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家族ごっこ
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悪夢から逃れ、目を開けると真っ暗だった。起き上がり、そこがエーリッヒ様の部屋だと気が付いた。
確かベッドを借りて横になった。それから話をしていて……私は寝てしまったのか。汗でベタつく髪をかきあげる。最近はすぐに眠れる。というか、ここではすぐに眠くなる。
エーリッヒ様のおかげだろうなと思う。あの心地よい低い声が眠気を誘う。香りも落ち着く。だけど悪夢を見ることは変わらない。
「……リーゼロッテ」
掠れた低い声が私を呼んだ。どうやら起こしてしまったようだ。
「すみません。少し夢見が悪くて……」
何の夢を見たのか思い出そうとしたが思い出せない。ただ悪い夢を見たということだけが記憶に残っている。いつものことだ。まだ朝は来ない。部屋に戻ろうかと考えていると、エーリッヒ様に手を引っ張られた。そのままベッドへと沈む。
「大丈夫だ。あなたは大丈夫。何も気にすることはない」
囁くように言われ、体から力が抜けていく。どうしてエーリッヒ様の声はこんなにも落ち着くのだろう。うつらうつらとしながらそんなことを考えた。
その後は悪夢を見ることなく朝を迎えた。ベッドを出たエーリッヒ様はいつものように朝食を取りに行こうとしたが、今日は私も一緒に立ち上がった。
「お嫌でなければ食堂で頂きませんか?」
エーリッヒ様と私、マリーとハンナ、ギドとリヒャルトはそれぞれ。今は皆別で食べている。たまには皆で食べるのもいいだろう。
そう言うとエーリッヒ様は「あなたがそうしたいなら」と頷いた。
食堂の椅子に座っているとすぐにギドが来た。
「お?なんだ?そんなとこ座って」
いつもと同じ声色。昨日のことなど全く思い出させない様子だ。だから私も何もなかったように振る舞う。
「たまには一緒に食事をするのもいいでしょう?」
ギドは一瞬ポカンとすると、ハッと馬鹿にするように笑った。
「家族ごっこでもするつもりか?」
思わぬ言葉に驚いた。それだ。その言葉が一番近い。ギドは馬鹿にするつもりで言ったのだろうが、私にとっては悪い言葉には思えなかった。頬が緩んだ。
ギドはそんな私を見て面白くなさそうに舌打ちをすると「マリーと弟を呼んでくるぜ」とため息をついて出て行った。
「家族ごっことは?」
エーリッヒ様が私を見る。別に深い考えなどはない。
「リヒャルトは4歳の時に父を亡くしました。その後からは母が忙しくなり、家族で食事をしたことなどほとんどありません。だから、あの幸福を教えてあげたいと思ったのです」
リヒャルトの本当の家族などもう私しかいない。だけどここにいる皆となら、実現しうるのではないかと思った。
「……思えばここにいる皆が家族を亡くしていますからね。『ごっこ』でもいいのではないかと思ったのです」
家族というには育った環境が違いすぎる。家族というにはぎこちない。家族というには不安定。家族というには知らなさすぎる。だけど家族ごっこなら丁度いい。
ギドはすぐに3人を連れて戻って来た。座るように勧める。イェンスが皆の分の料理を持って来てくれた。手伝おうと腰を浮かすと「私1人で大丈夫です」て微笑まれた。その言葉にマリーも座り直すのが見えた。
「ギド、家族ごっこなら、誰がどの立場なの?」
なんとなく面白そうだと思って聞いていると、ギドは一番最初に問題発言をした。
「まず王様が父親だろ」
丁度お水を飲んでいた時なので吹き出しそうになってしまった。無理やり飲み込んでコップを置く。
「年齢はギドの方が上じゃないの」
「でもどう見たって父親は王様だろ」
