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お兄様の笑顔
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「エレナちゃん、クリス、いらっしゃい」
足を止めたまま後者を見上げていると、突然名前を呼ばれてハッとした。いけない、ボーっと突っ立っている場合じゃない。令嬢らしくしなくちゃ。
「ヨハン様、ヘンドリックお兄様」
振り返るとそこにはにこやかなヨハンと、いつも通り冷ややかな目をしたヘンドリックお兄様が立っていた。そっか、ここに通っているんだもん。いても不思議じゃないよね。
「ここで何をされてますの?」
「入学試験の手伝いだ。生徒は皆駆り出されている」
私の問いに、お兄様が前を向いたまま答えた。とても面倒くさそうである。「案内するよ」とヨハンに促されて、私たちは四人で歩く。
……気のせいかもしれない。だけどすごく見られている気がする。あちこちから視線を感じる。なんでだ。敵意ではないような気がするけど。
「兄様たちのせいだよ」
私の考えを読んで、クリスがこそっと言った。視線を前を向いたまま、表情は令嬢の笑顔を浮かべたまま、いつものの口調で。クリスのその器用さを私も見習いたい。
「二人とも顔はいいからね」
含みのある言い方だが、納得はできる。ヨハンはともかく、ヘンドリックお兄様のいいところをあげるとしたら顔くらいしか思いつかない。しかし女の子だけでなく男の子の視線までも集めるなんて、やっぱりこの二人はかっこいいんだ。周りに美形ばかりだからこの世界の基準は高いのかと思っていた。が、失礼ながら、周りを見たら分かる。
……やっぱり攻略対象は攻略対象だ。顔の造りが全然違う。でもそれに並んでいるヘンドリックお兄様も相当すごいのでは?
「ところで、クルトお兄様はいらっしゃらないのですか?」
休暇の間は、ヘンドリックお兄様の助言通り、クルトお兄様に剣を習っていた。だから前よりもずっと仲良くなることができた。そして、気が付いた。私の知っている中で一番まともなのはクルトお兄様だと。
だからクルトお兄様が近くにいると安心感が違う。ハラハラドキドキがないっていうか、心の安定が保てるっていうか……。
「クルトは別の場所だ」
「そうですか」
また後で会えるかな。
「ここが講堂だよ。試験の前にここで説明を受けるんだ」
へえ、講堂ね。
うっわ……!
一歩入ってあまりの広さに目を見張る。あっちの世界とは全く違う。向こうではこういう時は体育館にパイプ椅子だったのに、椅子の豪華さが違う。広さも段違いだ。
「座る場所は特に決まってないから好きに座ってもらってもいいよ。ただ……」
ヨハンが言葉を切ったので、その視線をたどると、もう既に座っている子たちがいた。皆後ろ後ろから順に座っていて前の方は空いている。
「……家格順?」
クリスの呟きにヘンドリックお兄様が頷いた。
「暗黙の了解だ。決まってはいないが、毎年こうなる。兄や姉に聞いているのかもしれんな。お前は一番前に座ってもいいぞ」
ヘンドリックお兄様が私を見てとんでもないことを言った。一番前なんて座れるわけがない。そこはカイやレオンの座る場所だ。あ、あとベアトリクスとか。
「そのようなこと、とてもできませんわ。あ、もしかしてお兄様は五年前に一番前に座られたのですか?」
お兄様ならやりかねない。そう思って言ったが、お兄様は少し目を丸くした後、ふっと可笑しそうに笑った。
……はい? 何その笑顔。ちゃんと笑ったのなんて初めて見たんだけど。やばい、お兄様かっこいいんだけど。愛玲奈の時はひたすらカイが好きだった。だけどエレナになって実際に会っても別に何とも思わなかった。もちろんかっこいんだけど、前みたいなときめきはないというか……。
