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残念な婚約者
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顔は悪くはない。さすがゲームの世界。だけど顔以外が悪い。ラルフのことは全然知らないけどもう既に分かる。
私はアリアの前に出た。
「大変申し訳ありません、ラルフ様。まさか来られるとは思っておりませんで。わたくしの不手際ですわ」
初対面の挨拶はしない。ラルフだってまだ学校に入っていないし、何よりもこいつを私よりも上だと認めたくない。
礼もせずににっこりと笑って謝ると、ラルフはまだぶつぶつ言っていた。私はそれを頷きながら聞き流す。バルトルトに視線を向けると、バルトルトは屋敷の中に入って行った。
これでお義母様に伝わるだろう。後はこいつをどうにかして追い返したいのだけど……聞くふりをしながら考え込んでいると、ガラガラと馬車が門から入って来た。
今度こそクリスだ!! 絶望の中に光が差したような気分だった。お城に行かないといけないからって、この場を去ろう!
よっし!
「誰だ?」
ラルフは馬車を振り返り、誰が下りてくるのかをじっと見ている。ドアが開いて、いつもは勢いよく飛び出してくるクリスだったが、今日はしずしずと下りてきた。
おお、令嬢バージョンのクリスだ! 久しぶり!
「おはようございます、エレナ様」
「ええ、おはようございます、クリスティーナ様。いつもお迎えに来ていただいて助かっておりますわ」
しれっとこれから出かける予定だと言っておくが、ラルフに通じた様子はない。
クリスはラルフへと視線をやった。
「こちらはクリスティーナ・クレヴィング様。いつも仲良くしていただいてますわ。そしてこちらはラルフ・ローマン様。わたくしの婚約者ですの」
二人は軽く目を合わせると、何も言わずにすぐに目を逸らした。
クリスがにっこりと笑う。
「まあ、エレナ様、婚約が決まったのですね。おめでとうございます」
ありがとうございます。そう言おうと口を開いたが、それは言葉にならなかった。なぜなら先にラルフが言ったから。
「めでたくなんてない。こんな礼儀知らずな女、俺の婚約者にはふさわしくない。しかも伯爵家。この俺と婚約するのならせめて侯爵家だろう。母上の頼みだから婚約したが、今すぐにでも破棄したいくらいだ」
クリスが唖然としている。私はそれを見て笑いそうになってしまった。令嬢の仮面がはがれていてよ、クリス。
ラルフはじろりと私を見た。
「それで、俺がいるというのに、なぜこいつが来たんだ」
はい? どういう意味? え、私これなんて言えばいいの?
「えっと、申し訳ありません。クリスティーナ様とは前から約束していますの」
「約束が何だ。婚約者の俺がいるんだ。約束していたといってもこいつがここにいることがおかしいだろうが」
……それはこっちのセリフじゃないかな? いきなり来ておいて何。だって前触れも何もなかったよ。どうやってクリスとの約束をキャンセルしろと? 大体約束もなしに来るお前の方が礼儀知らずだろうが。
っと、いけない、思わず口が悪くなってしまった。
ラルフが何をしに来たのかは分からないけど、これからこんな日が続くのだろうか。……それはストレスでしかない。大体私はできるだけお城に通って魔力を提供しないといけないんだから。借金返済の為に。
「ラルフ様、申し訳ありませんが、エレナ様はお城へと行き、お勉強しなければならないのです。これは王命ですの」
クリス、ありがとう……! まあ別に王命なわけでもないけど。いや、でも魔法の勉強をするように、とは言われたな。やっぱり王命?
ラルフがじろっと私を見た。いや、にらまれたって知らないし。それなら一緒に行けばいいじゃん。……それだ! 一緒に行って、一緒に教育を受ける。そしたら馬鹿も治るんじゃない!?
よっし!
「ラルフ様、では一緒に行かれませんか? 人数も多い方が楽しいでしょう」
「それですわ! 行きましょう行きましょう!」
私の言葉にクリスがのっかって、私の背を押して馬車へと乗せようとする。ちょっ、やっぱりクリス力強すぎるよ! クリスの力に抗えず、私はさっさと馬車へと乗せられた。後ろからはラルフの文句が聞こえたが。
クリスも馬車へと乗り込んで、笑った。
「あ、ほら、あいつも馬車に乗り込んでるよ。一緒に来るみたい。お城に着いたら後はカイがなんとかしてくれるでしょ」
「迷惑じゃないかしら?」
「大丈夫でしょ。心配なら声を飛ばしておけば? 風属性でできるから」
ああ、あの襲撃の時の。今までしたことはないけど、やってみるか。
うーん、イメージは電話? 番号はないから、リダイヤルで。あ、なんかできそうな気がする。
「殿下、エレナでございます。本日はローマン侯爵家のラルフ様も一緒に参りますの。一緒に教育を受ける許可をいただけますと嬉しいです」
これをカイに……。よし、多分できた。これで一緒に勉強をして、脱・おバカだ。
「っていうか何、いきなり来たの?」
興味深そうに聞いてくるクリスに私は昨日婚約が決まったと聞いたことと、先ほどの話をした。
クリスはとても楽しそうに笑った。
「あっははははは! ばっかじゃないの!? どっちが礼儀知らずだって! この年になってもそんなこと言えるってどういう教育を受けて来たんだろうね。すぐにでも婚約破棄したいのはこっちだよね!」
「……楽しそうね」
そんなに爆笑されるとは思っていなかったので、びっくりした。だけど確かにこれが自分の身にふりかかったことでなかったら、私だって多少は笑っていたかもしれない。
泣きたくなるくらいの悲劇だ。ため息が我慢できなかった。
私はアリアの前に出た。
「大変申し訳ありません、ラルフ様。まさか来られるとは思っておりませんで。わたくしの不手際ですわ」
初対面の挨拶はしない。ラルフだってまだ学校に入っていないし、何よりもこいつを私よりも上だと認めたくない。
礼もせずににっこりと笑って謝ると、ラルフはまだぶつぶつ言っていた。私はそれを頷きながら聞き流す。バルトルトに視線を向けると、バルトルトは屋敷の中に入って行った。
これでお義母様に伝わるだろう。後はこいつをどうにかして追い返したいのだけど……聞くふりをしながら考え込んでいると、ガラガラと馬車が門から入って来た。
今度こそクリスだ!! 絶望の中に光が差したような気分だった。お城に行かないといけないからって、この場を去ろう!
