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公爵令嬢の到来
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突然開かれたドアに驚いていると、カイが小さな声で困ったように呟くのが聞こえた。
「噂をすれば、だね」
小さなため息が聞こえる。なるほど、そりゃため息もつきたくなるわ。
開かれたドアの向こうには女の子が一人立っていた。
あー、小さいけどベアトリクスだなぁ。つり目の美少女。将来が楽しみになるほど、顔が整っている。
ベアトリクスはつかつかと部屋に入ってくると、皆の顔を見回した。そして私で視線を止める。
睨まれている……。さて、私はどうするべきか。そんなことを考えている間に彼女はカイへと視線を移して言った。
「カイ様、わたくしという婚約者がいながらこの女は誰ですか? わたくしが聞いたカイ様と親しくしている者の中にこの女の名前はありませんでしてよ」
うわ、怖っ! カイの友好関係まで調べてるの? やばい、ストーカー予備軍?
「婚約はまだ成立していませんよ、クラッセン公爵令嬢。私が誰と一緒にいようがあなたには関係ありません」
うわーお、カイやるじゃん! 敬語で突き放されるって結構傷付くんだよね。……まあ私はやられたことはないけど。
「いいえ、カイ様はわたくしの腕を掴みましたもの。責任をとっていただく必要があります。そんな女部屋から追い出してください」
おお? 私追い出される? 別にいいよ、もうカイたちに関わる気はないから。気にしないで、ベアトリクス。
ちょっとだけ嬉しい展開に、早速立ち上がろうとしたら、私よりも先に立ち上がったヨハンが、私が座ってる椅子の後ろに立って、肩を抑えた。
あ、あれ、立ち上がるなってこと? いやいやいや、私伯爵家だし。公爵家の令嬢に逆らうなんてできないし。
そもそもヨハンだって伯爵家じゃん。家格だけだったらうちよりも下だよ。公爵家に逆らっていいの?
そんなことを思っている内にカイとフロレンツも立ち上がる。
カイはベアトリクスの方へ行き、フロレンツは私の方へ来ると、まるで私を守るかのように前に立った。まるで小さなナイトだ。
……やだ、超かわいい。
「エレナはクリスの友人です。私やクリスが殿下と仲良くしていることはご存じでしょう?」
「エレナちゃんは僕の従姉なのです」
フロレンツが初めて言葉を発した。その声はまだ幼くて、高くてとても可愛かった。きゅんきゅんしてしまう。
ん? あれ、ちょっと待って、私フロレンツの従姉なの? それは新事実だ……。
「伯爵家ごときが公爵家のわたくしに逆らうというの? ヨハン、フロレンツ」
あああ、ほら、ベアトリクスが怒ってるじゃん! 私はいいから! 出て行くから! というか出て行きたいから!
