追放された私は北国の王に拾われる

紅蘭

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ハンナの病気

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部屋に戻るとマリーとハンナが待っていた。入浴の準備はもう終わっている。少し遅くなってしまったようだ。


「リーゼロッテ様、お疲れ様でした」


エーリッヒ様のところで手伝いをすることは、昼食の時にマリーに話した。だけどこの後のことは言わない方がいいかもしれない。


「待たせてごめんなさい」


夕食が終わるとマリーも自室へ戻る。ギドが言わなければバレないだろう。後で口止めをしようと考えながら、3人でお風呂へ向かった。


お湯に浸かってマリーを見る。


「ハンナのお勉強はどう?」

「はい、とても覚えがいいです。まだ完璧ではありませんが基本的な読み書きはできるようになりました」


ハンナがここへ来て数日後、私はハンナに教育を施すことをエーリッヒ様に提案した。そして許可を得た。

下働きの教育は家によって差がある。ヴァルデ家は皆が最低限の読み書きをできるように教育を施していたので、教師役はマリーにお願いした。


「すごいじゃない」


そう言うとハンナは嬉しそうに笑った。


「リーゼロッテ様のおかげです。まさか私がお勉強できるなんて」

「私はただ提案しただけよ。感謝はマリーにしてちょうだい」


そう言うとハンナはマリーに抱きついた。マリーも嬉しそうに抱きしめ返す。まるで親子のようだ。

ふと、ハンナの背中、髪の間に何かが見えた。


「……ハンナ、背中を見せてもらってもいい?」

「あ、はい」


ハンナは後ろを向いて髪をよける。そこにはあざか数個あった。知っている。ハンナの治らない病気とはこれか、と思った。


「ここからだんだんあざが広がって、いつか私は死ぬんです」


ハンナは微笑みながらそう言った。覚悟ができている顔だ。まだ7歳なのに、と胸が痛む。


「私は、大人になれない……」


ポツリと呟いたその声は少し震えていた。

この病気はファルラニアにもあった。最初は小さなあざから始まる。しかしそれはやがて全身に広がり、最後には命を落とす。感染るものではない。発症の原因は分からない。


「……薬は、ないの?」

「薬で治る病気ではないんです」


一度発症したら治ることはない。治療薬はない。そう言われていた。数年前までは。

黙り込んだ私を2人が不思議そうに見る。マリーはきっと知らない。この病気は治る。薬は作ることができる。だけどユルンでその材料が手に入るか分からない。

言うべきか、すごく迷った。進行には個人差がある病気だ。しかしあざの状態から見ても今すぐに危険な状態になるわけではなさそう。


「……少しのぼせたみたい。先に出るわね」


まだ言わないことにした。エーリッヒ様に相談してみよう。材料が手に入ることが分かったら言う。ぬか喜びはさせたくない。

良くも悪くも、ここはファルラニアとは何もかもが違う。それを実感した。



自室で夕食を終えるとマリーはいつも通り部屋へ戻って行った。代わるようにギドが姿を現す。マリーと顔を合わせると喧嘩ばかりなので会いたくないのだとギドは言っている。

彼はいつも私の近くにいる。離れるのは私がエーリッヒ様と一緒にいる時と、危険がないと判断した時だけ。夜はほとんど離れない。部屋の中にはいなくとも必ず近くに気配を感じる。


「あなたも下がっていいわよ」

「はっ!冗談だろ」


ギドは吐き捨てるように言った。


「それでお前に何かあったら俺の仕事は失敗だ。またお前のせいでしくじるなんざあり得ねえ」


ギド曰く、今までの仕事で失敗したのは私の暗殺だけだそう。ことあるごとに私に文句を言ってくる。


「でもエーリッヒ様がいたら離れるじゃない。エーリッヒ様に言われたの?」


そう言うとギドは目を丸くして私を見た。


「え?気付いてねえの?」

「何が?」


実は近くにいるとか?


「あの王様すげえ強いぜ」


エーリッヒ様が強い?ギドが言うほどに?


「……嘘でしょ?」


失礼だが全くそうは見えない。そもそも剣を握っているのを見たのも、あの夜の1回だけだ。


「腹は立つが俺より強いだろうな」

「冗談はやめてちょうだい」


王族なので護身はできるかもしれないけど、ギドより強いということはいくらなんでもないだろう。しかしギドの反応は私の思ったものとは違った。


「冗談でこんな面白くねえこと言わねえよ」


不満そうにそう言ったのだ。


「気配とか歩き方とか、あれは只者じゃねえぜ」


確かに綺麗な歩き方をする人だとは思ったけど……。だけどそれだけだ。私には分からない。


「ほら、あの時。最初の」

「……あなたが私を殺そうとした時?」

「そうだ。もし俺が本気でお前を殺そうとしてたら、死んでたのは俺だろうな」


にわかには信じられない。エーリッヒ様が?と思う気持ちが強い。


「あの王様お前らの後ろからすげえ目で俺を睨ん」

「余計なことを言うな」


言葉を遮って聞こえた声に、ギドがすごい勢いで振り向いた。そこにはエーリッヒ様が立っている。足音も扉の音もしなかった。あのギドですら気が付かなかった。


「お嬢、見えてたんなら教えてくれよ」

「……あなたで見えなかったのよ」


驚いた、なんて言葉では表せない。呆然としながら答えると、ギドは「計算済みかよ」とため息をついた。


「おいおい、ノックもなしに女の部屋に入るものじゃねえぜ」

「それについては謝る。面白そうな話が聞こえたので少し驚かせようと思っただけだ」

「驚かせる?脅すの間違いだろ」


……どうやらギドの言っていることは本当のようだ。こうなるとこのやり取りもエーリッヒ様がギドを牽制しているようにしか見えない。ギドが冷や汗を袖で拭う。


「……彼女は私と約束がある。下がれ」


ギドは私を見た。立ち上がってエーリッヒ様の方へ歩く。


「本当よ。大丈夫だからあなたも休んでちょうだい」


ギドは面白くなさそうに舌打ちをすると、私たちの横を抜けて自室へと入って行った。
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