池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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可愛い妹

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アリアに少し待ってください、と言われ、一人で部屋で待つこと十分。

戻って来たアリアと一緒にお義母様の元へと向かう。

歩いているとメイドさんらしき人が思ったよりもいっぱいいてびっくりした。

ところでうちはどの程度の貴族なんだろう。

これもエレナは知っていて当然なのでアリアには聞けない。

アリアは少し歩くと、一つの扉の前で立ち止まった。そして私を見る。


「エレナ様、昨日から喋り方が少しおかしいですが、奥様の前ではお気を付けください」


え? 喋り方に気を付けるってどうやって喋ったらいいの?

私が何か言う前にアリアは扉をノックして開けた。


「失礼いたします」


え、え、え、ちょっと待ってよ、どうしたらいいの!

内心大慌てだけど、既に扉は開かれている。


「まあ、エレナ、ここに来るのは珍しいですわね。どうしましたか?」


部屋の中にいたのはすごく綺麗な人だった。

黒に近い紺色の髪の美人。すごく若いけど、子供がいるってことは二十代半ばくらいかな。

すごい優しそうな人。思ったよりも緊張しないかも。

私は慌てているのを隠すように笑みを浮かべたまま、お義母様の前に立った。

お義母様は持っていたペンを置いて私を見る。

あ、仕事中だったかな。邪魔しちゃった……?

とりあえずお嬢様っぽく喋ったらいいのかな?


「お義母様、お邪魔をして申し訳ございません」


ちょっと、今喋っているの誰!?

私の口は動いているのに、声と喋り方が違うので自分だとは思えない。

正直、違和感がすごいし、いつ噛んでもおかしくない。

さっさと用件だけ伝えよう。


「あの、私、カミラに会いたいんですが、ご許可をいただけませんか?」


私がカミラの名前を出すと、それまでにこやかだったお義母様の目つきが変わった。


「まあ、カミラに?」


笑顔は変わっていないというのに、急にするどくなった目つきに思わず後ずさってしまう。

いけない、相手は親なんだから怯えるなんて失礼だ。


「いけませんか? 女の子度同士お話をしたいと思ったのですが……」


私いじめないよ。害ないよ。

そんな気持ちを込めて微笑んで見せる。

お義母様はそんな私を見て少し考えていたが、頷いてくれた。


「そうですね、カミラも退屈でしょう。エレナに優しくされたらきっとあの子も喜びます」


つまり、優しくしろよ、ということですね。

まあいいよ。いじめるつもりなんて最初からないし。


「ありがとうございます。それでは早速別棟の方へ行ってまいります」


頭を下げて部屋を出ると、アリアが小さな声で「上出来です」と褒めてくれた。

よし、褒められた!

すごく違和感があったけど、きっとこれからはこれに慣れないといけないんだろうな……また池に落ちたら愛玲奈に戻れないかな。

とはいえ、今度死んだらどうなるのか分からない。池に落ちるのは遠慮したい。

私はアリアにはばれないように小さくため息をついて、別館へと向かった。


屋敷から一歩外へ出ると、冷たい風が吹き抜けた。

あれ、なんか空気が綺麗だな。

真っ青な空に住んでいる空気。

改めて、ここがゲームの中の作り物の世界ではないことを感じた。

アリアに続いて、隣にある別館へと入ると、いくつもの視線が私の方を向いた。

そして、皆が頭を下げる。

メイドさんが四人に執事さんが一人。さっきまでいた本館とは全然人数が違う。

ここがカミラのいる別館なんだ。決して狭くはない。だけど人が少ないからか、とても寂しく思える。


「エレナ様がカミラ様に会いたいとおっしゃっております」

「カミラ様に?」


アリアの言葉に執事さんが驚いたように目を見開いた。


「うん、カミラに会いに来たの。ダメですか?」

「いえ、どうぞ、お上がりください」


執事さんは驚きをすっと隠し、階段を示すと、メイドさんの一人が案内をしようと近付いて来た。

そのメイドさんの後ろを私が歩き、私の後ろをアリアが歩く。

朝も思ったけど、歩くの遅くない? 何、令嬢ってそんなものなの?

ゆっくり歩くのにも常に誰かの後ろを歩くのにも慣れない。

いや、私本当にこんな環境で生きていけるのかな。

歩きながらふっと遠い目をしてみた。

メイドさんはある扉の前で立ち止まり、ノックをした。


「失礼いたします、カミラ様」


うわ、めっちゃかわいい子がいる。

そこには日当たりのいい窓際の椅子に座って本を読んでいる女の子がいた。

え、この子がカミラ? すんごいかわいいんだけど。

お義母様譲りの紺色の髪に、大きな目、白い肌。

カミラはとてつもない美幼女だった。

これは将来有望だわ。婚約者をとられるっていうのも納得。

一人でうんうん、と頷いていると、本から視線をあげたカミラと目が合った。


「あの、カミラ様」

「こんにちは、カミラ」


メイドさんが何かを言おうとするのを遮ってカミラに話しかける。

カミラは戸惑ったような表情を浮かべながらも小さな声で「こんにちは」と言った。

顔色が少し悪い。そう言えばアリアが、カミラは病弱だって言っていたな。今日はすこし話したら帰ろう。

さて、エレナはカミラと会ったことがあるのだろうか。それによって色々と変わるんだけど……。


「私のこと分かるかな?」

「……いえ、すみません」


おお、知らないのか。じゃあ会ったことはないね。よかった。

できるだけ優しい声を出すように心がけて話しかける。


「私はエレナ。カミラのお姉ちゃんだよ」

「お姉ちゃん……?」


うわあ、かわいい!

愛玲奈の時は一人っ子だったけどずっと妹が欲しかった。それがまさかこんな形で叶うなんて!

内心テンション爆上がりだが、それを表に出してカミラに怖がられたら嫌なので、ぐっと抑えて笑顔を浮かべながらカミラの方へと近付く。

カミラも椅子から立ち上がり、私を見上げた。


「うん、お姉ちゃん。八歳よ。カミラは?」

「五歳です」

「そっか、じゃあ、改めてよろしくね」


私がカミラの頭をポンポンと撫でると、カミラははにかんで頷いた。

心なしか顔色が良くなった気がする。


「はい、よろしくお願いします、お姉ちゃん」


やだ! 私の妹すんごい可愛い!!

こんな可愛い子になら婚約者取られてもいい! でも絶対に仲良くしよう!!
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