それが、ここにきてこれ? お兄様攻略対象でもないし、実の兄なんだけど? まあ恋愛感情とはまた別だけど。普段冷たい人の笑顔って破壊力ありすぎてやばい。
「馬鹿か」
いつもと同じ言葉なのに、表情や声色が変わるだけで全く違った。お兄様は笑いながら私の額を小突くと、すぐに講堂から出て行った。とうとう我慢できなかったのか、周りで黄色い歓声が上がった。だけど私はお兄様がいなくなった方向をポカンと見ることしかできない。
……何あれ。え、ちょっと怖いんだけど。笑ったらかっこいいなんて、もはやそんなレベルではない。普段のお兄様を知っている私にとってはただ不気味なだけだ。
「……ヨハン様、あれはどなたでしょう。わたくし、お兄様だと思っていたのですが」
「いや、ちゃんとヘンドリック様だったよ!?」
呆然とそう言うと、クリスが思わずといったように突っ込んでくれた。そして、「あ、」と口を押えた。そんな私たちの様子を見て、ヨハンが笑う。
「すごく機嫌がよかったね。何かいいことがあったのかな」
あれは機嫌がいいというレベルなのだろうか。さっきまでここにいたお兄様は全て幻だったんじゃないかという気がしてきた。
いやいや、待て、私、あれはちゃんと現実だった。ぶんぶんと頭を振りたくなったその時、別の声が聞こえた。
「エレナ、クリス、何してるの?」
そこにはマクシミリアンが立っていた。マクシミリアンは、「あ、ヨハンもいた」と呟いた。
やば、マクシミリアンがいるってことはもう侯爵家が来ているってことじゃん。早く座らないと、本当に前の方の席になってしまう。
「ごきげんよう、マクシミリアン様」
「少し立ち話をしていただけですわ」
「早く座りましょう、マクシミリアン様、クリスティーナ様」
「ええ、では兄様。また」
クリスはさっさとヨハンに手を振ると空いている席へと歩き出した。私とマクシミリアンも続き、三人並んで座る。よし、侯爵家の一番乗りはマクシミリアンみたいだし、とりあえずは爵位順に座れた!
足を止めたまま後者を見上げていると、突然名前を呼ばれてハッとした。いけない、ボーっと突っ立っている場合じゃない。令嬢らしくしなくちゃ。
「ヨハン様、ヘンドリックお兄様」
振り返るとそこにはにこやかなヨハンと、いつも通り冷ややかな目をしたヘンドリックお兄様が立っていた。そっか、ここに通っているんだもん。いても不思議じゃないよね。
「ここで何をされてますの?」
「入学試験の手伝いだ。生徒は皆駆り出されている」
私の問いに、お兄様が前を向いたまま答えた。とても面倒くさそうである。「案内するよ」とヨハンに促されて、私たちは四人で歩く。
……気のせいかもしれない。だけどすごく見られている気がする。あちこちから視線を感じる。なんでだ。敵意ではないような気がするけど。
「兄様たちのせいだよ」
私の考えを読んで、クリスがこそっと言った。視線を前を向いたまま、表情は令嬢の笑顔を浮かべたまま、いつものの口調で。クリスのその器用さを私も見習いたい。
「二人とも顔はいいからね」
含みのある言い方だが、納得はできる。ヨハンはともかく、ヘンドリックお兄様のいいところをあげるとしたら顔くらいしか思いつかない。しかし女の子だけでなく男の子の視線までも集めるなんて、やっぱりこの二人はかっこいいんだ。周りに美形ばかりだからこの世界の基準は高いのかと思っていた。が、失礼ながら、周りを見たら分かる。
……やっぱり攻略対象は攻略対象だ。顔の造りが全然違う。でもそれに並んでいるヘンドリックお兄様も相当すごいのでは?