そう言ってしまいたいけどまさか言えるわけもなく。クリスに視線を向けると、クリスは平然とそこに座っていた。私の視線に気が付くと、にこっと笑う。そして面白そうにカイへと視線を向けた。
……違うから! 私をここから出してっていう視線だったんだけど、頼みの綱にはまったく伝わらない。
「クラッセン公爵令嬢、あなたは公爵家の令嬢なので、皆が敬意を払ってはいますが、実際にはまだ貴族として認められてはいません。公爵家で教育を受けているあなたはもちろん知っていますよね?」
……はい? 当たり前のように言うカイの言葉が理解できなくて、私はフリーズする。
カイはそんな私を気にせずに続けた。
「この場にいる中で貴族として認められているのは十三歳のヨハンのみ。公爵家だの伯爵家だの、十歳に満たないあなたの言うことではありません。あなたは公爵令嬢ではありますが、権力は持っていません。ヨハンと皇族である私以外、あなたも含めて皆対等です」
待って、私それ知らないんだけど。つまり、今この場ではカイ>ヨハン>その他ってこと? まじか、そんな大切なことは教えていてよ、アリア……。
ベアトリクスがぐっと言葉に詰まる。カイが優勢だけどこんなことで折れる悪役令嬢じゃない。ゲームの中でも結構なしぶとさを見せていたし。
「それでもその女がここにいるのはおかしいですわ! どうしてわたくしを差し置いてカイ様の隣に座っているのですか! そんな女カイ様にふさわしくありませんわ! そこには公爵家のわたくしが座るべきです!」
……まだ言うか。たった今ベアトリクスは公爵家だと認められていないって言われたばっかりなのに。大体私はカイを狙ってなんてないし。
「フィオーレ伯爵令嬢は私に婚約を迫るわけでもないし、先ほど会ったばかりです。私が誰と話をするかなんて婚約者でもないあなたに決める権利はありませんよ」
その権利は婚約者にもないでしょ。心の中で突っ込みながらのほほんと見ていると、ベアトリクスはきっと私を睨んだ。
そして私に対する罵詈雑言を並べ立てる。うわあ、愛玲奈時代にもそんなに悪口を言われたことはないんだけど。それって令嬢としてどうなの? 私には恥をさらしているだけにしか見えないんだけど。
悪口を浴びさせられながらも、私は冷静だった。だって別に子供にそんなこと言われたってなんとも思わないし。
大体私完全なる被害者だよ。別に来たくもないのに連れてこられて、会うつもりのなかった人たちに会って、初対面の女の子に罵詈雑言を並べられる。
うわあ、私可哀そう。
フロレンツとヨハンの表情は見えない。クリスはまじかって顔をしていて、レオンは明らかに怒っている。マクシミリアンは俯いていて何を考えているのかよく分からない。
そして、カイは怒っているような、困っているような、悲しいような、複雑な表情。私にはそれが今にも泣きだしそうに見えた。
思わずため息がこぼれた。本当は何もする気はなかった。だけど子供のこんな表情を見たら放っておけない。
……仕方がない。とりあえず婚約の回避云々は置いておいて、今の気分を少しでも良くしてあげよう。
私は立ち上がるとベアトリクスに向き合った。
「噂をすれば、だね」
小さなため息が聞こえる。なるほど、そりゃため息もつきたくなるわ。
開かれたドアの向こうには女の子が一人立っていた。
あー、小さいけどベアトリクスだなぁ。つり目の美少女。将来が楽しみになるほど、顔が整っている。
ベアトリクスはつかつかと部屋に入ってくると、皆の顔を見回した。そして私で視線を止める。
睨まれている……。さて、私はどうするべきか。そんなことを考えている間に彼女はカイへと視線を移して言った。
「カイ様、わたくしという婚約者がいながらこの女は誰ですか? わたくしが聞いたカイ様と親しくしている者の中にこの女の名前はありませんでしてよ」
うわ、怖っ! カイの友好関係まで調べてるの? やばい、ストーカー予備軍?
「婚約はまだ成立していませんよ、クラッセン公爵令嬢。私が誰と一緒にいようがあなたには関係ありません」
うわーお、カイやるじゃん! 敬語で突き放されるって結構傷付くんだよね。……まあ私はやられたことはないけど。
「いいえ、カイ様はわたくしの腕を掴みましたもの。責任をとっていただく必要があります。そんな女部屋から追い出してください」
おお? 私追い出される? 別にいいよ、もうカイたちに関わる気はないから。気にしないで、ベアトリクス。
ちょっとだけ嬉しい展開に、早速立ち上がろうとしたら、私よりも先に立ち上がったヨハンが、私が座ってる椅子の後ろに立って、肩を抑えた。
あ、あれ、立ち上がるなってこと? いやいやいや、私伯爵家だし。公爵家の令嬢に逆らうなんてできないし。
そもそもヨハンだって伯爵家じゃん。家格だけだったらうちよりも下だよ。公爵家に逆らっていいの?