言葉に詰まった。申し訳ないけどはっきりと否定できない。だって確かにエーリッヒ様が一番年上っぽい。何も言えない私を無視してギドは続ける。
「俺が長男、マリーが長女。それでお嬢が次女で、弟が次男」
……なるほど。何か文句を言いたいが、絶妙にしっくりくるので何も言えない。
「お?結構いい感じだな」
ギドが嬉しそうに言った。エーリッヒ様は顔を顰めてギドを見た。
「お前のような息子はいらない」
そこなんだ、と思った。
「おいおい、そこは喜べよ。妹を守る良い兄貴だぜ?」
空気がピリッとした。リヒャルトはため息を吐くと、2人を無視して食事をし始めた。私もスプーンを手に取り、マリーに頷いて見せた。マリーとハンナも食べ始める。
「何度も殺そうとするやつが良い兄か?」
スープを飲みながら、エーリッヒ様はギドが嫌いなのかなと思った。私は何度殺されかけても、ギドのことは別に嫌いではないのだけど。
「根に持ってんな。それならこっちも言うけどな、思いっきり蹴りやがって。今でも痛えんだけど」
「手加減はした。生きているだろう?」
隣でマリーが「ギドが悪いでしょ」と呟いた。しかしギドの耳には入らなかったようだ。2人はピリピリと殺気を放ちながら文句を言い合っている。
ふと、笑顔を浮かべて壁際に立っているイェンスを見た。目が合うと笑みが深くなる。
「イェンス、あなたは一緒に食べないの?」
「ありがとうございます。ですが私はもう頂きましたから」
「では昼食からは一緒に食べましょう」
そう誘うと、イェンスは嬉しそうに笑いながら言った。
「私も家族に入れて頂けるので?」
「ええ、もちろん。空いているのは母親の席なのだけど」
冗談っぽくそう言うと、イェンスは可笑しそうに笑った。
「私は祖父でいいですよ。ぜひお祖父様と呼んでください」
笑ってしまった。しかしあながち間違いではないかもしれない。イェンスはエーリッヒ様の剣の師なのだから。
「母親の席はリーゼロッテ様にお譲りします」
そう穏やかな表情で言うとイェンスは厨房の方へと行ってしまった。今のはどう意味なのだろう。リヒャルトと目が合ったが、彼は何も言わずに目を逸らした。
確かベッドを借りて横になった。それから話をしていて……私は寝てしまったのか。汗でベタつく髪をかきあげる。最近はすぐに眠れる。というか、ここではすぐに眠くなる。
エーリッヒ様のおかげだろうなと思う。あの心地よい低い声が眠気を誘う。香りも落ち着く。だけど悪夢を見ることは変わらない。
「……リーゼロッテ」
掠れた低い声が私を呼んだ。どうやら起こしてしまったようだ。
「すみません。少し夢見が悪くて……」
何の夢を見たのか思い出そうとしたが思い出せない。ただ悪い夢を見たということだけが記憶に残っている。いつものことだ。まだ朝は来ない。部屋に戻ろうかと考えていると、エーリッヒ様に手を引っ張られた。そのままベッドへと沈む。
「大丈夫だ。あなたは大丈夫。何も気にすることはない」
囁くように言われ、体から力が抜けていく。どうしてエーリッヒ様の声はこんなにも落ち着くのだろう。うつらうつらとしながらそんなことを考えた。
その後は悪夢を見ることなく朝を迎えた。ベッドを出たエーリッヒ様はいつものように朝食を取りに行こうとしたが、今日は私も一緒に立ち上がった。
「お嫌でなければ食堂で頂きませんか?」
エーリッヒ様と私、マリーとハンナ、ギドとリヒャルトはそれぞれ。今は皆別で食べている。たまには皆で食べるのもいいだろう。
そう言うとエーリッヒ様は「あなたがそうしたいなら」と頷いた。
食堂の椅子に座っているとすぐにギドが来た。
「お?なんだ?そんなとこ座って」
いつもと同じ声色。昨日のことなど全く思い出させない様子だ。だから私も何もなかったように振る舞う。
「たまには一緒に食事をするのもいいでしょう?」
