池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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お義母様へのお願い

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あれ、今笑われた? 何で? え、もしかして馬鹿にされた?

お父様とお義母様がいなくなって、この場を離れていく召使さんたちを見て、後ろに立っているアリアを振り返った。


「私今笑われましたわよね? お嬢様っぽくなかったからかしら?」

「いえ、私にも分かりかねます……」


アリアにも分からないなんて、本当に何!?

そう思ってさっきのお義母様の身のこなしを思い出す。

……あれに比べたら確かに私の身のこなしなんて笑ってしまうね。


「まあいいわ。部屋へ戻りましょう。……ところでカミラは出てきていないのね」


辺りを見回してみてもカミラの姿どころか、いつも別館で見る召使さん達の姿もない。

アリアに「とりあえずお部屋に戻りましょう」と言われ、歩き出す。

もしかして大きな声で言うようなことではないのかもしれない。

お父様と一緒に帰ったのか、今まで見なかった男の人が数人屋敷の中を歩いていた。

アリア曰くお父様付きの文官だそうだ。お父様すごい!


「カミラ様ですが」


部屋に戻ると、アリアはお茶の準備をしながらも口を開いた。

私はいつもの椅子に座って、話を聞く体勢をとる。


「とても病弱なのです」

「それは前に聞いたわ」


私が聞きたいのはそういうことじゃない。

どうしてカミラは外に出ないのかということだ。お父様が返ってきたのだ。お義母様ですらお出迎えするのにカミラがいないのはおかしい。


「カミラは外に出るのを嫌がっているように見えたわ」


以前、散歩に行こうと誘った時のことを思い出す。あの感じだと出られないのではなく、出たくないのじゃないかと思う。


「申し訳ありませんが、詳しいことは存じ上げません。ただ、カミラ様は病弱なので別館で一人静かに過ごし、外へは出られないと奥様はおっしゃっておりました」


ふむ、全然分からん。

まあいいか。とりあえずカミラとは今まで通り別館で会おう。

別に外に出ないといけない理由もないし。


「ところで、アリア」

「はい」

「お義母様は普段お忙しいのかしら?」


何で急にそんなことを聞くのだろう、とアリアの顔に書いてある。

私も逆の立場ならそう思うだろう。だってこれはついさっき思いついたことなのだから。

今まではお義母様の迷惑にならないよう、カミラに会うことをお願いした一件以来、あまり会うことがない。

屋敷の中でばったり会うことはあるけれど、わざわざ会いに行くことはしていない。

だけど私はお義母様にお願いしたいことができてしまった。


「お忙しいとは思いますが……どうされましたか?」

「私、お義母様に礼儀作法を教えてもらいたいのです」


私の言葉にアリアは目を見張り、「失礼いたします」と私のおでこを触った。

……本当に失礼だ。


「熱はなくてよ」


そっとアリアの手をどけ、微笑むと、アリアは不自然な笑顔で私を見た。


「えっと、私の知らないところで何かございましたか?」


なんで顔が引きつっているのよ。

私は文句を言いたかったが、きっと令嬢らしくないことなので止めておく。


「申し訳ございません。礼儀作法の勉強が特に苦手なエレナ様が突然どうされたのかと、驚いてしまいました」


確かに私は礼儀作法の特訓が一番嫌いだ。窮屈だししんどいし。

だけど今日のお義母様を見て思ってしまった。


「悪かったわね。ただ、お義母様のように洗練された身のこなしができるようになりたいと思ったのよ」


そう言うのはなんだか恥ずかしくて、アリアの顔が見れなかった。

今まではアリアに教えてもらいながらも、貴族のそれを間近で見たことがなかった。

だけどさっき、お義母様を見て、今まで習った礼儀作法に現実味が沸いた。そして、それを私もできるようになりたいと思った。

つまりはお義母様に憧れたのだ。


「そうですね、奥様の身のこなしは、私が知っている方の中でも特に綺麗だと思います。奥様がエレナ様にお教えくださるならばきっと、エレナ様も奥様のようになれるでしょう」


私もそう思う。だってあの綺麗な身のこなしだもん。あんな素敵なお義母様に教えてもらえたら私だって多少はましになるだろう。

だけど問題はお義母様が忙しいのではないかということ。そして、私が嫌われているかもしれないということ。

だってお義母様から見たら、私は別に娘じゃないし、むしろ自分の娘をいじめるんじゃないかと思うくらいの、邪魔ものだ。

それにシンデレラとか白雪姫の継母ってすごいいじわるじゃない?

別に疎まれるのは構わないけど、明らかに嫌いオーラを出されるのはさすがに辛い。


「とりあえず奥様にご予定を伺ってまいりましょうか。旦那様が帰られてさらに忙しいかもしれませんし」

「ええ、お願い」


アリアが部屋を出て行き、数分しか経たないうちに戻って来た。


「奥様が今からお会いしてくださるようです」


え、今から? てっきり早くても明日かと思ったのに。


「旦那様はすぐにお仕事に行かれるそうですので、奥様はいつも通りお過ごしになられるそうです」


わお、帰ってすぐにお仕事って、お父様忙しそうだね。

私おかしいところないかな。服を見下ろし、アリアに髪を整えてもらい、部屋を出る。

なんか、急展開。自分で言ったことだけど、こう早く話ができるとは思わなかった。


「失礼いたします」


お義母様の部屋に来るのは二度目だ。お義母様はお部屋で一人でお茶を飲んでいた。


「お忙しいところ、時間を取っていただき、ありがとうございます」


お父様にしたように礼をしてみると、お義母様の視線を感じる。

ちょっと恥ずかしいけど別にいい。これから礼儀作法を教えて欲しいと頼むのだ。現状を知られるのはむしろ歓迎。


「エレナ、わたくしにお願いがあると聞きましたが、なんでしょう?」

「はい、私、お義母様に礼儀作法を教えてもらいたく存じます」


はっきりとそう言った私を、お義母様は驚きを隠せない様子で見た。

あ、あれ? そんなに驚くことなの? 血は繋がっていないとはいえ母子でしょう?

また失敗してしまったのかと、私は頭を抱えたくなった。
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