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池ポチャ
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「愛玲奈、君が好きだ」
真っすぐに私を見てそう言うのは、私の王子様、カイ・アルベルト。
王子と言えば誰もが真っ先に思い浮かべるであろう、金髪碧眼だ。
すごくかっこよくてすごく優しい。
綺麗な庭園でカイと二人きり。青い空。さわやかな風にさわさわと揺れる緑の葉。
向こうには壮大なお城が見えている。その告白は私の理想そのものだった。
私は自分の顔が熱くなるのを感じながら、自分よりも高い位置にあるカイの綺麗な顔を見上げた。
「もしよろしければ私とこの先を歩いてはもらえないだろうか」
もちろん、断る理由なんてあるはずもない。だって私はずっとこの言葉を待っていたのだから。
カイの言葉に迷うことなく頷こうとしたその時だった。
「……しの、にしの」
どこかから私を呼ぶ声が聞こえた。
何よ、もう、今いいところなのに。
唇を尖らせて、聞こえないふりをしようとしていると、さっきよりもはっきりとした声が私を呼んだ。
「西野愛玲奈!」
それと同時に後頭部にあまり強くない衝撃を感じた。
「邪魔しないでよ!」
せっかくのカイの告白だったのに、台無しだ。
叫びながら顔を上げると、そこにはカイの姿はおろか、綺麗な庭園すらなかった。
私の目の前に広がるのはいつもの見慣れた風景。
綺麗な庭園の代わりにいつもの教室。カイの綺麗な青い目の代わりにクラスメイト達の奇異の目。
そして呆れたような顔で私を見下ろす国語の先生がいた。
おそらく手に持っている丸めた教科書で叩かれたのだろう。
「邪魔はどっちだ?」
先生は邪悪な笑みを浮かべて私を見る。
邪魔はどっち? 私は何か邪魔をしたのだろうか。
「というと?」
言葉の意味を訪ねるように首を傾げると、先生は深いため息をついて言った。
「授業中に居眠りするだけならまだしも、ぐへぐへと変な笑い声を出すのはちょっと、な」
ぐへぐへ!? なにそれ、私そんな変な声出していたの?
ちょっと引いているような先生の表情に私は先ほどまで見ていた夢を思い返した。
カイと二人で散歩をして、告白される夢。
ふむふむと、頷いて確信する。
「それは仕方がない」
「仕方なくねえよ!」
先生が思わずと言った様子で叫んだ。
「仕方がないじゃないですか。カイに告白される夢ですよ」
カイは最近はまっている乙女ゲームの攻略対象だ。
すっっごいかっこよくて私の最推し。
昨日も夜遅くまでゲームをしていたので夢に見てしまったんだろう。
「誰だ、そのカイってやつは」
よくぞ聞いてくれました!
先生の言葉に私は嬉々として説明をし始める。
最近はオタク仲間達にもうっとおしがられて話をきいてもらえないんだよね。
「カイ・アルベルトです。金髪碧眼の王子様で、すんごくかっこいいんです!」
「なんだ? アニメかなにかのキャラか?」
「ゲームです。他にもいますよ」
視界の端で、「ゲッ」と顔を歪めるオタク仲間の千香が見える。
ふっふっふ、もう遅い。私はここぞとばかりに早口で喋った。
「大人しくて控えめのマクシミリアン・シュルツ、年上で優しいけど腹黒なヨハン・クレヴィング、チャラくていつも女の子に囲まれているレオン・ディターレ、年下でヤンチャなフロレンツ・ネスラー。皆すっごいかっこいいんです!」
「お前よく横文字ばっかり覚えられるな」
先生が感心したように私を見た。
この感じ、先生は興味を持っている!
「これだけ聞いてもきっとキャラクターの良さは分からないでしょう」
もっと詳しく説明してあげよう。そう思って口を開いた時だった。
「愛玲奈、ストップ! もういいから!!」
千香が席を立って私の口をふさいだ。
「ちょっと千香、何するの」
文句を言うと、更に強く抑えられて喋れなくなった。
「先生、これ以上は長くなるので。ほら、授業しましょう」
千香の言葉に先生は頷いて、最後に私を見下ろして、同情するように言った。
「その記憶力をテストに活かせたらいいんだけどな」
そんなことできるわけないじゃん! 私は現実世界に興味なんてないんだから!
