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エレナとの電話
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ヴーヴー ヴーヴー
ベッドの中でごろごろしていると、音が聞こえた。
来た!
飛び起きて枕元のスマホへと手を伸ばす。
「非通知……」
最近毎日空を見上げていた。月が太ってきてそろそろだとは思っていたのだ。だけど私からエレナへと電話をかける方法は分からないからただひたすら待っていた。
「もしもし」
「一年ぶりね、元気?」
私の、愛玲奈の声が聞こえた。その会話はまるで、長く会っていない友達と電話をするそれだ。
「ええ、元気よ。エレナも元気?」
「もちろん。毎日とても楽しいの」
エレナが何を何をしているのかは知らないけど、きっと私がエレナとして過ごしているようにエレナも愛玲奈として過ごしているのだろう。それにしても家族との関りすら薄い上に、知り合いもほとんどいなかったエレナと、母親と仲が良く、友達も結構いた愛玲奈では難易度が違う気がする。
「千香とは仲良くしてる?」
「ええ、大親友よ。中身が入れ替わったことも気が付いていないみたい」
まじか……エレナがすごいのか千香が鈍いのか。どっちもだろうなと思った。
「ところで今年は受験なんだけど、私の行きたい大学に行ってもいい?」
「私に聞く必要なんてないでしょ。エレナのしたいようにしていいわよ」
どうせ私には行きたい大学もなかったし。そう言うと、「そうなの?」と驚いたような声が返って来た。
「あなたの体なのよ?」
「ええ、そうね。だけど私もエレナとして好きに生きているから別にいいわ。だってもう戻れないんでしょう?」
別に戻りたいとも戻りたくないとも思ったことはない。だけどあっちにも大事な人がいて、こっちにも大事な人ができた。だから私はどっちがいいとは言えない。ただ、私はエレナとしての将来を見て今を過ごしているのだ。
……もちろん、お母さんにも千香にも会いたい。またエレナと入れ替わり、愛玲奈として生きていくことになったら、今エレナとして生きているように、今度は再び愛玲奈として生きていくのだろう。
「……そうね」
「ところでいくつか聞きたいことがあるのだけれど」
窓際へと歩いて空を見上げる。去年見た黒い雲は見えない。だけどきっと時間は長くは残されていない。
「どうぞ」というエレナの声を聞いて、私はエレナに聞きたかったことを端から聞いていった。
「学校へ入ってから何か変わり事はある?」
「いいえ、当分はないわ。四年生でリリーが編入してくるくらいかしら」
リリーといえばヒロインだ。私はリリーと接触するかどうかを迷っている。正直、攻略対象達と仲良くなってしまった今、ヒロインのリリーと仲良くするのはどうかと思っている。
この際、入学後は攻略対象達ともヒロインとも関わらずに外からゲーム進行を見守っていたい。
「リリーはどんな子?」
「いい子よ。とてもいい子。だけど元が平民だから友達は少なかったわね。私と一緒にいるか、殿下たちと一緒にいるかだったわ」
なんとなく想像通り。ゲームでは攻略対象達とのイベントが主だったからエレナはあんまり出てきてなかったけど、多分実際は結構仲が良かったのかもしれない。
「リリーと一緒にいたら光の属性についていろいろ分かるかと思って一緒にいたの。実際色々分かったわ」
……そっか。エレナは全く何も分からない状況で光属性を持っていたんだ。私みたいに前情報なんて全くない状況で。
「ヨハン様の妹のことは何か知ってるかしら? クリスと言うのだけど」
「……私は直接知らないわ。だけどゲームの中だともう既に死んでいるわ。話に出てくるのはヨハンルートだけだけれど」
「え?」
エレナもゲームしたんだ、と頭の片隅で思いながら、その言葉を理解するのには少し時間がかかった。クリスが死んでいる? だからカイルートには出てこなかったの?
