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エレナの誕生日
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その日は晴天だった。いつものように目が覚め、いつものように朝ごはんを食べる。そしていつものようにお城へ向かう。
今日で私は十歳だ。
迎えに来てくれたクリスの馬車に乗り込もうとした、その時だった。
「お姉さま! お待ちくださいませ!」
慌てた様子でカミラが屋敷から出てきた。
何、何かあったの!? カミラがこんなに慌てるなんて普通じゃない。振り返ってカミラと向き合う。クリスも不思議そうに馬車から出てきた。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「お姉さま、お誕生日おめでとうございます」
「え……?」
耳を疑った。なぜならこの世界に誕生日を祝うという習慣はないから。誕生日はただ年齢を数える基準であり、めでたいという認識ではない。
だから私も別に何も期待していなかったし、「おめでとう」と言ってもらえるとも思っていなかったのだ。
私が何も言えないでいると、カミラは不安そうに私を見上げた。
「あの、わたくし、何か間違っていたでしょうか? わたくしの誕生日にお姉さまが言ってくださったことを思い出したのですが……」
……そういえば言った気がする。春のカミラの誕生日に、「今日が誕生日だ」と聞いて思わず言ってしまったのだ。もちろん誕生日を祝わないということは知っていたが。
「……とても嬉しいわ。ありがとう、カミラ」
嬉しすぎて涙がにじんだ。去年の誕生日は何もなく終わったのだ。「おめでとう」もない。食事もいつも通り。ケーキもなし。分かっていても寂しかった。
愛玲奈の時は知らなかった。誕生日の「おめでとう」がこんなにも温かいなんて。
「お姉さまは今日で魔法が使えるようになるのですよね? 頑張ってくださいませ!」
「ええ、ありがとう。カミラのその言葉で今ならなんでもできそうですわ」
本当に可愛い。晩御飯の時にしか話す時間がないカミラ。こうして朝に会ったのは本当に久しぶりだった。
……あーあ、入学したらカミラにも会えなくなるのか。寂しいな。
あらためて馬車へと乗り込み、私たちはお城へと出発した。
「ねえ、エレナ。エレナの家では誕生日には『おめでとう』って言うの?」
「そうね。私の家というか、私が、かしら? だって生まれた日なのよ。お祝いしたくない?」
あっちの世界では誕生日は祝うものだと、教えられなくても知っていた。だから子供の頃は誕生日はそわそわしたり、ドキドキしたり、とにかく気持ちが落ち着かなかった。だけどそれが幸せだった。
当たり前のように特別なご飯を作ってもらえて、プレゼントをもらって。この世界の子供はそのドキドキを味わえないのだと思うと、ちょっと悲しくなる。
「そうだね。おめでとう、エレナ!」
クリスが満面の笑みで祝ってくれた。私もつられて笑顔になる。
「ありがとう!」
嬉しい。これは帰ったらアリアにも言ってもらおう。ついでにあっちの世界の話もしてみよう。そうしたら来年からは誕生日の晩御飯が少し豪華になるかもしれない。……来年は寮に入ってるね。
お城のいつもの部屋に入ると、カイに陛下の所へ行くように言われた。
うん? 呼び出し? 私また何かしたかな?
呼び出される記憶がなくて首を傾げていると、カイが「はは」と笑った。
「今日で十歳でしょ。あの薬飲まないと」
ああ、そっか、クリスの時みたいに陛下の所に行って飲んだことにするのか。まあ実際にはもう飲んでいるけど、皆がいる手前、今日飲んだことにしないといけないもんね。
「つまりあのお菓子が食べられるってこと!? エレナ、私も一緒に行くよ!!」
「ええ、クリスが一緒に来てくれたら心強いわ」
まさかダメなんて言えない。私だってクリスの時に一緒にお菓子を食べさせてもらったんだから。そっか、十歳か。今日からは人前でも魔法が使えるんだ。
とは言っても入学前の子供が日常で便利な魔法を使えることなんて滅多にないらしいので、乱用はしないように気を付けないといけない。
間違っても、面倒だからと手の届かない物を魔法で取ったり、ドアを魔法で開け閉めしたりなんてできない。全部愛玲奈の時に魔法が使えたら、と思った場面だ。まさか魔法が使えたとしても自由に便利に使えないなんて……いつか絶対に好き勝手に魔法を使えるようになってやる!