喋れない代わりに心の中で叫ぶが、先生はもう教壇へと向かっていて私の方は見ていなかった。
授業が再開してようやく千香が私の口から手を離した。
そして席に戻る前に軽く頭をはたかれ、すごく残念なものを見る目で見られた。
「本当に、その記憶力を他に活かせたら天才なのにね……」
放課後、チャイムが鳴るのと同時に立ち上がり、カバンを手に取り、千香に手を振る。
「千香、ばいばい。また明日ね」
「うん、また明日」
部活がある千香はまだ帰れないので先に学校を出る。
早く帰ってゲームをしないと。もうすぐカイルートが終わるんだよね。
足早に歩いているとだんだん雲行きが怪しくなってきた。
帰るまでは降らないでくれたらいいんだけどな。
そう思いながらショートカットするために公園へと足を踏み入れる。
公園の中には大きい池がある。これがなかったらもっと最短距離をいけるんだけどな。
思ったってどうしようもない。池の横の道を歩いてゲームのことを考える。
昨日はいわゆる悪役令嬢にいじめられて、カイとの絆が深まった。多分今日あたりに悪役令嬢の断罪イベントが終わるだろう。
「それにしても私もファンタジー世界に生まれたかったな。そしたら、剣と魔法の練習して、壮大な冒険に出て、かっこいい王子様と結婚できたりして……」
えへえへ、と笑いがもれる。私が妄想を膨らませていたその時、強風が吹いた。
そして先ほどまで踏みしめていた地面がなくなった。
え!? 今の風強かったけどそんな私が飛ばされる程の風ではなかったよね!?
なんで私今浮いているの?
視線を動かして下を見てみると水が見えた。どうも運の悪いことに池の方へと飛ばされたらしい。
いや、おかしいでしょ。大人一人が飛ばされる風なんてそんなの台風でもなかなかないよ!?
「どういうことよー!」
声の限り叫んで私は池へと落ちた。
真っすぐに私を見てそう言うのは、私の王子様、カイ・アルベルト。
王子と言えば誰もが真っ先に思い浮かべるであろう、金髪碧眼だ。
すごくかっこよくてすごく優しい。
綺麗な庭園でカイと二人きり。青い空。さわやかな風にさわさわと揺れる緑の葉。
向こうには壮大なお城が見えている。その告白は私の理想そのものだった。
私は自分の顔が熱くなるのを感じながら、自分よりも高い位置にあるカイの綺麗な顔を見上げた。
「もしよろしければ私とこの先を歩いてはもらえないだろうか」
もちろん、断る理由なんてあるはずもない。だって私はずっとこの言葉を待っていたのだから。
カイの言葉に迷うことなく頷こうとしたその時だった。
「……しの、にしの」
どこかから私を呼ぶ声が聞こえた。
何よ、もう、今いいところなのに。
唇を尖らせて、聞こえないふりをしようとしていると、さっきよりもはっきりとした声が私を呼んだ。
「西野愛玲奈!」
それと同時に後頭部にあまり強くない衝撃を感じた。
「邪魔しないでよ!」
せっかくのカイの告白だったのに、台無しだ。
叫びながら顔を上げると、そこにはカイの姿はおろか、綺麗な庭園すらなかった。
私の目の前に広がるのはいつもの見慣れた風景。
綺麗な庭園の代わりにいつもの教室。カイの綺麗な青い目の代わりにクラスメイト達の奇異の目。
そして呆れたような顔で私を見下ろす国語の先生がいた。
おそらく手に持っている丸めた教科書で叩かれたのだろう。
「邪魔はどっちだ?」
先生は邪悪な笑みを浮かべて私を見る。
邪魔はどっち? 私は何か邪魔をしたのだろうか。
「というと?」
言葉の意味を訪ねるように首を傾げると、先生は深いため息をついて言った。
「授業中に居眠りするだけならまだしも、ぐへぐへと変な笑い声を出すのはちょっと、な」
ぐへぐへ!? なにそれ、私そんな変な声出していたの?
