばっかりじゃ身体に悪いんじゃないかとか。
ソファでゴロゴロ寝ながらテレビを見ていても、気になっちゃって落ち着かない。冷蔵庫に入れたビールをもう一本開けてしまおうかと悩んでいた所で、微かに靴音が聞こえた。
「! 帰って来た?」
抜き足差し足忍び足で玄関扉まで近づく。白夜が扉を開けたところで、お帰りなさいと告げて新妻風にお出迎えするのだ。
ガチャリと扉が開いた。俯き加減で入って来たその姿は疲労が少しにじみ出ていて、逆に色気が増しているようだ。普段以上に艶っぽいって、なんとも毒!
明るさに不審に思った白夜が顔を上げたと同時に、私はにっこりと微笑みかけた。
「お帰りなさい、白夜」
目を丸くして驚愕している旦那様は、やはりお疲れのよう。でも私の姿を見とめた彼は、嬉しそうに微笑み返してくれた。
「ただいま戻りました。来ていたのですか、麗」
ふわりと笑いかけた彼からは、若干疲労の色が消えた。ふむ、と瞬時に考える。微笑む元気があるようで何より。これならもう少し位起きててくれても大丈夫でしょう。
今夜の私は、鬼嫁になる覚悟をしているのだ。
「珍しいですね。まさかあなたがいるとは……。嬉しいサプライズです」
両腕を広げて私を抱きしめようとする白夜に再びにっこり笑いかけて、私は新妻らしい台詞を告げた。
「お風呂にする? ビールにする? それとも……」
ネクタイを緩めるように身体を密着させる。白夜はするりと私の腰と背中に腕を回して、緩く私を腕の中に拘束した。手触りのいいシルクのネクタイを抜き取り、私は満面の笑みを浮かべる。
「それとも――、反省する?」
声のトーンが下がった。
捕まったのは私じゃなくて、お前だという意味を込めて、私は白夜の首に腕をまわした。
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「――何故そこは、定番のセリフが来ないんでしょうかね……」と嘆く旦那様をソファに誘導させて、ビールを置いた。とりあえず、喉を潤してもらおうか。これからたくさん話してもらう為に。
「さあ、まずはビールでも飲んで。あ、お茶がよかったらお茶淹れるけど?」
もしかしたら散々飲まされた後かもしれない。白夜は私よりお酒強いから、飲んでても顔に表れないし、酔っているかどうかもわからない。
でもお酒臭くはなかったからなぁ。そこまで飲んでないのかも?
ビールでいいと告げた旦那様の為に、ミネラルウォーターも準備するできた嫁。ことんとソファ前のコーヒーテーブルに置いたら、何とも言えない顔をされてしまいましたが、笑顔でにっこり笑った。さあ、これで準備万端だよね!
「――大体さ、勝手だと思うの。普通私に一言くらい相談してくれてもいいんじゃないの? それなのに、まさか今朝事務所行ったらもう一ヶ月契約更新な、なんて鷹臣君に言われて! びっくりするなって方が無理でしょ!」
ビールを飲みながらじろりと睨んで不機嫌さを丸出しにしているのに、白夜はどこ吹く風だ。変わらない微笑で私を見つめ続ける。その表情には反省の色がまだ見えない。というよりも、どこか楽しげで、面白がっているようにも感じた。私の怒りのボルテージはますます上がった。
「~~もう、何で笑ってるの! 私怒ってるんだよ!?」
飲み干したビール缶をコーヒーテーブルの上に倒さないように置く。にこにこ顔で見つめてくる旦那様についに切れた。
が、白夜から告げられた言葉に、一瞬反応に遅れる。
「ええ、怒っているあなたも可愛らしいので」
「…………」
む、ムカつく……!
別におろおろした顔が見たいとか、そんな事を考えていたわけじゃないけど! こんな風に返されたら返答に困るじゃないか!
一人で怒っているだけだとわかっていても、何だか止まりそうになかった。もしかしたらもう酔い始めているのかもしれない。ビールも3本はあけている。
「ずるい、白夜はずるい……! 全部一人で決めちゃって、私が怒ってても喧嘩にならなくって。自分だけ大人ぶって余裕綽々なんて、ムカつく!」
視界が潤んでくる。
感情が昂ぶると涙腺が緩むなんて、まるで子供みたいだなんて思うけれど、自分じゃどうしようもなくて情けない。
別に仕事が嫌なんじゃない。一緒にいられる時間が増える事はもちろん嬉しい。けど、相談があってくれたっていいと思うのは当然でしょう? 私にだって一言位言って欲しかった。私の意見も聞いて欲しかった。確かに鷹臣君を通すのは筋だけど、そうじゃなくって。一緒に住んでなくてももう夫婦なんだから。
私が泣くとは思わなかったのか、白夜は焦りを見せた。私のソファに近づくと、抱きしめようとしてくる。が、私がそれを抵抗した事で、彼はおとなしく私の隣に腰掛けた。そしてあっさりと認めた。
「ええ、私はずるい男です」
「…………」
そんな風に簡単に言われてしまうと、こっちも虚をつかれて唖然とする。昂ぶっていた気がほんの少し治まった。
隣から嘆息する息が聞こえて来た。そして座ったまま肩を抱き寄せられて、私も抵抗せず白夜の肩に上半身を預けた。
「外堀を固めてほしい物を手に入れる癖が抜けません。あなたの事になると、尚更。麗がうちでの契約が切れる事に安堵している事は、気づいていました。それについて私が面白く思っていなかった事も事実。周囲にバレないように警戒し続けるあなたの邪魔をするつもりはありませんが、他の男性社員が私の知らない所であなたに接触する事も正直言って面白くありません。たとえ私の奥さんの麗じゃなくて長月としてでも」
穏やかな声で語られる白夜の本心に、私は黙って耳を傾ける。
「当然、古紫室長の所で働くあなたは、私が知らない男性とも親しげに話すでしょうし、私が把握していない人脈だって築いているでしょう。あなたの仕事に文句を言うつもりも、ましてや辞めろだなんて言うつもりもありません。今まで築き上げてきた物を否定するなんて事が出来るわけがない」