「そうだ、誕生日には『おめでとう』って言わないといけないんだって。ほら、皆エレナに言って!」
クリスが元気よくそう言うが、皆は首を傾げている。そりゃそうだ。私こんな風に普及させようとなんて思ってなかったんだけど。
「何がめでたいんだ?」
「レオン様、無理して言う必要はありませんの。ただ、わたくしが妹の生まれた日をお祝いしたいと思ったことから始まっただけですので」
「生まれた日をお祝い、か……」
カイが何かを考えるように俯いた。
いやぁ、皆そんな考えなくていいから! こっちの世界じゃ変なことなんでしょ! 別にいいから!!
「エレナちゃん、おめでとう!」
パッと声の方を向くと、フロレンツがにこにこと笑っていた。
「エレナちゃんの生まれた日なんだもん。僕もお祝いしたいよ。生まれてきてくれてありがとう!」
やだ、マジ天使……。フロレンツの背中に白い翼が見えそうだ。可愛さにやられそうになるのをどうにかこらえるが、やばい、顔がにやけそう。
カイも考えるのが終わったのか顔を上げてにっこりと笑った。
「そうだね、おめでとう」
「おめでとう、エレナ」
「おめでとう」
カイに続いてマクシミリアン、レオンも祝ってくれた。うわ、皆めっちゃいい子じゃん……。
「ありがとうございます!」
ちょっと涙が出そうになって、私は慌ててクリスの手を引いた。
「ではわたくし、陛下のところへ行って参りますわ」
皆が何かを言う前にさっと部屋を出て歩く。クリスは私の顔を覗き込んでにやにやしていた。
……絶対面白がっている。少しだけムカついたので、デコピンをしておく。
「いたっ!」
「クリスが悪いのよ。……でもありがとう」
なんだか恥ずかしくてぼそっとそう言うと、クリスは満面の笑みを浮かべて、「うん」と頷いた。
エレナと電話をした時のことを思い出す。
――九歳の時にもう既に死んでいるわ。
本当に、クリスが死ななくて良かった。心の底からそう思った。
今日で私は十歳だ。
迎えに来てくれたクリスの馬車に乗り込もうとした、その時だった。
「お姉さま! お待ちくださいませ!」
慌てた様子でカミラが屋敷から出てきた。
何、何かあったの!? カミラがこんなに慌てるなんて普通じゃない。振り返ってカミラと向き合う。クリスも不思議そうに馬車から出てきた。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「お姉さま、お誕生日おめでとうございます」
「え……?」
耳を疑った。なぜならこの世界に誕生日を祝うという習慣はないから。誕生日はただ年齢を数える基準であり、めでたいという認識ではない。
だから私も別に何も期待していなかったし、「おめでとう」と言ってもらえるとも思っていなかったのだ。
私が何も言えないでいると、カミラは不安そうに私を見上げた。
「あの、わたくし、何か間違っていたでしょうか? わたくしの誕生日にお姉さまが言ってくださったことを思い出したのですが……」
……そういえば言った気がする。春のカミラの誕生日に、「今日が誕生日だ」と聞いて思わず言ってしまったのだ。もちろん誕生日を祝わないということは知っていたが。
「……とても嬉しいわ。ありがとう、カミラ」
嬉しすぎて涙がにじんだ。去年の誕生日は何もなく終わったのだ。「おめでとう」もない。食事もいつも通り。ケーキもなし。分かっていても寂しかった。
愛玲奈の時は知らなかった。誕生日の「おめでとう」がこんなにも温かいなんて。
「お姉さまは今日で魔法が使えるようになるのですよね? 頑張ってくださいませ!」
「ええ、ありがとう。カミラのその言葉で今ならなんでもできそうですわ」
本当に可愛い。晩御飯の時にしか話す時間がないカミラ。こうして朝に会ったのは本当に久しぶりだった。
……あーあ、入学したらカミラにも会えなくなるのか。寂しいな。
あらためて馬車へと乗り込み、私たちはお城へと出発した。
「ねえ、エレナ。エレナの家では誕生日には『おめでとう』って言うの?」
「そうね。私の家というか、私が、かしら? だって生まれた日なのよ。お祝いしたくない?」
あっちの世界では誕生日は祝うものだと、教えられなくても知っていた。だから子供の頃は誕生日はそわそわしたり、ドキドキしたり、とにかく気持ちが落ち着かなかった。だけどそれが幸せだった。
当たり前のように特別なご飯を作ってもらえて、プレゼントをもらって。この世界の子供はそのドキドキを味わえないのだと思うと、ちょっと悲しくなる。
「そうだね。おめでとう、エレナ!」
クリスが満面の笑みで祝ってくれた。私もつられて笑顔になる。
「ありがとう!」
嬉しい。これは帰ったらアリアにも言ってもらおう。ついでにあっちの世界の話もしてみよう。そうしたら来年からは誕生日の晩御飯が少し豪華になるかもしれない。……来年は寮に入ってるね。
お城のいつもの部屋に入ると、カイに陛下の所へ行くように言われた。
うん? 呼び出し? 私また何かしたかな?