「ところで、クルトお兄様はいらっしゃらないのですか?」
休暇の間は、ヘンドリックお兄様の助言通り、クルトお兄様に剣を習っていた。だから前よりもずっと仲良くなることができた。そして、気が付いた。私の知っている中で一番まともなのはクルトお兄様だと。
だからクルトお兄様が近くにいると安心感が違う。ハラハラドキドキがないっていうか、心の安定が保てるっていうか……。
「クルトは別の場所だ」
「そうですか」
また後で会えるかな。
「ここが講堂だよ。試験の前にここで説明を受けるんだ」
へえ、講堂ね。
うっわ……!
一歩入ってあまりの広さに目を見張る。あっちの世界とは全く違う。向こうではこういう時は体育館にパイプ椅子だったのに、椅子の豪華さが違う。広さも段違いだ。
「座る場所は特に決まってないから好きに座ってもらってもいいよ。ただ……」
ヨハンが言葉を切ったので、その視線をたどると、もう既に座っている子たちがいた。皆後ろ後ろから順に座っていて前の方は空いている。
「……家格順?」
クリスの呟きにヘンドリックお兄様が頷いた。
「暗黙の了解だ。決まってはいないが、毎年こうなる。兄や姉に聞いているのかもしれんな。お前は一番前に座ってもいいぞ」
ヘンドリックお兄様が私を見てとんでもないことを言った。一番前なんて座れるわけがない。そこはカイやレオンの座る場所だ。あ、あとベアトリクスとか。
「そのようなこと、とてもできませんわ。あ、もしかしてお兄様は五年前に一番前に座られたのですか?」
お兄様ならやりかねない。そう思って言ったが、お兄様は少し目を丸くした後、ふっと可笑しそうに笑った。
……はい? 何その笑顔。ちゃんと笑ったのなんて初めて見たんだけど。やばい、お兄様かっこいいんだけど。愛玲奈の時はひたすらカイが好きだった。だけどエレナになって実際に会っても別に何とも思わなかった。もちろんかっこいんだけど、前みたいなときめきはないというか……。
それが、ここにきてこれ? お兄様攻略対象でもないし、実の兄なんだけど? まあ恋愛感情とはまた別だけど。普段冷たい人の笑顔って破壊力ありすぎてやばい。
「馬鹿か」
いつもと同じ言葉なのに、表情や声色が変わるだけで全く違った。お兄様は笑いながら私の額を小突くと、すぐに講堂から出て行った。とうとう我慢できなかったのか、周りで黄色い歓声が上がった。だけど私はお兄様がいなくなった方向をポカンと見ることしかできない。
……何あれ。え、ちょっと怖いんだけど。笑ったらかっこいいなんて、もはやそんなレベルではない。普段のお兄様を知っている私にとってはただ不気味なだけだ。
「……ヨハン様、あれはどなたでしょう。わたくし、お兄様だと思っていたのですが」
「いや、ちゃんとヘンドリック様だったよ!?」
呆然とそう言うと、クリスが思わずといったように突っ込んでくれた。そして、「あ、」と口を押えた。そんな私たちの様子を見て、ヨハンが笑う。
「すごく機嫌がよかったね。何かいいことがあったのかな」
あれは機嫌がいいというレベルなのだろうか。さっきまでここにいたお兄様は全て幻だったんじゃないかという気がしてきた。
いやいや、待て、私、あれはちゃんと現実だった。ぶんぶんと頭を振りたくなったその時、別の声が聞こえた。
「エレナ、クリス、何してるの?」
そこにはマクシミリアンが立っていた。マクシミリアンは、「あ、ヨハンもいた」と呟いた。
やば、マクシミリアンがいるってことはもう侯爵家が来ているってことじゃん。早く座らないと、本当に前の方の席になってしまう。
「ごきげんよう、マクシミリアン様」
「少し立ち話をしていただけですわ」
「早く座りましょう、マクシミリアン様、クリスティーナ様」
「ええ、では兄様。また」
クリスはさっさとヨハンに手を振ると空いている席へと歩き出した。私とマクシミリアンも続き、三人並んで座る。よし、侯爵家の一番乗りはマクシミリアンみたいだし、とりあえずは爵位順に座れた!
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