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陛下の執務室へと行くと、そこにいたのはお父様だけだった。
あれ、私呼ばれているんだよね?
クリスと顔を見合わせて首を傾げていると、お父様がお茶会室へと続く扉を開けた。
「陛下がお待ちだよ。ゆっくり話しておいで」
「はい」
執事さんに案内されて、机の方へと行くと、既にお菓子もお茶も用意されていた。が、ついさっき用意されたのかお茶からは湯気が立っている。
執事さんはすぐに部屋から出て行き、私たちは部屋に三人になった。
「ただいま参りました、陛下」
どうも個人的な場では陛下は膝をつかれることを嫌うらしい。だから私はにっこりと笑ってそう言っておいた。クリスなんていつも挨拶はなしだ。
陛下は「うむ」と頷くと私達に座るように促した。
「さて、十歳になったな」
「はい」
「そなたはこれから魔法が使えるようになるわけだが、属性の件を話しておきたいと思ってな」
やっぱりそうだよね。複数の属性を持っているって言うことはあまり広げたくない話だ。……実はもう結構噂になっているけど。
私が十歳を前に魔法を使え、複数の属性を使える、と。しかしそれは噂に過ぎない。
知らぬ存ぜぬで通すしかないだろう。幸いにも十歳を迎え、これからは魔法が使えてもおかしくないようになったのだから。後は属性の問題だけだ。
「水か風、どっちをエレナの属性とするかって話だよね?」
本当はもっといっぱい持っているけど陛下に話したのはそれだけだもんね。うん、まあ使い勝手がいいのも水と風だしね。
「そうだ。公にするのはどちらか一方だけの方がいいだろう。どちらを選ぶか?」
「水属性ですわ」
即答する。考えるまでもない。
だけど陛下もクリスも私が即答するとは思っていなかったようで、目を丸くしている。
「そんなに簡単に決めちゃっていいの? もしかしたら一生のことになるかもしれないんだよ」
「そうだ、もっとゆっくり考えても……」
「いいえ、水属性です」
変える気はない私へと陛下が「なぜ」と問いかけてくる。いや、そんな大した理由じゃないんだけど……。
「まず今話しているのは人前で使う属性ですもの。どちらかを選んだからって選ばなかった方が使えなくなるわけではないでしょう?」
流石に選んだもの以外が使えなくなるならもっと考えるよ、私だって。でも人前で使えないってだけで、使うことはできるんだし。
「それに、クリスが風属性ですもの。一緒にいるなら属性が違うほうが都合がいいですわ」
クリスに魔法の素質がなくて魔法陣がないと使えないって話ならまた別だけどね。というか、私の周りに風と水の属性を持っている人多いだよね。
風はクリスとヨハン。水はヘンドリックお兄様。それからカイも水属性を使えるようになるはずだ。それを考えると本来なら火か土を選びたい。けどその二つは陛下は知らないから。
だから私は別にどっちを選んだってたいして影響があるわけではないのだ。先を考えるとカイよりもクリスと一緒にいることの方が長いかと考えた結果だ。
だがそんな私の考えなど知らないクリスはとても喜んでいた。
「うん、私ずっとエレナと一緒にいるよ! 風は任せて!!」
「クリス、そなた、」
「陛下は黙ってて!!」
陛下が何かを言おうとすると、クリスがずばっと遮った。
いや、相手は陛下だよ。クリス、それは流石にまずいんじゃ……と思ったが、陛下は何も言わずに口を閉じた。
いやマジでどんな関係!? クリスって普通に伯爵家の娘だよね!? 前から思ってたけど、カイのこともレオンのことも呼び捨てにするし、全然令嬢らしく振舞ってないし、クリスって何者!?
その後はおいしいお菓子を食べてお茶を飲んで終わったが、私はそればかりが気になって仕方がなかった。もちろんお菓子はしっかりと味わったが。
「クリスは殿下とどういう関係なの?」
廊下を歩きながら聞くとクリスは「別に特別な関係ではないよ」と笑った。特別な関係ではない伯爵令嬢が皇子を呼び捨てにしたり、陛下にため口をきいたりできるわけがない。実はカイの婚約者候補とか? いやでも伯爵家だもんね。到底皇子の婚約者になんてなれる身分ではない。
「本当に何にもないよ。ただ小さい時から知っているだけ」
クリスは色々考えている私を見ておかしそうに笑った。
「四年位前かな。兄様に連れられてここに来た時に、カイに声をかけてもらったんだ。それまで私は友達の一人もいなくてね、すごく嬉しかったんだよ」
なるほど。
「ヨハン様はどうしてお城に?」
「兄様は休暇の間も魔法の勉強がしたいって言って、魔法省に出入りしていたんだ。それでやっぱりカイ達とも仲良くなったらしい」
四年前ってことは、ヨハンが入学してすぐくらいかな? それにしても魔法省ってそう簡単に出入りできるの? まあ私もしてるけど。
「ほら、私達ってほとんど外に出ることがないから友達もできないでしょ?」
「ええ、そうね。わたくしもクリスが声をかけてくれなかったらきっと今でも一人だったと思うわ」
「うん、だからエレナに声をかけたんだよ。友達がいないと可哀そうだから」
……うん? 私と友達になった理由って「可哀そうだったから」? え、何、同情で友達になってくれたの? やだ、そんな事実知りたくなかったんだけど。
私の考えていることが表情に出ていたのか、クリスは慌てて手を振って言った。
「声をかけたのは今言った通りだけど、一緒にいるのは違うよ! エレナが私のことをちゃんと見てくれるから。だから、ここの皆にも紹介したんだよ」
私がクリスをちゃんと見るから……?
