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婚約
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短い冬が終わり、春になった。私がエレナとなってもう一年が経つ。毎日毎日勉強漬けの令嬢らしく生活する日々が一年だ。もうすっかりその生活にも慣れた。
一年で変わったこと。
その一。魔法が使えるようになった。お城での魔法の勉強も進んでいる。
その二。カミラと仲良くなった。今ではカミラも外に出ることができるようになり、本館に住んでいる。私の部屋の隣。そして私の提案で、晩御飯をお義母様とカミラと三人で食べるようになった。
その三。友達ができた。クリスを始め、攻略対象達を知り合い、今ではほとんど毎日会い、一緒にお茶をするくらいだ。
……それくらいかな? こうしてまとめてみるとたいして変わってないな。まあまだ一年だし。まだゲームすら始まってないし。
考えるのを止めて、本を開くと、アリアが入って来た。
「エレナ様、奥様がお呼びでございます」
今日はお城に行かずに家にいるように、と昨日の夕食の時に言われたのでずっと待っていた。
さて、何の用事なんだろうか。
椅子から立ち上がると、私はアリアと一緒にお義母様の部屋へと向かった。
「エレナ、あなたの婚約が決まりました」
開口一番、そう言われた。
私の婚約が決まった。そっか、このタイミングで決まるんだ。驚きは全くなく、すんなりと納得した。
エレナ曰く、ただの馬鹿。あまり関わりたくないな、と思いながらも、婚約者なのだからそうはいかないことも分かっている。
「ラルフ・ローマン。ローマン侯爵の一人息子。あなたと同じ年よ」
えっと、なんて言えばいいんだろう。分かりました? 婚約を決めてくれてありがとうございます?
迷っていると、お義母様は顔を曇らせた。
「分かりますよ。会ったこともない相手を婚約者だと言われても困るわよね。近い内に会えるように段取りをしておきましょう」
あ、勘違いさせちゃった。別に会いたいわけじゃないよ。とは言えず、私はとりあえず笑ってお礼を言っておいた。
でもなんで伯爵家の私と侯爵家のラルフが婚約するんだろう。向こうだって自分より下の家よりも同じ侯爵家の令嬢と婚約したいんじゃないんだろうか。
……また私の知らない何かがあるんだろうな。この世界に来て私は知らないことばかりだ。こんなに勉強しているのに。違う世界で生きるというのは大変なことだった。
お義母様の部屋を出て、私は訓練場へと足を運んだ。クルトお兄様はもう学校へ帰ってしまったのでいないけど、私は剣の練習をしないといけない。最近ようやく剣を持てるようになったのだ。
素振りをする私の横で、アリアは話してくれた。
「ローマン侯爵夫人と、エレナ様の実のお母様であるエルマ様はとても仲良しであられたそうです。今回の婚約も、ローマン侯爵夫人とエルマ様のお約束から決定したものだと伺っております」
つまり生まれた子同士を婚約させようと、話をしていたのか。よくある話だ。だけど婚約とはそれだけで決まるものなのだろうか。
「それであちらに何の得があるの? 私は嫁ぐことで家格があがるけれど」
「こちらは伯爵家と言えども、旦那様は宰相位についておられ、皇帝陛下の右腕とも呼ばれておられます。そんなフィオーレ家と婚約を結ぶというのはあちらにも得になるのでしょう」
なるほど。まあどうでもいいけど。どうせ婚約はなかったことになるし。……ん? 私カミラと仲いいんだけど、それでもなかったことになるの? カミラに略奪されなかったらエレナとラルフの婚約はどうなるの?
待って、婚約がなくならなかったらそのまま結婚ってことになるんじゃない? 私馬鹿と結婚したくない!!
剣を握る手に力が入る。このままだとやばい。由々しき事態だ。こうなったら馬鹿を治してもらうしかない。まだ子供だしこれから教育すれば大丈夫だろう。
「アリア、わたくし、婚約者として頑張りますわ」
私の宣言に、アリアは不思議そうに頷いた。
そして、翌日。お城へ向うためのクリスの馬車を待っている時だった。
窓から一台の馬車が入って来たのが見えた。だけどどう見てもいつもの馬車には見えない。
「違う馬車で来られたのでしょうか?」
アリアも私と一緒に窓の外を覗いている。いつもの馬車よりも豪華で、少し派手だ。クリスが好んで乗るものだとは思えない。
「とりあえず下りましょうか」
私が外へ出ると、馬車はちょうど止まったところだった。御者も違う。これはおそらくクリスではない。だとしたら誰なのか。今日は来客の予定はなかったはずだ。馬車に入っているはずの家紋は見当たらない。
アリアが警戒して、私の前へと出る。どこからかバルトルトも来て私の後ろに立った。ベアトリクスの手先? しかしこんなに堂々とうちへ来るとは思えない。
少しして馬車からは一人の男の子が下りてきた。私と同じくらいの年頃だろう。
……誰だよ!!
