池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
70 / 300

属性選択

しおりを挟む
陛下の執務室へと行くと、そこにいたのはお父様だけだった。

あれ、私呼ばれているんだよね?

クリスと顔を見合わせて首を傾げていると、お父様がお茶会室へと続く扉を開けた。


「陛下がお待ちだよ。ゆっくり話しておいで」

「はい」


執事さんに案内されて、机の方へと行くと、既にお菓子もお茶も用意されていた。が、ついさっき用意されたのかお茶からは湯気が立っている。

執事さんはすぐに部屋から出て行き、私たちは部屋に三人になった。


「ただいま参りました、陛下」


どうも個人的な場では陛下は膝をつかれることを嫌うらしい。だから私はにっこりと笑ってそう言っておいた。クリスなんていつも挨拶はなしだ。

陛下は「うむ」と頷くと私達に座るように促した。


「さて、十歳になったな」

「はい」

「そなたはこれから魔法が使えるようになるわけだが、属性の件を話しておきたいと思ってな」


やっぱりそうだよね。複数の属性を持っているって言うことはあまり広げたくない話だ。……実はもう結構噂になっているけど。

私が十歳を前に魔法を使え、複数の属性を使える、と。しかしそれは噂に過ぎない。

知らぬ存ぜぬで通すしかないだろう。幸いにも十歳を迎え、これからは魔法が使えてもおかしくないようになったのだから。後は属性の問題だけだ。


「水か風、どっちをエレナの属性とするかって話だよね?」


本当はもっといっぱい持っているけど陛下に話したのはそれだけだもんね。うん、まあ使い勝手がいいのも水と風だしね。


「そうだ。公にするのはどちらか一方だけの方がいいだろう。どちらを選ぶか?」

「水属性ですわ」


即答する。考えるまでもない。

だけど陛下もクリスも私が即答するとは思っていなかったようで、目を丸くしている。


「そんなに簡単に決めちゃっていいの? もしかしたら一生のことになるかもしれないんだよ」

「そうだ、もっとゆっくり考えても……」

「いいえ、水属性です」


変える気はない私へと陛下が「なぜ」と問いかけてくる。いや、そんな大した理由じゃないんだけど……。


「まず今話しているのは人前で使う属性ですもの。どちらかを選んだからって選ばなかった方が使えなくなるわけではないでしょう?」


流石に選んだもの以外が使えなくなるならもっと考えるよ、私だって。でも人前で使えないってだけで、使うことはできるんだし。


「それに、クリスが風属性ですもの。一緒にいるなら属性が違うほうが都合がいいですわ」


クリスに魔法の素質がなくて魔法陣がないと使えないって話ならまた別だけどね。というか、私の周りに風と水の属性を持っている人多いだよね。

風はクリスとヨハン。水はヘンドリックお兄様。それからカイも水属性を使えるようになるはずだ。それを考えると本来なら火か土を選びたい。けどその二つは陛下は知らないから。

だから私は別にどっちを選んだってたいして影響があるわけではないのだ。先を考えるとカイよりもクリスと一緒にいることの方が長いかと考えた結果だ。

だがそんな私の考えなど知らないクリスはとても喜んでいた。


「うん、私ずっとエレナと一緒にいるよ! 風は任せて!!」

「クリス、そなた、」

「陛下は黙ってて!!」


陛下が何かを言おうとすると、クリスがずばっと遮った。

いや、相手は陛下だよ。クリス、それは流石にまずいんじゃ……と思ったが、陛下は何も言わずに口を閉じた。

いやマジでどんな関係!? クリスって普通に伯爵家の娘だよね!? 前から思ってたけど、カイのこともレオンのことも呼び捨てにするし、全然令嬢らしく振舞ってないし、クリスって何者!?

その後はおいしいお菓子を食べてお茶を飲んで終わったが、私はそればかりが気になって仕方がなかった。もちろんお菓子はしっかりと味わったが。



「クリスは殿下とどういう関係なの?」


廊下を歩きながら聞くとクリスは「別に特別な関係ではないよ」と笑った。特別な関係ではない伯爵令嬢が皇子を呼び捨てにしたり、陛下にため口をきいたりできるわけがない。実はカイの婚約者候補とか? いやでも伯爵家だもんね。到底皇子の婚約者になんてなれる身分ではない。


「本当に何にもないよ。ただ小さい時から知っているだけ」


クリスは色々考えている私を見ておかしそうに笑った。


「四年位前かな。兄様に連れられてここに来た時に、カイに声をかけてもらったんだ。それまで私は友達の一人もいなくてね、すごく嬉しかったんだよ」


なるほど。


「ヨハン様はどうしてお城に?」

「兄様は休暇の間も魔法の勉強がしたいって言って、魔法省に出入りしていたんだ。それでやっぱりカイ達とも仲良くなったらしい」


四年前ってことは、ヨハンが入学してすぐくらいかな? それにしても魔法省ってそう簡単に出入りできるの? まあ私もしてるけど。


「ほら、私達ってほとんど外に出ることがないから友達もできないでしょ?」

「ええ、そうね。わたくしもクリスが声をかけてくれなかったらきっと今でも一人だったと思うわ」

「うん、だからエレナに声をかけたんだよ。友達がいないと可哀そうだから」


……うん? 私と友達になった理由って「可哀そうだったから」? え、何、同情で友達になってくれたの? やだ、そんな事実知りたくなかったんだけど。

私の考えていることが表情に出ていたのか、クリスは慌てて手を振って言った。


「声をかけたのは今言った通りだけど、一緒にいるのは違うよ! エレナが私のことをちゃんと見てくれるから。だから、ここの皆にも紹介したんだよ」


私がクリスをちゃんと見るから……?

よく分からないけど、とりあえず今の友情はちゃんと成り立っているらしい。同情から始まった関係だけど。まあなんでもいいや。今クリスと一緒にいて楽しいのは本当だし。

実は攻略対象達と関わりたくなかった、なんて言わない。お城で教育を受けられるようになったのもクリスが皆に紹介してくれたおかげだしね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...