池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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襲撃

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それはお城通いを始めて数週間経った頃だった。

私とクリスはいつも通り馬車でお城へと向かう。休暇が終わったヨハンは学校へ行っていて、一緒に乗っていない。


「それにしてもエレナすごいね。私が思ってるよりずっと勉強も進んでいたし、初めて習うダンスだってほぼ習得してるじゃん」

「先生方がすごいからよ。ダンスだって殿方が上手いので、わたくしは置いていかれないように精一杯ですもの」


ダンスの練習は、毎日相手が変わる。カイの日もあるし、マクシミリアンの日もある。レオンも練習に付き合ってくれている。フロレンツはまだ身長が釣り合わないから難しいけど。

その時に手が空いている人が付き合ってくれて、私は早く覚えないと、と必死なだけだ。だって申し訳ないもん!

皇族やら公爵子息やら侯爵子息やら……練習相手にするなんて贅沢すぎるよ! 三人ともすごいかっこよくて、人気なんだもん。他の令嬢方に申し訳ない。ばれたらベアトリクスどころじゃない。少なくとも貴族令嬢の半分は敵にまわすことになるだろう。


「今日の相手は誰なんだろうね」

「クリスは一緒にダンス習わないの?」


私がダンスや礼儀作法を特訓している間、クリスはどこかへ行っていて、何をしているのかは知らない。

別に詮索する気はない。だけど、ベアトリクスに喧嘩を売った私だけでなく、カイ達ととても仲のいいクリスも私と似たような状況なんじやないかと思う。クリスなら大丈夫だろうけど、やっぱりちょっと心配だ。


「うん、私はーー」


途端、馬車がガタン、と揺れて止まった。


「な、何!?」


思わず腰を浮かすと、正面に座っていたクリスがそっと、立ち上がって、私の前に立った。促されるままに私はもう一度座る。

外から複数人の足音が聞こえる。四人はいるね……。

襲撃? ベアトリクスの差し金?


「大丈夫だよ」


小さな声でそう言ったクリスはいつも通り笑っていた。クリスの手がそっと肩に触れて温かい。

護衛は外に一人。お城の騎士だから強いと思うけど……。御者は平気かな。狙いは私だよね……。

馬車の外に出た方がいいのか。最悪の場合、魔法を使うように、アリアに言われている。更に、お城について来られないアリアに隠し武器も渡されている。

太ももにナイフが二本。スカートの上から触って確認する。……大丈夫、騎士団長のヴェルナー様に鍛えられているんだから。


それが五分だったのか十分だったのか分からない。私にはすごく長く感じた数分間、外からは足音と呻き声が聞こえていた。何がどうなっているのか全然分からない。不安で仕方がなかったけど、クリスは私を守るように立ったまま動かない。

……子供に守られるばかりじゃダメだ。クリスは普通とは違うけど、それでも根っからの令嬢なんだから。

ぐっとお腹に力を入れて、耳をすましていた時だった。何頭もの馬の足音が聞こえ、そして馬車の扉が開かれた。

びくっとなって、クリスの手を握る。


「エレナ、クリス、平気かい?」

「で、殿下!?」


外から顔を出したのはカイだった。

え、なんで? なんでカイがここにいるの?

首を傾げているとカイはおかしそうに笑った。


「彼は風の魔力の使い手なんだ。声を届けてくれたんだよ」


カイの視線の先には護衛騎士の男の人。そっか、風の魔力はそういう風にも使えるんだ。


「とりあえず城に行こう」


カイはそう言うと馬車に乗り込んできた。クリスは何も言わずに私の隣に座り、正面にカイが座る。

ドアが閉められ、少しするとガタン、と馬車が動いた。ガラガラカポカポと音が聞こえる。窓からはヴェルナー様の姿が見えた。

……よかった。ヴェルナー様がいるなら安心だ。

国の騎士団長であるヴェルナー様に稽古をつけてもらって、そのすごさを本当に知ることができた。

あの人は誰にも負けない。例え相手が数人でもヴェルナー様が負けるなんてあり得ない。国の騎士団長というのは伊達ではなかった。

それからは何事もなく、私たちはお城に着くことができた。

クリスに次いで馬車を降り、いつもの部屋へと歩く途中、チリ、と嫌な感じがして、後ろを見た。

……ベアトリクスか。

私の視線の先に気が付いたクリスが、すぐに前を歩くカイに声を掛けようとした。が、私はそれを止めて、ベアトリクスから視線を逸らした。

だってまだベアトリクスの仕業って決まったわけじゃないし。そもそもベアトリクスがしたからってカイにどうにかしてもらう理由にはならない。あれは私の問題で会って、私がどうにかしないといけない問題だ。教育を受けさせてもらうだけでも十分すぎるのだ。

クリスは一瞬、私を気遣うように見たが、何事もなかったかのように歩き出す。

私も背中に視線を感じながらも、気にせずに歩く。

……流石に命の危機を感じたのは初めてだけど、これからはこれが日常になるのかな。本当に、令嬢というのは面倒だ。

ため息を一つ落とし、私は前を見て歩いた。
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