池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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心強い味方

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「さて、エレナ様、午後からの勉強のことですが」


昼食を食べ終わるとアリアがそう切り出した。

そう、それが気になっていた。ファンタジー世界の勉強はぜひしたい。気になることが山盛りだ。

エレナがどんな勉強をしていたのかは分からない。だけど文字も読めない私に同じように勉強しろというのは無理な話だ。

どうか文字が読めなくても平気な勉強でありますように!


「少々お待ちくださいませ」


そう言うとアリアは部屋を出てどこかへと行ってしまった。

ええ、そんな中途半端なところで行かないでも……私がドキドキしながら待っていると、アリアは数冊の本を手に、すぐに戻って来た。


「お待たせいたしました。今日はこれです」


うん? アリアが机に本を並べて見せてくれる。だけどその本が何で書いてあるのか全く分からない。

首を傾げてアリアを見上げる。何が来る? 数学? 歴史? それとも科学? 体育だったらちょっと得意なんだけどな……。


「とりあえず文字を読めるようになっていただきます」

「……え?」


文字を読めるように? ってことはエレナは文字が読めないの? 五歳のカミラは読めるのに?


「そっか、文字読めなかったんだ……」


安心して、思わずそう呟いてしまった。

すごく小さな声だったけど、アリアには聞こえてしまったようだ。


「何をおっしゃっているんですか?」


アリアは首を傾げて私を見た。

なんでもないよ。そう言おうと口を開いた時、アリアが衝撃的なことを言った。


「そんなわけございません」

「え……?」


「そんなわけございません」? 

え、何? どういうこと?


「エレナ様はすごく優秀な方でした。文字が読めないなんてそんなことあり得ません」


……ん? もしかしてばれてる? 私がエレナじゃないって、アリアは分かっているの?

嫌な汗がじわっと出てくる。

どうしよう、まだごまかせる?

こればれたらどうなるんだろう。

家から追い出される? ううん、それだけならまだいい。最悪の場合殺されるかもしれない。

そう思ってぞっとした。どうしよう、どうにかごまかさないと。


「あの、アリア……?」


頭をフル回転させる。

なんて言えばいい? 私が本物のエレナだと思わせるために、私は今なんて言えばいいの?

だけどどんなに考えても何も言葉が出ない。

私はエレナ・フィオーレのことを何も知らないのだ。


「……ご安心を」


必死に考えていると小さな声が聞こえた。


「え?」


反射的に顔を上げてアリアを見上げる。

アリアの表情は何を考えているのか分からない、さっきまでと同じ無表情だった。


「あなたがエレナ様でもエレナ様じゃなくても、私にとってはそれほど問題ではありません」

「……どういうこと?」


自分が仕えるお嬢様の中身が変わっていることは問題じゃないの?

……いや、十分問題でしょ。何、アリアってもしかして嫌々エレナについているの?


「私はエレナ様のことを何も知りませんので」


そう言ったアリアはどこか寂し気に見えた。

何も知らないって、私がエレナじゃないって気付いてるじゃん。何も知らないならそんなこと分からないでしょ。

私がそう思ったのを見抜いたかのようにアリアは続ける。


「エレナ様は八歳にして、基本的なマナーは全て習得されておりました。言葉遣いから歩き方、食事の仕方。どれをとっても完璧でした。それが池に落ちたくらいで失われるわけがありません。お医者様も特に体に問題はないとおっしゃっておられましたし」


……なるほど。確かに私にお嬢様のマナーなんて分かるわけがない。勉強したことはおろか、本物のお嬢様を見たこともなかったのだから。


「じゃあ昨日から私がエレナじゃないって分かっていたの?」

「ええ、最初は変だと思っただけだったんですが、私のことどころか、ご自分のことも分かっておられないようでしたので。喋り方もエレナ様とは似ても似つきません」

「そりゃそうだよ。普通の家で育った私がいきなりお嬢様になんてなれるわけないよ……!」


私は冷たい白いテーブルに突っ伏した。ばれたならもうお嬢様のふりをする必要なんてない。

だけど、そんな私をアリアはそっと起きるように促した。


「だけど私が知っているのはそれだけなのです。エレナ様はいつも人との間に一線引いておりました。……私にさえ」


アリアは沈んだ表情でそう言ったが、ハッとして私を見ると、また無表情に戻る。


「私はエレナ様にお仕えしてはいますが、それ以上でもそれ以下でもありません。私の仕事はエレナ・フィオーレ様にお仕えすることです」


うん? つまり、中身が誰でも外見がエレナだから私に仕えるってこと?

つまりアリアはエレナ付きのメイドに自分から望んだわけではないんだね。

本物のエレナには悪いけど、その事実は私を安心させるには十分だった。とりあえず味方一人確保、かな。


「偶然にも、エレナ様は先週教師たちに暇を出しておられます。ですので全て私が教えることになります。とりあえずひと月で文字を読めるようになり、最低限のマナーを身につけることを目標にしましょう。」


教師たちに暇を? って辞めさせたってことだよね?

それって本当に偶然なのかな? もしかしたらエレナはこうなることが分かっていたんじゃ……?


「エレナ様? お勉強を始めますよ」

「あ、はい」


今考えても仕方がない。とりあえず今は私がエレナとなるために必要なことを覚えることが先だ。

アリアは本を私の前に広げる。


「……だけど、本物のエレナはどこに行ったんだろう」


やっぱり池に落ちた時に死んだと考えるのが一番妥当なのかな。

私の呟きにアリアは一瞬手を止めたが、何も言うことはなかった。

っていうか、目標高くない!?
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