そんなことを思っている内にカイとフロレンツも立ち上がる。
カイはベアトリクスの方へ行き、フロレンツは私の方へ来ると、まるで私を守るかのように前に立った。まるで小さなナイトだ。
……やだ、超かわいい。
「エレナはクリスの友人です。私やクリスが殿下と仲良くしていることはご存じでしょう?」
「エレナちゃんは僕の従姉なのです」
フロレンツが初めて言葉を発した。その声はまだ幼くて、高くてとても可愛かった。きゅんきゅんしてしまう。
ん? あれ、ちょっと待って、私フロレンツの従姉なの? それは新事実だ……。
「伯爵家ごときが公爵家のわたくしに逆らうというの? ヨハン、フロレンツ」
あああ、ほら、ベアトリクスが怒ってるじゃん! 私はいいから! 出て行くから! というか出て行きたいから!
そう言ってしまいたいけどまさか言えるわけもなく。クリスに視線を向けると、クリスは平然とそこに座っていた。私の視線に気が付くと、にこっと笑う。そして面白そうにカイへと視線を向けた。
……違うから! 私をここから出してっていう視線だったんだけど、頼みの綱にはまったく伝わらない。
「クラッセン公爵令嬢、あなたは公爵家の令嬢なので、皆が敬意を払ってはいますが、実際にはまだ貴族として認められてはいません。公爵家で教育を受けているあなたはもちろん知っていますよね?」
……はい? 当たり前のように言うカイの言葉が理解できなくて、私はフリーズする。
カイはそんな私を気にせずに続けた。
「この場にいる中で貴族として認められているのは十三歳のヨハンのみ。公爵家だの伯爵家だの、十歳に満たないあなたの言うことではありません。あなたは公爵令嬢ではありますが、権力は持っていません。ヨハンと皇族である私以外、あなたも含めて皆対等です」
待って、私それ知らないんだけど。つまり、今この場ではカイ>ヨハン>その他ってこと? まじか、そんな大切なことは教えていてよ、アリア……。
ベアトリクスがぐっと言葉に詰まる。カイが優勢だけどこんなことで折れる悪役令嬢じゃない。ゲームの中でも結構なしぶとさを見せていたし。
「それでもその女がここにいるのはおかしいですわ! どうしてわたくしを差し置いてカイ様の隣に座っているのですか! そんな女カイ様にふさわしくありませんわ! そこには公爵家のわたくしが座るべきです!」
……まだ言うか。たった今ベアトリクスは公爵家だと認められていないって言われたばっかりなのに。大体私はカイを狙ってなんてないし。
「フィオーレ伯爵令嬢は私に婚約を迫るわけでもないし、先ほど会ったばかりです。私が誰と話をするかなんて婚約者でもないあなたに決める権利はありませんよ」
その権利は婚約者にもないでしょ。心の中で突っ込みながらのほほんと見ていると、ベアトリクスはきっと私を睨んだ。
そして私に対する罵詈雑言を並べ立てる。うわあ、愛玲奈時代にもそんなに悪口を言われたことはないんだけど。それって令嬢としてどうなの? 私には恥をさらしているだけにしか見えないんだけど。
悪口を浴びさせられながらも、私は冷静だった。だって別に子供にそんなこと言われたってなんとも思わないし。
大体私完全なる被害者だよ。別に来たくもないのに連れてこられて、会うつもりのなかった人たちに会って、初対面の女の子に罵詈雑言を並べられる。
うわあ、私可哀そう。
フロレンツとヨハンの表情は見えない。クリスはまじかって顔をしていて、レオンは明らかに怒っている。マクシミリアンは俯いていて何を考えているのかよく分からない。
そして、カイは怒っているような、困っているような、悲しいような、複雑な表情。私にはそれが今にも泣きだしそうに見えた。
思わずため息がこぼれた。本当は何もする気はなかった。だけど子供のこんな表情を見たら放っておけない。
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