よく分からないけど、とりあえず今の友情はちゃんと成り立っているらしい。同情から始まった関係だけど。まあなんでもいいや。今クリスと一緒にいて楽しいのは本当だし。
実は攻略対象達と関わりたくなかった、なんて言わない。お城で教育を受けられるようになったのもクリスが皆に紹介してくれたおかげだしね。
あれ、私呼ばれているんだよね?
クリスと顔を見合わせて首を傾げていると、お父様がお茶会室へと続く扉を開けた。
「陛下がお待ちだよ。ゆっくり話しておいで」
「はい」
執事さんに案内されて、机の方へと行くと、既にお菓子もお茶も用意されていた。が、ついさっき用意されたのかお茶からは湯気が立っている。
執事さんはすぐに部屋から出て行き、私たちは部屋に三人になった。
「ただいま参りました、陛下」
どうも個人的な場では陛下は膝をつかれることを嫌うらしい。だから私はにっこりと笑ってそう言っておいた。クリスなんていつも挨拶はなしだ。
陛下は「うむ」と頷くと私達に座るように促した。
「さて、十歳になったな」
「はい」
「そなたはこれから魔法が使えるようになるわけだが、属性の件を話しておきたいと思ってな」
やっぱりそうだよね。複数の属性を持っているって言うことはあまり広げたくない話だ。……実はもう結構噂になっているけど。
私が十歳を前に魔法を使え、複数の属性を使える、と。しかしそれは噂に過ぎない。
知らぬ存ぜぬで通すしかないだろう。幸いにも十歳を迎え、これからは魔法が使えてもおかしくないようになったのだから。後は属性の問題だけだ。
「水か風、どっちをエレナの属性とするかって話だよね?」
本当はもっといっぱい持っているけど陛下に話したのはそれだけだもんね。うん、まあ使い勝手がいいのも水と風だしね。
「そうだ。公にするのはどちらか一方だけの方がいいだろう。どちらを選ぶか?」
「水属性ですわ」
即答する。考えるまでもない。
だけど陛下もクリスも私が即答するとは思っていなかったようで、目を丸くしている。
「そんなに簡単に決めちゃっていいの? もしかしたら一生のことになるかもしれないんだよ」
「そうだ、もっとゆっくり考えても……」
「いいえ、水属性です」
変える気はない私へと陛下が「なぜ」と問いかけてくる。いや、そんな大した理由じゃないんだけど……。
「まず今話しているのは人前で使う属性ですもの。どちらかを選んだからって選ばなかった方が使えなくなるわけではないでしょう?」
流石に選んだもの以外が使えなくなるならもっと考えるよ、私だって。でも人前で使えないってだけで、使うことはできるんだし。
「それに、クリスが風属性ですもの。一緒にいるなら属性が違うほうが都合がいいですわ」
クリスに魔法の素質がなくて魔法陣がないと使えないって話ならまた別だけどね。というか、私の周りに風と水の属性を持っている人多いだよね。
風はクリスとヨハン。水はヘンドリックお兄様。それからカイも水属性を使えるようになるはずだ。それを考えると本来なら火か土を選びたい。けどその二つは陛下は知らないから。
だから私は別にどっちを選んだってたいして影響があるわけではないのだ。先を考えるとカイよりもクリスと一緒にいることの方が長いかと考えた結果だ。
だがそんな私の考えなど知らないクリスはとても喜んでいた。
「うん、私ずっとエレナと一緒にいるよ! 風は任せて!!」
「クリス、そなた、」
「陛下は黙ってて!!」
陛下が何かを言おうとすると、クリスがずばっと遮った。
いや、相手は陛下だよ。クリス、それは流石にまずいんじゃ……と思ったが、陛下は何も言わずに口を閉じた。
いやマジでどんな関係!? クリスって普通に伯爵家の娘だよね!? 前から思ってたけど、カイのこともレオンのことも呼び捨てにするし、全然令嬢らしく振舞ってないし、クリスって何者!?
その後はおいしいお菓子を食べてお茶を飲んで終わったが、私はそればかりが気になって仕方がなかった。もちろんお菓子はしっかりと味わったが。
「クリスは殿下とどういう関係なの?」
廊下を歩きながら聞くとクリスは「別に特別な関係ではないよ」と笑った。特別な関係ではない伯爵令嬢が皇子を呼び捨てにしたり、陛下にため口をきいたりできるわけがない。実はカイの婚約者候補とか? いやでも伯爵家だもんね。到底皇子の婚約者になんてなれる身分ではない。
「本当に何にもないよ。ただ小さい時から知っているだけ」
クリスは色々考えている私を見ておかしそうに笑った。
「四年位前かな。兄様に連れられてここに来た時に、カイに声をかけてもらったんだ。それまで私は友達の一人もいなくてね、すごく嬉しかったんだよ」
なるほど。
「ヨハン様はどうしてお城に?」
「兄様は休暇の間も魔法の勉強がしたいって言って、魔法省に出入りしていたんだ。それでやっぱりカイ達とも仲良くなったらしい」
四年前ってことは、ヨハンが入学してすぐくらいかな? それにしても魔法省ってそう簡単に出入りできるの? まあ私もしてるけど。
「ほら、私達ってほとんど外に出ることがないから友達もできないでしょ?」
「ええ、そうね。わたくしもクリスが声をかけてくれなかったらきっと今でも一人だったと思うわ」
「うん、だからエレナに声をかけたんだよ。友達がいないと可哀そうだから」
……うん? 私と友達になった理由って「可哀そうだったから」? え、何、同情で友達になってくれたの? やだ、そんな事実知りたくなかったんだけど。
私の考えていることが表情に出ていたのか、クリスは慌てて手を振って言った。
「声をかけたのは今言った通りだけど、一緒にいるのは違うよ! エレナが私のことをちゃんと見てくれるから。だから、ここの皆にも紹介したんだよ」
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