ギドは一瞬ポカンとすると、ハッと馬鹿にするように笑った。
「家族ごっこでもするつもりか?」
思わぬ言葉に驚いた。それだ。その言葉が一番近い。ギドは馬鹿にするつもりで言ったのだろうが、私にとっては悪い言葉には思えなかった。頬が緩んだ。
ギドはそんな私を見て面白くなさそうに舌打ちをすると「マリーと弟を呼んでくるぜ」とため息をついて出て行った。
「家族ごっことは?」
エーリッヒ様が私を見る。別に深い考えなどはない。
「リヒャルトは4歳の時に父を亡くしました。その後からは母が忙しくなり、家族で食事をしたことなどほとんどありません。だから、あの幸福を教えてあげたいと思ったのです」
リヒャルトの本当の家族などもう私しかいない。だけどここにいる皆となら、実現しうるのではないかと思った。
「……思えばここにいる皆が家族を亡くしていますからね。『ごっこ』でもいいのではないかと思ったのです」
家族というには育った環境が違いすぎる。家族というにはぎこちない。家族というには不安定。家族というには知らなさすぎる。だけど家族ごっこなら丁度いい。
ギドはすぐに3人を連れて戻って来た。座るように勧める。イェンスが皆の分の料理を持って来てくれた。手伝おうと腰を浮かすと「私1人で大丈夫です」て微笑まれた。その言葉にマリーも座り直すのが見えた。
「ギド、家族ごっこなら、誰がどの立場なの?」
なんとなく面白そうだと思って聞いていると、ギドは一番最初に問題発言をした。
「まず王様が父親だろ」
丁度お水を飲んでいた時なので吹き出しそうになってしまった。無理やり飲み込んでコップを置く。
「年齢はギドの方が上じゃないの」
「でもどう見たって父親は王様だろ」
言葉に詰まった。申し訳ないけどはっきりと否定できない。だって確かにエーリッヒ様が一番年上っぽい。何も言えない私を無視してギドは続ける。
「俺が長男、マリーが長女。それでお嬢が次女で、弟が次男」
……なるほど。何か文句を言いたいが、絶妙にしっくりくるので何も言えない。
「お?結構いい感じだな」
ギドが嬉しそうに言った。エーリッヒ様は顔を顰めてギドを見た。
「お前のような息子はいらない」
そこなんだ、と思った。
「おいおい、そこは喜べよ。妹を守る良い兄貴だぜ?」
空気がピリッとした。リヒャルトはため息を吐くと、2人を無視して食事をし始めた。私もスプーンを手に取り、マリーに頷いて見せた。マリーとハンナも食べ始める。
「何度も殺そうとするやつが良い兄か?」
スープを飲みながら、エーリッヒ様はギドが嫌いなのかなと思った。私は何度殺されかけても、ギドのことは別に嫌いではないのだけど。
「根に持ってんな。それならこっちも言うけどな、思いっきり蹴りやがって。今でも痛えんだけど」
「手加減はした。生きているだろう?」
隣でマリーが「ギドが悪いでしょ」と呟いた。しかしギドの耳には入らなかったようだ。2人はピリピリと殺気を放ちながら文句を言い合っている。
ふと、笑顔を浮かべて壁際に立っているイェンスを見た。目が合うと笑みが深くなる。
「イェンス、あなたは一緒に食べないの?」
「ありがとうございます。ですが私はもう頂きましたから」
「では昼食からは一緒に食べましょう」
そう誘うと、イェンスは嬉しそうに笑いながら言った。
「私も家族に入れて頂けるので?」
「ええ、もちろん。空いているのは母親の席なのだけど」
冗談っぽくそう言うと、イェンスは可笑しそうに笑った。
「私は祖父でいいですよ。ぜひお祖父様と呼んでください」
笑ってしまった。しかしあながち間違いではないかもしれない。イェンスはエーリッヒ様の剣の師なのだから。
「母親の席はリーゼロッテ様にお譲りします」
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