池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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今後の方針

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お義母様からカミラについてのお願いがあってから数週間。特に進展のないままだった。

夏の暑さももうそろそろピークを過ぎるかという時期だ。


「あつ……」


思わずそう呟くと、アリアが咎めるように私を見た。

いや、つい出ちゃったんだよ。仕方ないじゃない。

この世界では、令嬢は腕や脚を見せることはとても恥ずかしいことらしい。

つまり、私はこの暑い中でも長袖のフリフリワンピースである。

暑いに決まっている。だけど私はまだマシなのだろう。

私はまだ子供だから膝丈のスカートだけど、アリアは長袖に足首までのスカートだ。


「アリアは暑くないの?」

「もう夏ですからね。暑いですよ」


そう言いながらも涼しい顔をしているアリアはすごい。

窓の外を見ると、容赦のない日光が降り注いでいる。外はもっと暑そうだな。

屋敷の中はまるでクーラーがかかっているかのように涼しい。外よりはマシって程度だけど。


「ところで、」


私は持っていたペンを置いてアリアを見る。アリアは「何でしょう」と首を傾げた。


「どうしてわたくしはまだ勉強をしているのかしら?」


私もアリアと同じように首を傾げて笑みを浮かべる。

文字は完璧に読めるし書ける。歴史や地理はまだ勉強していないけど、そういうのは学校へ行ってから習うことらしい。これはアリアが言っていた。

お義母様から礼儀作法に関しての合格ももらっている。

最初の頃は使い慣れなかったインクをつけて使うペンも、書き慣れなかったこの世界の文字も、すっかり定着している。

なのにどうして私はまだ机に向かって座っているのだろうか。どうして毎日毎日勉強しているのだろうか。


「エレナは本当にこんなにも勉強をしていたのかしら?」


どう考えても八歳の子供に対しての量じゃない。


「エレナ様は優秀でございましたので」

「アリアはいつもそれよね? わたくしが今しているのは本当に学校に入ってもいない内から勉強することなのかしら?」


最近は昔の言葉、つまり古語について勉強をしている。

新しい言葉を覚える上に、それが今の言葉よりもずっと難しいのだから、中身が高校生の私でも頭がパンクしそうだ。それなのにこれが本物の八歳に分かることだとは思えない。

……それとも私が馬鹿なだけなのか。

アリアは少し考えた後、私をまっすぐに見て言った。


「エレナ様は勉強をしたくないのでしょうか?」

「そういうわけじゃないのよ。ただ、これは本当に今勉強することなのかと不思議に思っているだけなの」


そう、実際勉強すること自体が嫌なわけではない。

愛玲奈の時は何よりも勉強が嫌だったけど、エレナになってこの世界のことを知ることは本当に楽しいし、色々な知識が身につくことが嬉しい。

今ではむしろ勉強は進んでしたいと思っている。

ファンタジー世界に興味があるというのが理由の大半を占めるが。


「もしこれが今すべきことじゃないのなら、もっとゆっくり過ごしたいと思ったのよ」

「ゆっくり過ごしたい、ですか。ちなみにゆっくり過ごすというのは何をするのでしょう?」

「え?」


何を? 何をするんだろう。

そう聞かれるとパッと出てこない。

愛玲奈の時に私が勉強をそっちのけでしていたこと……。ゲーム、漫画、アニメ、動画。どれもこの世界にないものばかりだ。

あ、あれ……? もしかして私することない?


「他の令嬢は普段何をして過ごしておられるのかしら?」

「ゆっくりとお茶を飲まれたり、お庭をお散歩されたり、お友達を呼んでお話されたり、でしょうか」


ゆっくりとお茶? お茶するだけ? そんなの退屈で耐えられない。

お庭をお散歩。これはもう既にしている。だけどこれも長い時間は退屈だ。

お友達を呼んでお話。論外。私はお友達がいない。

ということは、私勉強をやめたら本当にすることないじゃない!

絶望する私に、アリアは子供を諭すような口調で言った。


「エレナ様、カミラ様も頑張っておいでなのです」


知ってる。数日に一度遊びに行くたびにそれまで読めなかった言葉が読めたり、意味がわからなかった言葉の意味を知っていたりするから。

だから私も頑張ろうと思ってきた。


「エレナ様がカミラ様に色々と教え上げられると嬉しいでしょう?」

「まあ、それは……」


なるほど、カミラに教えてあげる。確かにそれには私の勉強が必須だ。

ぐらっと心が揺れる。


「それに、エレナ様がたくさんのことをお知りになっていますと、カミラ様はきっと尊敬されますよ」

「はい! わたくし頑張って勉強します! アリア、続きをしましょう!」


カミラからの尊敬はぜひ欲しい!

そう言うと、アリアはにっこりと笑った。

私はまんまとアリアの策略にハマってしまったようだ。だけどそんなこと、カミラからの尊敬の念に比べると些細なことだ。


「全力で頑張りますわ」


再びペンを握り本へと向かう。

おっと、最後までちゃんと話をしないと。


「アリア、わたくしは勉強が嫌なわけではありません。だけど、ずっと机に向かって勉強しているだけではなく、もっとたくさんのことを経験し、学んでいきたいのです」


愛玲奈の時はさぼっていたこと。せっかく若くなったし、ファンタジー世界に来たのだから色々知りたい。


「だから、紙とペンばかりの勉強だけじゃなく、実際に触れることのできる勉強がしたいと思っていますの。わたくしには令嬢が学ぶことにどういうものがあるのか分かりませんので、アリアに少し考えてみて欲しいの」


私の言葉にアリアは少し驚いたような表情を浮かべ、だけど、少し頬を緩めた。


「かしこまりました、エレナ様。このアリア、エレナ様のために微力を尽くさせていただきます」


よし、オッケー。勉強はいいのだけど、正直ずっと座りっぱなしで体がバキバキなのよね。

これでずっと椅子に座っているのを回避できるといいな。

後はアリアに任せた!
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