とりあえず微笑みを浮かべたまま首を傾げてみる。アリアは私の前から動かない。それを見た男の子はすごい勢いで怒鳴った。
「それが婚約者にする態度かよ!! 所詮伯爵家だもんな。この礼儀知らずめ!」
……うん?
私もアリアもバルトルトも、皆の表情が凍り付いた。婚約者? これが? 礼儀知らず?
その時は多分、アリアも同じ気持ちだっただろう。私はばれないように小さくため息をついた。
一年で変わったこと。
その一。魔法が使えるようになった。お城での魔法の勉強も進んでいる。
その二。カミラと仲良くなった。今ではカミラも外に出ることができるようになり、本館に住んでいる。私の部屋の隣。そして私の提案で、晩御飯をお義母様とカミラと三人で食べるようになった。
その三。友達ができた。クリスを始め、攻略対象達を知り合い、今ではほとんど毎日会い、一緒にお茶をするくらいだ。
……それくらいかな? こうしてまとめてみるとたいして変わってないな。まあまだ一年だし。まだゲームすら始まってないし。
考えるのを止めて、本を開くと、アリアが入って来た。
「エレナ様、奥様がお呼びでございます」
今日はお城に行かずに家にいるように、と昨日の夕食の時に言われたのでずっと待っていた。
さて、何の用事なんだろうか。
椅子から立ち上がると、私はアリアと一緒にお義母様の部屋へと向かった。
「エレナ、あなたの婚約が決まりました」
開口一番、そう言われた。
私の婚約が決まった。そっか、このタイミングで決まるんだ。驚きは全くなく、すんなりと納得した。
エレナ曰く、ただの馬鹿。あまり関わりたくないな、と思いながらも、婚約者なのだからそうはいかないことも分かっている。
「ラルフ・ローマン。ローマン侯爵の一人息子。あなたと同じ年よ」
えっと、なんて言えばいいんだろう。分かりました? 婚約を決めてくれてありがとうございます?
迷っていると、お義母様は顔を曇らせた。
「分かりますよ。会ったこともない相手を婚約者だと言われても困るわよね。近い内に会えるように段取りをしておきましょう」
あ、勘違いさせちゃった。別に会いたいわけじゃないよ。とは言えず、私はとりあえず笑ってお礼を言っておいた。
でもなんで伯爵家の私と侯爵家のラルフが婚約するんだろう。向こうだって自分より下の家よりも同じ侯爵家の令嬢と婚約したいんじゃないんだろうか。
……また私の知らない何かがあるんだろうな。この世界に来て私は知らないことばかりだ。こんなに勉強しているのに。違う世界で生きるというのは大変なことだった。
お義母様の部屋を出て、私は訓練場へと足を運んだ。クルトお兄様はもう学校へ帰ってしまったのでいないけど、私は剣の練習をしないといけない。最近ようやく剣を持てるようになったのだ。
素振りをする私の横で、アリアは話してくれた。
「ローマン侯爵夫人と、エレナ様の実のお母様であるエルマ様はとても仲良しであられたそうです。今回の婚約も、ローマン侯爵夫人とエルマ様のお約束から決定したものだと伺っております」
つまり生まれた子同士を婚約させようと、話をしていたのか。よくある話だ。だけど婚約とはそれだけで決まるものなのだろうか。
「それであちらに何の得があるの? 私は嫁ぐことで家格があがるけれど」
「こちらは伯爵家と言えども、旦那様は宰相位についておられ、皇帝陛下の右腕とも呼ばれておられます。そんなフィオーレ家と婚約を結ぶというのはあちらにも得になるのでしょう」
なるほど。まあどうでもいいけど。どうせ婚約はなかったことになるし。……ん? 私カミラと仲いいんだけど、それでもなかったことになるの? カミラに略奪されなかったらエレナとラルフの婚約はどうなるの?
待って、婚約がなくならなかったらそのまま結婚ってことになるんじゃない? 私馬鹿と結婚したくない!!
剣を握る手に力が入る。このままだとやばい。由々しき事態だ。こうなったら馬鹿を治してもらうしかない。まだ子供だしこれから教育すれば大丈夫だろう。
「アリア、わたくし、婚約者として頑張りますわ」
私の宣言に、アリアは不思議そうに頷いた。
そして、翌日。お城へ向うためのクリスの馬車を待っている時だった。
窓から一台の馬車が入って来たのが見えた。だけどどう見てもいつもの馬車には見えない。
「違う馬車で来られたのでしょうか?」
アリアも私と一緒に窓の外を覗いている。いつもの馬車よりも豪華で、少し派手だ。クリスが好んで乗るものだとは思えない。
「とりあえず下りましょうか」
私が外へ出ると、馬車はちょうど止まったところだった。御者も違う。これはおそらくクリスではない。だとしたら誰なのか。今日は来客の予定はなかったはずだ。馬車に入っているはずの家紋は見当たらない。
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……誰だよ!!
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……うん?
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その時は多分、アリアも同じ気持ちだっただろう。私はばれないように小さくため息をついた。
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