池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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お父様の帰還

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「おはようございます、エレナ様」


アリアの静かな声で目を開けると、もう既に朝日が昇っていた。

私はもぞもぞと布団から出て、寝ぼけた頭で今日の予定を考えた。

午前中は勉強。これはいつも通り。

午後からはカミラのところへ。これもいつも通り。

猛勉強が終わったあの日以来、私の毎日はそんな感じだ。

たまにカミラのところへ行かずに勉強をすることもある。アリア曰く、毎日行くのは迷惑だそうだ。

姉妹間で迷惑も何もないと思うのだけど。

というか、あれ、今日は何かあったような気がするんだけど。

椅子に座って、朝食の準備をしているアリアを見る。今日もアリアは美人だ。

その視線に気が付いたのか、アリアは「どうされましたか?」と私を見た。

流石、できるメイドは主の視線にも鋭く気付く。


「今日は何か予定があった気がするのだけれど」

「本日は旦那様がお帰りになられます」


うん? 旦那様? って誰だっけ?

少し考えて思い出した。ああ、そうだ、お父様が帰って来るんだった。


「えっと、確かお仕事で街から出られているのでしたわね?」


もっと詳しいことを教えて欲しくてそう言うと、アリアは察して色々と話してくれた。


「はい、旦那様はお仕事でひと月半ほど前から街の外へ出られておりました。ここが王都であることはご存じですよね?」


それは前にアリアが教えてくれた。


「旦那様が向かわれていたのは王都より南へ、馬車で二日ほどの場所でございます」


おお、馬車! ファンタジーだ! 見てみたい!

というのも、私はまだこの屋敷の外へ出たことがない。せいぜいお庭を散歩するくらいだ。

必要なものは全て揃えられていて、外に出る用事がない。正直つまらない。

そう言うと、アリアは令嬢とはそんなものだと言った。お金持ちの子供は無防備に外を歩くことはしないらしい。特に女の子は。

まあそりゃ、外に出て誘拐なんてことになったら怖いけど。


「旦那様は普段はお城に勤められており、数日に一度帰って来られます」

「毎日は帰って来ないのね」


前のエレナをよく知っているであろうお父様には正直あまり近寄りたくない。

ほっと息をついたのがアリアにはばれたのか、アリアは更に言った。


「エレナ様はあまりお父様とはお話されておりませんでした」

「え?」


お父さんだよね? お義母様と違って本当の。話さないの?

聞けば聞くほどエレナのことが分からない。

エレナがどんな子なのかはもちろん、何を考えていたのかも。

まあ、あまり人と関わらなかったみたいだし、私にとっては楽なんだけど。


「おそらくお昼前には帰って来られるかと思いますので、今日のお勉強は喋り方の復習をいたしましょう」


はあ、頑張るか。

その後、アリアの指導のもと、私は言葉遣いを復習し、お昼前になった。


「エレナ様、旦那様がおかえりです。お出迎えに参りましょう」

「はい」


アリアの後を続いてゆっくりと歩く。

正直緊張している。今まであまり関わっていなかったとは言え、自分の父親だ。

私がエレナじゃないってばれたらどうしよう。

それに怖い人だったらどうしよう……。

ドキドキしながら玄関を出ると、既に馬車が止まっていた。


「こんにちは、お義母様」


お義母様が立っている隣に私も並ぶと、お義母様は私を見て少し驚いたような表情を浮かべた。

え、何、私何かした? 挨拶しただけなんだけど。


「こんにちは、エレナ」


挨拶を返してくれたことにほっとして、改めて馬車の方を見ると、ひとりの男の人が降りてきた。


あの人がお父様? 私の茶色い髪とは違い薄めの金色。顔立ちに関してはよく分からないけど、似ているような気もする。

というか、想像よりもずっと若いことに驚いた。三十代半ばくらいだろうか。結構かっこいい。

お義母様がすっと一歩前に出て礼をする。

うわ、めっちゃ優雅。私も見習わないと。


「おかえりなさいませ、あなた」

「ただいま帰った。留守の間、問題はなかったか?」


お父様もお義母様の前へと歩き、会話を始める。こうして見ると美男美女ですごくお似合いだ。

その様子を私がぼーっと見ていると、いつの間にか話が終わっていたようで、お父様が私の前へと来た。

やば、ぼーっとしてた。

えっと、まずは挨拶ね。

先ほどのお義母様の礼を意識して私も頭を下げる。


「おかえりなさいませ、お父様。ご無事でよかったですわ」


顔を上げてにっこりと微笑んでみせると、お父様は目を見張った。

あれ、またこの反応。私何かおかしかった?

アリアの視線は特に感じない。ということは大きな失敗はしていないはずだ。大丈夫。


「どのようなところへ行かれたのですか? 道中どうでしたか? またゆっくりお話をお聞かせください!」


ぜひともこの世界について色々と聞きたい。ファンタジー世界はとても気になる。


「あ、ああ」


興味津々な私を見て、お父様は少し戸惑っているように見える。

はっ、しまった、はしたなかった?


「申し訳ありません、つい……」


慌てて謝ると、お父様の表情がふっと柔らかくなった。

怒ってはいないみたいだ。よかった。


「このひと月半で、すっかり雰囲気が変わったな。また部屋へおいで。色々な話をしてあげよう」


そう言ったお父様は、私の頭をぽんと撫でて屋敷の中へと入って行った。

お義母様も後に続き私の前を通る時に、私を見てふっと笑った。
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