池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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子供だけのお茶会

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向かって左からフロレンツ、レオン、カイ、私、クリス、ヨハン、マクシミリアンの順に半円状に座る。

……どうしてこうなった。そしてどうして私が真ん中に座っているのか。

本気で頭を抱えたくなったその時、執事さんがお茶を出してくれた。一口飲むと香りが口の中に広がり、すごくお高いお茶だと分かる。

だけど今は悠長にお茶を楽しんでいる場合ではない。

私は攻略対象達に関わる気は全くないのだから。ヒロインと一緒に、とかならまだ分かる。だけどモブである私はゲームの進行に関わるようなことをする気はない。

せいぜい自分の婚約者を奪還されないようにするだけで。

実際、エレナはここでカイたちに会ったのだろうか。でもゲームにクリスなんて出てこなかった。私が知っているのはカイルートの途中までだけど。

もしかしたら他のルートでは出てきたのかも……。でも分かんないよ。確かめようもないしな。


「エレナちゃん」

「はい?」


考え事を遮ってヨハンが私の名前を呼んだ。まあ別にいいけど。考えたってどうしようもないし。

とりあえずヒロインが出てきてから影を薄くしておいたらいいよね。


「さっきはすまなかった」


おっと? ヨハンに頭を下げられる覚えはないよ。

頬に手を当てて令嬢らしく首を傾げてみる。


「なんの話でしょうか? わたくしがクリスに謝らないといけないのは分かるのですけれど、わたくしがヨハン様に謝られる覚えはないのです」


他の人に同意を得ようとして見回すと、皆が驚きの表情を浮かべていた。唯一クリスはいつも通りだ。

ああ、向こうに座っているフロレンツも訳が分かっていなさそう。

今の言葉の何がいけなかったのか。本当に分からない。ヨハンに謝られる何かがあったのかな。

お義母様だったら分かるんだろうな……私はまだまだだ。


「ごめんなさい、本当に分かりませんの。わたくしは今何に対しての謝罪を受け入れるべきなのか、後学のために教えてくださいませ」

「兄様がエレナの腕を掴んだことに、だよ」


クリスが隣でそう教えてくれる。だけど私は「は?」と間抜けな声が出た。

腕を掴む? それがダメなの?

腕だよ。ちょっと掴んだだけだよ。そりゃぷにぷにだったら少し恥ずかしいけど、そんなに謝ることじゃないよね。だって私まだ子供だし。

やっぱりこの世界の常識は理解できない。


「ついクリスと同じように扱ってしまった、本当にすまない」

「いえ、気にしないでください。わたくし、別になんとも思っておりませんので」


そう言いながら、お義母様が聞いたら絶対に怒るな、と思った。どんなに礼儀作法を身につけても、咄嗟に出てくる言葉は愛玲奈の基準での常識だ。

令嬢は多分謝罪をしっかり受け入れないといけない。

私の言葉を聞いたカイは思わずといった様子で声を上げた。


「何とも思っていない? それは本心かい?」

「ええ、ここにはわたくしを叱るお義母様がいませんもの。それにヨハン様が腕を掴んで下さらなかったらわたくし、動揺で全く声が届きませんでしたもの。ああ、ちょっとだけ、鍛えていてよかったな、とは思いましたわ」


驚きに目を見張るカイ。そんなに驚くことなのかな。

これは失敗、なのかな……?


「もちろん、知ったからには次からはしっかりと謝罪していただきますわよ」


とりあえず令嬢らしく一言を付け加えておくと、フロレンツ以外の皆が可笑しそうに笑った。フロレンツはまだいまいちよく分かっていないようだ。

分かる、分かるよ、フロレンツ。私もよく分からないもん。


「あいつがこの子みたいだったらよかったのにな、カイ」


笑い混じりにそう言うレオンの声にはからかいが含まれている。カイは困ったように笑った。

あいつって誰だろう。


「何かあったの? あいつって誰?」


クリスが身を乗りだして、面白そうに聞いた。

というか、クリスにちゃんと謝る暇もなく話題が変わってしまった。せっかくの友情に亀裂が入ったら嫌だから、ちゃんと謝っておきたいんだけど……。

でも今は口を挟める雰囲気じゃない。それに『あいつ』が誰なのか、何があったの、すごく気になる。

私もクリスと一緒にカイを見ると、カイは仕方がなさそうに口を開いた。


「ベアトリクス・クラッセン。クラッセン公爵の一人娘だよ」


……え? ベアトリクスって、悪役令嬢じゃん。確かに小さい頃からカイと交流があったって言っていたような気がする。


「半月前にクラッセン伯爵と城に来て初めて会ったんだけど、彼女がこけそうになったところを助けるために腕を掴んだんだ」

「それでベアトリクスは失礼だって怒って、カイとの婚約を迫っているんだ。笑えるよな、あの女」

「レオン、その言い方はいくらなんでも失礼だよ」


カイはレオンの言葉を諫めるが、本当のところカイもそう思っているだろう。

カイはベアトリクスを助けただけなのにこうやって婚約を迫られるなんて。

そして実際、ベアトリクスはカイの九歳の誕生日にカイと婚約をしている。ということは放っておいたらこのまま婚約することになるだろう。

カイの誕生日は秋だ。ただ詳しい日にちが分からない。もうすぐ秋になろうという今、どのくらいの時間が残されているのか。


「殿下、失礼ですが、お誕生日はいつですか?」

「ひと月後だよ、十月十日」


今日が九月十日。ぴったりひと月だ。

さて、あとひと月で何ができるか。……あれ、私何を考えているんだろう。今ここでカイの婚約を妨害したらゲームの進行に関わってしまうんじゃない?

やっぱり放っておくべきだよ。だって私モブだもん。ごめんね、カイ。でも大丈夫、いずれヒロインと幸せになれるから。


「カイの誕生日がどうかしたの?」

「……いいえ、なんでもありませんわ」


目を伏せて首を横に振ったその時だった。部屋のドアがノックもなしに開かれた。
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