池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
11 / 300

お父様の帰還

しおりを挟む
「おはようございます、エレナ様」


アリアの静かな声で目を開けると、もう既に朝日が昇っていた。

私はもぞもぞと布団から出て、寝ぼけた頭で今日の予定を考えた。

午前中は勉強。これはいつも通り。

午後からはカミラのところへ。これもいつも通り。

猛勉強が終わったあの日以来、私の毎日はそんな感じだ。

たまにカミラのところへ行かずに勉強をすることもある。アリア曰く、毎日行くのは迷惑だそうだ。

姉妹間で迷惑も何もないと思うのだけど。

というか、あれ、今日は何かあったような気がするんだけど。

椅子に座って、朝食の準備をしているアリアを見る。今日もアリアは美人だ。

その視線に気が付いたのか、アリアは「どうされましたか?」と私を見た。

流石、できるメイドは主の視線にも鋭く気付く。


「今日は何か予定があった気がするのだけれど」

「本日は旦那様がお帰りになられます」


うん? 旦那様? って誰だっけ?

少し考えて思い出した。ああ、そうだ、お父様が帰って来るんだった。


「えっと、確かお仕事で街から出られているのでしたわね?」


もっと詳しいことを教えて欲しくてそう言うと、アリアは察して色々と話してくれた。


「はい、旦那様はお仕事でひと月半ほど前から街の外へ出られておりました。ここが王都であることはご存じですよね?」


それは前にアリアが教えてくれた。


「旦那様が向かわれていたのは王都より南へ、馬車で二日ほどの場所でございます」


おお、馬車! ファンタジーだ! 見てみたい!

というのも、私はまだこの屋敷の外へ出たことがない。せいぜいお庭を散歩するくらいだ。

必要なものは全て揃えられていて、外に出る用事がない。正直つまらない。

そう言うと、アリアは令嬢とはそんなものだと言った。お金持ちの子供は無防備に外を歩くことはしないらしい。特に女の子は。

まあそりゃ、外に出て誘拐なんてことになったら怖いけど。


「旦那様は普段はお城に勤められており、数日に一度帰って来られます」

「毎日は帰って来ないのね」


前のエレナをよく知っているであろうお父様には正直あまり近寄りたくない。

ほっと息をついたのがアリアにはばれたのか、アリアは更に言った。


「エレナ様はあまりお父様とはお話されておりませんでした」

「え?」


お父さんだよね? お義母様と違って本当の。話さないの?

聞けば聞くほどエレナのことが分からない。

エレナがどんな子なのかはもちろん、何を考えていたのかも。

まあ、あまり人と関わらなかったみたいだし、私にとっては楽なんだけど。


「おそらくお昼前には帰って来られるかと思いますので、今日のお勉強は喋り方の復習をいたしましょう」


はあ、頑張るか。

その後、アリアの指導のもと、私は言葉遣いを復習し、お昼前になった。


「エレナ様、旦那様がおかえりです。お出迎えに参りましょう」

「はい」


アリアの後を続いてゆっくりと歩く。

正直緊張している。今まであまり関わっていなかったとは言え、自分の父親だ。

私がエレナじゃないってばれたらどうしよう。

それに怖い人だったらどうしよう……。

ドキドキしながら玄関を出ると、既に馬車が止まっていた。


「こんにちは、お義母様」


お義母様が立っている隣に私も並ぶと、お義母様は私を見て少し驚いたような表情を浮かべた。

え、何、私何かした? 挨拶しただけなんだけど。


「こんにちは、エレナ」


挨拶を返してくれたことにほっとして、改めて馬車の方を見ると、ひとりの男の人が降りてきた。


あの人がお父様? 私の茶色い髪とは違い薄めの金色。顔立ちに関してはよく分からないけど、似ているような気もする。

というか、想像よりもずっと若いことに驚いた。三十代半ばくらいだろうか。結構かっこいい。

お義母様がすっと一歩前に出て礼をする。

うわ、めっちゃ優雅。私も見習わないと。


「おかえりなさいませ、あなた」

「ただいま帰った。留守の間、問題はなかったか?」


お父様もお義母様の前へと歩き、会話を始める。こうして見ると美男美女ですごくお似合いだ。

その様子を私がぼーっと見ていると、いつの間にか話が終わっていたようで、お父様が私の前へと来た。

やば、ぼーっとしてた。

えっと、まずは挨拶ね。

先ほどのお義母様の礼を意識して私も頭を下げる。


「おかえりなさいませ、お父様。ご無事でよかったですわ」


顔を上げてにっこりと微笑んでみせると、お父様は目を見張った。

あれ、またこの反応。私何かおかしかった?

アリアの視線は特に感じない。ということは大きな失敗はしていないはずだ。大丈夫。


「どのようなところへ行かれたのですか? 道中どうでしたか? またゆっくりお話をお聞かせください!」


ぜひともこの世界について色々と聞きたい。ファンタジー世界はとても気になる。


「あ、ああ」


興味津々な私を見て、お父様は少し戸惑っているように見える。

はっ、しまった、はしたなかった?


「申し訳ありません、つい……」


慌てて謝ると、お父様の表情がふっと柔らかくなった。

怒ってはいないみたいだ。よかった。


「このひと月半で、すっかり雰囲気が変わったな。また部屋へおいで。色々な話をしてあげよう」


そう言ったお父様は、私の頭をぽんと撫でて屋敷の中へと入って行った。

お義母様も後に続き私の前を通る時に、私を見てふっと笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...