池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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カミラの涙

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結局その日はそれ以上動くことができず、私は大人しく部屋へと戻って昼食を食べた。


「アリア、午後はカミラの所へ行きましょう」

「はい、エレナ様はお疲れではありませんか?」

「ええ、大丈夫よ」


本当は疲れても動きたくない。だけど、昨日も一昨日もカミラのところに行けなかったし、今日は行っておきたい。

カミラに寂しい思いはしてほしくないのだ。それに可愛いカミラに会ったら疲れも吹っ飛びそう。


「アリアのご飯が終わったら行きましょう」

「かしこまりました」


そう言ってアリアは部屋を出て行った。

私は一人、本をめくる。稽古の後にバルトルトが貸してくれた体作りの本だ。

筋トレや食事のことについてすごく詳しく書かれている。

ふむふむ、なるほど。やっぱりタンパク質よね。

本にそう書かれているわけではないけど、かみ砕いてまとめるとそういうことだ。

食事に関してはアリアにお願いしてみよう。あと、筋トレは時間がある時は部屋でもしよう。

勉強の息抜きとかにちょうどいいんじゃない?

ただ土足だから床でしたら服が汚れるよね。

アリアに下にひくものがないか聞いてみよう。

色々考えている内にアリアが戻って来た。


「お待たせいたしました」

「全然待っていないわよ。もっとゆっくり食べてきてもいいのよ」

「急いでいるわけではありませんので、お気になさらず」


いつもと同じ返答に私はため息をついて立ち上がった。

十分も経たずに戻ってきているんだから急いでないわけがないでしょう。

言っても無駄だと分かり切っているので、その言葉を飲み込んで私は別館へと向かった。



「ごきげんよう、カミラ」

「お待ちしておりました、お姉さま」


いつも通りカミラの部屋へと入ると、カミラが嬉しそうに近付いて来た。

あああ、可愛い、癒される……!

頬が緩みそうになるのを、ぐっと力を入れて令嬢らしく微笑む。


「今日はどんなお話をしていただけるのでしょうか?」


カミラが立ったまま私に話をねだる。

最近はカミラが少しでも外に興味を向けるよう、私が外であったことを色々と話しているのだ。

カミラも楽しそうに聞いてくれるので、外に興味がないわけでもなさそうだし。……成果はまだないけど。


「カミラ、座ってからお話ししましょう。今日はとっておきのお話があるのよ」


いつものようにソファに並んで座って、私はカミラに剣のお稽古をしたことを話した。

カミラは目を輝かして話を聞いてくれる。

ついでに明日からは午後からお稽古をするので、会いに来る時間が少し遅くなることを伝えた。


「……そうですか」


カミラは目に見えて元気がなくなり、俯いた。

あああ、失敗した! でも私の都合でクルトお兄様とバルトルトには迷惑をかけられない。


「ごめんなさいね」


カミラの頭を慰めるように撫でると、カミラはパッと顔を上げて明らかな作り笑いを浮かべた。


「気にしないでください。お姉さまが謝ることではありませんから」


今にも泣きだしそうなのが見て分かる。

……五歳の子がする表情じゃないよ。

胸がぎゅっと締め付けられるような笑顔に、私はどうしていいのか分からない。

……私が剣のお稽古を止めたらいいのかな。でもカミラがそれを知ったらきっと自分を責めるよね。

せめてカミラが外に出れたら一緒にお稽古できるんだけどな。カミラがそれを望むかは別として。

何も言えず、ただカミラの頭を撫でていると、カミラが私を見て言った。


「お母様が私に外に出るように言われるんです。お姉さまも言われますか?」


カミラの言葉にドキッとして手が止まった。

え、なんで私の考えていたことが分かった? ……そんなわけないよね。

私はカミラに分からないように深く息を吐いた。

多分カミラは私がお義母様からお願いされていることが分かっている。なんとなくそう思った。


「……そうね、確かに外に出て欲しいとは思っているわ。お義母様からもそうお願いされているの」


私の言葉にカミラがショックを受けたような表情になった。

……だよね。でも嫌われたくはないよぉ。


「だけどね、別に急がなくてもいいのよ。カミラが外に出られないのは理由があるのでしょう? わたくしが普通に外に出ることができるからってカミラにそれを強要はしたくないの。わたくしにできることとカミラにできることは違うわ」


もちろん出て欲しいとは思っている。色々なものをその目で見て欲しいと思うし、カミラと一緒に外を歩きたい。


「わたくしにはカミラの気持ちは分からないし、理解できない。だけどカミラの気持ちに寄り添いたいとは思っているの。だから、カミラが外に出たくなって、出られるようになったらでいいの。一緒に色々なところに行って、色々なことをしましょう」


できるだけ私の気持ちを正直に言ってみた。これで嫌われてしまったらもう仕方がない。

カミラに婚約者をとられる未来を迎えるだけだ。……寂しいけど仕方がない。

カミラが私を見上げたまま泣きそうに顔を歪めた。

ああー、ダメだったか……。

それまでカミラの頭を撫でていた手を離すと、カミラが俯いて小さな声で言った。

しずくがぽたぽたとソファに落ちているのが見える。


「も、申し訳ありません、今日はもう……」

「ええ、また来るわ」


カミラに帰るように促されたのは始めてた。

また来る、とは言ったもののそれはもう叶わないだろう。私は最後にカミラの頭をポンと撫でて、部屋を出た。

アリアは私を気遣うように見たけど何も言わない。


「カミラに嫌われてしまいましたわ」


そう言ってアリアに笑って見せたけど、うまく笑えなかった。
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