「ヨハン曰く、死んだのは九歳の時。ベアトリクスの手にかかっているわ」
九歳。ベアトリクス。
もしかしたらクリスは私と同じ立場に立ってしまったのだろうか。私が最初にベアトリクスに会ったあの日、もし私がいなかったらベアトリクスに喧嘩を売っていたのはクリスだったかもしれない。
確信はない。だけど十分あり得ることだと思う。だって、私はベアトリクスの襲撃を何度も受けている。守ってもらったこともあったけど、自分で魔法を使って撃退したこともある。
あれを魔法も使えないクリスが受けていたら死んでいても不思議ではない。
「他の人のルートでは?」
「出てこないわよ。死んでいるのかもしれないわね」
「エレナは全部プレイしたの?」
もしエレナがあのゲームを全部したとしたら、とても心強い。私はカイルートの途中までしかしていないから。とは言っても攻略サイトとかでキャラには結構詳しくなっていたけど。
それでも私が知らないってことは考えられることは二つ。本当にどうでもいいモブキャラか、ネタバレを避けていた私の目に入らなかったか。後者の気がする。だってあんな濃いキャラがモブなわけないから。
「あと――が残って――」
いきなり声が聞き取れなくなった。ばっと空を見上げると去年と同じ黒い雲が月にかかっている。
うわ、まじか。まだ聞きたいこといっぱいあったのに。
「エレナ、ゲームの中に何か重要なことがないかしっかり見ていて」
ああ、すごく無茶な要求をしてしまった。エレナには私にとって重要なことなんて何か分からないだろうに。だけどそれを訂正する時間も惜しかった。
「それから、エレナについてネットで何か情報がないか調べてちょうだい」
「ええ、――わ。それから、クリスは――」
ツーツーツーツー
電話が切れた。最後の言葉は聞けなかった。クリスは何!? 重要なところが聞こえなかったんだけど!! っていうか時間短すぎない!? たったニ、三分しかないじゃん! せめて五分はちょうだいよ!
スマホを睨むがどうしようもない。去年に引き続き、あまり情報は得られなかった。
でもクリスが死ぬはずの九歳はもう過ぎてるし、大丈夫よね……。
来年のエレナの情報に期待するしかないか。私はため息を一つ落とし、月を見上げた。満月は憎たらしいほど綺麗だった。
ベッドの中でごろごろしていると、音が聞こえた。
来た!
飛び起きて枕元のスマホへと手を伸ばす。
「非通知……」
最近毎日空を見上げていた。月が太ってきてそろそろだとは思っていたのだ。だけど私からエレナへと電話をかける方法は分からないからただひたすら待っていた。
「もしもし」
「一年ぶりね、元気?」
私の、愛玲奈の声が聞こえた。その会話はまるで、長く会っていない友達と電話をするそれだ。
「ええ、元気よ。エレナも元気?」
「もちろん。毎日とても楽しいの」
エレナが何を何をしているのかは知らないけど、きっと私がエレナとして過ごしているようにエレナも愛玲奈として過ごしているのだろう。それにしても家族との関りすら薄い上に、知り合いもほとんどいなかったエレナと、母親と仲が良く、友達も結構いた愛玲奈では難易度が違う気がする。
「千香とは仲良くしてる?」
「ええ、大親友よ。中身が入れ替わったことも気が付いていないみたい」
まじか……エレナがすごいのか千香が鈍いのか。どっちもだろうなと思った。
「ところで今年は受験なんだけど、私の行きたい大学に行ってもいい?」
「私に聞く必要なんてないでしょ。エレナのしたいようにしていいわよ」
どうせ私には行きたい大学もなかったし。そう言うと、「そうなの?」と驚いたような声が返って来た。
「あなたの体なのよ?」
「ええ、そうね。だけど私もエレナとして好きに生きているから別にいいわ。だってもう戻れないんでしょう?」
別に戻りたいとも戻りたくないとも思ったことはない。だけどあっちにも大事な人がいて、こっちにも大事な人ができた。だから私はどっちがいいとは言えない。ただ、私はエレナとしての将来を見て今を過ごしているのだ。