呼び出される記憶がなくて首を傾げていると、カイが「はは」と笑った。
「今日で十歳でしょ。あの薬飲まないと」
ああ、そっか、クリスの時みたいに陛下の所に行って飲んだことにするのか。まあ実際にはもう飲んでいるけど、皆がいる手前、今日飲んだことにしないといけないもんね。
「つまりあのお菓子が食べられるってこと!? エレナ、私も一緒に行くよ!!」
「ええ、クリスが一緒に来てくれたら心強いわ」
まさかダメなんて言えない。私だってクリスの時に一緒にお菓子を食べさせてもらったんだから。そっか、十歳か。今日からは人前でも魔法が使えるんだ。
とは言っても入学前の子供が日常で便利な魔法を使えることなんて滅多にないらしいので、乱用はしないように気を付けないといけない。
間違っても、面倒だからと手の届かない物を魔法で取ったり、ドアを魔法で開け閉めしたりなんてできない。全部愛玲奈の時に魔法が使えたら、と思った場面だ。まさか魔法が使えたとしても自由に便利に使えないなんて……いつか絶対に好き勝手に魔法を使えるようになってやる!
「そうだ、誕生日には『おめでとう』って言わないといけないんだって。ほら、皆エレナに言って!」
クリスが元気よくそう言うが、皆は首を傾げている。そりゃそうだ。私こんな風に普及させようとなんて思ってなかったんだけど。
「何がめでたいんだ?」
「レオン様、無理して言う必要はありませんの。ただ、わたくしが妹の生まれた日をお祝いしたいと思ったことから始まっただけですので」
「生まれた日をお祝い、か……」
カイが何かを考えるように俯いた。
いやぁ、皆そんな考えなくていいから! こっちの世界じゃ変なことなんでしょ! 別にいいから!!
「エレナちゃん、おめでとう!」
パッと声の方を向くと、フロレンツがにこにこと笑っていた。
「エレナちゃんの生まれた日なんだもん。僕もお祝いしたいよ。生まれてきてくれてありがとう!」
やだ、マジ天使……。フロレンツの背中に白い翼が見えそうだ。可愛さにやられそうになるのをどうにかこらえるが、やばい、顔がにやけそう。
カイも考えるのが終わったのか顔を上げてにっこりと笑った。
「そうだね、おめでとう」
「おめでとう、エレナ」
「おめでとう」
カイに続いてマクシミリアン、レオンも祝ってくれた。うわ、皆めっちゃいい子じゃん……。
「ありがとうございます!」
ちょっと涙が出そうになって、私は慌ててクリスの手を引いた。
「ではわたくし、陛下のところへ行って参りますわ」
皆が何かを言う前にさっと部屋を出て歩く。クリスは私の顔を覗き込んでにやにやしていた。
……絶対面白がっている。少しだけムカついたので、デコピンをしておく。
「いたっ!」
「クリスが悪いのよ。……でもありがとう」
なんだか恥ずかしくてぼそっとそう言うと、クリスは満面の笑みを浮かべて、「うん」と頷いた。
エレナと電話をした時のことを思い出す。
――九歳の時にもう既に死んでいるわ。
本当に、クリスが死ななくて良かった。心の底からそう思った。
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