ちょっと引いているような先生の表情に私は先ほどまで見ていた夢を思い返した。
カイと二人で散歩をして、告白される夢。
ふむふむと、頷いて確信する。
「それは仕方がない」
「仕方なくねえよ!」
先生が思わずと言った様子で叫んだ。
「仕方がないじゃないですか。カイに告白される夢ですよ」
カイは最近はまっている乙女ゲームの攻略対象だ。
すっっごいかっこよくて私の最推し。
昨日も夜遅くまでゲームをしていたので夢に見てしまったんだろう。
「誰だ、そのカイってやつは」
よくぞ聞いてくれました!
先生の言葉に私は嬉々として説明をし始める。
最近はオタク仲間達にもうっとおしがられて話をきいてもらえないんだよね。
「カイ・アルベルトです。金髪碧眼の王子様で、すんごくかっこいいんです!」
「なんだ? アニメかなにかのキャラか?」
「ゲームです。他にもいますよ」
視界の端で、「ゲッ」と顔を歪めるオタク仲間の千香が見える。
ふっふっふ、もう遅い。私はここぞとばかりに早口で喋った。
「大人しくて控えめのマクシミリアン・シュルツ、年上で優しいけど腹黒なヨハン・クレヴィング、チャラくていつも女の子に囲まれているレオン・ディターレ、年下でヤンチャなフロレンツ・ネスラー。皆すっごいかっこいいんです!」
「お前よく横文字ばっかり覚えられるな」
先生が感心したように私を見た。
この感じ、先生は興味を持っている!
「これだけ聞いてもきっとキャラクターの良さは分からないでしょう」
もっと詳しく説明してあげよう。そう思って口を開いた時だった。
「愛玲奈、ストップ! もういいから!!」
千香が席を立って私の口をふさいだ。
「ちょっと千香、何するの」
文句を言うと、更に強く抑えられて喋れなくなった。
「先生、これ以上は長くなるので。ほら、授業しましょう」
千香の言葉に先生は頷いて、最後に私を見下ろして、同情するように言った。
「その記憶力をテストに活かせたらいいんだけどな」
そんなことできるわけないじゃん! 私は現実世界に興味なんてないんだから!
喋れない代わりに心の中で叫ぶが、先生はもう教壇へと向かっていて私の方は見ていなかった。
授業が再開してようやく千香が私の口から手を離した。
そして席に戻る前に軽く頭をはたかれ、すごく残念なものを見る目で見られた。
「本当に、その記憶力を他に活かせたら天才なのにね……」
放課後、チャイムが鳴るのと同時に立ち上がり、カバンを手に取り、千香に手を振る。
「千香、ばいばい。また明日ね」
「うん、また明日」
部活がある千香はまだ帰れないので先に学校を出る。
早く帰ってゲームをしないと。もうすぐカイルートが終わるんだよね。
足早に歩いているとだんだん雲行きが怪しくなってきた。
帰るまでは降らないでくれたらいいんだけどな。
そう思いながらショートカットするために公園へと足を踏み入れる。
公園の中には大きい池がある。これがなかったらもっと最短距離をいけるんだけどな。
思ったってどうしようもない。池の横の道を歩いてゲームのことを考える。
昨日はいわゆる悪役令嬢にいじめられて、カイとの絆が深まった。多分今日あたりに悪役令嬢の断罪イベントが終わるだろう。
「それにしても私もファンタジー世界に生まれたかったな。そしたら、剣と魔法の練習して、壮大な冒険に出て、かっこいい王子様と結婚できたりして……」
えへえへ、と笑いがもれる。私が妄想を膨らませていたその時、強風が吹いた。
そして先ほどまで踏みしめていた地面がなくなった。
え!? 今の風強かったけどそんな私が飛ばされる程の風ではなかったよね!?
なんで私今浮いているの?
視線を動かして下を見てみると水が見えた。どうも運の悪いことに池の方へと飛ばされたらしい。
いや、おかしいでしょ。大人一人が飛ばされる風なんてそんなの台風でもなかなかないよ!?
「どういうことよー!」
声の限り叫んで私は池へと落ちた。
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