苦い物が混じったような声音で、白夜は最後の台詞を呟いた。その後深く息を吐く。苦々しい顔をしているのだろう事が予想できたけど、私は白夜の顔を見ることなく、頭の上から静かに紡がれる彼の声を聞いていた。
「週三日、あなたに会える事で我慢しています。本当は残りの二日も気が気じゃありませんが……。ですが、残りのあと1ヶ月をあなたなしで過ごすなど、無理です。あなたが何をしているのか、気になって仕方がない。本当ならどこにも行かずに私の傍で、目が届く範囲で常に置いておきたい位なのですよ?」
――あなたにその自覚があるかどうかは、わかりませんけど。
苦笑気味につぶやかれて、私は俯けていた顔を上げた。寂しげに微笑む旦那様の顔に、胸が締め付けられる。
鷹臣君が言ってたように、きっと不安だったんだ。白夜は強引だし私が焦る事ばかりしてくるけれど、でも最後の境界線はちゃんと引いている。彼は今までだって一度も、事務所を辞めろだなんて言っていない。常に危険が付きまとう仕事なのだとわかっているのに。
だから、だろうか。自分との契約が伸びればそれだけ私に回って来る仕事も減る。危険度が高い仕事をさせずに済む。もちろん、傍にいたいっていうものあると思うけど。今までだって私の仕事はそれほど危険度は高くないし、鷹臣君だって選んで仕事を振ってくれていた。でも、またいつあのテロ事件のような無茶で無謀をするかわからないって、多分思われているんだろう。目を離せば危険だって、心配させてるんだ。
怒っていたのは私のはずなのに、気づけば私が白夜に謝っていた。一言、「ごめんね」と。
何に対してとは言わなかったのに、白夜は黙って私を抱き寄せた。
「私も、白夜に会えないのは嫌だよ? 不安で、心配になる。だからこうして会える時間が嬉しいし、大事にしたいとも思う。早く一緒に過ごせるようになりたいとも。白夜が事務所を辞めろって言わない事に、感謝している。私の好きなように、自由にさせてくれる白夜は自慢の旦那様だと思う」
かっこよくって、私を大事にしてくれて。欠点がないほど完璧な人だけど、こんな風に本音を吐露してくれて。そてはとても珍しくて、何だか嬉しい。
「危険な事には突っ込まないし、白夜が嫌がる事はしないって約束する。だから、白夜も勝手な事はしないと約束して? 私に必ず相談して。だって私達は夫婦なんでしょ?」
じっと白夜の黒い双眸を見上げる。まっすぐに見つめて、白夜は目元を細めてとろけるような笑みを向けた。
「はい、約束します。あなたに必ず相談すると。すみませんでした、勝手に決めてしまって」
「……まあ、わかってくれたならいいよ、別に。あと一ヶ月あそこで働けるのは、嬉しさだってあるし。まどかさんや小鳥さんともまたランチに行けるな、とか」
ぎゅうっと抱きしめてきた白夜に甘えるように顔を首元に埋めていたけれど。ふと自分の匂いが気になった。
そういえば、今日もめちゃくちゃ暑かった。そして今日はまだシャワーを浴びていない。白夜が帰って来る前に浴びてもよかったけど、今夜は家に戻る予定だから自宅で浴びてしまおうと思っていたのだ。
室内はクーラーがきいてるから、快適な温度だけれど。でも服にしみ込んだ汗の臭いとかは多分そのまま……。そして私は人工的な匂いが好きじゃないから、香水とかは極力つけない。そう思いいたると、つい白夜に抱きしめられるのが恥ずかしくなった。というか、ごめん、離れて!
身じろぎをして白夜の腕から逃れると、彼は怪訝な顔をした。
「どうしたのですか? 突然」
一人分以上のスペースをあけて、私は彼から離れる。いつも微笑を浮かべている白夜に若干不満の色がにじんだ。
「ご、ごめん! すっごく今さらだけど、今日暑かったし、まだシャワー浴びていないから、あまり近づいてこないで!」
「はい?」
パタパタとキッチンの方に歩き始めた私を、白夜は立ち上がって見つめてくる。ああ、もう! いつも清潔感漂って、汗臭い匂いとは無縁のあなたにはわからないかもしれないけどねー! 女の子は気になるんだよ、いろいろと!!
「だから、多分汗臭いから抱きしめられると困るっていうか……!」
恥ずかしい事を言わすな、馬鹿!
不思議そうな顔で首を傾けた旦那様は、見る者を虜にさせる微笑を浮かべた。
「大丈夫です。あなたの香りはたとえ汗臭くてもいいにお……」
「ちょっ!? ストップ! やめて、それ以上は変態チックに聞こえるからー!!」
咄嗟に両手で白夜の口を押えてしまったのは、条件反射だろうか。
が、この後うっかり白夜の腕によって拘束されてしまった私は、強制的にお風呂を一緒に入る事になった。
その後、何とか説得して自宅まで帰してもらえたのは、夜中の1時を過ぎた頃だった。響がまだ帰っていなくて心配よりも安堵したのは、私がやましさ全開だからかもしれない。
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誤字脱字、見つけましたら報告お願いします。
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保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
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翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
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