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プロローグ
平民リリアの傲慢
しおりを挟む「公爵?」
「そうよ。あんたは本当は公爵令嬢なんだから」
お酒を飲んだ母、ハンナが戯言を吐いている。
何時もの事だ。下らない。
自分は昔、公爵家で下女として働いていて、私ことリリアはその公爵の娘なのだと言う。
私はそんな事を信じてはいなかった。
もし母の言葉が真実なら今私はこんな貧しい暮らしなどしていない。
華やかな容姿の母は娼婦として人気が有るが、こんな場末の酒場で客を取っている娼婦が十分な金銭を得る事が出来る筈がない。
そんな僅かな金銭もすぐに酒代に代わってしまう。
母は癇癪持ちで気分屋。機嫌が悪いと私を殴る。
私が生まれたから公爵家を追い出されたとか、私が居ればいつか公爵様が迎えに来てくれるとか、支離滅裂な事を言うのだ。
どうやら私はその公爵様とやらとの繋ぎを得る為の道具らしい。酔った母がそう言っていた。
私も母に部屋を貸している宿で皿洗いや給仕、房時後の部屋の片付けなどをして働いている。
お貴族様の令嬢ならこんな風に手が荒れる程働き、尻を撫でる男共に笑顔を振りまく屈辱的な生活をしている筈がないのだ。
母が何を言おうと私は娼婦の娘だ。
もう4、5年すれば私も母の様に客を取る事になるのだろう。
嫌だがどうしようもない。
お金も学も無い私だが、容姿だけは良い。
母譲りの可憐な容姿と娼婦の姐さん達に教えられた男を転がす話術のお陰で人気の娼婦になれると言われている。
別に嬉しくはない。
しかし、そんな私に転機が訪れる。
「ハンナ! リリア! あんた達に客だよ! さっさと降りてきな!」
宿の女将の大声が壁の薄い私達の部屋に届いた。
母の体を求める男が来るにはまだ早い時間だ。
それに私まで呼ばれるのはおかしな話だ。
この宿では女将の方針で子供に客を取らせるのは御法度になっている。
前に私とヤらせろと言って金貨を出した男が居たが、女将に帚殴られて叩き出された事もある。
何だろうと母とホールに降りてみると、やけにキラキラした男が私達を待っていた。
「ハンナ!」
「ロバート様!」
母は驚きで一瞬動きを止めたがすぐに男の胸に飛び込んで行った。
男は上等な衣服を着ていて、手入れの行き届いた髪や肌から考えて貴族だろう。
私が戸惑って居ると、男は私を見て笑みを浮かべた。
「君はリリアだね?」
「は、はい」
「今まで迎えに来れなくて済まない。私が君の父だ」
「え?」
「リリア。貴女のお父様よ」
男の言葉に続き、母までそんな事を言う。
私が混乱している中、母と男の話が続く。
「先日、あの女が死んだんだ。これで何の問題もなく君達を公爵家に迎えることが出来る」
「じゃあ私は公爵夫人になれるのね⁉︎」
「ああ、リリアも公爵令嬢として屋敷に迎える。準備が有るから今すぐにとはいかないが、数日の内に迎えに来る」
そう言って男はお金の入った袋を置いて帰っていった。
母の言っていた事は本当だったのだ。
じゃあ私は公爵令嬢? 本当に?
公爵家と言えば王族にも連なる貴族の中でもずごく偉い貴族だ。
男が置いて行ったお金も凄い金額だった。
その日から母は客を取るのを辞めた。
綺麗な服を買って貰い、王都の高級レストランで想像もした事の無い美味しいご飯を食べた。
宝石や髪飾りで飾ると、私は更に綺麗になった。
フワフワした薄いピンクの髪に星空の様に光る宝石が素敵だった。
今まで聞き流していた母の話では、公爵様……お父様は家の事情で無理やり結婚させられた妻が居て迎えに来れなかったそうだ。
でもその前妻は死んでしまったそうだ。
母は私こそお父様に本当に愛されて生まれた公爵家の正当な後継者なのだと教えてくれた。
数日おきにプレゼントを持って会いに来るお父様も、母の話を肯定した。
お父様には前妻との間に私と同い年の姉が1人居るらしい。
私の異母姉らしいが、前妻と同じく公爵で有るお父様に小言を良い馬鹿にする傲慢な女らしい。
そんな傲慢な女ですら、私とは比べものにならない程裕福な暮らしを送ってきたのだ。
姉妹なのに。
私は毎日毎日働いて下品な男の相手をして貧しい食事をしていたのに、同じお父様から生まれた姉は使用人に傅かれ、綺麗な服を着て食べ切れない程のご馳走を毎日食べて生きてきたのだ。
そんなのズルい!
私にだってそんな生活をする権利がある筈だ。
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