池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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猛勉強

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早速その日から猛勉強が始まり、私は休む間もなく知識を頭に詰め込んだ。

とりあえずアリアに聞いて分かったのは、今の季節は春だということ。

エレナの父親は仕事で街の外に行っていて留守だということ。

エレナは伯爵家の令嬢で、本当のお母さんはエレナが二歳の時に亡くなってること。

五歳上と二歳上に兄がいること。そしてその二人は今は学校の寮にいること。

私も十歳になる二年後には学校に入ること。

それから令嬢の常識。正直これが一番きつかった。

文字、言葉遣い、仕草、食事のマナー。

それはそれはとてもつらい日々だった。

食事の時間を含めて全てが勉強なのだ。これも大好きなファンタジー世界のことを知るんだって思ったら座学はそこまで辛くはない。だけど、令嬢としてのマナーがすごく辛かった。

休憩中もアリアがそばにいるので、あくまでも令嬢らしく休憩しないといけない。

机にひじをつくのはもちろん、椅子の背もたれを使うことすらも禁止だ。


「エレナ様、膝を閉じて座ってください」

「エレナ様、背筋が伸びておりませんよ」

「エレナ様、食器の音は立ててはいけません」

「エレナ様、その言葉遣いはどうかと思われます」


常にこれだ。もう疲れた……。

だけどアリアのおかげで、なんとか文字を読むことはできるようになったし、それなりに恥ずかしくないマナーを身につけることができた。それも当初の目標のひと月で。


「とりあえずこのくらいで大丈夫でしょう。まだまだ先は長いですが」


アリアのその言葉で一気に力が抜けた。

いやー、私頑張った! 今までにこれほど勉強したことなんてない。

はー、と大きく息をつく。


「それは令嬢らしくありません」

「はい、ごめんなさい」


とりあえず合格は出たが、特訓が終わったわけではないらしい。

そりゃそうだよね、これからずっとこれで生きていくんだから。


「それはそうと、アリア」

「はい、なんでしょう?」

「カミラの所に行きたいんだけど」


そう、私はあれから結局カミラのところを一度も訪れることができていない。

アリアに止められていたのだ。

だけど合格したのならそろそろいいんじゃない?

そう思って椅子に座ったままアリアを見上げると、アリアはするどい視線を私に向けた。

うっ……! 何、膝閉じてるよ。背筋も伸ばして背もたれ使ってないよ。何がいけないの。


「エレナ様、もう一度おっしゃってくださいませ」


……言葉遣いか。

油断をしたら愛玲奈の時の喋り方が出る。

だってまだひと月しか経っていないんだもん、当たり前じゃない!

心の中で文句を言いながらも私は言い直す。


「そろそろカミラに会いたいのだけれど、行ってもよろしいかしら?」


令嬢らしく微笑むのも忘れない。

令嬢らしい言葉遣いの必勝法を私は編み出していた。とりあえずゆっくり喋って困ったときは敬語!

あとは語尾に「かしら」とか「ですわ」とかつけること。いわゆるお嬢様言葉を心がければいい。

アリアは満足そうに頷いた。


「はい、昼食後に向かうようにあちらにも伝えておきます」

「ありがとう」


丁度その時、他のメイドさんが食事を持って来てくれた。

他の人がいる時は喋らないようにアリアに言われている私は、微笑んだまま椅子に座って配膳してもらうのを見ていた。

お金ものちの食事はフルコースのように出てくるのかと思っていたが、違ったようだ。少なくともここでは違う。

デザート以外のものが全て机に並べられて、それをアリアが少しずつ皿に盛ってくれる。それを繰り返す。

量が多いので全部食べることはできない。だけどそれでいいようだ。

最初の頃に食べたいものを言って取ってもらおうとすると、怒られた。

令嬢は黙って座っていないといけないそうだ。

だけどアリアは優秀で、食べている私の表情から、好き嫌いを見分けて、何も言わなくても私の食べたいものを取ってくれる。

ちなみに残ったものはアリアを初め、メイドさんたちが食べるらしい。それで私の食事が終わると、必ずアリアはどこかへ行っていたのだ。

それにしても十分でご飯を食べて戻ってくるアリアすごすぎ。もっとゆっくり食べてきてもいいのに。

そういえば私がエレナになった次の日は普通の一人分の食事だった。

わざわざアリアに取り分けてもらうこともしなかったはずだ。

食べ終わってからアリアにそう言うと、アリアは何でもないように言った。


「エレナ様じゃないことは分かっていたので私がそうするように言っておいたのです。どこのどなたかも分かりませんし、そちらの方が食べやすいかと思いまして」

「……なるほど」


アリアは私が思っている以上にすごいようだ。

確かにいきなりこれだったらテンパって食事どころじゃなかっただろう。


「色々とありがとう。アリアのおかげでこの世界でも生きていける気がするわ」

「この世界、ですか?」


何気なくお礼を言っただけのつもりだった。だけどアリアはおかしな顔をしている。


「どうしたの?」

「……あなたは違う世界からいらしたのですか?」


ん? あれ、言ってなかったっけ?


「そうですけれど?」


首を傾げてそう言うと、アリアは驚いたように私を見た。


「……それで今の季節すらもご存じなかったのですね。まさか他の世界の方とは思いませんでした。てっきりどこかの平民なのかと思っておりました」


そうなんだ。まああながち間違っていないけど。

異世界の平民だし。


「ところで、カミラは寂しがっていないかしら」


一度しか会っていなけど、帰り際も寂しそうにしていたくらいだ。

「また遊びに来るから」と言ってもうひと月も経ってしまった。


「寂しがってはおられましたが、カミラ様も一生懸命勉強されていましたよ」


なんと、カミラも頑張っているらしい。

やばい、カミラに笑われないように頑張らないと。


「エレナ様、くれぐれもボロを出さないようにお願い致します」


アリアがにっこりと私を見る。その笑顔がどうも黒く見えて、私は小さな声で返事をするしかなかった。
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