……もちろん、お母さんにも千香にも会いたい。またエレナと入れ替わり、愛玲奈として生きていくことになったら、今エレナとして生きているように、今度は再び愛玲奈として生きていくのだろう。
「……そうね」
「ところでいくつか聞きたいことがあるのだけれど」
窓際へと歩いて空を見上げる。去年見た黒い雲は見えない。だけどきっと時間は長くは残されていない。
「どうぞ」というエレナの声を聞いて、私はエレナに聞きたかったことを端から聞いていった。
「学校へ入ってから何か変わり事はある?」
「いいえ、当分はないわ。四年生でリリーが編入してくるくらいかしら」
リリーといえばヒロインだ。私はリリーと接触するかどうかを迷っている。正直、攻略対象達と仲良くなってしまった今、ヒロインのリリーと仲良くするのはどうかと思っている。
この際、入学後は攻略対象達ともヒロインとも関わらずに外からゲーム進行を見守っていたい。
「リリーはどんな子?」
「いい子よ。とてもいい子。だけど元が平民だから友達は少なかったわね。私と一緒にいるか、殿下たちと一緒にいるかだったわ」
なんとなく想像通り。ゲームでは攻略対象達とのイベントが主だったからエレナはあんまり出てきてなかったけど、多分実際は結構仲が良かったのかもしれない。
「リリーと一緒にいたら光の属性についていろいろ分かるかと思って一緒にいたの。実際色々分かったわ」
……そっか。エレナは全く何も分からない状況で光属性を持っていたんだ。私みたいに前情報なんて全くない状況で。
「ヨハン様の妹のことは何か知ってるかしら? クリスと言うのだけど」
「……私は直接知らないわ。だけどゲームの中だともう既に死んでいるわ。話に出てくるのはヨハンルートだけだけれど」
「え?」
エレナもゲームしたんだ、と頭の片隅で思いながら、その言葉を理解するのには少し時間がかかった。クリスが死んでいる? だからカイルートには出てこなかったの?
「ヨハン曰く、死んだのは九歳の時。ベアトリクスの手にかかっているわ」
九歳。ベアトリクス。
もしかしたらクリスは私と同じ立場に立ってしまったのだろうか。私が最初にベアトリクスに会ったあの日、もし私がいなかったらベアトリクスに喧嘩を売っていたのはクリスだったかもしれない。
確信はない。だけど十分あり得ることだと思う。だって、私はベアトリクスの襲撃を何度も受けている。守ってもらったこともあったけど、自分で魔法を使って撃退したこともある。
あれを魔法も使えないクリスが受けていたら死んでいても不思議ではない。
「他の人のルートでは?」
「出てこないわよ。死んでいるのかもしれないわね」
「エレナは全部プレイしたの?」
もしエレナがあのゲームを全部したとしたら、とても心強い。私はカイルートの途中までしかしていないから。とは言っても攻略サイトとかでキャラには結構詳しくなっていたけど。
それでも私が知らないってことは考えられることは二つ。本当にどうでもいいモブキャラか、ネタバレを避けていた私の目に入らなかったか。後者の気がする。だってあんな濃いキャラがモブなわけないから。
「あと――が残って――」
いきなり声が聞き取れなくなった。ばっと空を見上げると去年と同じ黒い雲が月にかかっている。
うわ、まじか。まだ聞きたいこといっぱいあったのに。
「エレナ、ゲームの中に何か重要なことがないかしっかり見ていて」
ああ、すごく無茶な要求をしてしまった。エレナには私にとって重要なことなんて何か分からないだろうに。だけどそれを訂正する時間も惜しかった。
「それから、エレナについてネットで何か情報がないか調べてちょうだい」
「ええ、――わ。それから、クリスは――」
ツーツーツーツー
電話が切れた。最後の言葉は聞けなかった。クリスは何!? 重要なところが聞こえなかったんだけど!! っていうか時間短すぎない!? たったニ、三分しかないじゃん! せめて五分はちょうだいよ!
スマホを睨むがどうしようもない。去年に引き続き、あまり情報は得られなかった。
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