よっし!
「誰だ?」
ラルフは馬車を振り返り、誰が下りてくるのかをじっと見ている。ドアが開いて、いつもは勢いよく飛び出してくるクリスだったが、今日はしずしずと下りてきた。
おお、令嬢バージョンのクリスだ! 久しぶり!
「おはようございます、エレナ様」
「ええ、おはようございます、クリスティーナ様。いつもお迎えに来ていただいて助かっておりますわ」
しれっとこれから出かける予定だと言っておくが、ラルフに通じた様子はない。
クリスはラルフへと視線をやった。
「こちらはクリスティーナ・クレヴィング様。いつも仲良くしていただいてますわ。そしてこちらはラルフ・ローマン様。わたくしの婚約者ですの」
二人は軽く目を合わせると、何も言わずにすぐに目を逸らした。
クリスがにっこりと笑う。
「まあ、エレナ様、婚約が決まったのですね。おめでとうございます」
ありがとうございます。そう言おうと口を開いたが、それは言葉にならなかった。なぜなら先にラルフが言ったから。
「めでたくなんてない。こんな礼儀知らずな女、俺の婚約者にはふさわしくない。しかも伯爵家。この俺と婚約するのならせめて侯爵家だろう。母上の頼みだから婚約したが、今すぐにでも破棄したいくらいだ」
クリスが唖然としている。私はそれを見て笑いそうになってしまった。令嬢の仮面がはがれていてよ、クリス。
ラルフはじろりと私を見た。
「それで、俺がいるというのに、なぜこいつが来たんだ」
はい? どういう意味? え、私これなんて言えばいいの?
「えっと、申し訳ありません。クリスティーナ様とは前から約束していますの」
「約束が何だ。婚約者の俺がいるんだ。約束していたといってもこいつがここにいることがおかしいだろうが」
……それはこっちのセリフじゃないかな? いきなり来ておいて何。だって前触れも何もなかったよ。どうやってクリスとの約束をキャンセルしろと? 大体約束もなしに来るお前の方が礼儀知らずだろうが。
っと、いけない、思わず口が悪くなってしまった。
ラルフが何をしに来たのかは分からないけど、これからこんな日が続くのだろうか。……それはストレスでしかない。大体私はできるだけお城に通って魔力を提供しないといけないんだから。借金返済の為に。
「ラルフ様、申し訳ありませんが、エレナ様はお城へと行き、お勉強しなければならないのです。これは王命ですの」
クリス、ありがとう……! まあ別に王命なわけでもないけど。いや、でも魔法の勉強をするように、とは言われたな。やっぱり王命?
ラルフがじろっと私を見た。いや、にらまれたって知らないし。それなら一緒に行けばいいじゃん。……それだ! 一緒に行って、一緒に教育を受ける。そしたら馬鹿も治るんじゃない!?
よっし!
「ラルフ様、では一緒に行かれませんか? 人数も多い方が楽しいでしょう」
「それですわ! 行きましょう行きましょう!」
私の言葉にクリスがのっかって、私の背を押して馬車へと乗せようとする。ちょっ、やっぱりクリス力強すぎるよ! クリスの力に抗えず、私はさっさと馬車へと乗せられた。後ろからはラルフの文句が聞こえたが。
クリスも馬車へと乗り込んで、笑った。
「あ、ほら、あいつも馬車に乗り込んでるよ。一緒に来るみたい。お城に着いたら後はカイがなんとかしてくれるでしょ」
「迷惑じゃないかしら?」
「大丈夫でしょ。心配なら声を飛ばしておけば? 風属性でできるから」
ああ、あの襲撃の時の。今までしたことはないけど、やってみるか。
うーん、イメージは電話? 番号はないから、リダイヤルで。あ、なんかできそうな気がする。
「殿下、エレナでございます。本日はローマン侯爵家のラルフ様も一緒に参りますの。一緒に教育を受ける許可をいただけますと嬉しいです」
これをカイに……。よし、多分できた。これで一緒に勉強をして、脱・おバカだ。
「っていうか何、いきなり来たの?」
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「あっははははは! ばっかじゃないの!? どっちが礼儀知らずだって! この年になってもそんなこと言えるってどういう教育を受けて来たんだろうね。すぐにでも婚約破棄したいのはこっちだよね!」
「……楽しそうね」
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